公的年金は「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」どっちが得?損益分岐点は?【書評】 (original) (raw)

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老後2000万円問題をきっかけに老後資金に不安を感じている方も少なくないでしょう。

老後資金の心配を解消するには収入を増やすか、支出を減らすしかありません。

支出を減らすヒントがあればと読んだ本が森永卓郎さんの『老後破産しないために、年金13万円時代でも暮らせるメタボ家計ダイエット』。

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本の中で気になったのが、第6章の『「年金の繰り上げ受給」は賢者の選択か、老後破産への片道切符か?』の部分。

森永さんは公的年金が減らされる可能性がある中で、「年金の繰り上げ受給」をすすめています。

しかし、人生100年時代に安易な「年金の繰り上げ受給」はおすすめできません。

今回の記事では、年金の繰り上げ受給をおすすめしない理由を解説します。

年金13万円時代とは?

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森永さんは本の中で、今後、公的年金の額はどんどん減らされていくと指摘しています。

その根拠は、厚生労働省により5年に一度実施される年金制度の「財政検証」。

2014年の財政検証によると、最悪のケースでは公的年金の所得代替率が35~37%まで下がり、現在のモデルケースである年金月額の約22万円が約13万円になってしまうと解説しています。

本書では、最悪のケースで年金が月額約13万円になってしまう時代に備えるために固定費の削減などによるメタボ家計のダイエット方法を提案してくれています。

その対策の中の1つが「年金の繰り上げ受給」。

しかし、年金の繰り上げ受給は慎重に行う必要があります。

年金の繰り上げ受給とは?

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そもそも年金の繰り上げ受給とは、どのような制度なのでしょうか。

老齢年金の支給開始年齢は65歳です。

その支給開始年齢を繰り上げることにより最大5年早め、60歳から年金を受給する事が可能。

ただし、繰り上げ時には1ヶ月繰り上げるごとに年金額は0.5%減額され1年で6%、5年で30%減額(本書出版時点)されてしまいます。

なお、2022年4月からは1ヶ月繰り上げるごとの減額率が0.4%となっています。

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年金の繰り下げ受給とは?

一方、65歳からの年金受給を最大5年遅らせ、70歳から年金を受給する「繰り下げ受給」という制度もあります。

年金受給を繰り下げると、1ヶ月繰り下げるごとに年金額は0.7%増額され、1年で8.4%、5年で42%増額されます。

なお、2022年4月からは最大10年、75歳まで年金受給を繰り下げることが可能になりました。

75歳まで年金受給を繰り下げると、年金が84%増額されます。

繰り上げ受給のメリットとは?

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本書で森永さんは、繰り上げ受給のメリットを下記のように解説しています。

メリット①:無年金・無収入期間が保障される

年金の繰り上げ受給により、60歳で退職してから64歳までの年金を受け取れない「空白」期間が解消できる。

しかし、現状では60歳で退職して生活に余裕がなければ、継続して65歳まで働く方が多いのではないでしょうか。

そういう意味では、年金を繰り上げ受給するメリットとは言いがたいです。

メリット②:年金の受給権が保護される

繰り上げ受給は、支給開始年齢が引き上げられる対策になるとしています。

65歳から年金を受け取る算段をしていたら、70歳に支給開始年齢が引き上げられた、ということが起こる可能性が十分考えられます。

繰り上げ受給していれば、その後に法律が改正されて支給開始年齢が引き上げられたとしても、すでに年金を受け取る権利が既得権として保護されると解説。

しかし、年金の支給開始年齢を引き上げる場合、一定の移行期間を設定すると思われます。

例えば、65歳直前の人の支給開始年齢が明日からいきなり70歳支給になるようなことはないでしょう。

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メリット③:人生設計が立てやすくなる

「繰り上げ受給」すれば、現役世代の「年金がいくらもらえるのかわからない」という不安が解消されれるとしています。

しかし、50歳以降の方は、1年に1度送られてくる「ねんきん定期便」で年金の受給額を確認することが可能。

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繰り上げ受給して減額された老齢年金で人生設計を立てる方が難しくなると思います。

繰り上げ受給により、生活費が足りなければ月10万円程度をパートやアルバイトで稼げとしていますが、高齢になるほど働くのが難しくなるのは間違いないでしょう。

逆に若くて働ける間は稼ぐ。

これからの時代は働いた稼ぎで生活できる間は年金を受給しないくらいの心構えが必要でしょう。

繰り上げ受給のデメリットとは?

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メリットの一方、繰り上げ受給のデメリットについては、下記のポイントが挙げられています。

上記からも明らかに「繰り上げ受給」のメリットよりもデメリットの方が大きいことが分かります。

そして、「繰り上げ受給」最大のデメリットが後戻り不可能な点。

一度、年金を繰り上げ受給してしまったら、後悔しても取り消すことはできません。

一生、減額された年金を受け取り続けることになってしまいます。

年金の「繰り上げ」と「繰り下げ」は、どっちが得?|損益分岐点は?

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年金の「繰り上げ」と「繰り下げ」のどちらが得かは、何歳まで生きるかが関係してくるので、どちらとも言えません。

2020年現在(本書出版時点)、60歳まで年金受給を繰り上げた場合と比較して、65歳から受け取ったケースで受給累計額が追いつく年齢は、76歳8か月です。

例えば、年金を70歳まで繰り下げたのに71歳で亡くなったケースでは「繰り下げ」が不利で、「繰り上げ」の方が良かったことになります。

なお、繰り上げ受給した場合と65歳から年金を受給した場合を比較した損益分岐点となる年齢は下表の通りです。

2020年時点
受給開始年齢 減額率 年齢
60歳 30% 76歳8か月
61歳 24% 77歳8か月
62歳 18% 78歳8か月
63歳 12% 79歳8か月
64歳 6% 80歳8か月
2022年4月~
受給開始年齢 減額率 年齢
60歳 24% 80歳10か月
61歳 19.2% 81歳10か月
62歳 14.4% 82歳10か月
63歳 9.6% 83歳10か月
64歳 4.8% 84歳10か月

どうしてもお金が必要という場合には、繰り上げも検討の余地がありますが、人生100年時代には長生きする可能性が高くなるので、繰り上げ受給の選択は慎重に行う必要があります。

人生100年時代は「繰り下げ受給」前提がベター

人生100年時代は、年金の受給開始年齢である65歳時でも余裕があれば、年金の裁定請求(年金の請求)をせずに「繰り下げ受給」を前提に様子見する方がベターではないでしょうか。

人生100年時代は、下記記事でも解説した通り、公的年金は積立貯蓄ではなく、長生きリスクに備える保険だという発想を持つことも必要。

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なお、繰り上げ受給は手続きが必要ですが、繰り下げ受給は裁定請求(年金の請求)をしなければ、自動的に繰り下げとなります。

また、65歳以降に介護などでどうしてもお金が必要な事態が発生したような場合、それまで繰り下げてきた年金を一括で受け取ることも可能。

例えば、繰り下げにより年金を受け取らずに69歳で介護状態になり、まとまった額の資金が必要となった場合、そこで手続きをして65歳から69歳までの受け取っていなかった年金を一括で受け取ることもできます。

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まとめ

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これから年金の受給額が減らされていく可能性が高いことは間違いないでしょう。

そのような状況の中で、更に年金額が減額される「繰り上げ受給」を安易に選ぶことが賢明な選択だとは思えません。

繰り上げ受給は一度選択すると後戻りは不可能で、一生、減額された年金額を受け取り続けることになります。

公的年金の受給年齢については、無責任な「繰り上げ受給」のすすめに耳を貸すことなく、「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」の判断をして頂ければと思います。

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