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ケン・イシイが1stアルバムをリリースする前の94年に編まれたベスト盤。当時出ていたシングルからの楽曲を中心に編成された作品です。アルバムが出る前にシングルでベスト盤が作られるというのは、当時の注目の度合いがいかに大きかったかを伝えていますね。
楽曲は比較的前衛寄りのものが多くて、まだその後のポップな色合いが出ていない印象ですが、元々ケン・イシイという人はこういうポジションだったのではないでしょうか。それがメジャーにいくにつれて大衆性を身につけていった。全般的に鳴っている音はビートがくぐもっていたり、効果音的なもので構成されていたりと、まだダンス・ミュージック然とはしていません。
一瞬想起したのは細野晴臣の『SFX』の頃のインスト曲。音色と空中に抜ける感じの雰囲気が少しだけ似ていました。一方で、出世作の「Extra」のようなビートも見え隠れする瞬間もあり、なかなか興味深いトラック集となっています。
確かに1stの『ジェリー・トーンズ』でのビートはこういった感じの霞のような音色だったし、どちらかというとアンビエント寄りの音の作り方が横たわっていたので、初期の作品に直結している。これが94年、1stが95年ですね。90年代は表面的には喧騒が続いていましたが、水面下ではアンビエントが蠢いていた。そんなことを象徴している音像ではないかと思います。
ジェイソン・フォークナーとジョン・ブライオンが在籍していたバンドの94年リリース唯一のアルバム。先日ジョン・ブライオンのソロアルバムを聴いてからサブスクでは聴いていましたが、結構良かったのでフィジカルでも入手しました。
ジェイソン・フォークナーの回想によれば、当時はオーディションで寄せ集められたバンドだったため、決して印象は良くなかったとのことですが、内容はそこそこ良くて、今から考えるとこの二人が一緒に活動していたこと自体が貴重に思えます。
ジェイソン・フォークナーにとってはジェリーフィッシュ脱退後、かつソロアルバム発表前、という狭間のタイミングとなりますが、提供楽曲は1stの『オーサー・アンノウン』のような抜けのいいポップスとなっていてとても良い内容です。
一方のジョン・ブライオンの方は、先日聴いた唯一のソロアルバム同様、若干粘りっこいボーカルで、こちらも個性が際立っています。どちらもポップなので、通して聴いても飽きが来なくて非常によろしい。入手は若干困難となっていますが、ここはやはり押さえておきたいアルバムです。ジェリーフィッシュ関連の作品として見ても秀逸な作品なんじゃないでしょうか。
細野晴臣がプロデュースしたロニー・バロンの78年リリース作品。再発されたのは知っていましたが、今回たまたま見つけたので手に取りました。
ロニー・バロンという人はドクター・ジョンの盟友であり、ニュー・オーリンズのピアノの名手。たまたま夕焼け楽団の『ディキシー・フィーバー』に参加したことから久保田麻琴とのつながりが出来、本作の制作に至ったとのことです。驚いたのは細野晴臣プロデュース楽曲に加えて、ミーターズの演奏によるニュー・オーリンズ録音の楽曲が半数を占めていたこと。これは知りませんでした。
しかしながら、ミーターズ演奏の楽興よりも東京録音のティン・パン・アレー演奏の楽曲の方がより一層ニュー・オーリンズらしい仕上がりになっていて、本家を乗っ取ってしまっているのが微笑ましい。ニュー・オーリンズへの愛情が溢れているんですね。
78年という年は細野晴臣がアルファに移籍して『はらいそ』をリリースした年でもあるし、YMOの1stも同年にリリースされています。ですので、音楽性は既に次の段階に移行していたんですが、本作での質感はむしろ一作前の『泰安洋行』の頃に似ていて、ニュー・オーリンズ直系のグルーヴが鳴っています。一部の楽曲はディスコ系のリズムだったり、ストリングスをバックに歌い上げるものであったりと、若干バラツキはあるんですが、それでも全体的にはいいグルーヴが流れています。
細野晴臣がその後ドクター・ジョンに会った際に、このロニー・バロンのプロデュースを手掛けたことに対してお礼を言われたとの話がありますが、それくらいこのロニー・バロンという人はドクター・ジョンにとって大切な人だったんでしょうね。
その名の通り96年リリースの坂本龍一ピアノトリオの作品を手にしました。
実はリリース時にも聴いてはいるんですが、当時は印象が地味だったので正直いってあまりピンとこなかった。この前の作品『スムーチー』も手にしていますが、そちらも実は今ひとつの印象でした。しかしながら、この2作の間には大きな転換があります。
95年までの坂本龍一の音楽は、『スウィート・リベンジ』や『スムーチー』での大衆路線、「売り」を意識した作品を世に問う時期でもありました。しかしそれは実らなかった。そしてこの『1996』でのピアノ演奏への回帰と、ピアノトリオでのツアーが成功を納め、後の『BTTB』バック・トゥ・ベーシック、原点回帰につながっていく。さらにCM曲の『エナジー・フロウ』でヒットチャートに躍り出てしまう。
ご自身の出発点であるピアノ演奏を素直に行う方が大衆の支持を得る。これ以降、ピアノ演奏を主体とした音楽は晩年まで続き、遺作となった映画『opus』でもそれは継続していました。活動期間の前半が95年までとすれば、後半の原点回帰の活動は96年から始まっている。そのスタート地点に立っているのが本作『1996』ということになります。
実際には2009年の『out of noise』に代表されるような「音そのもの」への探求も同時になされていきますが、それと同時に演奏されるピアノ曲がリスナー側の救いになっていた側面もあると思います。そのピアノの音の変化も楽しい。そんな経緯を辿って、改めて坂本龍一のピアノアルバムを聴き直してみたい、そんな風に思いました。発売時点でのこの路線変更には興味が向かなかったのも事実ですが、年数を重ねて徐々にその味わいが沁みてきている。現在はそういった状況です。
バッドフィンガーはビートルズのアップル・レーベルに残した『Ass』までだと思っていましたが、今年発売されたCDジャーナルの別冊「and THE BEATLES」のバッドフィンガー特集を観ていて、ワーナー作品の2作『涙の旅路』と、本作『素敵な君』までは聴かないと、と思いを新たにしました。74年のリリース。プロデュースはサディスティック・ミカ・バンドの『黒船』も手がけたクリス・トーマスです。
その雑誌でのクリス・トーマスのインタビューが良かった。本作の録音時にはバッドフィンガーのメンバーは全く曲が書けておらず、クリス・トーマスのアイディアでメドレー曲を作り上げていった話や、ピート・ハム、トム・エヴァンズの訃報に接した時の話など、興味深く読むことができました。その中でも、この『Wish You Were Here』には並々ならぬ思い入れが語られていて、とても微笑ましかった。
実は、当時未発表に終わった『ヘッド・ファースト』という作品があって、2000年に蔵出し再発されているんですが、昨日久々に聴き直してみました。ずっと聴けずにいたんですが、これが予想以上に素晴らしい出来のアルバムで、益々本作への期待が高まりました。
肝心の内容はどうかというと、頑張って作っている感じがしてとても良い作品でした。メロディの美しさは『ヘッド・ファースト』に譲る面があるものの、プロダクションとしての作り込みはしっかりとなされていて、メドレーの2曲なんかも、とても自然に繋げられています。ワーナー期の作品も捨てたもんじゃない。これは前作の『涙の旅路』も聴かないといけませんね。バッドフィンガーの青春時代は74年まで続いていたのか・・。
2枚目は発売当時の渋谷公会堂でのコンサート映像となります。
一昨日観た40周年コンサートと比べると鉄骨の数が多い!大分廃墟のアジトのような、マッドマックス感が出ていて、「Y.B.J.」では鈴木慶一が銃を放つ場面もあります。メンバーの衣装は皆黒のタンクトップ。
当日は車を破壊するなどのシーンもあって、かなり暴力的な演出もあったようですが、やはりそこはムーンライダーズなので、映画のシーンから抜け出してきたかのような演劇性が前面に出てきてしまう。この辺りのギャップは『カメラ=万年筆』でのパンキッシュな振る舞いにも似ていますね。
この衣装で音楽性がパンクやハードロックだったりしたら、イメージはそのまんまになってしまいますが、音楽がポップスなのでそうはならない。「じゃあ何故この演出?」となるところに背景や理由があって、そこを深読みしていくのがムーンライダーズの楽しみ方でもあります。直接的な表現ではない。この複雑性がバンドを長引かせているひとつの理由になっていると思います。謎解きには時間がかかるので、ファンがなかなか離れていかない。結果的に長く聴き続ける、考え続ける人が多くなる、という構図ですね。
40周年記念コンサートの会場で先行販売されていた再発盤2枚組を早速入手しました。20周年記念盤も聴いていたので、アナログも含めると三度目か四度目の入手になります。
84年の発売時に自分は高校生でしたが、ムーンライダーズの作品で初めて手にした作品がこれでした。当時YMOの関連でムーンライダーズもニュー・ウェーブの一角を占めていたので、雑誌で紹介されていたのが手にしたきっかけだったと思います。
想像に反して聴きやすいアルバムだったので、逆に驚いた記憶があります。ビートニクスの1stから連想していた音はいい意味で裏切られて、結構肉感的な音に聴こえました。今から考えれば、この『アマチュア・アカデミー』という作品がムーンライダーズの長い歴史の中で唯一外部プロデューサーを起用した作品だったため、分かりやすく抜けの良い音が鳴っていたのがその理由だったわけですが、しかしこれには意味があると思います。
たまたま自分の場合はこれが入口でしたが、この分かりやすさ、聴きやすさ、抜けの良さ、というのは万人に開かれていたものだと思うんですね。当時学校の友人の何人かにこのアルバムを貸して聴いてもらった際に、結構評価が高かった記憶があるのが「B TO F」という曲でした。このアルバムの中でもとりわけ聴きやすい楽曲がムーンライダーズを聴く入口になっている。これが別のアルバムだったらそうはいかないと思うんですね。
入口、というのは他にも意味があって、ここからムーンライダーズの魔境に入っていく事になるヒントが隠されている。自分の場合は、それは歌詞にありました。音楽を聴く場合、歌詞に着目することは自分の場合滅多にないんですが、このアルバムの楽曲はキレのいいフレーズが随所に登場していました。
「Y.B.J.」の「直立」「吊して」といったフレーズは水泳部の部室で麻雀をしながらよく歌ったものです。「何それ?」と皆に聞かれましたが、それが大事。他にも「彼女の頬に灰がつもり続く」、「G.o.a.P.」の「この部屋は壁一枚で地獄」、「NO.OH」での「銀行はケチだ」、「B.B.L.B.」での「ハッピネスは辞書にものってるとおりで」といったフレーズが非常に立っていて、このバンドが只者ではない感じがジワジワと伝わってくる感じがありました。バックに控えているのは何かとてつもなく知的で不気味なものなのではないか。そんなことを想像させる入口でもあった。
「BLDG」は10ccみたいだなあ、「B.B.L.B.」のハッピネスのくだりはビートルズの「Happiness is a Warm Gun」のようだ、といった感想は後になってから思うもので、最初に聴いた際の感覚は、歌詞のフレーズの奇妙な印象と、男性コーラスの魅力が耳を捕らえた。その後は長く深い探索が続いていくわけです。そこから40年。
今回もボーナストラックに収録されているシングルB面曲の「GYM」という楽曲が実はこの時期のムーンライダーズの最高傑作だと思っています。間奏のサックスのソロからコーラスに繋がる場面で涙が出そうになりますが、ユーモラスでカッコよくてセンスがいい。ここからムーンライダーズを聴き始めて本当に良かったと、今では感じています。