人気だからこその難しさ TBSラジオがポッドキャストをやめた理由を聞いた (original) (raw)

TBSラジオが「ポッドキャスト」のサービスを終了し、新サービス「ラジオクラウド」に移行したことが大きな話題になった。

月間300万人が利用する人気サービスにもかかわらず、収益化が難航。配信にかかるコストを回収できなかったことがその理由だったという。6月6日に発表されると、ポッドキャストのユーザーからは阿鼻叫喚の反応があった。

こんなに人気サービスなのになんで終わるの? たくさんの人が利用しているのになぜお金にならないのか。

たしかに、普通はそう考えるかもしれない。BuzzFeedはそのへんの疑問をTBSラジオにぶつけた。答えてくれたのは編成局の三宅正浩さんと萩原慶太郎さん。

1年間営業したけど、売れなかった

ーーたくさんの人が使ってるんだから、なんとかなるんじゃないの? と思ってしまいました。

萩原慶太郎さん(以下、萩原):たぶんみなさん、そこが気になると思うんです。「こんなに多くの人が使ってるのに?」って。でも広告主からすると、ポッドキャストの場合、ダウンロード数はわかるんだけど、広告として出されたものを実際に人が聞いているのか計測できないんですよね。

そういったことができる技術もなくはないんですが、例えば専用のプレイヤーで再生しないといけなかったり、制限も多い。

いまのインターネット広告は、ある程度のユーザー層をセグメントして、そこにマッチした広告を出す流れになっています。僕らのポッドキャストのようなダウンロード型では、単に「アクセス数が多いですよ」「ダウンロード数が多いですよ」だけしかアピールできず、いまの時代に商品化できない。これが1年間営業にまわってみてわかったことの1つです。

ーーそもそも広告が売れなかったと。

三宅正浩さん(以下、三宅) 萩原が申し上げた通りで、ダウンロード数はとんでもない数字なんですけど、広告ビジネスには向かない。例えばうちの「たまむすび」を聞いているリスナーさんと、「セッション」というニュース番組を聞いているリスナーさんはまったく違うわけですね。

いま広告主はデジタルに配信するときに、「20代男性で車に興味があって」っていうターゲットを明確に指定して、「この媒体は単価が高いけど、刺さるお客さんがいるから広告を出しましょう」「効率よく出しましょう」というのがトレンドになっています。

それに対して「5000万ダウンロードあるポッドキャストに出してください!」って言ってもやっぱり広告主が頷いてくれなかった。

「なぜマネタイズできないんだ」とお叱りの声をいただきますけど、そんなに簡単ではないですよね。そういえば我々は「らじこん」っていう、コンテンツを販売する仕組みも作ってたんですけど、うまくいかなかった。

愛していただいているのは重々承知しているんですけれども、我々もやっぱりサービスの提供者として、安定したサービスをお届けするためにベストな解を検討しました。

マネタイズについては、我々の能力が足りなかったのかもしれないですが、一年間ずっと検討して、いろいろな広告代理店さんの叡智も結集して、どうにかしなければと試した結果なので、正直、努力は尽くしたなという感じではあります。

「終了」というより「リプレイスメント」

ーーそこでポッドキャストを終了して、新たにサービスを立ち上げたわけですね。

三宅:そうですね。基本的な考えかたとしては終了というより、「リプレイスメント」だと思っています。

ポッドキャストと同じく基本的にすべて無料ですが、2段階の聴き方があって、ユーザー登録なしで番組の最新話をずっと聴く形と、ユーザー登録していただいて全話お聴きいただく形。

個人情報を細かく取るような設計にはしていないですけども、ある程度の属性情報がわかってきますので、それに伴った広告を今後検討していきたいです。

すべては、このサービスを無料でユーザーさんに届けるためっていう気持ちがありまして、これでバカ儲けできるとは正直思ってないんですよね。サービスをきちんと維持していくために一定の収入が必要であるということです。

全体的に聴けるコンテンツはこれまでより増えますよ。ポッドキャストはサーバがしんどかったので配信期間に制限がありましたので。

なので、TBSがポッドキャストのようなサービスを「終わらせます」「やめました」ということではなくて、「ポッドキャストという名前のサービスは一旦閉じます。その代わりにほぼ同様か、むしろいまの時代に即しているであろう『ラジオクラウド』というサービスをご用意しました」という話です。

じつは世界有数のポッドキャストだった

ーー「終了!」というニュースに皆さんショックを受けていたようです。例えば名前はそのまま、中身だけラジオクラウドを提供してもよかったのでは。

三宅:まさにその議論もありました。ただ、「ポッドキャスト」ってTBSがつくった固有名詞というわけではなく、単純に技術の名称が名詞化してしまっているようなものです。

まあやってることはポッドキャストなんですけども、せっかく新しいサービスを立ち上げたので、かっこいい名前はないかなってみんなで話し合いをして決まったんです。

萩原:クラウドサービスが一般化してきているので、違和感もないでしょうし、なんとなくサービスの主旨をわかってもらえるかなと。みんなが共有認識を持てる言葉を並べたら、「ラジオクラウド」という名前になりました。

ーーそもそもポッドキャストの維持費ってどれぐらいかかるものなんですか。

三宅:TBSポッドキャストは世界でかなり上位だったんです。ダウンロード数がとんでもない数になり、サーバ代が大きなコストになってきました。

大きなサーバに入れ替えたりしたんですけども、それでもコアタイムになるとリスナーさんから「遅い」「繋がらない」とお叱りの声を受けることが多かったです。年間で数千万円のサーバ費用が出ていって、さらに使う人にもストレスを与えていました。

リスナーに楽しんでもらえている実感もあったんですけど、非常に厳しい段階になってきていましたね。

ーーラジオっていま調子はどうですか。

三宅:ラジオ業界全体の「セット・イン・ユース」っていう、各局の数字を全部足し合わせた、どれだけの人がラジオを聴いてるかっていう数字は伸び続けています。一時期ちょっと落ちていたんですけれども、ぐんぐんと上がってきて、いい数字になってきています。いまは各局ともに上り調子ですね。

萩原:今回の発表に対する反応の中で、いろいろな人が通勤の途中に聞いてるとか、夜中に聞いているとか言っていただき、愛されてるメディアだったとあらためて実感します。本件も含めてさらに支持していただけるように、そしてコンテンツを維持できるビジネスモデルを模索していきたいです。

三宅:あと、うちのコンテンツはやっぱり、ずば抜けていいと思うんですよ。自分で言うのも恥ずかしいんですけど、あえて言わせていただくなら、良いコンテンツが揃っているから、(ポッドキャストからラジオクラウドへの移行を)こんなに話題にしていただけたのかなと思っています。