AIと著作権・AIガバナンスについて考える (前編:知的財産推進計画2023・海外の動向) 出井甫|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts (original) (raw)

2023年6月28日

著作権国際AI・ロボット

弁護士 出井甫 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

目次

1. 本格的な議論が始まる
2. 知的財産推進計画2023で明示された論点
(1) AI生成物の著作物性
(2) AI生成物による著作権侵害の成否
ア 類似性
イ 依拠性
ウ 生成AIサービス提供者の責任
(3) AI開発に伴う学習行為の適法性
3. 海外の動向
後編に続く)

1. 本格的な議論が始まる

2023年4月29日及び30日、日本政府は、群馬県高崎市で開催された「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」で「G7デジタル・技術閣僚宣言」を発表しました。そこでは、国際的なAIガバナンスの促進と生成AIについて早急に議論の場を設けることが表明されています(G7デジタル・技術閣僚宣言(39~48))。
また、同年5月、広島県広島市で開催された「G7広島サミット」では、生成AIに関する国際的なルール作りを進めることが合意されました(G7広島首脳コミュニケ(38))。

そして同年6月24日、私が参事官補佐として従事している内閣府知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2023」を作成し、これが閣議決定されました。同計画にも、「生成AIと著作権」という項目が設けられ、生成AIと著作権に関する必要な方策を検討することが明記されています(知的財産推進計画2023(31頁))。

上記の通り、国内外でこれから本格的に、AIと著作権、AIガバナンスに関する議論が始まります。AIがここまで普及した現在、誰もが他人事ではない議論でしょう。

そこで本コラムでは、これから始まる議論に先駆け、AIと著作権、AIガバナンスについて考えます。

なお、この内容は、政府見解ではなく私個人の見解である点にご留意ください。
また、近時のAIと著作権法上の課題に関しては、寺内弁護士のコラムで検討されていますので、詳細はそちらに譲り、本コラムでは、知的財産推進計画2023で取り上げた論点や、海外の動向に焦点を当てたいと思います。

2. 知的財産推進計画2023で明示された論点

現在、生成AIを実装する基本的な仕組みは、大量のデータから一定の特徴量を読み取り、そのデータの持つ特徴を備えた画像や音楽、小説、写真、映像などの「AI生成物」を出力するというものです(拙コラムも参照)。

この仕組みを前提とした場合、現在、日本におけるAIと著作権法上の論点は、概ね、①AI生成物の著作物性、②AI生成物による著作権侵害の成否、③AI開発に伴う学習行為の適法性に集約されると考えられます。
知的財産推進計画2023で具体的事例に即して考え方を明確化する論点としても、以下の3つが明示されています。

知的財産推進計画2023(32頁抜粋)

①AI 生成物が著作物と認められるための利用者の創作的寄与に関する考え方

②学習用データとして用いられた元の著作物と類似する AI 生成物が利用される場合の著作権侵害に関する考え方

③AI(学習済みモデル)を作成するために著作物を利用する際の、著作権法第30条の4ただし書に定める「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についての考え方

(1) AI生成物の著作物性

著作権法上、「著作物」とは、思想又は感情の創作的表現と定義されています(2条1項1号)。同法を含む法律は人に対するルールですので、この「思想又は感情」の主体は、人と考えるのが素直です。それ故、従前から政府の議論でも、AIが自動的に生成した「AI創作物」には著作権が発生せず、一方で生成過程において人の創作的寄与が認められる場合は、著作物に該当するという見解が示されていました(新たな情報財検討委員会報告書(36頁))。

ただ、その上で問題となるのが、どの程度人の関与があれば、創作的寄与が認められるかという点です。

この論点では、複数の人が作品に関与した場合に、誰が著作者になるかが争われた裁判例が参考になると思い、従前、いくつか調べていました(拙論文)。
私の認識する限り、裁判所は、主に以下の要素を検討し、a・bの事情は著作物性の認定において消極的に、c・dの事情はそれが具体的であるほど肯定的に評価する傾向にあります。

a 表現以前の準備活動(依頼,資金調達,企画,提案,資料収集等)
b 補助としての手伝い(助手,手足,代筆等)
c 創作に向けた指示・助言・素材・アイデアの提供
d 作品に対する貢献度(最終的に作品化する作業の担当,再考の有無,重要工程の関与・決定)

この傾向に基づいた場合、昨今普及している生成AIサービスよって生成されたコンテンツは、どのように評価されるでしょうか。
例えば、「t2i」などと言われるタイプの画像生成AIサービスでは、一定のテキスト(プロンプト)を入力すると、そのテキストを想起させる画像が生成されます。仮にプロンプトが単純かつ数個のキーワードに留まるようでしたら、前記aやb、若しくは抽象的な指示に過ぎないとしてcの検討で著作物性は否定されるように思われます。

もっとも、ユーザーの中には、例えば、詳細かつ長いプロンプトを入力し、プロンプトの長さや構成を修正しながら生成を繰り返してAI生成物を作り上げ、あるいは、AI生成物に自ら修正を施す方もいます。
このような場合には、人による具体的な指示があるとして前記cやdの考慮により、創作的寄与が認められる可能性はあるように思われます(同趣旨の内容が示されているものとしてディープラーニング協会「生成AIガイドライン」(6頁))。

今後、上記以外にも様々な生成パターンを題材に、創作的寄与の有無について議論されることを期待します。

なお、この論点に関しては、もう1つ検討すべきことがあります。
それは、AI創作物とそれ以外の著作物との判別方法です。仮に著作物であるか否かの峻別が理論的にできたとしても、外見上その判別ができないと、例えば、AI創作物であるにもかかわらず、©マークなどをつけて著作物と扱われてしまうことが懸念されます。もう既に気づかないところで出回っているかもしれません。

このような状況が蔓延すれば、著作物を保護するという著作権法の大原則が崩れてしまう可能性があります。そのため、今後は、創作的寄与の考え方のみならず、AI創作物とそれ以外を判別する方法についても、議論する必要があると考えます。

(2) AI生成物による著作権侵害の成否

ア 類似性

一般に、著作権侵害が成立するには、類似性と依拠性が必要と考えられています。
この類似性とは、「創作的表現」のレベルで類似していることを意味します。そのため、たとえAI生成物と学習用データが作風レベルで類似していてもそれだけでは当該要件を充足しません。

では、この「作風」と「創作的表現」の区別はどのように行えば良いでしょうか。
「作風」は、一般に作品にあらわれる作者の傾向・特徴、技法などをいい、抽象的なアイデアに含まれると考えられます。もっとも、この抽象的な概念と創作的な表現とを判別する方法については、少なくともAIと著作権に関するこれまでの議論の中では検討されてこなかったように思われます。
今後は、AI生成物のインパクトを踏まえ、改めて2つの概念を再整理することが必要と考えます(なお、岡本弁護士のコラムでは現代アートをテーマにアイデアと表現の境界線について検討されています)。

イ 依拠性

依拠とは、本来「よりどころにすること」を意味します。この要件があることで、偶然、他人の著作物と類似した作品が生まれても、著作権侵害が成立しないと説明されています。
その上で、AIと著作権の関係では、特に、他人が開発した生成AIを、ユーザーが使用した結果、当該AIが学習した既存の著作物と類似したAI生成物を出力した場合に、依拠性が認められるかが問題となります。

依拠性の内容については、以下の通り、複数の考え方が存在します。
「⇒」は、依拠性に必要な要素を私が便宜的に追記したものです。

①「他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いること」
⇒接触+利用

②「既存の表現等を利用する意思」
⇒利用意思

③「他人の著作物を自己の作品へ利用する事実」
⇒利用

④「既存の著作物の表現内容の認識」と「その自己の作品への利用の意思」
⇒内容の認識+利用意思

仮に依拠の主体をAIとした場合、上記①の見解によればAIは学習用データに接触していますので、依拠性は肯定されそうです。上記②④の見解ですと、AIに「意思」は観念し難いと思いますので、否定の方向で考えられるでしょう。上記③の見解では、一見、肯定されそうですが、「利用」の意味を、学習した既存の著作物のパラメータ群が、AI生成物の出力に寄与していることまで求めると、立証が大変になりそうです。
他方、依拠の主体を人(生成AIのユーザー)とした場合、上記①④の見解では、ユーザーが既存の著作物に接触したり、内容を認識していないため、依拠性は否定されると思います 。一方、上記③の見解では、ユーザーの主観を問わないため、依拠性が認められるでしょう。上記②の見解では、実際にAIが学習した著作物の内容を知ることまでは不要ですが、ユーザーが既存の著作物が利用されることを許容していることは必要と考えられます。

このように、依拠性の考え方によって、生成AIサービスのユーザーに著作権侵害が成立する範囲が異なります。既に顕在化している論点ですので、早急に依拠性の考え方が明確化されることを期待します。なお、もし依拠性を広く認める構成をとる場合には、生成AIの活用が過度に委縮しないよう、例えば学習した著作物と類似するAI生成物の出力を回避する仕組みや技術を導入するなど*、著作権侵害が生じるリスクを低減する措置についても検討すべきと考えます。

*Adobeが提供する「FireFly」では、著作権フリーの作品や著作権の切れた作品が学習用データに使用されているようです。

ウ 生成AIサービス提供者の責任

既存の著作物と類似するAI生成物が生じた場合に、生成AIサービス提供者が、著作権侵害の主体又は幇助として法的責任を負うかも問題となります。著作権侵害の責任は、必ずしも物理的に侵害をした者のみに生じるわけではないからです。

近時、主体性が問題となった裁判例として音楽教室事件が挙げられます。この事件では、音楽教室の教師による演奏が、音楽教室による演奏と評価されました。
もっとも、最高裁は、「演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。」という判断枠組みのもと、生徒の演奏は、音楽教室による演奏ではないと判断しています(音楽教室事件:最判令和4年10月24日・ 民集第76巻6号1348頁)。

幇助責任の有無が争われた裁判例としては、Winny事件が参考になると思われます。この事件では、ファイル共有ソフトWinnyを開発して公開した方が、第三者によるインターネット上の著作権侵害を幇助したとして起訴されました。
もっとも、最高裁は、(1)現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながらWinnyの公開、提供を行ったものでないこと、(2)著作権侵害のために利用することがないよう警告を発していたこと等の事情から、幇助の故意がないとして無罪判決を言渡しています(Winny事件:最判平成23年12月19日・ 刑集第65巻9号1380頁)。

上記裁判例を踏まえた場合、生成AIサービスを提供すること自体は、主体性や幇助責任を肯定する事情にはなり得ますが、生成AIサービスを提供する目的や用途、提供や宣伝の仕方、侵害防止措置の有無等の事情によって結論が左右されそうです。
それ故、今のところ生成AIサービス提供者としては、例えば、利用規約で権利を侵害する利用を禁止する規定を設けたり、前記で触れた著作物と類似するAI生成物の出力を回避する仕組みや技術の導入を検討するなど、上記のような考慮要素を意識した対策を実施しておくことが望ましいように思います。逆に、利用規約で特に利用を禁止せず、特定の著作権者の作品と似たAI生成物が出力されることを宣伝していたりすると、責任が生じる可能性は高まると考えます。

(3) AI開発に伴う学習行為の適法性

著作権法上、生成AIを開発するために著作物を学習させる行為は、原則、著作権者の許諾が不要とされています(30条の4)。そして、同条但書きではその例外として、「著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」が規定されています。

この但書に関して、文化庁は、「当該場合に該当するか否かは、・・著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的市場を阻害するかという観点から判断される」と説明されています。
また、その適用例として、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に、当該データベースを情報解析目的で複製等する行為」が挙げられています(文化庁「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」令和元年10月24日(10頁))。

もっとも、それ以外にどのようなケースに但書が適用されるかを示した解釈指針や裁判例は見受けられません。

そのため、昨今、特定の作家の画風等を模倣するAIを開発するために、当該作家の著作物に特化して学習させる行為*は但書に該当するのかなど、新たな事象に関してクリエイターや開発者から不安の声が出ています。
上記ケースに関しては、現状、以下のような意見が見受けられます。

*昨今、低コストでAIの追加学習を行い、好みの画像を簡単に出力できるようにするツール(LORA「Low-Rank Adaptation」)がネット上で提供されています。

○但書に該当ない意見
► 学習自体は原則通り適法であり、AI生成物の類否で侵害の成否を判断すべき
► 作風の類似に留まるかもしれないAIを開発する行為まで侵害とするのは、作風を保護することになり著作権法の大原則に反する
► 学習段階では既存の著作物と類似する作品が生成されるかは判断できない

○但書に該当する意見
► 画風を似せたAI生成物が生成されると、その作家に対する需要が減る恐れがある
► AIによる学習・生成スピードは速く、権利者に与える影響が大きいため、人が作風を真似る場合とはわけが違う
► 学習段階で阻止できなければ、著作権者は泣き寝入りすることになる

続きは今後の議論に期待しますが、この論点は、但書の適否を判断する際、著作物を「学習した後の目的」を考慮するのかがポイントではないかと思っています。
例えば、ある著作権者が、自分の作品に特化して学習させた(いわば)クローンAIを開発して、消費者に有償で生成サービスを提供している際に、第三者が同じ作品を学習させて生成サービスを始めた場合、学習行為のみに着目すれば、著作権者に不利益は生じていないと思えますが、その後の目的を踏まえれば、著作権者の利益に影響が生じる行為とも評価できそうです。なお、但書の適否は、学習後の目的のみで判断されるわけではありませんので、その目的が権利者に与える影響の程度なども分析することになるのだと思います。

いずれにしても、但書の適用事例はもう充実させた方が良いでしょう。それと併行して、学習されることを欲しないクリエイターや、学習行為の適法性に不安を持つ開発者に向けた対応も検討事項と考えます。

3. 海外の動向

以上、日本のAIと著作権に関する動向を概観しましたが、諸外国ではどのような対応がとられているのでしょうか。
関連する最近の各国の対応を簡単に記載し、日本と比較してみました。
便宜上、学習段階と生成段階に分けています。

何となく各国の特徴が見えてこないでしょうか。

例えば、米国は市場先行型で、著作権登録申請に対する判断や今後の裁判等を通じて、AIと著作権に関する政府の方針が示されています。
一方、中国やEUは、法令や規制によって、学習や生成に伴うリスク等を防止しようとする意向が伺えます。なお、EUのAI法改正案の運用は2024年以降のようです。
英国の対応は前記の通りですが、2023年3月29日、英国はAI向けの勧告を発表し、AI企業が順守すべき5つの原則をまとめたAI白書を議会に提出しました。また、今後は、上記原則を実施・監視するためのロードマップを設計し、公開するとも述べられています。この非拘束的な方法で課題に取り組もうとする姿勢は、日本と似ているかもしれません。

上記のような国家間の相違を踏まえつつ、どのように国際的なルール形成が図られるかが注目されます。

後編では、AIガバナンスや、上記課題への対策について言及したいと思います。

以上

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