「コミュ力」「練習力」「SNSの運営力」…成功しているグループ関係者の共通点 (original) (raw)

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“アイドル戦国時代”といわれて早13年、その戦火は衰えるどころか勢いを増す今日この頃。そしてどうやら最近、関西のアイドルシーンがアツいらしい。世界最大級のアイドルフェス〈TOKYO IDOL FESTIVAL〉という圧倒的存在、”東京で活躍する=成功”というイメージブランド。それらに負けじと、コロナによる制限の緩和をきっかけに関西の現場は盛り上がりを見せているというのだ。

NMB48やSTU48らをはじめとした地方を拠点としたアイドルグループの活躍のみならず 、コロナ禍を経て拡大した配信やSNSといったオンライン活動によって、東京に限定しない推し活も定着してきた。業界に根付いた“東京至上主義”はいま、少しずつ崩れ始めつつあるのではないだろうか。

関西に台頭するのは、持ち前のガッツとパワーを武器に、歌唱力とパフォーマンス力を高めた実力派アイドルたち。そんな彼女たちを歌唱指導という立場からサポートしているのが、「純子の部屋」こと純子である。

なんばHatchでのワンマンライブを成功させたサクヤコノハナやTIFは勿論、SUMMER SONIC2022にも出演し東西で絶大な人気を誇るKolokol、バンドセットでのワンマンライヴで実力の高さを見せつけたQuubi、今年TIFに初出場するPLEVAILなど、目覚ましく活躍する関西発・実力派アイドルに歌唱指導する純子が目の当たりにしてきた関西アイドルシーンの現状、そして成功するアイドルたちに共通する条件について話を聞いた。

歌だけがすべてではない、しかし歌の力が人を惹きつける

──アイドル戦国時代という言葉が生まれて10年が過ぎ、アイドルの活動や存在もより多様になりました。純子さんから見て、アイドルには歌唱力の高さも求められる時代となったと感じていますか?

純子:うーん、運営さんの方針次第やと思いますね。ダンスさえ揃っていればいい、被せでもいいという方針の運営もいるやろうし、そういう人はボイトレの依頼はしませんしね。

どんなに良いグループで曲も良くても人に見つからなければ意味がないので、歌だけがすべてではないと思います。ただ、今の時代のアイドルに求められているものは、何よりアイドル側とお客さん側の熱量を一致させることであり、そのためには歌の力は必要なものやと思います。

──お客さんを高められる歌やパフォーマンスがあってこそ、双方が盛り上がるということですね。では、純子さんがアイドルたちに歌唱指導するうえで大切にしていることは何ですか?

純子:基本的にアイドル運営さんの方針や音楽の方向性に合わせて指導は変えてます。たとえばKolokolさんの様な曲の個性、音楽性が高くファンタジーで牧歌的なアイドルの場合、静かに見てても歌とパフォーマンスで魅せることができるので魅せるための指導を。また、Quubiさんなどバンドセットのアイドルの場合は、お客さんを沸かせるために熱量のある発声に重きを置いた歌唱やパフォーマンスを指導しますね。

レッスン中に最近の集客や新規のファンの獲得から最近どういうものにハマってるかとか世間話を交えながら本人の体調やメンタルもしっかり見るようにし、且つ今後の活動へのミーティングも織り交ぜた内容になってます。

技術的なものでいうと、その子の声の個性を生かしたいので、まずマイナスやプラスに偏った声から“ゼロ”に近づける声の出し方を指導しています。

──“ゼロ”の声とは?

純子:たとえば♭(フラット)気味な声の子の場合、当然その声も魅力的やけど、少し持ち上げた声の状態でようやく“ゼロ”になるわけです。そういう違いをレッスンに初めてくるような子はわからないし、クラシックや声楽から学ぼうとするとかなりの時間がかかってしまう。そこでいかに早く上手くなれるか、というのを私の歌唱指導ではかなり大切にしています。取り組むのが早ければ早いほど、変化が出るのもファンからフィードバックを得るのも早くなりますから。

──自分の声の持ち味やウィークポイントって指導を受けないとわかりにくいものですよね。それに早く気付けるかどうかというのは、結果的にチャンスの数にも直結するような気がします。

純子:そうですね。私自身が人の良いところを見つけるのが好きで、なおかつ得意でもあるので、速さには自信があります。その子の歌を聴けば「この子がこの部分を上手に歌えないのはこういう技術が足りないからで、どう指導すれば改善できる」というのが2秒でわかるので。あと教え子一人ひとりのことがほんまに好きやから、貶すよりもその子の好きなところを伝えるようにしてます。

それに歌唱ではウィークポイントもプラスにできる自信しかないです。その子がコンプレックスに感じているものも歌い方ひとつで化けるし、その違いはライブを通してファンの人らにもしっかり伝わります。ライブは「THE FIRST TAKE」よりも“ファーストテイク”なんで(笑)。

──たしかに! ちなみにライブというファーストテイクで結果を出せる歌や声にはどのような特徴があるんでしょうか?

純子:一番重要なのは1音目ですね。1秒イントロが流れるだけで歓声があがる曲があるように、1音目のインパクトってかなり大きいものです。その1音目がしっかり出せてるか出せてないかで、レッスンを受けているか否かの判断材料になります。なので指導するうえで、バラードでも湧き曲でも1音目はかなり重視してますね。ここからは企業秘密なので詳しくはレッスンを受けてもらえればと(笑)

それに、基本的にアイドルはライブより特典会の方が時間も長いので、特典会で会いに来てもらうためにも、30分もしくは15分といった短い時間でインパクトを残さなきゃいけない。そのための歌い方というのがあるので、教え子たちにはインパクトを与えるための歌唱指導をしてます。

──指導による歌の変化って、ファンの人たちは気付いてくれるものですか?

純子:音をよく聴いてるファンは歌の細かい変化にも気づいてくれますし、特に私の教え子たちのファンには敏感な人が多いですね。そういうファンの方々がツイートで評論してくれることで、アイドルの名前を広げてくれるんで、ありがたい限りです。

あとこれはファンの話ではないのですが、過去歌唱指導をしていた2人組アイドルがTIF関連の配信に出演した時に、とあるユーザーが「2人だけのアイドルがTIFに行けるわけがない」と批判的なコメントを最初はしていたんですよ。でも終盤になると「今の曲すごく良い」「このグループ歌上手い」みたいに、評価が180度変わったコメントをするようになって「ざまあww」って思いました。歌唱指導は私にとって復讐であり、楽しみであり、自分の反骨精神の現れです。なので歌唱によってアイドルたちの評価が変わる時は最高に嬉しいですね。

成功するアイドルに欠かせないコミュ力・練習力・SNSの運用力

──これまでさまざまな人気アイドルも指導してきた純子さんですが、アイドルとして成功する子たちに共通する条件って何だと感じていますか?

純子:「コミュ力」と「練習力」と「SNSの運用力」ですね。まずコミュ力が高いということは、人を引き込むための努力をしているということです。

主にSNSの活動と特典会を頑張ってる子ですね。そして特典会に長蛇の列ができると「この子たち売れてるんや、じゃあ並んでみよう」って自然と思ってしまいますから。

Kolokolが大阪のBIG CATでライブをした時には、建物の一番下の階まで列ができていたと聞きました。ライブに関係ない館のお客さんも「何の列なんやろう」って興味を持ちますし、ファン以外の人への宣伝効果にもなります。なので特典会の列というのもその子たちのブランディングになります。

──次は「練習力」ですね。

純子:歌にしろ何にしろ、質と量の両方を突き詰めていかないと上手くならないです。質と量のバランスを維持できるように適度に休んだり、良い意味で手を抜いたりできる子が、やっぱり成長しやすいです。もちろん手を一切抜かないことも大切です。今年TIFへの出演が決まったPLEVAILも、誰一人手を抜かずに練習していたので、かなり早いタイミングでTIF出場が決まるのも当然だったなと思います。

──最後は「SNSの運用力」ですか!

純子:自分の魅せ方をちゃんと考えてSNSを動かしている子にはやっぱり、ちゃんとファンがついてますね。あとどこでバズるかわからないのでみんなレッスン後すぐ、自撮りをして撮りためてます。自撮りって今やアイドルにとって当たり前のことかもしれないですけど、これも練習力と同じで継続力が試されることやと思います。

なので売れてる子は、レッスンしてライブしてSNSも手を抜かずに更新して……と休む暇もなく何か行動してますね。

──SNSでの活動って自分を知ってもらうための努力でもありますよね。

純子:何度も言いますが、どれほど良いグループで音楽やパフォーマンスも良くても、人に見つからなければ上手くいかないですから。人を動員できずかけた費用もペイできないから泣く泣く解散を決意した……という光景も何度も見てきたので、ライヴ、さらには特典会に繋げるためにもSNSの運用力は大切です。

──純子さんも、インスタグラムやTwitterで教え子たちの告知をされてますよね。

純子:楽曲への歌唱指導の告知は絶対するようにしてますね。作詞とか作曲をしている人はよく告知してると思うんですけど、歌唱指導してる人ってあまり告知しないんですよ。むしろおらんかもしれないです。なかには「何イキってるねん」と思う人もいるかもしれないんですけど、歌唱指導って質の高い音楽表現を売りとするなら結構大事なことなんで、むしろ宣伝すべきやと思ってるんですよね。

アイドルにはボイトレを受けてない子も沢山おるし、いわゆるお遊戯会と皮肉を込めて揶揄される子らもいたりします。運営方針は様々なのでどのスタンスにも異論はありませんが、自分が任されるからには「このグループは専門の歌唱指導を受けているアイドルなんですよ」という活動への熱量のお墨付きを渡したいんです。特別な訓練を受けてます的な(笑)

それに私にとって「教し=推し」[h11] であり、私自身が教え子たちのオタクでもあるので、単純に好きやから宣伝したいという気持ちもあります。

負けず嫌いは最大のパワー、チーム全体が同じ方向を見ていれば必ずバズる

──やはり、惜しみなく努力を続けている子たちが成功するといえるでしょうか。

純子:続けていない子よりは期待値は上がりますね。あと続ける努力と「これやってみたらええんちゃう?」という提案にすぐに応えることができるかというのも大切です。教え子のなかでも特に印象的やったんが、おじゃすと矯正ちゃんの二人です。

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おじゃすは最初内気でもじもじしてたんですがいざ歌わせてみたらすぐに成長して、TikTokでクリス・ハートのカバー動画をアップしたら本人からリアクションもらうまでになってたんです。そこで「楽器を弾いてみたら?」とアドバイスしてみると、次のレッスン時にはリサイクルショップで買ったウクレレを持参してきました。

そこからわかりやすいコードを使って作曲をするようになって、やがて弾き語りができるようになりました。これに限らず、おじゃすは「これしてみたら?」と言われたことでやってこなかったことは一回もなかったです。

矯正ちゃんも同じで、彼女には初レッスンから音楽的センスを感じたので、キャラクターも考慮して「クラブで流れてそうな音楽を作曲してみたら?」と提案してみました。すると翌日にはMac bookを買ってレッスンを受けに来ました。

これは彼女の活動名の由来でもありますが、レーベルの人に「歯並びが気になる」と言われた時も、翌日には矯正治療を始めていましたよ。

──お二人ともアドバイスに応える力とスピードがあったから売れたと。

純子:二人のように「これやってみたら?」という提案にすぐ応えられる子には、その次にやるべきことをどんどん指示できるようになります。100で投げたら500で返ってきて、1000で投げたら5000で返ってくるみたいな、質の高い指導ができるようになる。そういうことができる子たちはやっぱり成功してます。

芸事の世界って、キラリと光る何かを持ってここに行きついたという人も多いし、「何がなんでもやるしかない」とがむしゃらにやってる人たちが何かを掴んでいってるんじゃないかなと思ってます。

──「自分にできることを何でもやろう」という気持ちとあわせて、「誰かに負けたくない」みたいな気持ちも強かったのかなと思うのですが。

純子:ほんまそれ。負けず嫌いなんやと思います。矯正ちゃんが前に誕生日プレゼントと一緒に手紙をくれて、「お誕生日おめでとうございます。お互いこの世界はいつくばって生きていきましょうね」って書いてあったんですけど、めちゃめちゃ良い言葉やなと思いました。この言葉からも負けず嫌いは伝わりますからね。

でも「てっぺんとります!」と抽象的な宣言されるより「絶対に負けたくないです!」って言われる方がわかりやすいですし、その結果としておじゃすと矯正ちゃんは人生そのものがコンテンツになってます。そういう力はタレントだけじゃなくアイドルにも必要やと思います。

かなり昔にはなりますが、ファーストサマーウイカに歌唱指導していた時も、彼女は誰にも負けないとばかりに練習を積み重ねていて、結果的に指導していたアニソンを武器に上京、当時の事務所に合格しました。負けないための準備は大変だったでしょうが、完璧だった例として記憶に強く残ってます。あと、彼女も最後に「先生の事、人間として好きです」という簡潔な文章が書かれた手紙をくれましたね

それにアイドルの運営さんたちと話していて思ったのですが、成功しているグループに関わってる人たちには負けず嫌いな人が多いです。

──チーム全体が“負けず嫌い”ならものすごいパワーが生まれそうですね。

純子:アイドルってアイドル本人だけじゃ成り立たないものだと常々感じます。マネージャーなら売り出し方、アイドルやタレント本人なら自分の魅せ方やブランディング、私の場合は他に負けない歌い方…みたいに、それぞれ負けず嫌いが発揮ができれば、アイドル本人も運営も指導者もみんな同じ方向を見て取り組むことができると思いますし、そこに少しの運の入ることでバズも引き起こせるんじゃないですかね。

──一つのアイドルグループに関わるすべての人が、同じ方向を見て行動するって素敵ですね。

純子:逆に少しでもズレがあると足並みが揃わず、上手くいかないんやと思います。何がどこでバズるかわからないからこそ、チーム全体が足並みを揃えて、散弾銃のようにターゲットを広くアプローチしていくのが大切なんじゃないですかね。少なくとも私が歌唱指導しているアイドルグループや運営さん方はみんな同じ方向を見つめて活動している人たちばかりですし、私の指導の仕方は癖があると思いますけど「この指導やめてください」みたいに言われたこともないです。

“同じ方向を見ている”という共通認識があるから、自由にやらせてくれてるんやと思います。その方が結果も残せるし、そのためにこっちも全力で向き合えるんで。

──ありがとうございます。純子さん個人としては今後どのようなことに取り組んでいきたいですか

純子:請けた仕事が次のオファーに繋がるので、今はマグロのように動き続けるのみです。最近ではアイドルだけじゃなくてミュージカル俳優への歌唱指導や、タレントと仕事する機会も増えたので、常に自分をアップデートして頑張っていきたいと思います。あとはファンの人たちからは「俺が好きなアイドルは全員純子先生が教えてる」ってコメントをよくもらうので、どこかのタイミングで教え子たちを集めて「コヤソニ(コヤブソニック)」ならぬ「純子フェス」なるものを開くことができれば嬉しいですね。教え子のオタクなので(笑)。

■プロフィール
純子の部屋 – 純子
大阪音楽大学音楽学部声楽科卒。学生より学外コンクールへ精力的に参加しKOBE国際学生音楽コンクール初入賞。その後中国音楽コンクール銀賞、サンテレビ賞、中国国際音楽コンクール国際部門1位(杭州にて)他多数。安藝榮子、R・ハニーサッカー、中川牧三に師事。主に宗教声楽・現代音楽・オペラからアニメ・ゲーム音楽まで取り扱うジャンルは多彩で、個性的な見た目とは相反する実直で技巧的、的確な表現方式を得意とする。演奏活動に加え多種多様な後進の歌唱指導にも力を入れアーティスト、タレント、俳優、アイドル、YouTuber、ティックトッカー、ミュージカル俳優等の育成輩出、プロモーションに携わる。(ファーストサマーウイカ、おじゃす、矯正ちゃん、Kolokol、Quubi、サクヤコノハナ、AVAM(旧MiKiOdA IDOL PROJECT)など)大阪を拠点とし、出張にて全国各地に赴き声楽をベースとした様々なジャンルの歌唱指導へ柔軟に対応しながら個性を伸ばすレッスンを展開している。

Twitter: https://twitter.com/matinee_poetic

宮谷 行美(ライター)

宮谷 行美(ライター)

音楽メディアにてライター/インタビュアーとしての経験を経た後、現在はフリーランスで執筆活動を行う。坂本龍一『2020S』公式記事の執筆や書籍『シューゲイザー・ディスクガイドrevised edition』への寄稿の他、Real SoundをはじめとしたWebメディアでの執筆、海外アーティストの国内盤CD解説などを担当。

みやたにいくみ

最終更新:2023/08/11 11:00

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