ケン・イシイ『インナーエレメンツ』 (original) (raw)

ケン・イシイが1stアルバムをリリースする前の94年に編まれたベスト盤。当時出ていたシングルからの楽曲を中心に編成された作品です。アルバムが出る前にシングルでベスト盤が作られるというのは、当時の注目の度合いがいかに大きかったかを伝えていますね。

楽曲は比較的前衛寄りのものが多くて、まだその後のポップな色合いが出ていない印象ですが、元々ケン・イシイという人はこういうポジションだったのではないでしょうか。それがメジャーにいくにつれて大衆性を身につけていった。全般的に鳴っている音はビートがくぐもっていたり、効果音的なもので構成されていたりと、まだダンス・ミュージック然とはしていません。

一瞬想起したのは細野晴臣の『SFX』の頃のインスト曲。音色と空中に抜ける感じの雰囲気が少しだけ似ていました。一方で、出世作の「Extra」のようなビートも見え隠れする瞬間もあり、なかなか興味深いトラック集となっています。

確かに1stの『ジェリー・トーンズ』でのビートはこういった感じの霞のような音色だったし、どちらかというとアンビエント寄りの音の作り方が横たわっていたので、初期の作品に直結している。これが94年、1stが95年ですね。90年代は表面的には喧騒が続いていましたが、水面下ではアンビエントが蠢いていた。そんなことを象徴している音像ではないかと思います。