子どもが芸大・美大に行きたいと言ったら止めてはいけない (original) (raw)

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芸術系の大学に進学して、そのまま作品を作るだけでやっていける人はほとんどいません。

それは事実です。

www.ishikawayulio.net

いつも購読させていただいているユーリオ (id:ishikawayulio) さんのブログで上記の記事を読みました。

記事中でユーリオさんが紹介している「芸大・美大生が卒業後に本業として絵を描かなくなる6つの理由 | Hideki工房」という記事も含めて、すごく共感できる内容でした。リンク先のブログのヒデキさんは美術系大学出身ということで、非常に的確に書かれていていました。「あ〜、あるよねぇ」って感じ。

ただ、これらの記事に、ちょっとだけ補足として、書きたいことがあります。と言うのは、下記のようなコメントを見かけたからです。

b.hatena.ne.jp

・・・もしも子どもが高校生くらいになって「芸大行きたい!」と言ってきたら・・・・と想像したら悩むでしょうね。その気持ちはすごくわかります。不安ですよね。愛する我が子には幸せになって欲しいですもんね。

けれども、東京芸大の美術学部出身の僕としては、これに関しては是非とも「行きなさい。応援するわよ。」と言ってほしいです。

その子にとっての幸せが何なのかというのは、他人である親が決めるものではなく、本人が決めるべきものだからです。

美術系大学に進学してもなんとかなる

「芸術系の大学に行きたいという子どもと、それを必死で止める親」と言う構図は、よく聞く話ですよね。

おそらく多くの親は、普通の大学でもなく、就職でもなく、美術系大学に行きたいと言い出したら、良い顔はしないのでしょう。その気持ちは僕でもわかります。

でも、表現活動をしたいという気持ちをくまずに、頭ごなしに止めてはダメですよ。はなっから「お前には才能がないから〜〜〜」とか「どうやって食ってくんだ!」とか、脅すように説得するのは、中学とか高校とかの子どもにとっては非常に残酷なことです。1人の人間の尊厳を著しく踏みにじる行為です。

確かに、芸術系の道に進むのは非常に厳しいことです。

けれども、その子が自分で決めた道を否定することで、どんなにその子の人生を狂わせるのか想像しましょう。「自己表現をしたい!だから芸大に行きたいんだ!」という、欲求が人一倍強い人間を立ち止まらせると、ろくなことにはなりません。

芸術系の道に進んだとしても、大丈夫ですよ。なんだかんだで生きていけますから。生きていさえすれば、それで十分じゃないですか。

自分で決めた道ならば、それで良いではないですか。

作品制作だけでは生きていけないのは事実

↑僕もコメントを書いたのだけど、事実として作家としてやっていけてる人は非常に少ないです。芸大時代の知り合いのほとんどは、別の仕事をしつつ表現活動をしています。いや、もしくは全くやっていない人も多いです。

けれども、それが本人たちにとって不幸かどうかは別の話です。

芸術でも何でもそうだけど、何かを生み出すことに対して強い欲求を持っている人間は、自分が納得した上でないと、たとえ結果が見えていたとしてもダメなんです。実際に自分がやりたい!と思うことに挑戦して、それで実際に失敗して、でもまた頑張って、そしてまた失敗して・・・その繰り返しが必要なのですよ。

それで、最終的にどう思うかは本人の自由です。ひょっとしたら、「普通に就職したい」と思うかも知れないし、「まだまだ作品を作っていきたい!」と思うかもしれません。作品だけで生きていくのが無理だと分かってしまったとしても「他の仕事をしながらでも作品を作り続けたい」と思うかもしれないし、「やっぱりもういいや」と思うかもしれません。

やりたいだけ、いろんなことをやりきった上で、どのような道に進むのかは本人の自由です。

全ては自己責任だけど、そうやって一見無駄とも思えるプロセスを経験することで、初めて自分を肯定することができます。それが芸術家という人種なのです。

止めたらどうなるか?

もしも、理不尽な理由をなんやかんやつけて、美大や芸大への進路を諦めさせたらどうなるかと言うと・・・成人してから自分で稼いだお金で芸大を受験します。実は、そういう人って、ものすごく多いのですよ。

中にはいるんですよ。他の学校を出てから、いろいろと悩んだ結果、芸大を目指して合格してくる人がね。

芸大って、浪人してから合格する人が圧倒的に多いです。だから、年齢もバラバラなのですけど、その中でも特にお兄さんお姉さんがいるのです。僕の同級生にも先輩にも後輩にもいました。

結局、高校生の時に止めたとしても無駄なんですよ。本当に行きたいという気持ちがあるのならば、経済力がついてから自分で受験しますからね。

だから、本当に自分の子どもが芸大・美大に行きたいと望んでいるのならば、それに答えてあげるのが一番いいんですよ。行きたくもない大学に行かされて「なんか違う・・・」となって、年を重ねてから受験をするなんて無駄じゃないですか。

高校生の時から受験対策をして、一生懸命勉強して1浪くらいして合格できれば、それが一番良いことだと思います。

まあ、それでなくても良いことはないですね・・・。

やりたいことをやれないのって、ものすごいストレスですから。将来、精神的な病気とかになるんじゃないかなあ。

信頼していたはずの親に自分の存在意義と同等のものを否定されたら、自分に自信が持てない大人になってしまうかもしれませんよ。

有名大学以外はやめといたほうがいいよ

ただし、ここまで散々「止めるな!」と書いてきた僕でも全力で止めたいと思ってしまうケースもあります。

それは、名前も聞いたことがない美術系大学に行きたいと言う場合です。こればっかりは、止めても良いです。いや、むしろ止めるべきです。

と言うのも、大学のレベルが低すぎるんですよね。それも当然な話で、無名な美術系大学は、たいした試験も必要なく合格できちゃうところが多いですからね。

以前、とある大学の美術系コースの卒展を見に行く機会があったのですよ。それがですね、まあ〜ひどいもんだったんです。高校の文化祭かと思いました。こんな大学だったら行く意味ないなと本気で思いました。

なので、芸大・美大に行きたいというお子さんがいたら、必ず有名大学を勧めましょう。美術系だったら、東京芸術大学、多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京造形大学、それに準ずるレベルの大学ならまあ良いのではないでしょうか?周囲の学生のレベルもそこそこ高いし、就職する場合にもそこまで困らないはずです。

それで、その子が「芸大?いやあ〜ワタシはそんなすごいとこは無理だよお」とか言っちゃうくらいだったら、その子は向いていません。

そもそも、本物の芸術系の人と言うのは周囲が見えなくなるくらいに、自己顕示欲だとか創作欲求だとかが強いはずなのですよね。だから、そこで最初から有名大学の名前が出てこないようならば、考えなおしたほうが良いかもしれません。というか、止めても大丈夫です。

芸大に行こう!

芸大・美大は何かとお金が必要です。だから、金銭的な理由で進学が無理な場合もあるかもしれません。その場合は、頭ごなしに否定するのではなく、きちんと話し合って、どのようにするかを決めましょう。

一応、美術系大学だと東京芸大が一番学費が安いです。だから、お金がないのなら芸大を目指すのが良いです。

大丈夫ですよ。朝昼晩、毎日、しっかりとデッサンなどの勉強をすれば、大抵の場合は合格できますから。ちょっと浪人するかもしれないけどね。(それでも私立の美大よりも安いです。)

まあ、芸大なんて期待する程のものではないということですよ。いざ、合格して入学してみると、ものすごく普通です。拍子抜けするほどです。

でも、その「普通さ」を体験できないと、ずーっと芸大に憧れた状態になってしまうのですよね。だから、行きたいと思ったのならば、実際に試験に合格して入学することが大事なのですよ。

そのためには自己責任で頑張るしかありません。そして親御さんは、それを影からそっと応援してあげることが、その子の幸せへと繋がるのだと思います。

まとめ

なんだかんだで、芸大・美大を卒業しても、生きていくことは全く問題なく出来ます。同級生にも大学卒業後、中学校の先生とかやってる人とか、芸術とか全然関係ない企業に就職した人もいます。

それはおそらく、いろいろと葛藤した結果、自分自身が納得したからこそ、そういう選択をすることが出来たのだと思います。

芸大・美大生の芸術系の学生の卒業後は厳しいみたい」という記事を読んで、すごく共感できる内容ではありました。書いてあることは間違いないです。

けれども、この記事を読んだ人が変に鵜呑みにして、自分の子どもの進路を妨げるような事になったら嫌だなとも思いました。

僕は、将来的には作品を作ることを本業にしていきます。今はまだまだだし、それだけで生きていくことは出来ません。けれども、必ずそうなることができると思っております。

だから、自分の後輩になるであろう10代20代の若者が「卒業後は厳しいらしい」という理由で、芸大・美大への進路を諦めたり、諦めさせたりしてほしくはありません。

確かに、作品を作っていくだけが人生ではありません。でも、自分の納得できるところまで頑張った上で、自分自身で将来をどうするか決めないと、絶対に後悔することになるでしょう。そのための第一歩として芸大・美大に行きたいのであれば、本気で目指すべきです。

芸術の世界は厳しい世界であるのは間違いありません。けれども、何が幸せかなんて、その本人にしかわからないものです。だから、卒業後のことを心配するよりも、やりたいことを優先するのが大事なことなのだと思います。

芸大美大をめざす人へ No.155 (別冊アトリエ)