三村家の息子 - ちるちる (original) (raw)

明治カナ子の絵と言うと、失礼ながら正直上手いとは思わないのだけども、無性に好きだったりする。
いわゆる美麗で緻密なタッチではないくせに、どうも引き込まれる。
これはお話作りが上手なのか、それともやはりあの絵にチカラがあるからなのか。
はたまた濡れ場がエロいからなのか(笑)
濃い絵じゃないはずなんだけど、濃度が高いと言うか、熱と湿り気を帯びたような、そんな印象を受けた作品群だった。

表題作は閉鎖的で保守的な、典型的な田舎が舞台。
資産家・三村家の次男・弓に恋する、幼馴染の敏夫のやり場のない苦悩がとても切ないお話だった。
叶わないと分かっていても、若い心と体は逸って治まることはない。
成り行きで弓の兄である角と体の関係を持ってしまう敏夫だけれど、所詮一時しのぎの快楽。
結局、弓に対しての後ろめたさと、ますます募る想いの板挟みで、読んでいても息苦しさを覚えてしまうくらいだった。

ところが兄と関係を持っていると分かった途端に、なぜか頻りに兄を否定し、さも敏夫を引き留めようとする態度をとる弓。
もう何だかなあ、この2人は・・・と思った。
敏夫は弓が好きで、でも叶わなくて、だからその代わりに兄の角に弓の姿を重ねながら不毛な関係を続けている。
それなのに当の弓は無意識に、そして無防備に敏夫にすり寄ってくる。
これはキツい状況だ。
敏夫もそんな弓に苛立ちつい優しくできなくなるし、その反動でまた角と激しく抱き合ってしまう。
しかも角と言えばその状況を面白がっているだけの、ただの快楽主義者だ。
どうにもこうにもという閉塞感の高まる中、物語は閉じるのだが・・・全くこれでは消化不良でモヤモヤしてしまう!
幸い続編が刊行されているので、そこできっちり何かしらの結論は出るのかどうか。
ちなみに上記プロフィールの攻め受けなのだが・・・弓受けにするか角受けにするか、とても悩んでしまった。
考えた結果、弓受け表記にしてみた。
本当に心から欲しているのはこちらなのだから、間違いではないだろうと思う。

あと表題作以外には3作品収録。
しかしどれが一番良いか選べずに困ってしまったくらい、どれも完成度の高い短編だった。
あえて言うなら「雨に酔う」がオススメか。
これまで酷い抱かれ方しかされなかった受けが、普通に愛され慈しみを受けることで、思わず涙してしまうシーンにはしんみりさせられてしまった。
壊れた雨どいと自分の涙腺をシンクロさせるとは、なんてロマンチック。
あとダークだったりちょっとほのぼのしてみたりと、本当にお話が上手いな!と思わせてくれるものが続く。

明治カナ子って絵がちょっと・・・という方がもしいらっしゃったら、臆せずぜひ読んでみてほしい。
意外とエロはしっかりだし(笑)、きっと損はしないはずだと思う。