なぜチャージコイルは高速と低速の2種必要なのかをシミュレータで検証してみる (original) (raw)

前回の記事の最後に、なぜ高回転で電圧が落ちるわけでもないのに、低速チャージコイルだけではダメなのか?という疑問を書いた。

YZ250F CDI 分解調査と、YZ250系とYZ125&YZ250F系でチャージコイル接続方法が違う謎の話 - TUTCミツケ支部

高速チャージコイルがあるということは、低速チャージコイルのみ使用した場合、きっと高回転ではキャパシタチャージ電圧が下がる要因があるはずと考えてみた。

仮説

キャパシタへの充電は一瞬で起こるわけではなく、下記グラフのように、通電してから徐々に電荷が蓄えられる。

そしてある時間tの間に蓄えらえる電荷は以下の式で表される。

※画像と式の出典

コンデンサ物語(3)=コンデンサに流れる電流(直流回路)、充電と放電= | 音声付き電気技術解説講座 | 公益社団法人 日本電気技術者協会

難しい計算はさておき、とにかく静電容量Cと、抵抗R、電圧Eによって、ある一定の電荷を蓄えるまでにかかる時間は変わるということだ。あるコイルによって発電された電力でキャパシタをチャージするとき、低回転と高回転では当然発生電圧は高回転のほうが高くなるので、この式でいうとEが大きくなることになる。かわりに高回転では、充電している時間が短くなるのでtが小さくなる。ではどれくらい小さくなるのか?ここでは10000rpmのときの充電時間は、1000rpmのときの1/10になるととりあえず単純に考える。電圧はどうなるかというと、実測する限り1000rpmで200Vくらいは出ているが、これが10000rpmで2000Vも出るわけはなく、せいぜい350Vくらいだろう。となるとtは高回転で1/10になるのに、Eは1.5倍くらいにしかならないことになる。Eは1乗で効いているが、tは指数で効いているので、単純比較はできないがとにかくこのあたりが理由で低速チャージコイルのみでは高回転でキャパシタをチャージしきれないのではないだろうか。

というわけで簡単な回路シミュレータを使って検証してみることにする。

シミュレータによる検証

使うのはこれCircuit Simulator Applet

視覚的に電流の流れまで見れるので誠に便利

このシミュレータにはAC発電機なんていうアイテムはないので代わりにAC電流源を使う事する。ただこの電源は無限に電流を吐き出せる仕様なので、発電機の代わりに置いてみると一瞬でキャパシタが充電されてしまう。どうしたもんかとうんうん唸っていたが、試みに直列に抵抗を入れてみたところ、実機でよく見るチャージ波形が得られた。なるほど、発電機コイルには抵抗があるから、それを入れてやればAC電流源を擬似的な発電機として使えそうだ。あとAC電圧をマイナス側にオフセットさせて、実際のチャージコイルがオンになるデューティに適当に合わせこんだ。

1000rpmでのチャージ電圧

まずは1000rpmの時のチャージ波形を作ってみた。まずは低速チャージコイルのみでのチャージ電圧を見てみる。

緑がキャパシタチャージ電圧、オレンジが低速チャージコイル電圧、赤がサイリスタゲート信号を表している。つまり赤のパルスでキャパシタを放電して点火していることになる。放電してキャパシタが空になると、再び充電が始まる。充電は緑の波形を見ればわかる通り、2段階に分かれている。YZのチャージコイルは1回転の間に2周期発電するようになっているためだ。

では結果を見てみる。チャージコイルの発生電圧を250Vとしたとき、キャパシタチャージ電圧は1回目218V, 2回目236Vとなった。つぎに高速チャージコイルを接続してどうなるかを確かめてみる。

繰り返しになるが緑がキャパシタチャージ電圧、オレンジが低速チャージコイル電圧、赤がサイリスタゲート信号を表していて、あらたに紫が高速チャージコイルの電圧波形として追加されている。低速チャージコイルの発生電圧は実測から50Vとした。

結果は同じく1回目218V, 2回目236Vとなった。つまり、1000rpmでは高速チャージコイルはキャパシタチャージになんら寄与していないことになる。つぎに10000rpmの場合を見てみよう。

10000rpmでのチャージ電圧

高速チャージコイル接続なしで、チャージコイルとサイリスタオンの周期を10000rpm相当にしてみる。

低速チャージコイルは300V発生するという条件で、1回目の充電で82V、2回目で137Vとなった。1000rpmのときより発生電圧は高まっているのに、キャパシタチャージ電圧は下がってしまった。これは仮説通りキャパシタ充電時間が減ったからだと思われる。

ここで高速チャージコイルをつないでみる。

1回目の充電で200V, 2回目で220Vまで充電された。ここで低速チャージコイルはピークで300V、高速チャージコイルは200V発生するという条件とした。劇的な効果。

高速チャージコイルが低速チャージコイルより発生電圧が低いし(わざとそうしてみた)、チャージしている時間も同じになるように設定したのに、高速チャージコイルがキャパシタチャージに劇的な効果をもたらしているのは、コイルの抵抗値が低いからである。これにより同じ電圧かそれより低い電圧でも高速チャージコイルのほうが大電流を流すことができ、キャパシタチャージの時間が短くてもチャージ量を稼げる。

100%正しいとは限らないが、どうやらそれらしい結果となって積年の疑問が解決した。シミュレータ条件は以下に貼っておくので、みんなもやってみよう。

下記テキストデータをインポートすれば同じ条件が再現できる。

$ 1 0.000005 2.3728258192205156 46 5 43 5e-11
c 336 112 400 112 0 0.000002 202.60084161407508 0.001
g 272 288 272 304 0 0
w 176 288 272 288 0
w 272 128 176 128 0
w 272 128 272 160 1
187 608 112 608 224 0 1000 1000000000 1000 0.001
T 464 112 560 160 0 0.44 165.9999996016 -1.142962583570416 5.668376720242214e-8 0.999
w 560 112 608 112 0
g 608 224 608 256 0 0
g 560 256 560 304 0 0
d 400 112 400 208 2 default
g 400 272 400 304 0 0
w 400 112 464 112 0
g 464 272 464 304 0 0
r 464 160 464 208 0 0.3
r 560 160 560 256 0 130000
r 272 208 272 288 0 0.01
r 400 208 400 272 0 0.01
r 464 208 464 272 0 0.01
v 176 288 176 208 0 1 320 500 -200 0 0.5
d 176 176 176 128 2 default
177 272 160 256 208 1 203.4250751022655 203.42507713244882 0.01 0.0082 50
w 272 128 272 112 0
w 272 112 336 112 0
R 240 208 224 208 0 2 160 5 5 0 0.02
r 176 208 176 176 0 1000
v 96 288 96 208 0 1 320 400 -200 0 0.5
r 96 208 96 160 0 50
d 96 160 96 128 2 default
w 96 128 176 128 0
w 176 288 96 288 0
o 0 4 0 x81216 320 12.8 0 4 50 -86 24 0 5 -86 19 0 50 -86 26 0 50 -86 27\s0\s80\s-92