池袋系中華チェーン「福しん」、隠し味は人類愛? 手もみラーメンと青すぎるサワーで乾杯! (original) (raw)
今、ひそかにその魅力に陽が当たりつつある「東京ローカルチェーン」。
そんな中でまだまだ知られていない、とっておきの存在が「福しん」だ。
東京23区北西部などの庶民的なエリアで僕らを待ち構える、ちょっと珍しい「青い看板の中華料理店」。
創業1964年で今年が60周年となる。
店内はUの字型のカウンターがメイン。だから一人でスッと入りやすいし、奥にテーブル席がいくつか構えられ、グループでの飲食も可能だ。
メニューの一番左上に位置し、基本となる手もみ(醤油)ラーメンは、値上げラッシュの2024年において、450円という価格をキープする。
(2024年1月5日現在のメニュー)
どれもこれも妙にうまそうで、それでいて800円台までの価格を守る。これが庶民の心をくすぐるのだ。
例えば、「おともラーメン」。わずか130円でレギュラーサイズに迫るスープと具材の量、さらに半量の麺を入れた、掟破りの“大判ミニラーメン”とでも言うべきシロモノだ。
「手もみ風麺」のちぢれ麺で、独特の味わいがある食感。
「マーボー豆腐」はピリ辛の中に酸味が利いている。これをライスと一緒に食べるのがまたいい。労働の疲れが少しずつ癒えていく。
「チャーハン」は、「パラパラ」がよしとされる風潮に合わせず「しっとり」を貫く。ふんわりした食感が残り、これがまたムシャムシャと平らげるほどにうまい。
チャーシューのうまみや醤油の香ばしさをたたえる
そして、食事が終わったらもらえるのが「レシートクーポン」。
★定食ライス・麺大盛り分
★チャーシュー2枚・ミニ杏仁・冷奴
のいずれかがもれなくサービスされるのだ。
大判の木綿豆腐がゴロッと入り、おろし生姜が効いたサービス冷奴
池袋やその周辺地域の庶民から、何気なく、それでいて大いなる信頼を集める中華チェーン。
そんな福しんだが、客も知らないストロングポイントが多数あると小耳にはさんだ。
●徹底した実力主義で外国人店長も多数? ●格安なのに国産野菜をたっぷり使用? ●社内の全員がチャーハンを作れる? ●客に傘を貸し、返したらクーポン進呈?
これは取材させてもらうしかない。そして万感の思いでその日を迎えた。
豊島区椎名町にある、庶民的な佇まいの本社で迎えてくれたのは、福しん営業部企画課広報課長の宮下雄一さんだ。
半数近くが外国人店長のワケ
「まず福しんさん、池袋中心に集中して、少しずつ出店されていますよね?」
「創業者の会長が東長崎に一号店を出し、近場から足元を固めていきました。1年に1店舗を出せたらいいくらいですね」
「地道だ……それはなぜですか?」
「うちは店長が1店舗の専任です。『人が育ってから、もう一店出そうか』となるので、出店のスピードは早くないんです」
「外国人の店長さんもいるそうですが……?」
「半数近くにあたる、31店舗中13店舗が外国人店長です(2月上旬現在)。とくに中国国籍が多いですね」
「そこまで外国人店長が多いのは珍しい!」
「実力主義ですから。国籍に限らず仕事ができれば店長や社員になれます」
「純粋に能力で評価してもらえるんですね」
「今は中国人のマネージャーが一人いて、外国人社員一号でした。就労ビザの永住権もうちの会社で取っています。中国人スタッフからはボスと呼ばれて」
「おお! 池袋エリアはそもそも中国の方も多いですもんね」
「うちの店長たちはみんな日本語がうまいですけど、マネージャーの彼はズバ抜けています」
「その努力に報いるわけですか」
「はい。もし外国人店長が故郷に戻って福しんをやりたいなら、大歓迎です」
「豊島区以外も北千住や北赤羽や浅草など、生活の匂いがする街に多く出店していますね」
「福しんは日常食としての価格帯や味付けですので、下町的なエリアに多くの店を出しています」
社員全員が「中華鍋でチャーハンを作れる」体制?
「看板メニューといえば『手もみラーメン』ですが、麺はぷりぷりした独特の食感ですよね?」
「『手もみ』を再現できる機械を入れており、扱いが難しくて手間がかかる多加水の麺を、工夫して提供しています」
「あとチャーハン、パラパラというよりも、少ししっとりしていますよね。世の中ではしっとりチャーハンが見直されていますが、おいしさの秘訣は何ですか?」
「うちはチャーハン専用のごはんを炊かず、定食などと同じライスを使ってチャーハンを作ります。みずみずしさをある程度残した形です」
「ミニチャーハンは黒い茶わんで出てきますが、それもおいしいんですよね。他に味の決め手はありますか?」
「うちに入って、最初に教えるのはチャーハンです。調理に携わっている人たちはチャーハンはみんなうまく振れます」
「その都度、お店で作ってくれるのがうれしいですね。あとXで『社内全員がチャーハンを作れるように』みたいなプロジェクトがありますよね!?」
「まず基本のチャーハンを、総務や工場スタッフも含めた福しんの全員が作れるようになろうという社長の一声ですね。みんなで現場を知ろうと」
ただいま福しんでは『全スタッフチャーハンプロジェクト』として店舗の調理担当者は勿論、ホールスタッフや本社スタッフ(総務部)、更に工場のスタッフも全員が美味しいチャーハンを作れるように研修が始まりました!
勿論社長も例外では有りませんのでチャーハン作ってもらいました!! pic.twitter.com/Nw6GG7x6jT
— 【公式】福しん (@fukushin_co) January 23, 2024
「私みたいな本社所属の人間も、ほぼ毎日お店にヘルプに行きます」
「え?」
「最近は水天宮前駅のお店が人員不足で。ほぼ毎日、昼間だけ応援に行きます」
「縦横無尽に働きますね。そして『福しんサワー』……なぜあれほどに青いんですか!?」
甘酸っぱくさわやか、とにかく飲みやすいクエン酸サワー
「お店のカラーの青を再現したんです」
「飲食店が青って珍しいですよね?」
「はい。飲食店が寒色を使うのは基本的にタブーですが、会長が『青色なら街で目立つ』と」
「逆転の発想だ。福しんサワーは売れていますか?」
「ビールと1位を争う人気ですね。福しんサワーは全店舗で提供します」
「しかも、回数券までありますよね?」
1か月で6回まで飲める回数券。普通に頼んでもほかのサワー系より20円ほど安い
「はい。ちなみに福しんサワーはクエン酸が入っていて酸っぱいので、脂っこい料理とか中華料理に合います」
「酸っぱいクエン酸で口直しですね……あと、新メニューの提案は難関らしいですが、毎年冬メニューとして大人気の『ニラそば』がそれを突破できたのはなぜですか?」
「考案者の押しが強かったからです」
「え?」
「東長崎の梅村さんが、会長へ猛アタックしたんです。そして『味どうでしたか、他にどうすればいいですか』と、熱意を持って会長に聞き、修正にどんどん応えました。考案者側の熱量でメニュー化まで行き着いたんです」
「コミュニケーションの基本を思い知らされますね」
「だいたい、入り口の段階であきらめてしまうので。今採用されるメニューも、そんな感じです」
「福しんさんといえば、スピード提供も目を見張ります」
「注文を受けてから4分以内で料理を提供する目標があるんです」
「そんなものまで? どうやって早く提供するんですか?」
「具材をあらかじめ小さな容器に分けて、盛り付けるだけにしたり、明確な役割分担を立てたりと、お店に合わせた方針のもとに早く作っています」
この価格で国産野菜たっぷり
「中華料理チェーンには珍しく、健康に対して積極的に取り組んでいると聞き、意外でした」
「創業初期、会長がギラン・バレー症候群に苦しんで、健康に人一倍気を使うようになったことでヘルシーメニューに力を入れたんです。社訓にも、『毎日食べられるさっぱりした食事を提供する』がありまして」
「例えば、塩分濃度には基準があり、濃くなり過ぎないようにします。あのタンメンなどもそうです」
「タンメン、それであの濃い塩味が出せるならいいですね」
「主要な 野菜には、国産を使っています」
「それであの価格ですか?」
「はい。さらに塩分や脂分を控えていますし、焼き餃子も177kcalに抑えています」
「福しんの餃子は小ぶりで安くて重宝していたんですが、思った以上にヘルシーですね」
「キャベツや豚肉がメインで野菜が主体の、おかずとしてパクパク食べられる軽い餃子にしています」
店舗に一人は「名物おばちゃん」を置く?
「『店舗に一人は名物おばちゃんを配置する』とも聞きますが……?」
「創業者の会長は彼女らを高く評価し、意識的にできるだけ多く配置しようとしていました。ホールスタッフや、ときに店長に。人手が足りなくて応援がほしい場合も、彼女たちのシフトは動かすなと」
「なじみのお客さんは安心できますね」
「はい。そしてうちは長く働いてくれる方が多いんですよね。アルバイトやパートさん、元社員や元店長とかで、数10年お店に残ってくれる人も多いんですよ」
「今は店舗に1人ではないが、多くの店ではいる」と宮下さん
「自然と『名物おばちゃん』が生まれると。なぜずっといてくれるんですか?」
「お店の雰囲気がいいですから。私自身が福しんに入ったのも、堅苦しくなく家庭的な雰囲気が気に入って」
「お店はラジオがついていて、独特のいい雰囲気ですね」
「いわゆる、街の中華屋さんが31店舗まで増えたみたいな感じです。雨のときに傘を貸し、返すとクーポン券をくれるサービスも、お店によってはありますよ」
「え? 見知らぬお客さんに傘を託すって、返ってこないこともあるのでは?」
「ただ、クーポンのおかげで返してもらえる確率は高いんです。返してくれたら、お礼の気持ちでささやかなサービスをしています」
「小さな人類愛を感じます」
店舗限定メニューから特殊オーダーまで
かつて筆者が撮影したもの。現在浅草には浅草ROX前店がある
「そういえば、浅草の店でこんな掲示を見つけました」
「上野駅前店のみで、8時から10時までビールを260円で提供しています」
「なかなかの取り組みですが、なぜやってらっしゃるんですか?」
「上野は市場の関係で朝が早く、朝から一杯飲むお客さんが多くて。もう少し安くしたらもっと来てくださると思って始まりました」
「土地柄なんですね」
「あと、『1キロチャーハン』も店舗限定です」
「学生街とか、食べそうな人がいる街が限定?」
「そうですね。あとはテーブル席がメインの坂戸八幡店やイオンタウン毛呂山店などでは、何人かでシェアして食べる方も多いです」
「そういう、シェア需要がある店も対象になるわけですね」
「福しんの店舗はあまり大きくない規模感で、親しみやすい雰囲気がありますよね」
「暇なときなど、スタッフへお気軽に話しかけていただければ。私自身も、店長時代に誕生日プレゼントを常連さんにもらいまして」
「!? なぜ誕生日をご存じなんですか?」
「うちのスタッフに聞いたそうです。ふだんからよく雑談していた常連さんで、うれしかったですね」
「誕生日プレゼントをもらう店員さんはなかなかいない……あと、オーダーしたら、メニューにないものも作ってくれるとの怪情報があります」
「分量や材料的に破綻しなければ、お応えしますよ。例えば麻婆豆腐で『豆腐を切らないでほしい』とご希望だったので、対応したことがあります」
「おお……! 特殊オーダーを可能な範囲ならできる?」
「はい、チャーハンに生姜焼きを載せるとか」
変わるものと変わらないもの
「現在の高橋順社長になってから、新しい取り組みが次々と実施されていると聞きます」
「とくに自販機はヒットしました。ラーメンや餃子などを冷凍で販売していて、お店に来られない方へ広く提供できていますね。コロナ前から10箇所に置いていて、毛呂山工場の店がダントツの一番人気です」
「コロナで食品の自販機が増えましたが、その先駆けでもあったんですね。工場直売というと、新鮮で安いイメージもありますから」
「工場店ではセールもあります。うちは餃子などを冷凍で納品しますが、その日の朝に製造した、レア商品とも言える『生の餃子』を、月に1回の特売日に売ることもありますよ」
セールは不定期。実施の際には福しんLINEアカウントで告知するとのこと。「生餃子」がない場合もあるので注意
「あと驚いたのが、タッチパネルを設置したテーブル席の多い店舗が10店以上に増えているんですね?」
「はい。今までのカウンターがUの字型のお店だと、若い人や女性が入りづらかったんですが、今風なデザインに変えて、より来店していただけています」
「もはやデートにも使えそうですね! ……そんな福しんが守りたいものと、新たに強化したいものは何ですか?」
「お客様とのふれあいは大切にしていきたいです。そのコアは変えずに、調理や発注業務などの裏の部分を強化していきたいですね」
国籍関係なく実力主義で、外国人店長・社員が多く、その場で作る国産野菜たっぷりの料理が、4分以内で到着する。名物おばちゃんの接客というおまけ付きもある。
東京に住む人は今後も福しんを愛し、東京を旅する人には、このよさを味わってもらいたい。僕らは今宵も「福しん沼」に肩までつかるのだ。