ちょっと変わった名前の本屋にて、本のソムリエが選ぶ「○○なときにピッタリな本」5つ (original) (raw)

東京都江戸川区篠崎──。都営新宿線の終着始発駅である本八幡のひとつ新宿寄り、23区内とはいえ東京の都心よりも千葉県に近い閑静な住宅街に、一風変わった本屋さんがあります。

その名も「読書のすすめ」

江戸川区で本屋は儲からない?

店長の清水克衛(しみずかつよし)さんは、大手コンビニエンスストアの店長を10年間務めた後、1995年に「読書のすすめ」を開店しました。この、本屋にしては少し変わった名前を付けたのも、「読書の良さをもっと多くの人に知ってもらいたい」という思いから。

しかし、本屋を立ち上げようとしたときに訪れた書籍卸売商業者には「成功するわけがない」と全否定されてしまいます。「江戸川区で本屋なんて儲からないよ。やるならエロ本でも売ることだね」と。

予想もしていなかった話に、ショックを受けた清水さん。駅近くのガードレールに腰掛け、風に吹かれながら、目の前が真っ暗になりました。しかし、しばらく考え直した結果「いや、そんなわけないぞ」と気を取り直し、別の書籍卸売商業者に掛け合ったところ、話はスムーズに進んだそうです。

「あのとき諦めずに考え直すことができたのも、それまでの読書経験があったから」と清水さんは振り返ります。

本は、人生を自分の足でしっかりと歩ける手助けをしてくれるものだと思います。本を読むと心の筋力を鍛えることができます。生きていれば、いいことばかりではなく、うまくいかないこともあります。心の筋力があれば、ピンチを乗り越えることができる。それがつまり『生きる力』となるのです。

読書のすすめの店頭には、新刊やベストセラーはほとんどなく、その多くは3~5年前に発売された本ばかり。しかし、大型書店でも4~5冊ほどしか売れない本が、読書のすすめでは200冊以上売れたりすることもあるそうです。

江戸川区の小さな本屋からベストセラーが生まれる。その販売力の源は、清水さんの「本に捧げる熱意」に他なりません。

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本のソムリエが選ぶ、「今のあなた」のための5冊

読書のすすめには、清水さんに本をすすめてもらうために全国から多くのお客さんが訪れます。悩みを抱えたお客さんが、本の力で困難を乗り越えられることを願いながら、20年あまりの間ずっと、清水さんはその人の「今」にピッタリ合う本をすすめ続けています。

そんな清水さんに、人生で直面しがちな、5つの「○○なとき」に読むべき本を選んでいただきました。どれも清水さんが自信をもっておすすめする一冊です。

1.人生に迷ったときに読む本

『素心のすすめ』(池田繁美著、モラロジー研究所)

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「迷っているときというのは、自分が素直になっていないとき」と清水さんが選んだのがこの本。素直になれないときは、物事を何でも悪い方に受け取ってしまう。そうやって悩んでいるときは、視野が狭くなっていることが多いのです。タイトルの「素心」とはその名の通り、「素直な心」のこと。素直な心になって、いろいろな角度から物事を捉えることができれば、悩みは解決できます。生まれたままの心で人生を受け止めることのできる一冊です。

2.自信をなくしたときに読む本

『成功の実現』(中村天風著、日本経営合理化協会出版局)

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自信をなくしているときは、心に力がなくなっている状態。「読書や映画、自然の風景など、心の感動から得られる心の栄養が欠如してしまったときに、人は自信をなくしてしまいます」と清水さん。

著者の中村天風(1876 - 1968)は、東郷平八郎や松下幸之助も師事したといわれる偉大な人物。30歳で結核になり、病気で弱くなった心を強くする方法を見つけるために、アメリカ、イギリス、フランスと渡り歩きます。その後、カイロでインドのヨーガ聖人と出会ったことで病気を克服し、92歳まで生きることができました。

終戦後、日本が負けて自信をなくしたときに、心を強く保つ方法を説いたのも中村天風です。その壮絶な体験から学べることは非常に多く、読むと元気になれる一冊です。

3.人間関係に疲れたときに読む本

『本気で生きよう! なにかが変わる』(丸山浩路著、大和書房)

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講演パフォーマーとして活躍された丸山浩路。彼が実際に出会った人たちとのエピソードがたくさん詰まった本です。例えば、バスの中で出会った、足が不自由なおじいさんの話。

おじいさんは上り坂の真ん中に用事があったけれども、バス停は坂の下か頂上にしかなく、どちらで降りても不自由な足で坂を歩かなければいけない。「途中で降ろしてもらえないだろうか」とバスの運転手に頼むが、「それは規則だからできない」と断られてしまいます。「かわいそうだなー」と著者が眺めていたら、突然、車内放送で運転手が「バスのブレーキ点検を行ないます」と言って、バスは停車。そして運転手は「おじいちゃん、降りて」と目配せしたそうです。

そんな、「人って本当にいいなー」と思える話が満載で、心が晴れ晴れとする本です。3月に文庫本も出ましたが、「電車の中では読まないでください」と清水さん。その理由は...読めばわかります。

4.仕事で成果を出したいときに読む本

『売れないものを売るズラしの手法』(殿村美樹著、青春出版社)

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滋賀県彦根市のイメージキャラクター「ひこにゃん」や、毎年年末に行われる清水寺の「今年の一字」を仕掛けた著者の殿村美樹が、ズラしの手法を説いた一冊。

今までの成功体験や同じものさしのまま物事を進めようとしても、変化の激しい現代においては、なかなか成果を出すことはできません。今まであったものを、少しだけ違う方向からズラして見てみると、あっと驚く発見があるものです。

例えば、読書のすすめでも「ある本に『この本は隣の本よりおもしろい』というPOPを付けて、隣にはベストセラーの本を置いておくと、両方とも売れたりする」のだとか。ちょっとしたイタズラ心で方向をズラす手法を身に付け、仕事が楽しくなる一冊です。

5.恋愛から遠ざかってしまったときに読む本

『かもの法則』(西田文郎著、現代書林)

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人間の頭の中には、「できるかも」と「できないかも」の2匹のかもが住んでいる、と言う著者の西田文郎さん。恋愛に対するイメージがネガティブになっていて、「できないかも」という潜在意識の中にどっぷり浸かっていると、恋愛から遠ざかってしまった状態から抜け出せません。この本には「できないかも」を「できるかも」に変える方法が書かれています。清水さんがすすめたお客さんがこの本を読んで、彼女ができて結婚したという実績もあるのだとか。

気持ちをまっさらにして、本を読むと

最後に、良い読書をするための秘訣について、清水さんに聞いてみました。

できれば、今までの知識は一度捨ててまっさらな気持ちで本を読んでほしいと思います。知識が豊富な人ほど、それがかえって邪魔をしていて新しいことが入らないのではと思うことがよくあります。僕も、サラリーマン根性を引きずっているときは、本屋経営がうまくいきませんでした。

そして、先輩や友だちなど、信頼できる人からすすめられた本は、今まで読んだことのないジャンルだとしても、読んでみてください。それが心の栄養になり、人を成長させてくれると思います。

清水さんと話していると、もっともっと本が読みたくなってきます。心の栄養となるような読書ができるかどうかは、自分の心がけ次第なのですね。

気になる本はあったでしょうか。皆さんがそれぞれの「今」にピッタリな本と出合えますように。

清水克衛公式ブログ

(尾越まり恵)