鈴木敏夫×押井守 対談集 されどわれらが日々 (original) (raw)

鈴木敏夫押井守 DU BOOKS 2024.3.3
読書日:2024.7.11

鈴木敏夫押井守の過去の対談を収録したもの。

たぶん過去のほぼすべての対談を集めたんじゃないかと思われる。ここでびっくりなのは、アニメージュの編集者だった鈴木敏夫が、毎週のように土曜日に押井守の部屋にみかんを持って押しかけて、(お酒が飲めないので)みかんを食べながら映画の話を朝までしていたということである。このとき押井守は結婚していたが、一部屋だったので、押井守の妻も朝までつきあわされたという。これが1980年代の話で、かれこれ40年にわたって二人の濃い関係が続いているのだ。

なぜこんな事が可能だったかというと、決して仲がいいというわけではなく、ともかく映画の話をする相手がお互いしかいなかったから。普通のひとも映画は見るが、この二人が満足するほど深い話はできなかったからだ。というか、この二人のレベルで映画を見て話すことは常人ではもちろん無理。

とはいっても、二人の映画を見る視点はまったく異なるのである。

押井守の方は、映画の構造にしか関心がないのである。この関心が最近の映画にも反映されていて、キャラクターの細かい情感のこもった演出にはまったく関心がなく、この辺は演出家におまかせなのである。本人は脚本と絵コンテを仕上げて、それでいったんおしまいで、最終的に絵ができあがると、最後の音の部分は真剣にやるという流れなんだそうだ。

それは実写でも同じで、役者によけいな演技は求めていなくて、押井守が過剰と思う演技シーンは全てカットされる。押井守はよく鈴木敏夫を役者として使っているが、すごく良くできた演技の部分がことごとくカットされたので、鈴木敏夫に「押井守は役者に注目が集まるのが許せないのだ」と言わせているくらいなのだ。

それで押井守は基本的に洋画の人なんだけど、鈴木敏夫は邦画が大好きで、今村昌平とか木下恵介とか、投影のヤクザ映画なんかが好きなんだそうで、なるほど、これでは押井守と系統が違いすぎる。押井守ジェームズ・キャメロン監督の「アバター」を高く評価するけど、鈴木敏夫は、ジブリ映画からの引用が多すぎると白けたそうだ。

この対談集で何度も出てくるのが、鈴木敏夫押井守宮崎駿らがケルト文化を体験しに、わざわざイギリスのマン島へ行った話。いまは観光地化されているらしいけど、当時は何もなかったそうだ。土がないところで、砂と昆布を混ぜて人工の土を作って、そこでじゃがいもを育てるしかないようなところなんだとか。ケルトの遺跡みたいなのは結構たくさんあって、それを見て宮崎駿は霊感みたいなのが働いたとか、まったく写生とか写真を撮ったりしないのに、建物の構造を一発で覚えて、それは魔女の宅急便の建物の構造に使われているんだとか。

まあ、ともかく、二人は親友ではないんだけど、死んだら寂しく思うのが確実で、死ぬまでの付き合いになるのも確実なんだとか。

この対談が、二人のことが一番良く分かる本かもしないねえ。写真も若いときの押井守は本当に可愛い感じ。

★★★★☆

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