【ユニバーサルデザイン】=赤ちゃんから高齢者、日本人も外国人も使いやすいデザインとは。 (original) (raw)
誰でも一度は聞いたことがありそうな「ユニバーサルデザイン」。しかし、いざ説明しようとすると「バリアフリー」との違いもよく理解していないことに気づきます。身の回りの道具から住宅建築、街づくりまで幅広く応用される「ユニバーサルデザイン」の基本の基本。
Contents.
誰でも使いやすい仕掛けとして
近代建築の巨匠ともいわれるル・コルビュジエの言葉に、「住宅は住むための機械である」という言葉があります。
住宅を機械だらけにするという意味ではなく、人がそこに住みながら、その都度その年輪にふさわしい装置を内蔵しているかどうか、という意味ではないでしょうか。
ふつうの人が生活する際、十分な「さりげなさ」で、高齢になっても、障害者になっても大丈夫な「仕掛け」が内蔵されているかどうかを問いかけた言葉ともいえます。
とはいえ、便利さの裏側には、別の問題が隠されていることも少なくありません。
例えば、車椅子を利用する人にとって玄関スロープは便利な配慮ですが、肝心のスロープが冬場に凍り付いたり、夏場でも床面が滑りやすかったりすると、一転して危険なものになってしまいます。
車椅子には便利でも、松葉杖の使用者にとっては、階段より利用しづらい場合もあります。
東京2020オリンピックスポーツピクトグラム。世代や民族、文化を超えたコミュニケーションツールとして捉えれば、ユニバサールデザインの体現ともいえる。 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
©The Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games. All rights reserved.
本を置く、腰掛ける、座る、立つ。子どもでもお年寄りでも、こんな心遣いがあるだけで家は光る。by Bliss My HouseIdea
「バリアフリー」と何が違うか
寝たきりに近い高齢の親のためにと、リフトで上げたり下げたりする装置を設置したお宅がありました。
寝たきりといっても、ベッドの脇にポータブルトイレを置いておけば用が足せる程度なのに、リフトを使い、本人を完全に近い受け身の状態にすることで、残存する可能性を切り捨て、その結果、生きる意欲まで削ぎ落としてしまうこともあります。
その方は、ますます寝たきりの時間が多くなったとあとで聞きました。
これでは寝たきりではなく「寝かせきり」です。
ちなみに、「寝たきり」に相当する外国語はありません。
第三者が当事者を「寝かせきり」にしない限り「寝たきり」にはならない、というのが諸外国の論理なのです。
介助する側に便利であることと、介助される本人が、生きていく希望を捨てずに生活していくことに便利であることとは、必ずしも一致しません。
そこで登場するのが、「障害=バリアを除去する」のではなく「最初から誰にでも使いやすいデザイン」とする「ユニバーサルデザイン」です。
ウィスコンシン大学が公表しているユニバーサルデザインの概念は「特別な改造やデザインをすることなしに、可能な限り全ての人々にとって、使うことが可能な製品・環境のデザイン」をいいます。
車椅子でも段差などの障害がないか。指1本の力でも開閉できるか。自力で便座に移動できるかなどユニバーサルデザインに照合してみることが大事。
壮大な思想ではなく身近な発想
具体的には――
1.誰にも公平に使えること使えること
2.使用における自在性・自由性
3.単純で直感的に使えること
4.わかりやすい情報
5.誤動作があっても危険につながらない
6.身体的負担を軽減
7.スペースの確保…
など、7つの条件を提示しています。
身近なところでは、音で知らせる信号機や乗降口に段差のないノンステップバス、記号などを使った案内板、片手で開け閉めができる歯磨き粉の容器などがあります。
混んでいても、背の低い人、車椅子の人でもボタンが押しやすいエレベータの2段階式ボタン。
エレベーターやトイレの方法を示すピクトグラムや先に示したオリンピックのピストグラムも、文化や言語を超えて理解できるよう配慮され、ユニバーサルデザインの一つといえます。
火のつく、あのライターもユニバーサルデザインです。
片手でも使用でき、直感的に使えますし、説明書なしでもわかりやすい。
火は扱うものの、火傷にならない程度の炎ですし、身体に負担もかからない。
狭い場所でも利用できると見事に7つの条件をクリアしているのです。
クリミア戦争のとき、片腕を失った兵士によって考えられたという説もありますが、極限の身体状態で生み出された機能に感動すら覚えます。
世代、性別、障害の有無やレベルなどに関わらず、全ての人に…というと壮大な感じを受けますが、意外と身近にヒントが隠されていることがわかります。
階段ひとつとってもデザインは重要。踏面は足の大きさより大きく、蹴上げは20センチ以上にすると高齢者でなくとも、膝や腰に痛みをもつ若い世代でもかなりの負担となる。出典:「21世紀型住宅の常識 米木英雄」
初期投資を惜しまない理由とは
将来どんな状態になるかわからないのに、最初から「ユニバーサルデザインなんて」と考える人も多いことと思います。
車椅子を使うことになるのか、完全介護を受けるのか、それともある程度自活できる状態でいられるのか。
いろいろと考えていくと、やはり最大公約数の住宅を建てておく。あらかじめバリアを除去しておく。
この「ちょっとした」配慮だけでも、万一の際、身体や気持ちの衰えにも寄り添ってくれる住宅に近付けることができるのです。
この「ちょっとした」ことは、大幅な追加費用というよりは、予算内での振り分けの発想をちょっと転換する程度といってもいいでしょう。
障害を持ってから、あるいは高齢になって衰えてからの改修はコストがかかる上に、理想通りの改修はできません。構造の問題がついてまわります。
あらかじめ、隠し味程度でも、これらの発想や視点をしのばせておくだけで、投資以上のメリットを受けることができるのです。
最初からとりとめもなく住宅を大きくしておこうと提案しているのではありません。
4畳半は6畳ではベッドを設置し、そこで介護は難しい広さですので(このサイズについてのバリアについても機会を改めて解説します)、最低限、ベッドを置き、その周りに3人が立って介助できる空間をとるようにしたいところ。
だとすると、6畳プラス1辺に45センチほど伸長するだけで可能になります。8畳あれば余裕ですが、都市部の場合は、0.5畳でも節約する工夫を怠れません。
車椅子生活で、完全介護を受けなければならない状態を想定すれば、通路幅やトイレスペースは幅120~140センチは必要です。
手すりはあとからつけられても、幅を調整するリフォームは難しいのです。
住宅には不可変部分と可変部分があり、後になって変えられない部分は計画段階からユニバーサルデザインを意識し、可変部分はそれが必要になったときにリフォームを考える発想でもいいと思います。
その点、下記に示す北海道の公営住宅は狭小ながらも、ユニバーサルデザインの凝縮ともいえ、一般住宅でも見本にしたいところが少なくありません。
ユニバーサルデザインを駆使した公営住宅。北海道営住宅、市町村営住宅などの指針となった。可変性に富み、在宅での介護を可能にしている。結果的に、施設偏重の福祉を在宅型に移行でき、予算上でも大幅コストダウンができる。こうした行政主導の居住福祉が全国に広まることが期待される。 出典:北海道公営住宅ユニバーサルデザインガイドブック 2010
新しい産業が生まれるきっかけ
日本の住宅が抱えるバリアフリーの問題が「狭さ」を解消することで、大部分が解消することは以前も述べました。
ならば、リフォームで誘導するよりも新築時に対処しておくことの方が効果は大きく、資源の無駄づかいを防ぐだけでなく、コストの軽減を図ることもできます。
ユニバーサルデザインを少しでも体現することで高齢者の自活を可能にし、在宅介護がスムースになることで高齢者施設などへの依存を抑え、本人や家族にかかる介護費用、時間、体力などの負担を減少させることも可能になります。
行政をはじめ、住宅建築に携わる人たちは、これらのことを理解し、現代の日本人の生活に見合う家づくりを考え、産業界全体を動かすシステムを作ってほしいというのが切なる願いです。
まとめ
1.誰かにとっては便利だが、誰かにとって不便では「ユニバーサルデザイン」とはいえない。
2.意外に見落とされがちな「スペース=狭さ」というバリア。
3.「ユニバーサルデザイン」の全てに追加費用がかかるわけではなく、発想の転換だけでかなりの事前対応ができ、有効な投資にもなる。
4. 住宅には不可変部分と可変部分があり、後になって変えられない部分だけは計画段階からユニバーサルデザインを意識する。