愛すること - ちるちる (original) (raw)

全サ小冊子だった本作品。後から木原さんの作品にはまった私には本当にありがたい電子書籍での配信です。電子書籍なのに、プリントアウトして小冊子みたいに綴じて、本編2冊と共に手元に置いているという…。思い出したときサッと手にとるには、やはり紙がよくて。何度読んだことか。もう好きすぎて…すみません(笑)。

やっと結ばれた寛末と松岡。物語は、二人が新幹線の駅で別れた後、松岡が職場に遅刻するところから始まります。
寛末と松岡の甘い描写にキュンキュンします。寛末が男同士の営みについて事前にネットで調べたり、東京に引っ越してきたりと、松岡への真剣な想いが伝わってきます。

でも、松岡は嬉しいのに、寛末の些細な振る舞に不安になったり、気をつかって言いたいことが言えなかったり。原因は、寛末を心から信用できないでいること。結ばれた直後に「信用できない」と言った松岡に、寛末は「不安にさせたりしないよう、これから頑張るから」と返し、有言実行している最中なのですが。

恋が成就しても、そこから関係を深めていくにはクリアしないといけないことが沢山あるなあと思わされます。信じること、お互いの考えを尊重すること、体の相性、一緒に暮らす上での役割分担、金銭感覚、等々。そういう現実的なことが盛り込まれていることで、二人の物語がより味わいを増している気がします。信じること以外は、二人の相性は既にいいみたいですね。

寛末の再就職をめぐって、松岡と寛末が心を開いて向かい合うラストがとてもいいです。信じるという課題をやっとクリアして、二人の関係はさらに深まっていくのでしょう。恋から愛へ。愛することは、きっと信じることから始まる、そんなメッセージを感じました。

「松岡さんはもっと僕に我儘を言っていい」これで、私の中で寛末の評価がグンと上がりました。松岡が我儘を言わない気遣いの人と分かっているからこそのセリフですから。寛末、人間的にずいぶん成長しました。
考えてみれば、これまでの二人の関係を大きく動かしてきたのは、寛末だったような気がします。最初の出会い、葉子への情熱、男の松岡への拒絶、付き合って後の別れ、再会。どれも寛末の気持ちに左右されてきました。不器用で頑固で優しい男は、これ以上はないほど成長したと思います。だとしたら、やはり二人の物語はここで終わりなのでしょうね。寂しいですが納得してしまいます。

ドラマ化されないかしら。今なら可能な気がします。未練がましくてすみません(笑)。