映画「スオミの話をしよう」感想ネタバレあり解説 フィンランドって意味らしいです。 (original) (raw)

スオミの話をしよう

男たちが一人の女について語り合う映画と言えば、真っ先に思い浮かぶのは「キサラギ」。

室内劇で繰り広げる男たちのコメディっぷりとミステリー感が非常に面白かった作品でした。

今回観賞する映画は非常にそれと設定が似ている作品。

なんでも失踪した女性の元夫たちが、彼女について色々語り合うけど、みんな全然違うことを言っているので、彼女は一体??というミステリーコメディ。

舞台作家である三谷幸喜ならではのシチュエーションコメディということで、「ラヂオの時間」くらいの面白さがあればいいなと思うんですが果たして。

早速鑑賞してまいりました!!

作品情報

2022年に放送されたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で日本中の話題をさらった三谷幸喜が、前作『記憶にございません!』以来5年ぶり、映画監督作品としては9作目となるオリジナル作品。

突如失踪した女性について語り合う5人の夫たちを通じて、一体彼女が何者なのか、そしてどこへ消えたのかを探っていく姿を、コミカルな掛け合いとユーモラスなキャラ、そして豪華絢爛なミュージカルシーンなど、普及の名作を愛してやまない三谷監督らしさが際立ったシチュエーションコメディミステリー。

監督は黒澤明の「天国と地獄」の前半部分で描かれた屋敷内のシーンから、もし三船敏郎と仲代達也が同じ人を愛していたら?というアイディアから物語を膨らまし作り上げたそう。

舞台劇を得意とする彼は、そこに敬愛してやまないビリー・ワイルダー監督作品を彷彿とさせるコメディ要素と、往年のハリウッド映画を思わせる豪華なセットとキャスティングを経て、華やかでありながら可笑しみのあるシチュエーションコメディを完成させた。

キャストには、ドラマや舞台では経験があるモノの、三谷映画は初出演となる長澤まさみ。「コンフィデンスマンJP」をはじめ、コメデエィエンヌとしての才能を持ち合わせる彼女が、全く違う人物像ををどのように演じ分けるのか楽しみだ。

そして元夫たちには、「首ーKUBI-」や「シン・ウルトラマン」の西島秀俊、「孤狼の血」、「流浪の月」の松坂桃李、「バイプレイヤーズ」の遠藤憲一、三谷作品常連の小林隆、歌舞伎役者の坂東彌十郎などが舌戦を繰り広げる。

さらに、「ある閉ざされた雪の山荘で」の戸塚純貴、「コンフィデンスマンJP英雄編」の瀬戸康史、「記憶にございません」の宮澤エマらが加わり、物語を複雑にかき回していく。

果たしてスオミとはいったい何者なのか、そして一体どこへ消えたのか。

ラヂオの時間

記憶にございません!

あらすじ

豪邸に暮らす著名な詩人・寒川(坂東彌十郎)の新妻・スオミ(長澤まさみ)が行方不明となった。

豪邸を訪れた刑事の草野(小林隆)はスオミの元夫で、すぐにでも捜査を開始すべきだと主張するが、寒川は「大ごとにしたくない」と、その提案を拒否する。

やがて、スオミを知る男たちが次々と屋敷にやってくる。

誰が一番スオミを愛していたのか、誰が一番スオミに愛されていたのか。

安否をそっちのけでスオミについて熱く語り合う男たち。

しかし、男たちの口から語られるスオミはそれぞれがまったく違う性格の女性で……。(映画.comより抜粋)

youtu.be

登場人物紹介

(以上Fassion Pressより抜粋)

三谷映画は基本老若男女笑える映画だったらオッケー!みたいな印象が強いので、楽しければ満足なんですが、ここ数作はかなりハズレが多いからちょっと心配。

ここから観賞後の感想です!!

感想

#スオミの話をしよう 観賞。
パッとしねえ。 pic.twitter.com/FS1XDOEhor

— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) September 13, 2024

俺の笑いのツボが衰えたのか、それとも三谷笑いのセンスが衰えたのか。

とはいえ、彼の作品はいつだってハッピーに終るので、そういう意味ではまだ見れた方か。

オチのミュージカルシーンは、おっさんたちのダンスにクスり。

以下、ネタバレします。

狂言誘拐だと思ってました。

「天国と地獄」のオープニングを彷彿とさせる冒頭から、現夫と元夫たちが、自分たちのプライドをかけ、あらゆるマウントを取りながら「俺がスオミを一番愛している」という意地の張り合いを見せていきながら、スオミのあらゆる一面を見せていく本作。

彼女は本当に誘拐されたのか、ということや、犯人は一体誰なのか、というミステリーの本質よりも、いい男たちが女性を妻に迎えた時にどういう態度をとっていたのか、それが果たしてスオミにとって幸せだったのか、という疑問をふわっと浮き彫りにしながら、物語は革新へと迫っていく。

例えば西島秀俊演じる草野は、「彼女は不器用だから」と決めつけ、全て自分で決断し、全て自分でやってしまう癖がある。

現夫の寒川は、大金持ちで自分中心だからスオミは居心地が良かったが、その自己中ぶりは根っこまでそのまんまだった。

3番目の夫である宇賀神も、中国語で話すスオミをまるで理解しようとせず、彼女の好きなようにさせ、語学勉強すらしていなかった。

2番目の夫だった十勝も、マルチまがいの商法ばかりしており、逮捕されたことをきっかけに離婚を突きつけた。

最初の夫である魚山にいたっては、彼女の中学時代の教師であり、ツンデレ好きである彼の性格に合わせて、スオミは態度をコロコロ変えてあげていた。

こうして見ていくと、如何にスオミが夫の好きなタイプに合わせていたかが理解できる。

果たして夫婦とは、妻が夫の立場や性格に合わせて歩幅を揃えることなのだろうか、というのが本作の本質的な部分だったのではないでしょうか。

そう考えると、今回三谷幸喜作品としては、割かしフェミニズム映画に当てはまる作品だったのかもしれない。

女の幸せとは一体何なのか。

スオミは様々な男性と結婚していくことで、色々苦悩していたに違いない。

そして胸にぶら下げていたネックレスを常に身に着けていた通り、彼女は父の故郷であるフィンランドで年を取っていきたいという夢を追うことを決心していく。

物語的には彼女のやった事は狂言誘拐である。

協力者を使い自作自演で誘拐をでっちあげ、寒川から3億円をだまし取り、フィンランドへ行こうとしたのが、今回の騒動の発端。

5人の夫の素性を知り尽くした彼女だからこそできた計画だったが、実際には草野の名推理により、彼女の計画は破談となった。

しかし、今回の彼女の決断に、最後は夫たちは合わせたことが、スオミへの救いへと繋がる。

そういう意味では良いオチだったのではないかと思う。

自分は未婚の男性だが、本作を見た既婚の男性はどう思ったのだろうか。

これを見て妻とどう向き合うか改めるいい機会になった、なんて声が上がってもおかしくないほど、本作は夫が色々改めていい作品だったように思う。

女は男の一歩後ろを歩くなんて昭和的夫婦像は現代には通用しないことはもちろんだが、その前に妻が自分に合わせている、寧ろ会わす様に仕向けているのであれば、それは改めた方が良いと、本作は言っているように感じます。

映画的にはパッとしない。

「だれかtoなかい」に出演した三谷幸喜が「映画は展開がつつかないと面白くない」と言っていた。

それは自分も同感。

展開が転がっていくほど作品が魅力的になるし、だからこそ手に汗握ったり、心が動いていくもの。

ずっと同じシーンの連続なんて、やっぱり面白くない。

では本作はどうだったのか。

確かに展開はいくつもあった。

最初は草野と部下の小磯が現れ、捜査としてではなく「友人としてのプライベートでの頼み」としてやってきたことが判る。

それから寒川の強引な要望により「警察沙汰にしない」やり方で失踪の行方を追っていく。

使用人が最初の夫であること、欠勤と録音機を持ち出していたことから、3番目の夫の宇賀神がやってくること。

次々と新たなキャラクターを登場させていきながら、彼らが一体どんな夫であったのか、そして新たな一面が浮き彫りになっていくスオミの素性によって、彼女の本当の顔が判らなくなっていく構成は、決して飽きることはない。

途中、事件の整理をしたり、次の行動へと転換していくために、2番目の夫の十勝が登場することで、物語が少しずつ動き始めていく。

彼女が誘拐されたことや、どういう経緯で出会い結婚したのか、身代金の受け渡しや、小磯の推理によって、どんどん真相へと近づいていく。

そういう意味での展開は非常にスムーズに動いていたように思える。

舞台は寒川の自宅で行われていることがほとんど。

広いリビングルームを使っての大人数での掛け合いは、まるで舞台を意識したかのような長回しで映し出しており、広間ということもあり奥行きもあって、見ていて苦痛はない。

しかし全体的にどうもパッとしない。

笑いが弱いし、メリハリがない。

長回しのデメリットはやはりカットが少ないことでテンポが限られてくるところにあると思う。

会話劇故に、演者の掛け合いにテンポが上がっていかないとイマイチ盛り上がらない。

だからこそ笑いが必要だと思うんだけど、どうもその笑いが弱い。

基本彼の作品は世代関係なく誰でも笑えるような作品が多く、それが突出している作品ではないと思っている。

それにしても今回はその玉数が少なく感じるというか。

宇賀神が目張りを多めにつけていることが、「だれかtoなかい」で語られていたが、別にそれは西島秀俊が笑いをこらえながら芝居をしていただけであり、それがこっちに「面白さ」として伝わってこない。

草野の部下の小磯も、セスナから誤って落下したものの、掴んでいたシートが見事にパラシュート代わりになって機内に帰還できるという計算された笑いも、本人があまりびくびくしておらず、めっちゃ楽しんで空中浮遊してるので、別に笑いに繋がらない。

なぜか男気を見せて立ち上がるも、特別何をするでもない1番目の夫の魚山も、面白いと思ってやってるんだろうが、個人的にはそこまで笑えるものでもなく、ケチな大富豪で詩人の寒川も、相田みつをを彷彿とさせるも、中身はいたって普通の事を書いてるだけの詩を広間にいっぱい飾ってあったり、意地でも金を渡したくない素振りやセスナに乗るが恐いなどとごねる態度も、正直そこまで笑えるものではない。

というか基本ちゃんとしたツッコミ役がいないのが本作のダメなところかもしれない。

一応草野自身がその役割を果たしてそうなのだが、彼もまた夫たちの自慢話に対抗して乗っかってしまう役柄故に、真面目なふりしてそうでもない役になっており、やはり締める奴がいないのだ。

そのわちゃわちゃぶりが楽しいと言えば楽しいのかもしれないが、やはりテンポが上がらない会話に、ツッコミの不在、ボケが弱いというのも重なって、ユーモアはあれどそれが笑いに繋がっているかと考えると、個人的には面白みに欠ける部分が多々あった。

長澤まさみ七変化

肝心の長澤まさみがどうだったのか。

終盤、5人の夫を前にして、何故狂言誘拐を実行したのかを語るシーン。

そこでは、夫たちが質疑応答するたびに、当時の妻を演じながら話すという演技をしていた。

魚山には髪を掴んでツンデレで、十勝には強気でやり手な女性を、宇賀神には中国語で、草野には前髪を横に流して小声で、そして寒川には髪を耳にかけてマダムチックに。

それを瞬時に切り替えて演じ切る力は、様々なコメディエンヌを演じ、即興性が問われる舞台で培った力故の実力が発揮されていたように思う。

回想シーンでも、中学生を演じたり水商売をしてそうな派手な母親を演じたり、チャイナドレスを着た中国人、猫足バスタブを夢見る慎ましい女性、そして本格的に料理の出来るセレブ妻、果てはタクシー運転手と、様々なコスプレをしながら役を演じ分けていた。

個人的に大好きな女優ですし、贔屓目で見てしまいがちですが、ルックスと演じ分けの器用さは見事だとしても、彼女のキャリアを輝かせる作品だったかどうかは別。

それは彼女ではなく監督の力不足だったんじゃないかと思えて仕方ない。

最後に

とはいいうものの、最後のミュージカルシーンでの長澤まさみの歌声は格別。

優雅に踊りながら伸びのある歌声で「ヘルシンキ」という歌を歌い、映画を別の世界へといざなう彼女の魅力は優れたものがあった。

そう、結局のところスオミとは「フィンランドそのもの」という意味らしい。

父親の故郷で暮らしたいという彼女は、名前の如くフィンランドへの思いが詰まっていたというのが本作の大オチ。

だから最後の歌は首都であるヘルシンキの良さをみんなで歌うというミュージカルになっており、監督らしいお茶目な終わり方でありながら、往年のハリウッド映画を思わせる演出となっていたわけ。

だけど、これがなかったらマジで締まりのない作品だったなぁという印象。

監督曰く「原点に帰った」そうで、確かに室内劇で舞台チックな見せ方や掛け合いはそう思えるんだけど、映画自体が何かこっちを吸い寄せるパワーみたいなものがあったのかといわれると難しい。

かつての勢いはなかったよなぁ。

つうか、これ綾瀬はるかの方が向いていたんじゃないか?

いや、同じか・・・。

それにしても宮澤エマの役柄ってなんだったんだろう。

一応スオミのサポートでブレインってことみたいだけど、彼女って結局スオミを利用していい暮らしをしたかっただけのような…。

てかさぁ、やっぱり二人で結婚詐欺してるようにしか思えないんだよなぁ。

でも金は奪ってないし。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆★★★★★★4/10