見えない「何か」を受け入れる豊かさ。デジタル×東洋思想を楽しく表現するたかくらかずきが語る | CINRA (original) (raw)

仏教などの東洋思想や妖怪を再解釈し、ビデオゲームやピクセルアート、NFTなどのデジタル表現に落とし込んだ作品を展開しているアーティスト、たかくらかずき。

東京・有楽町にあるSusHi Tech Square 1F Spaceにて、9月23日まで開催中の『人間×自然×技術=未来展』には、たかくらの作品『ハイパー神社(鬼)』が展示されている。「JPG」や「MP3」などの拡張子がNFT化されて祀られている作品だ。

7月23日にトークイベントが開かれ、たかくらが作品の説明をしたほか、「もしも、メタ的世界において新しい人の“依代”がアートの力でつくれたら?」をテーマに、同展のクリエイティブディレクターの亀山淳史郎と対談。イベントやインタビューを通して、たかくらの創造に迫った。

鑑賞者自らが「オニ」になる『ハイパー神社(鬼)』

東京都が主催する『人間×自然×技術=未来展』は、「自然と環境」をテーマにクリエイターや研究者ら9組が参加。「人間×植物×AR」「人間×動物×AI」「人間×鳥×VR」「人間×昆虫×ドローン」などのさまざまな切り口から、東京の多様な自然との共存のありかたを問いかける展示だ。ここでは、たかくらの『ハイパー神社(鬼)』は、「人間×生き物 × メタバース」に位置付けられている。

『ハイパー神社(鬼)』

たかくらの『ハイパー神社(鬼)』では作品名の通り、神社に参拝するときと同じように、鑑賞者はまず参道を進む。参道は両脇をLEDで彩られており、「JPG」や「MP3」などの拡張子がキャラクター化された姿が映し出されている。茅の輪をくぐった先では、2Dメタバースの拝殿を参拝する。お賽銭箱はコントローラーになっており、鑑賞者は自ら「オニ」となって2Dメタバース世界を歩くことができる。

この作品には、たくさんの仕掛けがある。例えば、「オニ」は「ケガレ」を発しており、メタバース世界に訪れた他のキャラクターを「オニ」にすることができる。参道に掛かっている絵馬のQRコードからは、無数のバーチャル神社に参拝することができる。これらに祀られているデジタル拡張子の神はそれぞれが独立したNFTとなっている。参拝すると、まるで呪文のような意味をなさない言葉が現れるが、それはNTTインターコミュニケーション・センターにて同時展示されている『ハイパー神社(蛇)』の鑑賞者がつくった言葉の羅列なのだという。

トークイベントの前にはギャラリーツアーも行なわれ、たかくら自身が作品を説明。トークでは、今回の展示でクリエイティブディレクターである亀山淳史郎と約1時間にわたって、たかくらの過去の作品も交えながら、「もしも、メタ的世界において新しい人の“依代”がアートの力でつくれたら?」をテーマに語り合った。

依代は「アバター」。日本のゲームに通じる感覚

「もしも、メタ的世界において新しい人の“依代”がアートの力でつくれたら?」というやや難解に聞こえるトークテーマは、たかくらの作品の特徴であるリアルとデジタルの融合というメタ的視点と「依代」について紐解いていきたいと、設定されたものだそう。

「依代」とは神道に由来する言葉で、心霊がよりつく対象物、山、動物、樹木、人間などのこと。トークの冒頭で、亀山が「心霊や精神が宿る対象ということだと思いますが、それの新しいものがアートでつくられているというのが、おそらくたかくらさんの作品に言えるんじゃないか」としたうえで、今回のテーマについてどう考えたか、たかくらに投げかけた。

「依代って現代語にすると『アバター』ってことに近いと思うんですよね。そもそもアバターの語源というのは、ヒンドゥーのルーツでもあるヴェーダの宗教における『アヴァターラ』からきてます。ゲームだと、自分が操作できるキャラクターのことを言いますよね。『依代』は神道や土着信仰で使われる言葉ですが——例えばFPSみたいな主観視点のゲームというのは欧米を中心に発展してきたのですが、日本ではそれとはちょっと違う進化をしていて、『マリオ』や『カービィ』みたいにキャラクターに入って操作する、つまり主観じゃないものが代表的。それはすごく依代的な感覚なんじゃないかと思います」(たかくらかずき)

たかくらかずき
アーティスト、1987年生まれ。東京造形大学大学院修士課程修了。ビデオゲームやピクセルアート、VR、NFT、AIなどのデジタル表現を使用し、仏教などの東洋思想による現代美術のルール書き換えとデジタルデータの新たな価値追求、キャラクターバリエーションの美学をテーマに作品を制作している。作品は山梨県立美術館や足利市立美術館、メキシコ、ボストン、韓国、ニューヨークなどで展示。京都芸術大学非常勤講師。

亀山は「その考え方はある種、古くからの考え方をこれからの考え方とつなぐことだと思う」といい、たかくらの作品で鬼など日本の伝統的で土着的なモチーフをデジタル上でキャラクター化していることが「依代」の解釈と重なるとした。そういったアウトプットをどのような考え方のもとで行なっているのかを問う質問を契機に、たかくらのこれまでの作品の紹介が始まった。

亀山 淳史郎(かめやま じゅんしろう)
株式会社 SIGNING 経営補佐 / Social Issue Gallery SIGNAL 主宰 / Social Business Designer 社会課題とビジネス課題の解決をプランニングするソーシャルデザイン領域の業務を手がける。2017 年“プレミアムフライデー”のプランニング&プロデュースをし、新語・流行語大賞にノミネート。 2019 年にポイントドネーション WEB サービス“BOSAI POINT”をアスリート本田圭佑氏と立ち上げ、 グッドデザイン賞を受賞。2020 年から日本発クリエイティブオンラインビジネスイベント“Innovation Garden”を手掛ける。2023 年、ソーシャルイシューギャラリー”SIGNAL”を虎ノ門に開設する。

最初に紹介したのは、山梨県立美術館メタバース柿落とし展『大BUDDHA VERSE展』(2022年)。これは仏像をモチーフにしたメタバースの展示だという。

「宗教のモチーフは、日本ではタブー視されていると感じていますが、もっと面白く扱っていいんじゃないかと思っているんですよね。ただ『ありがたいもの』になっているのは、みんなが文脈を忘れちゃっているからな気がしていて。例えば、日本に仏教が伝来したときに、経典よりも仏像のほうが人々の心をとらえた。これって現代のフィギュアに通ずるフェティッシュがあると思うんです。だから、仏像をキャラクターとして捉え直す展示をやりました」(たかくらかずき)

次に紹介したのは、同じく山梨県立美術館で展示した『メカリアル』(2023年)。これは山梨の道祖神をモチーフにしたもので、庭の地図通りに進んでQRコードが置かれている石版に行くと、NFTがゲットできるというゲームのような展示だ。

「お遍路やお伊勢参りのような聖地巡礼の行為には、テーマパーク的な面白さも含まれていると思っています。そういう古い文化を崇高なものにし過ぎていて、当時の庶民の感覚から離れてしまっているのではないか。そこを再解釈していくというのが、僕のなかでひとつのテーマとしてあります」(たかくらかずき)

亀山が「たかくらさんの作品では古いものを新しく、さらに楽しさや面白さも加えて蘇らせていると感じます。どういうふうに考えているんですか」と質問すると、たかくらはこう答えた。

「どうやって楽しくしているかということですよね。まずはシンプルに僕が好きなものと、古いものを照らし合わせています。僕はゲームや特撮の影響をもろに受けていて、村上隆以降の日本のポップアートの主流であるアニメ/オタクカルチャーを通ってこなかったんです。ゲームのキャラクターがアートでは置いていかれているなと感じていました。アニメ/オタクカルチャー派生のポップアートが浮世絵や美人画と現代アートを結びつけているように、自分の好きなキャラクターやルールと古い文化を結びつけられるものってないかなと探していたら、仏像にたくさんの種類があることに楽しさを感じたんですよね。曼荼羅的なバリエーションというか。

あと自分は楽しいのが一番大事だと思っていて、文脈に寄せすぎてかっこつけても、飽きちゃったら仕方ないと思うんですよ。だから、自分がちゃんと楽しみ続けられるような文脈を事前に設定していますね」(たかくらかずき)

ゲームとアートの境界線をどう越えていくか

このあともたかくらの作品の紹介をしながら、それぞれの意図について説明や解釈のやり取りが続いた。そうして話題は「美術館ではない場所で、アートを展示すること」に移った。今回の『人間×自然×技術=未来展』も、SusHi Tech Squareという美術館ではない場所の展示だ。

「僕はアートの大きな欠点として、ホワイトキューブじゃないとアートにならない、という大きな風潮があると思っていて。その問題に対してランドアートをやってみたり、リレーショナルアートをやってみたり、サイトスペシフィック性についてアートの文脈のなかで対抗しようとしても結局、ちょっと洒落込んだ『パッケージング』になってしまうっていう感覚もある。それがアートのアートたるゆえんであり、弱点でもあるなと思っています。

それに対してビデオゲームはすごいですよね。ビッグサイトでやってもゲームだし、公園でやってもゲームはゲームです。どこでやっても世界観が崩れないことが魅力的。だから場所性やパッケージングも含めてゲームとアートの境界線をどう越えていくかを考えていて、今回の展示でも、そういう考え方とも少し重なる部分もあります」(たかくらかずき)

亀山は「今回、純粋なアート展ではないところで展示をしてもらいました。子どもたちがゲームをするように展示で遊んでいたり、ドローンも操作できたり、ある種『カオス』な空間ですが、それを自然に受け取ってくださった方もいて良かった」と展示を振り返った。

そのあと、『人間×自然×技術=未来展』そのもののテーマである「自然と環境」と、たかくらの『ハイパー神社(鬼)』ついての話題へ。亀山は「日本には文化的背景として、例えば山岳信仰のような、信仰や人の思いが自然に宿るという考え方があります。それがデジタル上に再編され、新しいかたちで提案されていると解釈しました」と話したうえで、たかくらが「自然と環境」についてどう考えているのか問うた。

「例えば、神社はそもそも、お寺の影響を受けて社が建ったという説があります。昔はお祭りが中心で、先に儀式があった。建物はなく、そこにあるのは山そのもの。でも、物理的な山そのもの、自然そのものを崇拝していたかというと、どうやらそれだけではないらしい。山に見えない何かが入ってきていて、それを崇拝していたという昔の人たちの考えがあったとして、その見えないものは何なのか。

その何かは、僕は都市にもいると思うんです。自然と都市は対立関係ではなくて—―要はアリがつくってるアリの巣が自然か都市かっていう話になるじゃないですか。人間がつくっている部分が自然か都市かは、人間にはわからないと思う。そこに何か、見えないものがみんなによってつくられている。それが自然の一種なんじゃないかなとは思っているんです。

だから自然であろうが都市であろうが、環境や人々によってつくられている、見えないものってあると思う。それを受け入れると、豊かになるんじゃないかなと思います」(たかくらかずき)

そうして最後に、今回のトークテーマについて、亀山がもう一度問いかけた。

「僕はすごく——見えないものについて考えるんですよ。見えないものって昔の人の考え方や迷信だと言われますが、一方でコロナも放射能も、(SNSなどの)炎上も目には見えないわけです。現代においても、そういう目に見えないものによって人の心がどんどん動かされている。それを受け入れる必要があるって思っていて。依代っていうものも、例えばスマホに炎上が宿る、そういう状態だと思っています」(たかくらかずき)

『ハイパー神社(鬼)』に隠された構造。「見えないもの」がテーマであること

トークの終了後、たかくらにインタビューした。

『ハイパー神社(鬼)』では、鑑賞者は「オニ」になって2Dメタバース世界を歩き回ることができるが、拝殿の裏という非常に気づきにくい場所に近づいてクリックすると「みえるもの あらわれるもの いないもの」というお告げのような言葉が現れる。

「じつは、NTTインターコミュニケーション・センターにて同時展示されている『ハイパー神社(蛇)』の方には古いパソコン、使われなかった機材たちが展示されているんです。この展示の構造は伊勢神宮の内宮と外宮を参考にしていて、こっち(『ハイパー神社(鬼)』)が外側なんですよ。神社で言う奥院のようなところ、神儀が執り行なわれるようなところを『ハイパー神社(蛇)』に設定していて、そこに依代とされる古いコンピューター機材が置いてある。

さらに、じつは『ハイパー神社(鬼)』のブラウザ画面の見えないところに、データとして山があって。それが二重に依代としてある。それを表してるのが『みえるもの あらわれるもの いないもの』という趣旨だったんです。それはたぶん、言われないと誰にもわからない(笑)。でも、秘仏のように表に出ない神儀はあるし、禁足地も似たものですよね。それをデジタルでやったらどうなのかということを、考えてつくりました」(たかくらかずき)

トークでは、日本の土着的な考え方にも共通する「目には見えないが、そこにあるとされる存在」がキーワードのように語られた。トークの最後にも、たかくら自身が「見えないもの」について考えていることに触れていたが、なぜ、そこに軸を据えているのだろうか。

「2021年、お墓をテーマに『アプデ輪廻』というシリーズをやって、それがいまにつながる最初の作品でした。墓とそこに入ってる魂って、ハードウェアとソフトウェアなんじゃないかと考えた展示で。きっかけとしては祖父が亡くなったことも大きかったんですが、それと同時に、パソコンからモニターをとったら、どこにデータがあるのかわれわれにはわからないじゃんって思った。それってお墓もそうですよね。お墓のなかに魂があるのか、ないのかって、われわれにはわからない。だから、お墓にモニターつけて魂が見えるようにしたらいいんじゃね? という発想でした。

デジタルの本質って、存在しないものを、どう表示するか、みたいな気がしているんですよ。人間の脳内も電気信号によって感情などいろんな情報を処理していますが、パソコンも同じように電気が行き来することで情報処理している。本来、考えているだけのものって現実には存在しないじゃないですか。パソコンもそれと同じ状態。それを無理やり見てるのがモニターなんだっていうふうに考えて、そこから『見えないもの』について考え始めたんです」(たかくらかずき)

トークでは「見えないもの」について語られると同時に、たかくらの考え方には「面白いかどうか」という軸があるようにも感じた。

「そうかもしれない。良い悪いで判断しない方が好きですね。いいものも面白いし、悪いものも面白い。資本主義的な——現代で良しとされる合理主義だと、良いか悪いかで判断しなきゃいけない。つまり、正義か、否か。『正義、正しい』でつくるものはもちろんそれでもいいけど、僕は『正しい』というものを疑っています。大きな話をすると、戦争って正義と悪でするわけじゃなくて、正義と正義でしか争わない。どちらかの正義に共感するかどうかだと僕は考えている。それは僕にとって重要じゃないというか、もっと違うことがある気がしていて。だから、正義を疑うという意味でも、面白いか、面白くないかで決めているところはあります。要は、答えが決まっちゃうのが面白くないと思っちゃうんで」(たかくらかずき)

イベント情報

『人間×自然×技術=未来展- Well-being for human & nature -』

2024年6月19日(水)〜2024年9月23日(月)
会場:丸ノ内 SusHi Tech Square内1F Space
休館日:月曜(ただし7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開場)
時間:平日11:00~21:00、土日祝10:00~19:00(最終入場はそれぞれ30分前まで)
入場料金:無料

プロフィール

たかくらかずき

アーティスト、1987年生まれ。東京造形大学大学院修士課程修了。ビデオゲームやピクセルアート、VR、NFT、AIなどのデジタル表現を使用し、仏教などの東洋思想による現代美術のルール書き換えとデジタルデータの新たな価値追求、キャラクターバリエーションの美学をテーマに作品を制作している。作品は山梨県立美術館や足利市立美術館、メキシコ、ボストン、韓国、ニューヨークなどで展示。京都芸術大学非常勤講師。

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