ペルー (original) (raw)

(ア)高山病

低地から高地へ急に移動した時、低気圧および低酸素状態に対して身体が順応できないことが原因で起こる一連の症状を言います。観光地として有名なクスコは3,400メートル、プノ(ティティカカ湖)は3,850メートルの高地にあり、実際、リマから同地を訪れた旅行者の多くが、何らかの高山病症状を経験すると思われます。

高山病の初期症状として、発生頻度の高い頭痛に加え、消化器症状(嘔気、食欲不振、腹部の膨満感、消化不良など)、倦怠感・虚脱感、めまい・もうろう感、不眠(就寝後も眠りが浅く、頻回に目が覚めます)などを伴います。また、高山病は重症化すると肺に水が溜まる「高地肺水腫」や脳がむくむ「脳浮腫」となり、すぐに適切な治療を受けると共に急いで低地へ下がらないと死に至ることがあります。

高山病の発症はその日の体調によっても左右されるため、無理のない旅行計画が大切となります。特に高地に到着した初日は十分な休養を取るようにしましょう。過去に高地で高山病にならなかったからといって、次回も発症しないという保証にはなりません。過去に高山病の経験のある方は、特に注意を要します。また、低酸素状態は心臓や肺に大きな負担をかけるため、心臓疾患や肺疾患をはじめ持病がある方は事前に医師にご相談ください。また、場合によっては緊急で高地から低地に搬送を要することも少なくありませんが、これらの搬送には多額の費用が必要となりますので、海外旅行傷害保険に加入されることを強くおすすめします。もし保険に加入されていない場合、適切な搬送や治療を受けられないことがあります。

高山病の予防

(a)高地に到着後、初日は十分な休養をとってください。これがもっとも大切です。“ゆっくり、ゆっくり”を心がけ、空港に着いたら“ゆっくり、ゆっくり”歩き、なるべく階段の使用を避けてください。

(b)水分を十分に摂ってください。

(c)高地では低気圧、低酸素のため消化機能が低下し、消化不良となります。暴飲暴食を避け(腹7~8分目を心がけてください)、炭水化物を多めにとり、特に脂肪分は控えてください。

(d)アルコールの摂取や睡眠薬の使用はできるだけ避けてください。

(e)スプレー式の酸素缶を販売している観光地もあるので、それを携帯して使うと軽症の場合は症状の緩和になります。しかし、治療用には容量が大変少なく過信は禁物です。移動手段、宿泊先などにおいて、すぐに治療用の酸素ボンベにアクセスできるかどうかを確認しておくことは大変重要です。

(f)高山病予防薬について

アセタゾラミドAcetazolamide(スペイン語ではAcetazolamida、日本での製品名はダイアモックス:Diamox)の内服は高山病に対する予防効果がある他、頭痛や不眠などの高山病の症状を改善させる効果があります。ただし、アセタゾラミドは『高山病にならない薬』ではなく、高地への順応障害を少し遅延させる効果しかありません。あくまでも、その他の予防手段が重要であり、高山病を発症した場合は同薬に頼らず低地に降りるなどすぐに治療を開始することが重要です。アセタゾラミドは日本では医師の処方箋を必要とする医薬品ですが、ペルーの薬局では処方箋がなくても購入することができます(空港内の薬局でも購入できます)。ただし、持病のある方などその服用に制限のある場合がありますので、渡航前に本邦の医師にご相談ください。

予防内服の方法に定説はありませんが、一例として、成人の場合は前日夜より1日2回(朝と寝る前)、125mgずつ(250mg錠ならば半分に割る)で内服を開始し、高地にしばらく滞在するのであれば数日間飲み続けるという方法があります。この際、アセタゾラミドには利尿作用(尿の量を増やす作用)があるため、水分の補給は十分に行ってください。

(イ)A型肝炎、腸チフス

A型肝炎ウイルスや腸チフスウイルスによって汚染された飲食物(主に水、生野菜、魚貝類など)を食べることによって感染するウイルス感染症です。

A型肝炎は、発症すると発熱、全身倦怠感、黄疸などを認め、時に重篤な肝障害となり入院治療が必要になることがあります。腸チフスは、発熱が主な症状で38℃以上の高熱が続く他、頭痛、関節痛、全身のだるさ、食欲不振などの症状を伴います。その回復期においても、腸のリンパ節に潰瘍ができるため、腸出血や腸穿孔(孔があく)の危険があります。

両ウイルスとも予防にはワクチン接種が有効です。セビチェに代表されるペルー料理では魚貝類を生で食べる機会も多いので、事前のワクチン接種をお勧めします。

(ウ)デング熱

デング熱は蚊(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)によって伝搬されるウイルス感染症で、通常5日程度の潜伏期の後、高熱で発症します。頭痛、関節痛、発疹(胸部、体幹から四肢、顔面へ広がります)を伴い、通常は1週間程度で自然軽快しますが、時にデング出血熱と呼ばれる重症化を呈し死亡することもあります。デング熱には特効薬がなく対症療法が中心となります。予防対策として、長袖シャツや蚊帳を利用するなど、蚊に刺されない準備が大切になります。

2020年にペルー国内で大流行しています。ペルー政府は、ロレト、マドレ・デ・ディオス、サン・マルティンの各州におけるデング熱患者の増加を受けて、衛生学的緊急事態宣言を発出しました。2021年にはデング熱患者49,274人が報告されています。

(エ)ジカ熱

蚊(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)によって伝搬されるウイルス感染症で、症状はデング熱に似ています。頻度は多くありませんが、後遺症として神経麻痺を引き起こしたり、妊婦の感染により胎児の小頭症の原因となることが問題となっています。

2017年にはペルー国内において 5,316人、2018年には 984人, 2019年には2,500人の感染者を認めています。感染の中心は、セルバ(森林地帯)および沿岸部北部地域ですが、リマでも感染者が発生しており、媒介蚊は高地以外のペルー全域に見られるようです。

(オ)黄熱

蚊によって伝搬されるウイルス感染症で、3~6日の潜伏期の後に発症し、致命率は20~50%といわれています。治療法はなく、予防にはワクチン接種が有効です。

感染者のほとんどはセルバ(森林地帯)で認められているため、イキトスなどのジャングル地帯へ行かれる方は、長袖シャツや蚊帳を利用するなどの防蚊対策とともに、黄熱ワクチンの接種をおすすめします。

また、ペルーは世界保健機関(WHO)等により黄熱リスク国と認識されている(2021年現在)ため、ペルー渡航後に第三国へ入国する際に黄熱ワクチン接種証明書(イエローカード)の提示を求められる可能性があります。その際に提示できない場合、入国に支障を来す可能性があります(各地の状況は流動的ですので、適宜当該国の大使館にお問い合わせ下さい)。

(カ)マラリア

セルバ(森林地帯)には年間を通してマラリア感染が存在しています。 2020年のペルー国内の感染者数は、致死的な熱帯熱マラリア( 3,198人)を含む計 15,822人に上ります。ジャングル地帯へ行かれる方は、長袖シャツや蚊帳を利用するなどの防蚊対策とともに、必要に応じて抗マラリア予防薬を内服することを考慮に入れる必要があります。

(キ)交通事故

ペルー国内においては、交通マナーが大変に悪い上に、近年の急激な自動車の普及に対して交通インフラ、交通規範の遵守意識が追いついておらず、その交通事情は劣悪な状況です。信号無視、指示器の不使用、無理な追い抜き、一時不停止等は常態化しており、都市部を運転する際には相当な危険を伴います。また事実上、車優先の交通ルールであるため、町中を歩く際には例え青信号であっても車は停車しないものと考えて十分な安全確認を行ってください。