いろいろな「枕草子」を読む (original) (raw)
10月に入りました。
気温が下がり、日暮れもどんどん早くなっています。
彼岸花の緋色が目を惹きます。
今回は今年の大河ドラマ「光る君へ」でも取り上げられている、清少納言と「枕草子」に関連する作品をいくつかご紹介します。
沖方 丁版枕草子「はなとゆめ」
主人が
「いま大河でもやっているので読みやすいんじゃない?」
と勧めてくれた本です。
大河の主人公は「源氏物語」を書いた、紫式部ですが、清少納言との絡みも多いです。
大河ドラマの中でも
「光源氏がどうしようとしているかわからない」
というセリフがあるのですが、同感です。
個人的に感情移入ができません。
ドラマの方は、安倍晴明役のユースケ・サンタマリアさんや、何気に存在感のあるロバーツの秋山さんなど魅力のあるキャラクターに惹かれて、楽しく観ています。
おかげで「はなとゆめ」を読み始めても、ドラマの役者さんの顔が浮かんできて、藤原姓が多数登場しても、すっきり整理しながら読むことができました。
清少納言役の女優さんの佇まいも素晴らしかったです。
目力があって、プライドの高さもしっかり伝わってきました。
ただ、ドラマの清少納言は始めから自信たっぷりで、そこは沖方さんの小説とは違っていたので、清少納言だけは自分で作った脳内キャラクターを当てはめて読んでいました。
沖方さんの「はなとゆめ」は、清少納言が中宮定子様という「華」によって、「枕草子」を書くまでの話が綴られています。
歌を詠むことが上手かった父親に比べ、自分はうまい歌も作れない。
さらに器量もよくない、人付き合いもうまくできない…と鬱々としていた彼女が、「わたしは定子様の番人になる」と心に決めるまでの過程が、清少納言の一人称で淡々と書かれています。
一条天皇との3人目の皇子を生んでから、食事も摂れなくなった中宮に、麦のお菓子を差し出す清少納言。
その包み紙を切ってそこに歌を書き込んで、清少納言に渡す中宮。
この小説でも、大河ドラマでも、とてもいいシーンでした。
橋本 治版枕草子「桃尻語訳 枕草子」
橋本治さんの「桃尻語訳 枕草子」を初めて読んだ時、衝撃でした。
そして同時に
「ああ、これはありだ」
とも思いました。
冬は早朝(つとめて)よ。雪が降ったのなんか、たまんないわ!
・・・
あと、そうじゃなくても、すっごく寒いんで火なんか急いでおこして、炭の火もって歩いてくのも、すっごく らしい の。
こんな感じで、清少納言のつぶやきが並んでいきます。
作者の橋本さんは
「これは意訳ではなく、直訳です」
と書かれているのですが、ほんとうに清少納言の生の声が聞こえてくるようで、古典に対するハードルを下げてくれる良い本だと思います。
くずしろ版枕草子「姫のためなら死ねる」
2010年から連載された漫画です。
今年最終巻の14巻が出版されています。
引きこもりのニートである清少納言が、宮中の女御として働きに出たら、主の定子様にとことん惚れ込んでしまったという、ギャグ的要素が強い4コマ漫画です。
紫式部も和泉式部も藤原道長も安倍晴明も、なんなら一条天皇もお笑い要員として使われています。
定子様は中宮にはなっていますが、まだ少女のままで、政変に巻き込まれる前のしあわせな時代で物語は終わっています。
清少納言は始めから最後までダメ人間に描かれていますが、姫(定子様)の対する愛情だけは一貫していて、読んでいてほのぼのとしてくる作品です。
最後はやっぱり本家本元の「枕草子」を
教科書に載っている作品、受験勉強で解釈しなければいけないものというイメージが強い「枕草子」ですが、現代人が読んでも共感するところが多いです。
だからこそ、長い年月を経て残ってきた作品だと思います。
秋の夜長に読む本としてお勧めです。