眠り男と恋男 - ちるちる (original) (raw)
原作既読
もう何ほど聴いただろうか。2017年で最も繰り返し聴いたBLCDでした。
アメリカのロードムービーを見ている気持になる作品です。
原作では絵だけでセリフなしで描写しているシーンを脇役のセリフを作って上手に補完したり、虫の声や大型車のエンジン音やお店の喧騒などで、映画のような雰囲気を醸し出してくれています。
とてもまとまりの良い聴きやすい作品で、Hシーンは結構多めですが聴いていて飽きないのは、お二人の演技の素晴らしさに加え、テーマが「報われない片思い」の相手と体だけ合わせるアンビバレンツな切なさにあると思います。
好きな男に抱かれる喜びとそれを相手が全く覚えていないことの絶望感。
それでも拒めないのはやはり求められる嬉しさと抱かれる快感からの欲望に負けてしまう弱さと、相手を受け入れてしまう優柔不断と紙一重の優しさ。
そんな自分自身に落ち込みながらも、それでも繋がっていられればといういじらしい恋心にこちらが共感してしまうからでしょうか?
仕事しているときの会話やドライブ中の二人の空気のように自然だと思える雰囲気。
見えないのにアメリカの広大な土地を真っ直ぐに伸びる道を大型トラックでずっと走っていく景色が見えてくるようで臨場感のある音作りにうっとりします。
過酷なトラウマもちとかハードなシリアスな気がめいるような内容でもないし、なのにとっても切ないから、楽しくて聴きやすく。カタルシスがあって癖になるのでしょう。
特筆すべきはジュード役の佐藤拓也さんの受け演技でしょうか。
私はここ数年重低音の攻め声に飢えています。
そんな中、最初のころ佐藤さんは攻め役が多く、それも低めのお声で「おおっ素敵な攻め声様が現れた!!」と狂喜乱舞しておりました。
そんな中、2016年から受け役が増えてこられて。少し残念な気持ちがありました。
しかし、この作品のジュード役を聴いて。
自分の間違いを思い知りました。
なんて、色っぽいんだろうと驚き、癖になりました。
相手に自分の想いを悟らせないようにと虚勢を張っているお声の健気さ。男らしさ。
元彼をいなすときの格好よさ。いい男だなあとわかるシーンです。
つれなさの中にある相手への優しさを感じて、「この人本当はモテるんだろうなあ…」と思います。
そしてロイスに自分の想いを吐露するシーン。
めっちゃ可愛くて大好きです。
対して。新垣さんの上手さはさすがです。
本当に役によって七変化するお声に圧倒される。
良い意味で新垣さんがやっていることを忘れてしまうのです。
ロイスがいる…としか思わなくなる。
その凄さってどこから来るのだろう。
声優新垣を消し、ロイスという男を立ち上らせ、一本のロードムービーの中に私を招き入れ、日常から解き放ってくれるその能力。
本当に凄い技だなあと思う。
そして脇役がまた味がある。
名前もない役なのに絵の存在感がそのまま各々のキャラクターにいかされるような役作り。
つくづくドラマというのは、こういう細やかな心遣いや語られない所が奥行きを物語に与えるのだと思う。まるで一つ一つの小道具やエキストラこそが映画を支える大切なファクターであるように。
素敵な映画を堪能しているような。安眠のお供の離せないフェイバリットCDです。