笑う鬼には福きたる(1) - ちるちる (original) (raw)

作家買い。

小鉄子さんはコミカルな作品も書かれますが、今作品はどちらかというとシリアス寄り。でも、シリアスに特化した作品ではなく要所要所で笑いを誘うシーンもあるので、ドシリアスが苦手、という方でも楽しく読めるんじゃないかと思います。

という事でレビューを。ネタバレ含んでいます、ご注意ください。

主人公は20歳の笑。
笑、と書いて「えむ」と読む。
彼は小学生の時に母親が家を出ていき、それ以来父親と二人暮らし。父親は頼りないところもあるけれど、それでも二人助け合って生きてきた。
その父親が急逝。そして、残されたのは500万円という借金。

もともと貧乏暮らしだった笑にそんな大金を払えるわけもなく、困り果てていた時に再会したのが高校生の時に同級生だった福富くん。

「優等生」の福富くんとのトラブルがきっかけで高校を中退した笑にとって、福富くんは会いたくない人物ではあったものの、借金を返せない笑は彼の家に身を寄せることになり…。

というお話。

お金持ち×貧乏くん、というCPは他の小鉄子作品にも登場しますが、今作品の受けくんは若干卑屈なところがあることもあって、雰囲気はややシリアスモードな作品です。

が、この作品をシリアス一辺倒にしていない大きな要因が。

それは攻めの福富くん。
イケメンで、お金持ちのお坊ちゃんで、素直でいい子。
と、スパダリ風味満載な彼ですが、とんでもなく、

天然ちゃん。

なのです。

高校時代に笑と一悶着あったこと。
それを彼がずっと気にしていた、というのもあるのでしょうが、彼はずっと笑のことが好きだったんでしょうね。でも、その自分の恋心に気づいていない。が、唐変木なわけではない。本当にいい子なので読んでいて気持ちがほっこりします。

笑のほうも。
彼は自身の過酷な環境に負けたくないというガッツがある。
父親の残した借金も、放棄する術はあるんです。あるけれど、父親が残した借金を放棄することを良しとしない。
青い正義感だったり、父親に対する愛情だったりするわけですが、一生懸命お金を返そうとする、心根の優しい男の子なんですね。強がってはいますが、自身の環境に屈することなく健気に頑張る請う青年なのです。

そういった可愛らしい男の子たちを取り巻くのが、借金取りの男性(この男性の名前は1巻では出てきません)と、稔持のお祖父ちゃんの権造さん。

この二人の大人が、今後のキーパンソンになっていきそうな魅力的な脇役さんたちです。

借金取りさんは、にこにこしていてつかみどころがない感じ。でも、借金回収のためには容赦しない。

そして、権造さん。

権造さんさんがナイスすぎて笑えます。
借金を背負った笑の、理由や現在の状況を孫である稔持に聞いたお祖父ちゃん、自分のうちに来いと笑を誘ってくれます。コンビニよりも割のいい仕事を斡旋してやる、とのことですが。

この仕事が笑えます。こんな仕事あるんだ、という感じ。
これからも、仕事を斡旋してくれながら、笑のことを助けてくれるのかな。

現段階で稔持のライバルはじいちゃん、といったところか。
小鉄子作品なので、もちろん、と言って良いでしょう、1巻では濡れ場はなし。さてさて、この二人がくっつくのはいつになるのやら。

最後に、描き下ろしとして笑がじいちゃんに斡旋された仕事の裏話的なショートストーリーが収録されています。

爆笑必至です。
オカルト…、なはずなのに、こんなに笑って良いものだろうか。
ぜひとも、手に取って読んでいただきたいです。

小鉄子さんて、他にも連載を抱えている作家さまですが、クオリティーは全く低くない。複数の連載を抱えて、これだけの作品が作り出せるってすごいな、と思いつつ。

次巻を楽しみに待っていようと思います。