コミックで多様性を伝えることはできるのか 多様性に反対する「コミックスゲート」が広がりを見せる (original) (raw)

コミック業界の多様性推進派は、作品内で女性やさまざまな人種、LGBTコミュニティを多く取り上げていこうと考えている。

ただ、こうした人々は、嫌がらせと文化的な争いをネット上で仕掛ける「コミックスゲート(#Comicsgate)」の標的になってしまう。攻撃するのは、オンライン空間で活動する人たちと、そうした連中に強い影響力を持つ焚きつけ役だ。

熱心なコミックファンやクリエイターの一部はコミックスゲートを、ゲームカルチャーに参加する女性を口汚く罵って攻撃する「ゲーマーゲート」問題の悪化版と見なしている。

コミックスゲートに加わる嫌味な人々は、自分たちが「社会正義の戦士(Social Justice Warrior:SJW)」と呼ぶ人々を、人種や性に関する差別用語と脅迫的な表現を使って恫喝する。

とりわけ、コミック業界の多様性推進派と考えられる人に対して、攻撃を仕掛ける。あからさまな内容の攻撃メッセージも見られるが、大多数は間接的だったり、コミックに明るくないと意味のよく分からない内輪ネタ的な内容だったりする。

荒らしはほとんどが匿名で、「#Comicsgate」と書いたプロフィールのアカウントでTwitterを利用したり、YouTube、掲示板Discordの非公開チャンネル、ドナルド・トランプ支持の極右派が活動する掲示板を使ったりして活動する。

そして、マーベル・コミックやDCコミックスといった大手出版社の多様性確保に向けた取り組みへ誰かが賛意を表明すると、群がってくる。彼らによると、多様性はコミックの質を下げるそうだ。

コミックスゲートの件でマーベルの広報にコメントを求めたところ、「マーベルはこれまでも今後も、常に(多様性を受容する)インクルージョンと(多様性に対する)尊重を業界で推進する」と回答してくれた。DCからのコメントは得られていない。

Twitterのある広報担当者は、BuzzFeed Newsに対し「Twitterのルールに違反していたら対処する」と述べた。YouTubeにも問い合わせを行なったが、返答はなかった。

荒らし側の言い分はこうだ。コミックスゲート活動家のなかでも特に影響力が強く目立つ人々のなかには、被害者は自分たちで、SJWがTwitterやその他ソーシャルメディアで法に触れない程度の脅迫的なメッセージを投稿してくる、と話す人がいる。強迫的なまでにポリティカルコレクトネスを信奉する者たちから、あっという間にナチスや白人至上主義者、極右などと決めつけられるという。

政治的に対立する悩ましい現在進行中の話題は、加熱して極論に走りやすく、議論を炎上させてしまう。いずれの陣営も、自分たちの見解を補強する一方のフィルターバブルから抜け出せないのだ。

一方、荒らしからコミックスゲートの被害を受けた人たちは、BuzzFeed Newsに対し、何カ月にもわたって投稿で憎しみをぶつけられ、嫌がらせを受けており、個人情報を暴露されかねない状況にある、と語った。

被害者の多くはさらなる報復を恐れ、BuzzFeed Newsの取材に名前を出さないよう求めた。そのうちの2人は、攻撃後にカウンセリングを受ける羽目になったという。

「この数カ月におよぶ(コミックスゲートへの)対応は、これまでの人生で最悪レベルのストレスを感じる体験だった。そのせいで、最悪なインターネット版PTSDを患っているよ」(BuzzFeed Newsの取材に応じた匿名希望の被害者)

史上初のコミックスゲートを特定するのは難しいものの、コミック業界関係者の多くは、作家チェルシー・ケイン氏のマーベル連載コミック「モッキンバード」が2016年10月に打ち切られた騒ぎを挙げる。フェミニズムを全面的に打ち出したこの作品は、荒らしをする人々の注目を集めていたのだ。打ち切り自体は荒らしの影響でなかったが、打ち切りのニュースで勢いづいた彼らは、ケイン氏をTwitterから追い出そうとしつこく付きまとった。

2017年には、コミックスゲート活動家たちを喜ばす出来事があった。マーベル幹部のデイビット・ガブリエル氏が販売業者向け集会の場で「人々は多様性を求めていない」と述べ、販売の落ち込みの原因として多様性を非難したのだ。

あるコミックスゲート派のTwitterユーザーは、「みんなこの発言に激怒しているけれど、多様性とSJWの戯言を無理強いすると販売が地に墜ちる、というマーベルの見解は正しい」とツイートした。別の反SJWユーザーによる「マーベルは多様性の強制が売上に響くとやっと気付いた」というツイートもある。

最近になってコミックスゲート活動家は、コミック業界における自分たちの力を誇示する目的で、ブラックリストとハッシュタグを使うようになった。

活動家グループが2月初めに作った「ブラックリスト」には、コミックスゲート・トロールに異議を唱えるシッターソン氏やジャマル・イグル氏などのほか、多様性推進を表明しているクリエイターやその他業界関係者の情報が掲載された。

このリストで多様性推進派とされた人物としては、「従順でない」女性が監獄送りにされるディストピア的未来を描いた「ビッチ・プラネット」の作者ケリー・スー・デコニック氏や、例のミルクセーキ自撮りに写ってたヘザー・アントス氏などがいる。

コミックスゲートでもっとも議論になる部分は、コミック業界にいるある種の著名人と、被害者とのあいだに存在すると思われる。被害者の多くは、こうした著名人たちが、嫌がらせ行為に公然と賛同することと、嫌がらせを暗黙の了解で見逃すこととの中間的立場を取っている、と主張。トロールに対しては、注目と増幅によって活動が煽られている、と指摘した。

43歳のイーサン・バン・サイバー氏は、この緊張関係の真っただ中にいる。

バン・サイバー氏は、マーベルとDCで数十年のキャリアを持ち、「グリーンランタン:リバース」「New X-Men」「ウルヴァリン」といった著名作を手がけたクリエイターである。業界の関係者によると、サイバー氏はコミックスゲートの嫌がらせ活動に加担しているという。彼を信奉する荒らしたちは、彼がTwitterで異議を唱えた人物なら、それが誰であろうと群がって来るそうだ。これに対し、バン・サイバー氏はBuzzFeed Newsに、完全に自分が被害者である、と話した。

バン・サイバー氏は、匿名で騒動を先導するユーザーでない。それどころか、彼は多様性に賛同する男性や、彼とやり取りする人と交流することが多く、女性とのやり取りは限られる。そして、彼の信奉者の一部が攻撃をするのだ。バン・サイバー氏は、対話を通じて平和を実現する目的で、(ハラスメントを引き起こしがちな環境なのだが)自分のプラットフォームを使おうとしている、と主張した。結局のところ、何が皮肉なのか、何が本質なのか、何がバン・サイバー氏のアートにおけるモチーフに過ぎないのかを区別しようとする行為そのものが、コミックスゲートで起きている混乱の象徴といえる。

バン・サイバー氏は、コミックスゲートとの関係など一切ないとし、ソーシャルメディアへの投稿にコミックスゲート支持者を集める意図などなかったと主張している。自分は「カルチャー大戦争の真っただ中」にいるのだという。さらに、「これ以上の迫害と過激派の攻撃から自分と家族を守ろうとしている」と述べた。

ただし、バン・サイバー氏は極右的なメッセージを頻繁に取り上げる。具体的には、掲示板サイトRedditにある極右の親トランプ板「/r/The_Donaldからミームシェアした。また、武装した突撃歩兵コスチュームの「カエルのぺぺ」の画像に「queer(訳注:「いかがわしい」のほか、「同性愛者」や「ホモ」といった意味で使われる単語)なグローバリスト連中を一掃してやる」というコメントを付け、自分のYouTube番組に元ゲームゲート活動家と白人至上主義者を出演させた。

コミックのファンたちは、バン・サイバー氏が2007年に「My Struggle」というタイトルの短編集を出版したことから、同氏のことを繰り返し「ナチ」と呼んできた。このタイトルはアドルフ・ヒトラーの自伝的著作「我が闘争」の英題そのもので、バン・サイバー氏に似せたキャラクター「シネストロ」が主役のストーリーだ。

バン・サイバー氏はBuzzFeed Newsに対し、「My Struggleは、架空の邪悪なファシスト独裁者であるシネストロを軸にした物語だ。シネストロは(グリーンランタンの世界では)スペース・ヒトラーとして知られるキャラクターで、悪人だよ。私のアートにおける闘争もテーマにしている」と話した。「『マニフェスト』という作品は、共産主義者のプロパガンダと解釈できるようにも作った」(同氏)。さらに、同氏はFacebookでも長々と釈明した。

バン・サイバー氏は、BuzzFeed Newsとやり取りした一連のメールで、極右イデオロギーを持つ人々と共闘していたり、そうした思想に共感したりといった内容の疑惑を否定した(なお、これらのメールは、彼自身がコミック関連サイトのBounding Into Comicsに垂れ込んだらしい)。「人種差別は嘆かわしいと思う。偏見には嫌悪感を抱くし、人種差別政策や『ナチズム』にかかわったことなど一度もない。私の子どもたちはユダヤ人だ!」(同氏)

バン・サイバー氏は、「古典的自由主義者(クラシカル・リベラル)」を自称するカナダの大学教授、ジョーダン・ピーターソン氏の信奉者でもある。ピーターソン氏は、彼の多様性やジェンダー、言論の自由に対する保守的な見解から、ここに来て極右系オンライン・コミュニティと男性人権運動の両方で人気が高まっている。バン・サイバー氏は、ピーターソン氏の最新刊「12 Rules for Life」で表紙イラストを担当したのだが、同書は書評誌New York Review of Booksに「現在のロストジェネレーション層には魅惑的な神話のように響く、右翼的な祈り」と評された

この表紙の件でバン・サイバー氏にコメントを求めたが、返答はなかった。

マーベルの責任者はBuzzFeed Newsに対して、バン・サイバー氏は2003年以降マーベルと関係していないので、特に話すことはない、とした。

DCは、同社の新たな対ソーシャルメディア方針に関する声明を出した。

「当社は、従業員とフリーのクリエイターが高いプロ意識を維持すると同時に、オンライン活動する場合には理性的で礼儀正しい振る舞いをするよう期待している。中傷、名誉毀損、差別、ハラスメント、ヘイトと取られたり、暴力を扇動したりするコメントは容認できず、民事訴訟または刑事訴訟の対象となる可能性がある。さらに、侮辱、残酷、無礼、下品、卑劣と見なされかねないコメントは、当社のポリシーおよびガイドラインに反する。(すべてを受容し支える)インクルーシブかつサポーティブで安全なオンライン環境の構築に貢献することを、関係者に要求するとともに、期待する」(DC)

コミックスゲート派ユーザーの多くは、こうしたTwitterへの投稿を1つ残らずスクリーンショットで保存し、ビデオに編集してYouTubeへ投稿する。そして、このビデオが再びツイートされ、無数の途切れない攻撃ツイートの集中砲火をアーヨ氏のような人々に浴びせ続ける。ハラスメントが新たなハラスメントを引き起こすこのループは、数週間続くこともある。リチャード・C・メイヤー氏の運営している有名コミックスゲート・アカウントのDiversity & Comicsは、最初から数週間にわたってこのやり取り紹介し続けており、そのたびに言い争いを再燃させてきた。

アーヨ氏とバン・サイバー氏のやり取りが始まって以降、トロールたちはアーヨ氏のフィードにすべて目を通し、言語道断と判断したツイートを総ざらいして、攻撃を続けるために自分たちのフォロワーへシェアしている。

そして、バン・サイバー氏が数日後、アーヨ氏への集中で注目されたことを理由にTwitter活動を一時休むと発表すると荒らしたちはアーヨ氏を非難し、ハラスメントを再開させた。

アーヨ氏はBuzzFeed Newsに対し、「イーサン・バン・サイバーは、コミック界で上層にいるため、(攻撃に加担する)こうした人々へ合法感を無条件に与えてしまう。彼が加わることでハラスメントは勢いづき、彼の書く私に関する嘘がトロールたちを煽る。私は、実生活の安全が確実に脅かされている」と述べた。

バン・サイバー氏はBuzzFeed Newsに、やり取りするまでアーヨ氏のことを知らず、アーヨ氏からナチ呼ばわりされて家族が危険にさらされた、とした。「私たちに送られてくる脅迫が恐ろしくて、移動もできなかった。どれも『ナチ』という言葉を使って攻撃してくる」(同氏)。そして、アーヨ氏に対して自分自身が「寛大である」と見せるため、番組へ招待したのだという。

コミックスゲートのブラックリストに掲載されているジャーナリストのキラン・シアック氏は、アーヨ氏と同じような体験をした、とBuzzFeed Newsに話してくれた。

シアック氏は2017年の中ごろ、バン・サイバー氏を解雇するようTwitterでDCに求めたのだ。その理由としてシアック氏は、これまでの「バン・サイバー氏の作品で見られるナチに結びつく表現」を挙げた。

シアック氏のこのツイートはBleeding Coolの記事で取り上げられ、少しだけ注目された。シアック氏はそれから数カ月間、バン・サイバー氏とDiversity & Comicsに関するツイートを投稿したが、いずれからも反応はほとんどなかった。

ところが、バン・サイバー氏とDiversity & Comicsは2017年の終わりごろになって、シアック氏のこうしたツイートを公に批判した。両者は批判を数カ月続け、非難する目的でシアック氏のツイートを散発的に拾った。