N響『名曲コンサート 2024 』at サントリーH (original) (raw)

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【日時】2024年9月9日(月) 19:00開演
【会場】サントリーホール大ホール
【管弦楽】NHK交響楽団

【指揮】パスカル・ロフェ

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〈Profile〉

フランスのサルグミーヌでピアノを始め たのちに、ストラスブール音楽院、ザール ブリュッケン音楽大学で学び、さらにジ ゼル・マニャンの薫陶を受けました。16歳 でパリ国立高等音楽院に入学し、ブリ ジット・エンゲラー、ブルーノ・リグット、 クレール・デゼール、ミシェル・ダルベル トに師事しました。2016年から5年間は ブリュッセルのエリザベート王妃音楽院 で学びました。スコットランド国際コン クール、ヴィオッティ国際コンクールで優勝。その後2021年、27歳でエリザベート 王妃国際コンクールに優勝して国際的な 注目を集めました。自身が愛情を注ぐ モーツァルト、ショパン、ブラームスの演奏 で定評があるほか、現代音楽にも取り組んでいる。

パリ国立高等音楽院卒業後、1988年ブザ ンソン国際指揮者コンクールで第2位に 入賞。1992年よりピエール・ブーレーズや デーヴィッド・ロバートソンとともにアンサン ブル・アンテルコンタンポランを指揮。 2014~22年フランス国立ロワール管弦 楽団の音楽監督を務め、2022年よりクロ アチア放送交響楽団の音楽監督に就任し ました。現代音楽や20世紀の作品解釈に 定評があり、同時代の作曲家から多くの 初演を任されるほか、18~19世紀の交響 楽作品やオペラも多く手掛けています。 フランス国立ロワール管とは、デュティ ユー、デュサパン、デュカス、ルーセル、 ジャレル、カントルーブ、ドビュッシー、 ラヴェルを取り上げた録音をリリースして 評価されています。

【独奏】ジョナタン・フルネル(Pf.)

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〈Profile〉

フランスのサルグミーヌでピアノを始め たのちに、ストラスブール音楽院、ザール ブリュッケン音楽大学で学び、さらにジ ゼル・マニャンの薫陶を受けました。16歳 でパリ国立高等音楽院に入学し、ブリ ジット・エンゲラー、ブルーノ・リグット、 クレール・デゼール、ミシェル・ダルベル トに師事しました。2016年から5年間は ブリュッセルのエリザベート王妃音楽院 で学びました。スコットランド国際コン クール、ヴィオッティ国際コンクールで優 勝。その後2021年、27歳でエリザベート 王妃国際コンクールに優勝して国際的な 注目を集めました。自身が愛情を注ぐ モーツァルト、ショパン、ブラームスの演奏 で定評があるほか、現代音楽にも取り組んでいる。

【曲目】
①ブリテン:オペラ『ピーター・グライムズ』 - 「4つの海の間奏曲」 Op. 33a

(曲について)

イギリスの港町に生まれたベンジャミン・ブリテン (1913~1976)。声楽曲やオペラに も多くの作品を残しました。それには彼が20代前半に知り合い、生涯にわたる友人であり パートナーとなったテノール歌手、ピーター・ピアーズの存在が影響しています。ピアーズ が歌うことを想定して第2次世界大戦中に書かれた《歌劇「ピーター・グライムズ」》は、 彼がタイトルロールを歌った初演が大成功し、ブリテンのオペラ作曲家としての道を切り 拓きました。

オペラの主人公は、イギリス東海岸の小さな漁港に暮らす、偏屈で人づきあいの苦手 な漁師、ピーター・グライムズ。徒弟の少年が漁の最中に亡くなったことから村人の非難 を浴び、次第に追い詰められていくという物語です。

《4つの海の間奏曲》は、オペラの間奏曲から4つが抜き出されて編まれ、〈夜明け〉、 〈日曜の朝〉、〈月光〉、〈嵐〉によって海のさまざまな表情を描写します。

②ラヴェル『左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調』

(曲について)

モーリス・ラヴェル (1875~1937)は、フランス南西部、スペインとの国境に近いバスク地方に生まれました。自身も優れたピアニストでしたが、ピアノ協奏曲については、晩年 に併行して作曲された2曲のみが残されています。

《左手のためのピアノ協奏曲》は、第1次世界大戦で右手を失ったピアニスト、バウル・ヴィトゲンシュタインの依頼を受けて1929~30年に作曲されました。ウィーン初演の際、 ヴィトゲンシュタインがあまりに難しいからと作品に手を加えて演奏したことで、ラヴェル が激怒したというエピソードも伝えられています。 楽曲は、切れめなしに演奏される単一楽章形式で、緩-急-緩の3つの部分からなります。

1928年のアメリカ旅行で受けた感銘からジャズの要素もふんだんに取り込み、また左手 の表現の可能性を追求するようなダイナミックなカデンツァが入るなど、華やかで力強い 音楽が展開します。

③フォーレ:組曲『ペレアスとメリザンド』 Op. 80

(曲について)

19世紀後半、フランス音楽界の発展に大きく寄与し、ドビュッシーやラヴェー 架け橋をつくった、ガブリエル・フォーレ (1845~1924)。79年の生涯で作風 変化させ、初期にあたる30代の頃は形式面で明快でロマンティック、中期の5C 瞑想的で複雑、そして聴覚障害に悩まされた後期には独特の暗さを持つ作品も残 《ペレアスとメリザンド》は、フォーレが50代前半だった1898年に書いた、中其 メーテルリンクの同名の戯曲のための劇付随音楽で、王太子ゴローの后メリ 王太子の弟ペレアスとの、愛し合うことを許されぬ関係にあるふたりをめぐる悲しい愛の物語です。

組曲は、この劇付随音楽から、〈前奏曲〉 〈糸を紡ぐ女〉〈メリザンドの歌〉〈シチ リア舞曲〉〈メリザンドの死〉の5曲を抜き出してまとめられました。今日は、声楽の入るくメリザンド の歌〉を除いた4曲が演奏されます。管弦楽がスケールの大きい表現で幻想的な空気を醸しつつ、ドラマティックな物語と登場人物の心情を描きます。

④ドビュッシー:交響詩『海』

(曲について)

既存の形式にとらわれない作風を開拓した、クロード・ドビュッシー (1862~ 1918)。《交響詩「海」》は、彼が40代を迎え、独自の作風を確立させた頃の作品です。当時 のドビュッシーは、愛人との駆け落ちや、それに起因する妻の自殺未遂騒動など、起伏の 激しい人生を送っていました。

彼がこの曲を書いたのは、フランス、ブルゴーニュ地方の海のない場所。友人に宛てた 手紙で、「ここからは海が見えないが、自分の中には数えきれない記憶がある。そのほう が現実より良い」と伝えています。作品はそこでおおむね書かれ、2年後、ロンドン近郊の 海辺の街で完成されました。作曲家でなければ船乗りになりたかったというほど海を愛していたドビュッシーは、それまでの人生で目にした数々の海の情景をインスピレーションの源として、この交響詩を書き上げたといえます。

また、当時のヨーロッパでは東洋趣味が流行し、ドビュッシーも葛飾北斎『富嶽三十六景』 の「神奈川沖浪裏」を書斎に飾り、さらに1905年に出版した《海》の初版スコアの表紙にこれ を使用しました。

第1曲〈海の夜明けから真昼まで)、第2曲〈波の戯れ〉、第3曲〈風と海との対話〉からなり、 オーケストラが刻々と変化する光と影や色彩を、時に繊細に、時にパワフルに表現します。

【演奏の模様】

①ブリテン:オペラ『ピーター・グライムズ』 - 「4つの海の間奏曲」

楽器編成:フルート(ピッコロ持替え)2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器群(奏者2名)、ハープ2、弦五部14型。

上記(曲について)にある様に、オペラから抜き出された次の4曲から構成。

ー1.夜明け

Fl.とVn.のハーモニックス的高音が奏でられそれに金管が掛け合います。空気の澄み切った朝方の爽やかさがよく出ていた。

ー2.日曜の朝

前半は付点リズムのせわしくはないがやや急いでいる感のするリズム 後半からもリズミカルな調べが繰り返されるミニマル音楽的表現が中心でしたが鐘の音が入りオヤ?と気が付くとこれは日曜礼拝の教会か?と気が付く。でもやや退屈な曲でした。

ー3.月光

Fg.とHrn.と低音弦により、ゆっくりした調べが演奏され、繰り返されるパッセジの組合せで出来ている感はこれまでと同じですが、次第にやや旋律性が高くなって、Fl.の合いの手が時々鳴らされました。比較的穏やかな曲ですが、月光は感じ取られなかった。

ー4.嵐

冒頭Timp.の牽引で弦楽のモダンな調べがそれに合わせ、金管も入って来て大太鼓もドンドン、激しくてエネルギッシュな演奏、確かに嵐その者でした。

②ラヴェル『左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調』

楽器編成:三管編成弦楽五部16型

独奏ピアノ、ピッコロ(3番フルート持ち替え)、フルート2、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン小クラリネットクラリネット2、バスクラリネットファゴット2、コントラファゴットホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバティンパニ大太鼓小太鼓シンバルタムタムトライアングルウッドブロックハープ2弦五部

先月下旬、『映画ボレロ鑑賞』の記事を公開しました。ボレロを作る際のラヴェルに纏わる話題が物語をいろいろ色どっていましたが、「左手のピアノ曲」に関する言及は有りませんでした。「ボレロの後ピアノ協奏曲」の作業を進めている事には触れていましたけれど。まー「左手のピアノ協奏曲」だけでも一つの物語になる位、含蓄があるのでしょう。戦争で右手を失ったピアニストの依頼で作ったといいます。第一次大戦後ですからそうしたピアニストは多くいたのかも知れませ。日本でも館野泉さんが「左手のピアニスト」で脳梗塞後復帰を果たしたことは有名です。泉さんに多くの作曲家が曲を作ったと謂われます。

今回の演奏は、フランスのジョナタン・フルネル。右手も健在ですが、敢えてこの曲を演奏したのは、丁度パリで行われている「パラリンピック」に合わせたのでしょうかね。

演奏は、旋律と和声を指を使い分けて同時に弾いたり、交互に掛け合いの様に表現したり、グリッサンドを多用したり、カデンツァまで弾いた器用さにはびっくりしました。総じて見事な演奏と言えるでしょう。欲を言えば管弦楽の全楽全強奏(たとえばフィナーレ部)で若干聞こえなくなることがあったので、これはオケの編成を減らすか、打鍵をS強くすることで解決出来るでしょう。

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演奏後の大きな拍手に応えて、ソリストアンコール演奏が有りました。

《アンコール曲》フランク(フルネル編):『前奏曲、フーガと変奏曲 作品18』-前奏曲(ピアノ)

これは勿論両手で弾かれました。フルネルは鍵盤を指でやさしくなでるが如く運指し、月明かりの様な柔らかいしっとりした心に滲みる演奏をしました。

《20分の休憩》

後半は、フォーレとドビュッシーの曲のオーケストラ演奏です。今日は①を除き、オールフランス物をフランス指揮者で演奏されました。

③フォーレ:組曲『ペレアスとメリザンド』

今回は、フォーレが作曲した劇付き付随音楽から「前奏曲」 「糸を紡ぐ女」「シチ リア舞曲」「メリザンドの死」の4曲が選ばれて演奏されました。

冒頭の前奏曲は滔々とした流れの美しい弦楽奏で開始、次第に盛り上がるも自然な形態で決して無理なく、木管の合いの手も美しく、弦楽奏の強奏アンサンブルが入っても自然さは失われません。流石フォーレの曲だけあると実感しました。Hrn.→Vc.→CL.の掛け合いもスムーズ、いい雰囲気で次の「糸を紡ぐ女」に進みました。実は、これと同じタイトル「ペレアスとメリザンド」でドビュシーもオペラ曲を書いているのですね。こちらは一昨年だったかな?NNTTでフルオペラが上演されたのを観ました。でもその時の印象が悪くて、観に行く前の期待が大きかっただけに失望も大きかったのです。第一にドビュシーの曲がそれ程良くない。美しい旋律が無い。第二に演出に全く賛同し兼ねる。歌手の歌い振りはそこそこいい方でしたが結果、全く満足出来なく、ドビュシーの音楽自体も少しきらいの方に振(ブ)れてしまったのでした。今日の最後の曲、ドビュシーの「海」でさえ聞いていて、これまで自分は何が良くて聴いていたのだろう?と懐疑的に。そういう訳で、何人かこの物語に作曲している作曲家の内の一人、フォーレの曲を聴いて何と美しく、幻想的な雰囲気を表現出来ているのだろうと感心したのでした。上記した、「前奏曲」は物語の要約性を帯びることに成功しています。以下の曲も、やはりフランス音楽の神髄を熟知している品行方正(?)なフォーレの一面を感じる事が出来ました。

④ドビュッシー:交響詩『海』

『海』は具体的な標題音楽ですが、構成にも重点が置かれている三つの楽章からなる交響曲と見なす事も出来ます。 三楽章構成であり、複数の楽章で同じ主題や動機を使う「循環形式」が用いられている点で、当時の他のフランス作曲家が書いた交響曲とも共通しています。しかし、従来のソナタ形式の「主題提示」-「展開」-「再現」の構成ではなく、動機や主題が相互に関係を持ちながら螺旋階段を登る様に転開していく形式で、ドビュッシー独自のもの。「海」によりドビュッシーは新しい音楽技法を発明したと謂われます。それを「開かれた形式」と呼んだ、評論家もいました。 後にドビュッシーは「音楽」というものを「律動づけられた時間と色彩でできている」と説明しますが、この言葉は『海』にそのまま当てはまるばかりでなく、むしろ『海』を書いたことで、こうした考え方の裏付けになったとも言えるでしょう。『海』を作曲した時期は上記した様に、ドビュッシーは、個人的にかなり悩んでいました。それは妻を欺いて、他の夫人と恋仲になり浮気し、妻との離婚騒ぎ、妻の自殺未遂と相次ぐ問題から逃避するが如く、英国に近い海岸や島しょうに、浮気相手と逃避旅行にまで行ったのです。推察するに、ドビュッシーは、当然当時のフランス印象派の画家達の活躍ぶりは知っていた筈で、旅行したノルマンディーの海岸を見ながら、その海の風景と重なる多くの画家達の海の絵を思い出して作曲の糧とした事でしょう。

第一楽章 「海上の夜明けから真昼まで」

第二楽章 「波の戯れ」

第三楽章 「風と海の対話」

此れ等の標題を並べてみると、何と印象派の画家達の表現しようとした命題と似通っているのでしょう。ドビュッシーは、印象派の絵を音で総括したかったのかも知れません。

印象的なのは第三楽章の何回か(2回?)鳴り響くTrmp.のファンファーレ、三管編成ですが、綺麗に揃っています。また、Hrp.伴奏に合わせて高々と吹き上げるFl. やOb.のソロ音、相当の腕前の名手と見ました。一方、弦楽アンサンブルは、高音弦、低音弦ともに、旋律の音量調節が絶妙、Hrn.の音の後に聞こえたピアニッシモのVn.アンサンブルの繊細な響きは、心に染み込み、また恰もppからクレッセンドでアンプの音量調節ダイヤルをそっと右に回すが如きアンサンブルの変化は、お見事と言う他ありません。それを引き出した指揮者ロフェの動きは、時には、少し無造作な動きに思われることもありましたが、N響の楽団員を信頼して安心して振っている様にも見えました。

終演時には、9割方は埋っている様に見えた観客席からは盛大な拍手が起きました。

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その後、アンコール演奏が有り、指揮者は二言、三言それに関して(低い声で)観客席に告げ、指揮をし始めました。

《アンコール曲》ドビュッシー(カプレ編曲)『子供の領分』から《ゴリウォーグのケークウオーク》

子供でも楽しめそうな軽快で楽しい曲でした。