人形町「玉ひで」の絶品どんぶりメシに驚嘆【セクシーJ】 (original) (raw)
「玉ひで」のホンモノの味
「どんだけ待っても構わねぇよ! こちとら、この店の親子丼が食いてぇんだ!」
〜戯曲『江戸食道楽行列漢』より〜
食文化の歴史の中で、本当の粋人が究極的にたどり着いた愉しみ、それは「行列にならぶこと」。実際、「行列にならぶ」と、どんな愉しみが見えて来るのか? 行列好きも、理解できない人も、どうぞ読んでいって下さい。
今回は、御江戸日本橋「人形町」!!!! 地下鉄を出るってーと、
藪から棒に、江戸っぽいモニュメントに遭遇。でっかい物を見ると、気分が踊る。
どうやら、カラクリ時計になっていて、定時に人形が浄瑠璃宜しく躍るらしい。人形町は、昔の歌舞伎、お芝居、人形浄瑠璃等で賑わった場所。もちろん今でも。
風情のある小道を発見! チャキチャキっと歩いてみる。
よっ!
ごめんよっ!
ところで、
実は、こうした散策による土地への愛着が、ランチの美味しさをより引き立てているのをご存知だろうか? 食の愉しみは、箸を持つ前から既に始まっているのだ。
路地を抜け、ぷらっと歩いていると、洒落た感じの柱にぶつかる。
「玉ひで……?」
と、目の前には風情ある白壁。そして大勢の人が順序良く何かを待っている……。
おお、さっそく行列を発見!?
今回は、創業宝暦十年(1760)、鳥料理の老舗、「玉ひで」で、元祖親子丼にならぶのだ!
どのくらい「元祖」かってえと、そりゃもう本物中のホンモノ。発祥に関しては諸説あるが、Wikipediaの「親子丼」の項目に、「日本初の軍鶏料理専門店として親子丼を考案した」ってなことが書いてあるくらいですから。
もともとは鶏肉と卵を煮たものを「親子煮」と呼び、ご飯と一緒に食べていたが、より食べやすいように飯にかけて一品料理として食べるメニューを「玉ひで」五代目店主の妻・山田とくさんが1891年に考案。それ以来、今日の親子丼の姿になっているという。
250年続く「老舗」の「行列」に興奮しつつ、着列。
すると、「列志」(同じ行列に列ぶ同志のこと)に声をかけられる。この方も話題のお店に並んで食べるのが趣味なのだとか。行列の待ち時間は、貴重な情報交換の時間でもある。私も、今までの名行列のエピソードを熱弁。
おいしかった稲庭うどんの店の思い出なんかも、熱く語り合うことに!
食の行列談義に花が咲き、すっかり仲良しになってしまった。これも行列の一興。おじさん、またね。
気付けばもう「玉ひで」玄関口。重厚なイメージかと思いきや、明るく、凛とした雰囲気に親近感を覚える。
玄関をくぐると、さっそく目に飛び込んでくるのは……
関東大震災で壊れる前の「玉ひで」。この写真が現存していることだけでも凄い! 歴史を感じます。
もちろん、素材も厳選したとうきょう特産。こちらの鶏肉はもちろん「軍鶏」でございます。
歴史を感じる看板をチェックしていると……おや、もしかして……
8代目店主登場!
やはり、あの写真の時代の看板とのこと。看板を裏返して、昔の看板を見せてくれた。もともとの表記は「玉ひで」じゃなくて「玉秀」だったらしい。
「ひさしぶりに裏側の看板を飾っておきますか」と8代目。
そして! この写真の方が、日本で最初に「親子丼」を商品にした「山田とく」さん。まさに親子丼の生みの親、親子丼のお母さんなのである。
詳しい物語はこの冊子の中に。お店に行くともらえます。
さあ、列は進み、いよいよ注文のとき!
ご覧頂けるだろうか? プレーンの「親子丼」も押さえておきたいが、「三昧」、「極(きわみ)」も味わってみたい。だがさらに気になるのは「上レバ」。……どうすれば後悔の無い選択が出来るのか。
この選択に、後悔は無い。もし、己の選択が間違っていたと思うなら、もう一度、表から並べば良いだけ。そう自分に言い聞かせ、
着席。
するとどうだろう。店員さんが一杯のスープを運んできてくれた。鶏だしスープである。
まずは香り。とても芳しい鶏だしの香り!!
そして味は……
旨いうまい!!!!
まろやかで濃厚な鶏のウマミ、アマミ!! メニューが来るまで、楽しませてくれる心遣いも素敵!!
あと、こちら。
▲玉ひで黒ビール(750円)
玉ひで特製の黒ビール。濃厚でビターな味わい。いかにも親子丼にマリアージュしそうな特別なビールなのである。
さて、こうして楽しんでいるうちに……。
「白レバ親子丼」(2,000円)、ドーン!!
そして……
「極親子丼」(2,200円)、ドバーン!!!
悔後しない選択。その答えは、決して一つとは限らない。せっかくだから、2杯注文してしまおう。そんな大胆な選択も、非常に重要なポイント。これぞ、行列道極意「ダブル丼」。
ではさっそく、
フハフハ、プルプル……
うほっ、美————味———!
しっかりとした軍鶏と卵の弾み、噛み締めてお出汁のウマミ!
「極親子丼」には炙った熟成軍鶏のささみが。しっかりとして食べ応え最高。
そして!!!! 待ってました!! 上レバー!!
ご覧頂けるだろうか、このフォアグラのような希少な上レバーを!!そりゃもう、舌触りは軽やかながら、味のしっかりした旨味が
デーンと乗っかってくるようで、
私は厚いその旨さを確かめるように、黒ビールをチビリと口に含み、飲み込みます。
気付けば、口の中に幸せが漂う。口内の神経に感謝。
ピリリとしたお新香。
後半、親子丼のアクセントにもなる。いわばこれ、味変ですな。
いやはや、素晴らしき伝統の昼膳、ご馳走様でした!!
創業から250年、江戸から東京に変わっても、人はこの人形町に訪れ、うまい軍鶏を食べに並び、またそれを繰り返す。
時代によって、価値観が激変する世の中で、何故このサイクルを維持出来るのか、8代目店主、耕之亮さんにお話しを伺った。
店主はおっしゃった。
「変わらないように、変えていく」 と。
「100年後に、いまのこの味が美味しいと思ってもらえるのか。100年後はきっと人々の味覚の好みもいまとは変わっているはず。だから、時代に合わせて、守るべきところは守りながら、すこしずつ味も変えていく」と。
さすが、老舗の見ている地平は100年単位だ。
わかるような、わからないような。わからないような、わかるような。胸の引き出しに
大事にしまって明日も並びにいこう。
お店情報
玉ひで ※2023年1月現在、改装のため休業中
住所:東京都中央区日本橋人形町1-17-10
電話番号:03-3668-7651
営業時間:平日/昼の部11:30~13:00 夜の部17:00~22:00、土日祝日/昼の部11:30~13:00 夜の部16:00~21:00
定休日:無休(夏季・年末年始はお休み)
書いた人:セクシーJ
オフィス北野所属。お笑い芸人。実家はプール付きの大邸宅、小学校から高校まで学習院という育ちでありながら、その後に造園業を学び、日本橋三越の屋上庭園の管理を任され園芸職人の世界で「頭(かしら)」となるなど異色の経歴の持ち主。
- X:@tanedaj