自律神経を積極的にコントロールする方法とは?|くすりと健康の情報局 (original) (raw)
2023.3.29 更新
「疲れて何もしたくない……」。自律神経が乱れていると、こうした状態になる場合も少なくありません。でも実は体を動かしたほうが自律神経のバランスが整いやすく、心身の元気を取り戻せることも。そこでご紹介するのがより積極的に自分で自律神経をコントロールする方法です。「動く」「リラックスする」というメリハリが、自律神経のコントロールにつながります。“攻め”の一手として取り入れてみませんか。
- 血流促進が自律神経コントロールのカギ
- ウォーキングや階段の利用など日常的にできる運動やストレッチを
- 「ゆっくり深い呼吸」で自律神経を制御できる!?
- 好きな香りを取り入れてリラックス効果をアップ
- ストレスを“とりあえず放っておく”のも解消法の一つに
- (Topics)自律神経の乱れにより季節の変わり目に起こる症状には「くるくる耳マッサージ」
血流促進が自律神経コントロールのカギ
自律神経を積極的にコントロールするための、大きなカギとなるのが「血流」です。
「自律神経は内臓や代謝、体温といった全身の機能を調節していますが、その一つが血流の調節です。 交感神経が働くと血管が収縮しますが、そうすると血流が悪くなります。血流が滞れば、特に末端の毛細血管へ血液が行き渡らず、冷えにつながったり、老廃物の排出がうまくできずにむくみやすくなったり疲れがとれにくくなります。 さらに、脳の血流が低下すると思考力も落ちるため、心の健康にも影響するなど、様々な不調の原因になるのです」と順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生は説明します。
一方、リラックスしている時は副交感神経が優位になり、血管が拡張するため血液がスムーズに流れやすい状態になります。
「このように自律神経の働きが血流に影響しますが、逆に血流の悪化は自律神経のバランスを乱す原因にもなります。つまり、血流を良くすれば自律神経のバランスが整いやすく、自律神経が適切に働くようになれば血流を健やかな状態に保つ好循環につながるというわけです」(小林先生)
血流をよくするためにぜひ行いたいのが運動です。
「運動している時は交感神経が優位になり、心拍数が増えて血管が収縮します。運動後は筋肉がゆるんで血管が拡張し、血液の流れが促進されます。この血管の収縮と拡張が、自律神経の働きにメリハリを与え、交感神経と副交感神経がそれぞれのタイミングできちんと働くベストな状態に近づけてくれるのです」(小林先生)
また、東急病院心療内科医師の伊藤克人先生は、「運動後に得られる爽快感も心身の健康に寄与します。普段からストレスが多く、緊張が続いていると、自律神経の調整を行う脳の視床下部に緊張信号が出続けてしまいますが、運動後は副交感神経が優位になって心身ともにリラックスするためこの緊張信号が少なくなり、視床下部も正常に働きやすくなるのです」と説明します。
毎日忙しくても気分転換に運動の時間をとる、というのは心と体の両面からおすすめのようです。
ウォーキングや階段の利用など日常的にできる運動やストレッチを
では、どんな運動がよいのでしょうか。キーワードは「ゆっくり深い呼吸ができる運動」です。
「そもそも運動時には、呼吸が速く浅くなり、交感神経の活動が極端に高まり、副交感神経の働きは低下します。このため、負荷が大きいランニングなど、ハードすぎる運動は交感神経の働きを過剰に上げてしまい、30代以降の副交感神経の働きが弱くなっている人では、運動後に十分に副交感神経が上がらず、逆効果になることもあります。誰でも効果的に自律神経を整えるための運動としては、ウォーキングがおすすめです。1回につき30分程度行うと良いでしょう。また、日常生活の中で、ちょっとした運動をするクセをつけることも大切です。例えばエスカレーターやエレベーターを使わずに階段を上り下りしたり、電車では座らずに姿勢良く立ったりするだけでも運動になります」と小林先生はアドバイスします。
また、ともクリニック浜松町院長の福永伴子先生は「日常的に手軽にできる運動」として下記の例を挙げます。
「ストレッチも、心身がリラックスして副交感神経の働きが高まり、血圧や心拍数が下がり、血管も拡張させる効果があります」と伊藤先生。おすすめのストレッチは次のようなものです。
「ストレッチをする際には、反動をつけずにゆっくり伸ばし、筋肉や腱に気持ち良い張りを感じたところで10~30秒ほどそのままキープします。息は止めず、自然に呼吸しながら行います。また、痛みを感じるほど無理に伸ばさないよう注意しましょう」(伊藤先生)
このほか、血流を良くするための方法として、温かいシャワーを首に当てるのもいいでしょう。太い血管を温めることで、効果的に血液の流れが促進されます。また、温かい飲み物は体が温まって血流が良くなるだけでなく、気持ちもリラックスできます。
「ゆっくり深い呼吸」で自律神経を制御できる!?
自律神経をコントロールするには「呼吸」も重要です。
「自分の意思でコントロールできないのが自律神経ですが、唯一の例外が呼吸です。深くゆっくり呼吸することで副交感神経の活動を高めることができ、逆に、速く浅い呼吸は交感神経を優位にします。ですから、心身をリラックスさせ、血流を促進するには、ゆっくり深い呼吸で副交感神経を高めるのが良いわけです」(小林先生)
自律神経のバランスを整える呼吸法として、小林先生が考案したのが口から6秒かけて息を吐き、鼻から3秒かけて息を吸う「長生き呼吸法」です。体を前に倒したり、後ろに反らせたりすることで、自律神経が行き来する背骨を柔らかくすることもできます。
「目安として6秒吐いて3秒吸う、としていますが、厳密に時間を測る必要はありません。要は、吐く時間を長くすることです。その際には、気持ちの切り替えのため、ポジティブなことを思い浮かべるのがおすすめです。 また、現代人は、浅い呼吸になりがち。普段の生活の中で常に深い呼吸を意識するのは難しいので、起床時、仕事を始める前や仕事の後、就寝前など、自分が行いやすいタイミングを決めて、毎日のルーティンにしてください」(小林先生)
好きな香りを取り入れてリラックス効果をアップ
香りも、自律神経に作用します。精油の芳香が自律神経に及ぼす影響などについては多くの研究があり、日本人を対象とした研究では、ラベンダーの匂いによる刺激の直後に、平均血圧や最低血圧、ストレスに関わる唾液アミラーゼ(唾液に含まれる酵素の一種)が低下したことなどから、副交感神経が優位になり、リラックスした気分になったと推察する報告があります※。
「嗅覚は感情を司る大脳辺縁系に直結しており、種類によって交感神経のレベルを上げて“やる気モード”にするもの、副交感神経のレベルを上げて“リラックスモード”にするものがあります。一般に、ラベンダーなどはリラックスさせ、レモンなどの柑橘系の香りは覚醒させますが、自分がそのとき心地よいと感じる香りを取り入れると自律神経に良い影響を与えることができると考えられます」と福永先生。
また、音の影響も少なくありません。
「救急車のサイレンなど不安を感じさせる音や、騒音などの不快な音はストレスの要因になる場合もあります。可能であれば環境を変えたり、自分にとって快適な音や音楽を流したりして“嫌な音”を回避する工夫をすることも大切です」(福永先生)
※日本味と匂学会誌16,633-636,2009.
ストレスを“とりあえず放っておく”のも解消法の一つに
自律神経を乱す原因となるストレスの中でも、精神的なストレスの対応に難儀している人は多いのではないでしょうか。
実は精神的なストレスは、大きく次の2つに分けることができます。
1つは「自分の努力によって解消できるストレス」。例えば「仕事が多すぎてストレスがたまるけれど、一つひとつ仕事を片づけることでスッキリした」というように、「やるべきことをやる」ことで解消できるものがこれに当たります。
もう一つが「仕事がこの先どうなるかわからず、不安ばかりが募ってしまう」というように、「自分の努力ではどうすることもできないストレス」です。
自律神経を自分でコントロールするためにも特に知っておきたいが「自分の努力ではどうすることもできないストレス」への対処法ではないでしょうか。伊藤先生は、それには次の2つのポイントがあるといいます。
- 不安や緊張、イライラといった不快な感情を抱いたら、無理に気分を変えようとしないで、そのまま放っておく
- 目の前にある「やらなくてはいけないこと」に気持ちを向け、行動に移す
「不安や緊張、イライラといった感情は、なくそうとしてもなかなか消せないものです。むしろ、『イライラしないようにしよう』など意識すればするほど感情が大きくなり、ストレスの要因となります。ですから、あえて気分を変えようとせず、目の前のやらなくてはならないことに目を向ける方が良いのです。不快な気持ちを抱えたままでも、通勤のために電車に乗らなくてはならない、という状況が目の前にあれば、自分の意識が電車に向き、実際に電車に乗るという行動を起こすと不安やイライラで止まっていた心が動き出し、不快な感情は小さくなっていきます。いつのまにか気分が変わってくるのです」と伊藤先生。
日本発祥の心理療法「森田療法」を専門とする伊藤先生は、ストレス対処法として次の3つの方法を勧めます。
1.とりあえず“放っておく”
例えばメールの返信がこないと「嫌われたのかも」と不安になることがあるかもしれませんが、メールの返信が来るかどうかは相手次第。自分にどうにかできることではないことを考えるのはやめ、別のことに意識を向けましょう。
2.終わったことを“反すう”しない
「あの時、こうすればよかった」など、過去の失敗やいやな出来事を何度も思い出すのは控えましょう。反すうすればするほどネガティブなでつらい気持ちが大きくなります。過去のことより、「今、ここにいる自分」に目を向けましょう。
3.「今の自分のままでよい」という自己肯定感を持つ
生きていく上でストレスを感じるのは自然なこと。ストレスは感じていいものです。
振り返れば、今の自分のままでトライしたことや達成できたことがあったのではないでしょうか。「やってもムダだ」など否定的な予測をするのではなく、自分の感性のままにやりたいことをやってみることで、自分自身を認めることができるようになるはず。自己肯定感はストレスへの耐性を高めるもととなります。
ちなみに近年、取り組む人が増えているマインドフルネスも、アジアの瞑想に起源を持つ心のトレーニングで、「今この瞬間を大切にする生き方」です。目線を変えて、こうしたことを試してみてはいかがでしょうか。
(Topics)自律神経の乱れにより季節の変わり目に起こる症状には「くるくる耳マッサージ」
自律神経は気圧の変化や寒暖差、湿度の変化など、様々な環境変化に対して臨機応変に体が対応できるように働いています。しかし、気象の変化が激しいときや、自律神経の働きが弱くなっていると、環境変化に体がついていけず、めまいやふらつき、むくみ、倦怠感、頭痛、関節痛といった不調が出る、いわゆる“気象病”になることも。 こんな季節の変わり目の寒暖差が大きい時期や、雨天や台風の前後などに調子を崩しやすい場合に、自律神経を整えるのに役立つのが「くるくる耳マッサージ」です。 これは、マッサージで内耳の血流を改善し、自律神経の乱れを整えるもの。天気の変化で体調が悪くなるという人は、試してみてください。
自律神経は、心の健康と体の健康に大きく影響します。まずは自分の現在の状態を把握し、生活習慣や運動などを取り入れることで自律神経をうまくコントロールして、より健康な暮らしを手に入れましょう。
後編では、自律神経の積極的なコントロール手法について紹介しました。
自律神経のバランスを改善する生活習慣のポイントを知りたい方は、前編をチェックしてみてください。
専門家プロフィール(あいうえお順)
伊藤克人先生
東急病院心療内科医師。1980年、筑波大学医学専門学群卒業。東京大学心療内科を経て、1986年から現職。専門は心身医学、産業医学、森田療法。過敏性腸症候群をはじめとするストレス性疾患の治療に取り組む。職場のメンタルヘルスに造詣が深い。東急電鉄(株)統括産業医、労働衛生コンサルタント、日本心身医学会専門医。
小林弘幸先生
順天堂大学医学部教授。順天堂大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、現職。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートや文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上の指導に携わる。日本スポーツ協会公認スポーツドクターも務める。
福永伴子先生
ともクリニック浜松町(東京都港区)院長。医学博士。日本精神神経学会認定専門医。日本医師会認定産業医。1994年順天堂大学医学部卒業後、順天堂大学医学部精神科、しのみやクリニック、築地サイトウクリニック、銀座内科・神経内科クリニックなどで診療経験を積み、2011年より現職。監修を手がけた著書『図解 すぐできる! 自律神経失調症の治し方』(ナツメ社)がある。