健康被害の恐れある空間除菌器を全小中学校・幼稚園に設置。 富田林市は「コロナ対策」とアピールも効果は不明 (original) (raw)

同医師会の感染症対策担当理事、藤岡雅司医師はこう憤る。

「学校や幼稚園でできることは教職員のワクチン接種、換気、マスク、手洗いです。健康被害も心配ですが、逆にオゾンの濃度を医学的に有効にするには換気を止めなければいけない。医学的に認められている換気とオゾン対策は同時に成立しないのです」

「教育現場に必要のないものを、子供が文句を言わないから入れるというのは問題がある。『ワクチン接種ができない子供たちのため』『災害が起きたらみんなが集まるところだから』という大義名分で、学校現場が根拠のない商品の生贄になっている。医師会がこんな問題ある対策を承認、黙認しているように思われたら困る」

要望書の回答はまだ返ってきていない。

富田林市教委「様々な感染対策の予防に」稼働停止は考えておらず

こうした批判や指摘に対し、担当する富田林市教委教育指導室の次長は、「新型コロナ対策に効くかどうかは、今、様々な実証実験が行われている。学校ではコロナに限らず、インフルエンザ対策や食中毒の予防など様々な感染症の予防が必要となるので、その効果を期待している」と導入の狙いを話す。

しかし、様々な感染症予防への効果を証明するデータがあるか問うと、保護者に対して示した実験室レベルのデータのみを根拠としていると回答。

こまめな換気と、オゾンを一定の濃度に保つことの矛盾については、「新型コロナウイルスについては換気を優先することになっている。子供たちがいる時間帯は換気を優先して取り組んでいる。夜間や休日にはオゾン脱臭器を稼働することで、机や取手などに付着している菌などへの効果を期待している」と答える。

その一方で、児童や生徒がいる時間帯にも常時稼働している学校もあると認め、これについては、「日本産業衛生学会の基準以下で稼働しているし、さらに換気もしている。濃度のモニターも教室全体の空気の濃度を測っていると業者から確認している」としている。

また、学校医を務めている医師会に事前に助言を求めなかったことについては、「コロナワクチン接種で忙しいことも慮って、事前に確認できなかった」とし、要望書についても「回答に向けて準備を進めている」とした。

そして、今後も稼働を続けるのかという問いに対しては、「運用については様々なご意見を頂きながら、より適切な運用になるように検討を進めていきたい」としたが、撤去や稼働停止は考えていないとした。

オゾン発生器の寄贈をめぐっては、三友商事は、全国で初めて救急車への設置を行ったのが富田林市で、それを足がかりに全国の自治体での救急車への設置を広げてきたと説明している。

学校への寄贈に関しても、同社の社員の親が市長と知り合いであることから話が進んだとする。同社は富田林の学校にオゾン発生器を導入したことをウェブサイトで「富田林モデル」と名付けて宣伝しており、全国の学校に広げる狙いがあるとみられる。

公共の事業が1企業の宣伝に利用されている可能性について教育指導室次長は、「そんなことはない。教育委員会も含めて組織的に検討した結果だ」として、否定した。

寄贈企業「新型コロナ対策では全くない」

今回、富田林市にオゾン発生器を寄贈した三友商事の担当者は「今回の寄贈は新型コロナ対策では全くない」と取材に答えた。

しかし、富田林市からの感謝状には「新型コロナ対策として」と明記されている。この矛盾については、どのように考えているのだろうか。

「教育委員会もおっしゃられていると思うのですが、これは新型コロナ対策のために入れたということは一切ありません。除菌資材が足りなくなったという話で言えば、新型コロナウイルスがきっかけになったとは言えるかもしれません」

「例えばの話ですが、きっかけがなければ、こういう商品を導入しようとなかなか考えませんよね? 新型コロナがあったから、こういうものを導入するという判断に至った。我々はこのオゾン発生器を十数年販売していますから、新型コロナ対策として販売しているわけではないです」

オゾンの有効性や安全性については、奈良県立医科大学藤田医科大学における実験データをもとにしていると説明しつつ、「これは製品の安全性や有効性を示すものではない」と強調した。

「この実験データはあくまでオゾンそのものの新型コロナウイルス不活化の効果を見ているものになります。これをもとに製品自体の安全性や有効性をうたってしまいますと、薬機法(医薬品医療機器等法)に抵触してしまいますので、そうしたことは一切ないです」

医師などからは、人がいる空間でオゾン発生器を使用することに懸念も示されている。このような指摘はどのように受け止めるのか?

「じゃあ、外を歩かないのでしょうか。山の上、富士スピードウェイ等に行くと、外を歩いているだけで0.08前後のオゾンが発生しています。産業衛生学会等にも勤務時間が8時間以内、週40時間以下の労働の中で0.1ppm以下であれば問題ないという書き方をされていますし、アメリカのFDAは0.05ppm以下であれば問題ないとしています。そうしたことを基に、使用することは問題ないと判断しています」

「厚労省は空間除菌とうたわれているものを推奨していない、としています。ですが、『空間除菌をやってはいけない』という文言ではないですよね。最終的に使用する方法、工夫等に関してはお客さまのジャッジになる。ですが、安全性を担保できるような使用方法をお客様と考えさせていただいて、利用していただくことは可能だと考えています」

オゾン濃度が一定を超えると、人体へ悪影響が発生すると指摘されている。この点について担当者は「安全な基準に持っていけるようにお客様の空間状況をプロデュースして、どれくらいのレベルで噴霧するかというところはコントロールさせていただく」と説明した。

「オゾンに限らず、アルコール、塩素、どれも賛否両論ありますよね。次亜塩素も高濃度のものを使用してしまえば、喘息など体調に変化を引き起こしますよね。アルコールも肌の弱い方に大量に使ってしまえば、悪影響が出る。結局、用法用量を守って使わなければいけないということだと理解しています」

厚労省、文科省、専門家の見解は?

厚労省や経済産業省、消費者庁の特設ページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」では、(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)、「世界保健機関(WHO)」や「米国疾病管理予防センター(CDC)」の知見を引用しながら、空間噴霧について以下のように明確に非推奨としている。

「消毒剤や、その他ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれのある場所での空間噴霧をおすすめしていません。薬機法上の『消毒剤』としての承認が無く、『除菌』のみをうたっているものであっても、実際にウイルスの無毒化などができる場合は、ここに含まれます」としている。

文部科学省も「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』~」で、上記の特設ページの記述を引用し、推奨しない姿勢を示す。

それにもかかわらず、公立の学校、幼稚園で空間除菌がコロナ対策として用いられていることについて、文科省の健康教育・食育課の企画官は10月7日に富田林市役所に口頭で指導した。

「衛生管理マニュアルで示しているとおり、空間噴霧に関しては推奨していないという考え方だ。取材や一般からの問い合わせを受けて、10月7日に国としてマニュアルで示している基本的な考え方について市役所の担当者に情報提供した。そうした情報を踏まえて自治体でご判断頂きたい」

2021年8月に日本国内で新型コロナ対策としてオゾン発生器が不適切に使用されている可能性について指摘する論文を医学雑誌「Journal of Hospital Infection」に発表した下越病院(新潟県新潟市)薬剤課に勤務する三星知さんは、次のように過去の取材に語っている。

「オゾンについてはパルプ工場の従業員に関する研究が良く知られています。紙のパルプを製造する現場では、オゾンや塩素ガスが充満していることも少なくない。そのような環境では、気道の炎症を起こすリスクが高いことがわかっています」

「もしかすると、安心感を得るためにこうした『空間除菌』の製品を購入するケースもあるのかもしれません。ですが、それで得られるのは偽物の安心感です。基本的な感染対策が緩むことにもつながり、かえって感染拡大の防止には逆効果となる可能性もあります」