アイドル/ダンスボーカルグループにおけるビルボードジャパンソングチャートの”ヒットの7段階” (original) (raw)

今年度のビルボードジャパンソングチャートの動向から、以下の表を作成しました。完全に当てはまらない曲もあるとして、この傾向が強いと考えます。

音楽チャート分析者として、【真の社会的ヒット曲とはロングヒットし、年間チャートで上位に進出する作品】と位置付けています。一方でアイドルやダンスボーカルグループの年間チャートランクインはコアファンの熱量が過度に反映されない形にチャートポリシー(集計方法)が変更されて以降、大きく減っています。

表は厳密にはアイドルやダンスボーカルグループに限らないのですが、しかしフィジカルリリースが多く、また熱量の高いコアファンや音楽チャートを強く意識するファンダムが多いことで上位進出曲が多いジャンルであることを踏まえ、作成しています。一方で、基本的にこのジャンルの曲が上位進出の翌週に急落しがちな点について、下記エントリーにて紹介しています。

アイドルやダンスボーカルグループがより長く活動するためにはヒットの輩出、そしてそこからのステップアップが必要と考え、以下に7段階について紹介します。

なお今回のエントリーでは、補足説明がない限り最新8月21日公開分におけるビルボードジャパンソングチャートのCHART insightを掲載しています。CHART insightについては下記をご参照ください。

※CHART insightの説明

[色について]

黄:フィジカルセールス

紫:ダウンロード

青:ストリーミング

黄緑:ラジオ

赤:動画再生

緑:カラオケ

濃いオレンジ:UGC (ユーザー生成コンテンツ)

(Top User Generated Songsチャートにおける獲得ポイントであり、ソングチャートには含まれません。)

ピンク:ハイブリッド指標

(BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能です。)

[表示範囲について]

総合順位、および構成指標等において20位まで表示

[チャート構成比について]

最新週における指標毎のポイント構成

(CHART insight改定以降は累計ポイントにおける構成比に変更した、とビルボードジャパンは説明しています。)

第1段階は主にフィジカルセールスが強い、またLINE MUSIC再生キャンペーンを採用しストリーミング指標が期間中に上位に登場することで総合チャートでも上位に登場する曲を指します。LINE MUSICはプレミアムなプレゼントを用意してコアファンの再生回数を高め、ライト層の支持が多い接触指標に所有的な動きをもたらしますが、これらの人気は持続せず、総合でのヒットが瞬間的になりやすくなります。

表で例示したSnow Man「BREAKOUT」はフィジカルセールスの強さや動画再生の強さも踏まえれば第2段階でも適切かもしれませんが、未だデジタル未解禁を続けているためストリーミング指標を獲得できず、ヒットが持続しない傾向です。彼らがデジタルを解禁したならば後述する第6段階、そして最終的に第7段階まで到達する可能性は十分です。

第2段階は前段階同様、主にフィジカルセールスが強い、またLINE MUSIC再生キャンペーンを採用しストリーミング指標が期間中に上位に登場することで総合チャートでも上位に入った曲を指しますが、主にコアファンが支える所有や所有的接触指標が継続し、ロングヒットする傾向があります。

たとえばAKB48「恋 詰んじゃった」は4週連続で万単位のフィジカルセールスを獲得、またTHE RAMPAGE from EXILE TRIBE24karats GOLD GENESIS」は二度のLINE MUSIC再生キャンペーン実施、またラジオ指標が2ヶ月に渡り20位以内に入ることで総合ヒットを支えていました。しかし2曲とも最新週において強い指標が急落し、総合でも100位圏外へ後退。歌手側の施策やコアファンの継続力に限界が示されたといえるでしょう。

社会的ヒット曲は総合チャートの急落は考えにくく、また2曲ともダウンロードや動画再生指標をほぼ獲得できていません。ライト層が所有行動を採る際はフィジカルとデジタルで迷うためかフィジカルリリース時にダウンロード指標も伸び、また動画再生はストリーミング指標と基本的に比例する傾向があります。フィジカルセールスとダウンロード、ストリーミングと動画再生を比較することも、段階の見極めに有効です。

第3段階では、構成6指標のうち伸びが遅いカラオケを除いて、リリース初週にいずれも高位置につけるというもの。BE:FIRSTはその点において長けており、今年はフィジカルシングルの「Masterplan」のみならず、フィジカル未リリース曲でも「Blissful」やATEEZとの「Hush-Hush」で首位初登場を果たしています。

上記CHART insightは登場5週目にあたる5月29日公開分のものですが(同週は33位にランクイン)、「Masterplan」は50位以内エントリーが6週、100位以内では9週と長くはありません。LINE MUSIC再生キャンペーンは行われていないものの以前は採用していたこと、また同サービスで週間チャートを制した場合にプレゼントが設けられていることからLINE MUSIC主体にストリーミングは伸びましたが、他サービスと乖離がみられます。

そのストリーミングをはじめダウンロード、ラジオ、動画再生のいずれも(フィジカルセールスがあればそちらでも)施策を徹底し、またチャートへの高い意識を持つファンダムがそれに応えることで、BE:FIRSTは常時最上位を狙える歌手に成りました。それは凄いことですが、2022年度以降のソングチャートで首位を獲得したフィジカルセールス指標未加算曲で翌週トップ10内から脱落したのはBE:FIRSTの2曲のみであり、明後日発表の「Blissful」の動向も気になります。ヒットの継続にはライト層の支持獲得が重要です。

第4段階は前段階と似ていますが、接触指標群の安定が大きな差となっています。

上記CHART insightは総合等20位までのみ可視化されるためヒット規模を掴みにくいのですが(ビルボードジャパンの有料会員は100位まで確認できますが、有料会員のみが知り得た内容を掲載するのはルールやモラルに反するため載せることができません)、Number_i「GOAT」は首位初登場後現在まで33週連続でランクインし、フィジカルセールス指標初加算時には2位に再浮上しています。

特に「GOAT」においてはストリーミングが100位以内、動画再生は1週を除き20位以内に常時ランクイン。Spotifyが高いというサブスクサービス間の差を踏まえれば、Number_i側がStationheadを日本でいち早く活用し、時には歌手本人も参加していることが大きく影響したと捉えています。

Number_iは旧ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERRTAINMENT)から離れて結成されたことでメディア露出の減少が懸念されたと捉えています。またKing & Prince在籍時はデジタル未解禁だったためにデジタルの経験値はほぼありませんでした(チャリティシングルはデジタルを解禁するも期間限定)。歌手側、そして自発的にチャートを学んだコアファンが巨大なファンダムに成ったことがCHART insightから見て取れます。

さて、Number_i「GOAT」は総合ソングチャート100位以内ランクインが33週連続となっていますが、50位以内では18週、トップ20となると6週にとどまります。第5段階以降は、上位により長く在籍することが条件となります。

第5段階と第6段階をまとめて紹介するならば、Da-iCE「I wonder」は現時点で14週連続トップ20入り、キタニタツヤさんと元Sexy Zone(現timelesz)の中島健人さんによるGEMN「ファタール」は7月10日公開分で21位に初登場後6週続けて20位以内にランクイン。最新8月21日公開分の主要サブスクサービスにおける順位に大きな差がないことがライト層を獲得している、そして今後もヒットの継続が期待できる理由といえます。

2曲とも映像作品の主題歌ではありますが、すべての主題歌がヒットするとは限りません。その中でDa-iCEはテレビやフェス等の露出が人気の継続につながっています。また2曲とも様々な動画によるアプローチによりTikTokUGC(”歌ってみた”や”踊ってみた”に代表されるユーザー生成コンテンツ)が人気となり、それら動画を機に接触指標群が上昇や安定するという好循環が生まれています。ライト層の支持はここからも解るのです。

そしてGEMN「ファタール」はフィジカルシングルのリリースも決定しており、Number_i「GOAT」での再浮上のような上昇も考えられます。第5段階と第6段階との差は、両者とも安定していながら瞬間的にでも上位に進出できるかどうかという点にあります。週間チャートでの上位進出を目指すならば、フィジカルリリースは重要です。

さて、Da-iCEにおいてはビルボードジャパンのトップアーティストチャート(ソングチャートとアルバムチャートを合算したArtist 100)において、直近8月21日公開分まで11週分連続で20位以内にランクインしています。「CITRUS」や「スターマイン」等のヒット曲があること、それらがTikTokUGCでも人気でありライト層にも浸透していることで「I wonder」のヒットを機にフックアップされ、歌手全体の人気上昇につながっています。

トップアーティストチャートで階段状に駆け上がる動きをみせているのはK-POPの第4世代以降における女性ダンスボーカルグループで顕著。特にNewJeansは初の日本語曲となった「Supernatural」のヒット、そして東京ドーム公演等での話題も相まって歌手人気を大きく高めることに成功しています。

ビルボードジャパンのCHART insightは春のリニューアル以降20位までの公開になったために階段状のステップアップになったかは確認しにくいのですが、NewJeansにおいては今年始め(75~80週)よりも直近におけるトップアーティストチャートの順位が高くなっています。

真の社会的ヒット曲の登場は歌手人気の上昇につながります(NewJeansの場合はライブの話題性も加味されたといえます)。第5および第6段階を越えて第7段階まで到達すれば、特にアイドルやダンスボーカルグループにとって憧れの番組ながら狭き門でもある『NHK紅白歌合戦』(NHK総合他)の出場可能性が一気に高まるというのが私見です。

今回採り上げた歌手のトップアーティストチャートにおけるCHART insight、そして紅白におけるチャートの重要性は後述するリンクをご参照ください。

(BE:FIRSTとATEEZのコラボ曲「Hush-Hush」は、トップアーティストチャートでは”BE:FIRST × ATEEZ”名義でのランクインとなり、上記BE:FIRST単体には含まれません。この点は米ビルボードにおけるトップアーティストチャートと異なることから、ビルボードジャパンに対し米ビルボードと同様のチャートポリシーに変更することを引き続き提案しています。)

(GEMNは「ファタール」がユニットによる初リリース曲につき、トップアーティストチャートでの初登場は「ファタール」のそれに準じます。現時点での最高位は7月17日公開分の23位ですが、7月10日公開分で35位に初登場して以降、初登場の順位を一度も下回っていません。)

ビルボードジャパンのチャートがすべてではないといわれればそれまでであり、またソングチャートがTikTokUGCの人気を十分反映していないという側面もありますが(ショート動画の採り入れや動画再生指標のウエイト上昇等は議論する必要があるでしょう)、総合ソングチャートの上位安定曲は認知度が高く、真の社会的ヒット曲と言っても差し支えないのならば、そこを目指すべくライト層の支持を獲得することは必須でしょう。