秋元康の〈時代精神〉対談、第1回は森川 亮 LINE代表取締役社長 (original) (raw)

時代とぴったり寄り添い、あるいは時代を軽く突き放しながら、数知れぬスマッシュ・ヒットを世に送り出してきた「時代の申し子」秋元康が、「いま、ここ」で生成しつつある「時代精神」を体現する当人に斬り込んでいく新連載が今月から隔月でスタートする。第1回は利用者5億人突破を目指して快進撃中のアプリ「LINE」のリーダー、森川亮さんだ。

写真:山下亮一 文:今尾直樹 スタイリング:櫻井賢之 ヘア&メイク:MORITA

秋元 康 作詞家 美空ひばり「川の流れのように」をはじめ、数多くのヒット曲を生む。テレビ、映画、CM、マンガ、ゲームなど、多岐にわたり活躍中。AKB48グループの総合プロデューサーを務めるなど、常に第一線で活躍するクリエイターとしても知られる。2008年第41回日本作詩大賞、12年第54回日本レコード大賞「作詩賞」、13年第40回アニー賞:長編アニメ部門「音楽賞」を受賞。 森川 亮 LINE代表取締役社長

問題は伝え方

秋元康さんは昨年12月、友人たちからLINEをはじめることをすすめられた。「わからないから嫌だ」と断ったら、友人がLINEの社長、森川亮さんを送り込んできた。六本木のカフェで森川社長から直々に教えてもらったLINEに、秋元さんはいま、そうとうハマっている。

森川 もうかなり使ってますか?

秋元 使ってます。実際使ってみてわかったのは、たとえばカメラのズームレンズのように、寄りたいところでは寄れるし、引きたいところでは引ける、ということ。LINEって、ポイントはそこだよね。僕らも夜中に20人くらいで内容の濃いLINEをやっていて、でも、ここで終わりかなと思ったら、サヨナラのスタンプを押してサッと終了にしたり、あるいは距離のある人から連絡がきたときには笑顔のスタンプで返したりとか、つまり人間関係の距離感をズームイン、ズームバックできる。それは大きい。発明じゃないですか。

森川 人間として気持ちいいかどうか、気持ちの代弁ができるかどうかが、すごく大事だと思うんです。どっちかというと、これまでの会社は技術中心で、たとえば3Dがつくれますとかスピードが速いとかということを重視していた。僕たちは技術よりも気持ちよく使えるためにはなにが必要なのかを考えた。コミュニケーションに、ささいなことでもなにかを組み合わせると、すごく楽しくなる。エンターテインメントってそういうものだと思うんです。〈コミュニケーション×なにか〉で、いままであったものを変える、そんなものができたらいいな、と思ってます。

秋元 ある種の伝言的なものだけだったらここまで流行らない。だれがどんなセンスで、どんな言葉を投げかけてくるか。すごく強面の人が「なんだ、このスタンプ?」という、笑っちゃうようなのを押してきたりするでしょ。そこが面白い。ツールの楽しみ方がユーザーに委ねられていて、自分たちでエンターテインメントを創造できる。そこが新しいですね。

森川 ありがとうございます。コミュニケーションという観点からエンジニアが考えると、正確さとか効率とか、テレビでいうとNHKみたいなものになると思うんです。もちろんNHKは必要だけど、正統派の番組だけだと疲れちゃう。楽しさがあるのがLINEかなと思ってまして、つくる人も、ホントに楽しくやりたい人がいまつくっています。

秋元 あとね、昔は「電話番号教えてください」、とお願いするのって抵抗があったでしょ。固定電話から携帯電話になったときに、少しラクになった。メールになってもっとラクになった。LINEだと、もっとハードルが下がった。だからメールとかやらなかったオジサンまでがやっている。このあいだ、誰かにLINEのID教えてって言ったら、携帯をフルフル振るだけでいいんですよって。すごいなぁと思った。

森川 距離を縮めるスタイルっていろいろあると思うんですけど、LINEはかなりそれができたのかなと思ってます。今年は一応、世界で5億ユーザーを目指しています。おしゃべりが好きな人ほど使う傾向があります。若い方や女性は、利用頻度が高いですね。LINEはもちろん大勢で楽しめるという価値もあれば、無料で通話ができるとかもあって、オフィス利用も増えてまして、例えばある企業では役員会のコミュニケーションをLINEでやられたりするところもあります。自動翻訳機能があって、海外の人ともやり取りできたり、ツールとしてもいろいろと進化しています。最近、若い方が使っているのは、音声メッセージを誕生日に送る機能です。あれも新しい使い方ですね。

LINE 初期からの人気キャラクター。左からコニー、ブラウン、ムーン。

「笑点」をつくれ

秋元 せっかくの機会なのでおたずねするんだけど、LINEは内容を会社の人に読まれている、って都市伝説的によく言われます。ないんでしょ、それ?

森川 もちろんないです。かなりセキュリティはちゃんとしてます。もう間違いなく。いかに愛してもらうかが重要ですからね。

秋元 LINEみたいな企業って、ワクワクするような発表が恒常的にあるかどうかだよね。あ、この人たちがやっているんだったら面白いな、ということをやったほうがいい。

森川 僕は以前、日本テレビ放送網に勤めていたんです。エンジニアなので、コンテンツについては直接は関係なかったんですが、見ていて、「オレ、これをやりたい」という思いがいっぱいある人がつくった番組が結果的にヒットしていた。もちろん視聴率を追うことも大事だけれど、なにが楽しいのか、なにがいいのかをいつも考えていることがもっとも重要だと思うんです。

秋元 ビジネスとはなにかということを考えると、2クール、視聴率20%の番組じゃなくて、「笑点」のように高位安定が何十年も続く番組をつくることなんだよね(NTVの「笑点」は1966年5月に放送開始。番組平均世帯視聴率は34.3%以上である)。だれもいま、「笑点」の話題をしないでしょ。だけど、「笑点」はずーっと視聴率いいもんね。あれがビジネスだと思う。

森川 仕組み化されたモノをつくることが重要だと。

秋元 いま話題のナントカだけだと、結局は自分が流行とかヒットの仕事をしてきたからこそ思うことだけれど、それはもう、ホントに実体のないモノだからね。すぐに変わるから。それよりも手堅いなぁ、というモノが絶対あったほうがいい。

森川 便利だという部分と楽しい部分のバランスが重要かなぁと思いますね。

秋元 どうしても、ブームを継続したい、と人は思っちゃう。だけど、当たり前にするというのが大事。それはたぶんイメージ戦略だと思う。……でも、僕、たくさんの社長にお会いしているけど、森川さんは社長として誠実なところがいいね。

森川 ありがとうございます(笑)。

秋元 だって人に呼ばれて、ザ・リッツ・カールトン東京のカフェで僕に一所懸命LINEのやり方を教えてくれる人はなかなかいない。でもその分、弱さもある。やっぱりベンチャーって、あいつら頭おかしいんじゃない? と言われるようなことにどこかでベット(賭けを)しないと。それはもうスティーブ・ジョブズもザッカーバーグにしたって、どこかで尋常じゃないよね。尋常じゃないことがやっぱり、明日への可能性だから。森川がついに狂った、ということをやらないと。

森川 秋元さんをビックリさせるような計画をぜひ、つくります。

秋元 LINEで「驚いた」と送るから。なんのスタンプで送ろうか、いま考えている。スタンプ、いっぱい持ってます。

森川 なにを一番使われます?

秋元 それはもう、「激オコ! プンプン」マーク。

森川 そういうシーンが多いということですか……。

Moon:喜怒哀楽がストレートで表情豊かな「ムーン」。James:ナルシストなイケメン金髪青年「ジェームズ」。Brown&Cony:男役はブラウン、女役はコニーのようだが真相は不明。Brown:クマの「ブラウン」は繊細で素直な心の持ち主。Cony:気分屋だが元気で明るいウサギの「コニー」。Sally:ヒヨコの「サリー」はおちゃめな雰囲気が魅力。Leonard:雨の日が大好きで好奇心旺盛なカエルの「レナード」。Jessica:ネコの「ジェシカ」はコニーの友人でイケイケ女子。Boss:オヤジくさいけれど憎めな

もっとも使われているLINE公式キャラクターのスタンプBEST10

スタンプがヒットした要因は、ひとつの絵でいろんな意味合いをもたせられる点にあるとされている。LINEの公式キャラクターのなかでも人気が高いクマの「ブラウン」は、繊細であまり感情を出さないが、使い手はそんな無表情なブラウンに感情を託しやすいとか。各キャラクターのなかで一番多く送信されているスタンプ10選はこちら(2013年11月時点)。世界中のLINEユーザーは現在3億7000万人を超え、日本国内のユーザーは5000万人以上。1日に送受信されるトークの回数は約72億回にのぼる。

この記事も気になるはず?……編集部から

銀座のギャラリーで考えた……天才・秋元康の「最後の贅沢」
銀座のギャラリーで考えた……天才・秋元康の「最後の贅沢」

絵画は本来、投資目的ではなく、好きだから買うもの。嗜好品としては高額ゆえ、買うときには決断がいる。その絵を眺めることが、自分にとってどれだけ価値のあることか。その価値と価格が見合う絵ならば、心の贅沢として買いたいと思う。