住宅街の運転が怖い! ハイヤーに学ぶ歩行者が多い道や狭い道の運転術 (original) (raw)
初心者ドライバーにとって、意外と難易度が高い「住宅街」の運転。自動車の交通量こそ少ないものの「道幅が狭い」「見通しが悪い」「物陰から子どもが飛び出してきそう」など、幹線道路とは違うリスクが数多くあります。プロのドライバーはこうした住宅街を運転する時、どのような意識を持って、あるいはどんなことに注意して危険を回避しているのでしょうか?
今回お話を聞くのは、「乗っているみんなが心地よい運転術」を教えてくれた、ハイヤードライバーの育成・教習を担う、日本交通の清水さん。お客さんの自宅への送迎で住宅街の運転にも長けたプロに、住宅街を安全に運転する上でのポイントを教わりました。
- 危険がある“だろう”の「だろう運転」で早めにリスクを回避する
- 住宅街の狭路を安全に運転するポイントと、簡単に「車両感覚」を身に付ける方法
- 危険な場所を運転する時の合言葉は「低速で定速」
- 自分に対する「危険信号」を無視してはいけない
危険がある“だろう”の「だろう運転」で早めにリスクを回避する
住宅街の運転のポイント1
・死角の多さ、人の飛び出しなどリスクを認識する
・安全を妨げる事象が「起こるだろう」と決め、それに備えた運転をする
ーー住宅街のような生活道路には、幹線道路などとはまた違った事故の要因があると思います。住宅街を運転する際には、どんなことに注意すればいいのでしょうか? 清水さんが考える、主なリスクを教えてください。
清水威至さん(以下、清水):まず、生活道路には子どもが多いですね。また、自転車、バイクなどの二輪車だったり、最近では電動キックボードに乗っている方も多く見られます。あとは、幹線道路などの大通りに比べると道が狭い場所が多く、駐停車車両や建物による「死角」も増える。このあたりが住宅街(生活道路)の主な特徴として挙げられます。
これらをふまえたリスクとしては、まず「人の飛び出し」。子どもだけでなく、酔っ払った人がふらついて車道側に飛び出してくることも考えられます。それから、二輪車が駐停車車両を避けるために車道側にはみ出してくることもありますし、狭い場所では車両同士のすれ違いによる接触リスクも高まります。他にも、狭い場所を右左折する際には内輪差や外輪差による接触事故も起こりやすくなる。住宅街は幹線道路などと比べ「事故リスクの要因が多くなる場所」だと私は認識しています。
ーーリスクの要因が多いだけでなく、動きが読めない子どもが多いことや死角が増えることで、「予測しづらい道路環境」であるともいえるでしょうか?
清水:あくまで私の感覚ですが、ドライバーがこれらのリスク要因をしっかり認識してさえいれば、逆に予測はしやすいと思います。自動車教習所で、事故防止の心得として、「死角から通行人が飛び出してくる“かもしれない”」と認識する、いわゆる「かもしれない運転」を習ったと思います。私の場合、意識しているのは「だろう運転」です。
一般に「だろう運転」とは、「歩行者は来ない“だろう”」といった、注意を欠いた運転態度を指します。しかし、私にとっての「だろう運転」は、生活道路など危険な要因が多い場所を走る時には「自分にとって都合の悪いことが起こる“だろう”」という意識を欠かさない運転という意味です。「だろう運転」の意識を持てていれば、安全を妨げるさまざまなことを先読みできます
日本交通 ハイヤー研修センター センター長の清水威至(しみず・たけし)さん。今回も巧みな解説で、住宅街を走るコツを教えてくれました!
ーー住宅街でいえば、どんな「だろう」が考えられますか?
清水:例えば子どもの姿を確認したら、最初から「飛び出してくるだろう」と決めてリスクに備える。あるいは、死角のある場所を通る時には、その死角の先に「何かあるだろう」、自転車が前にいたら「車道側に膨らんでくるだろう」というふうに、何かしら自分の運転を妨げる事象が起こると考え、それに備えて運転します。「だろう運転」を心がけると危険を予測しやすくなりますしリスクへの対策もとりやすくなります。住宅街は幹線道路などに比べれば速度を落として走っているはずなので、いろんなものに目を配る余裕もあるはずです。
ーー清水さんは住宅街を運転している時に、危険な場面に遭遇した経験はありますか?
清水:運転免許を取ったばかりの頃はかなりあったと思いますが、日本交通に入社し、この仕事を始めてから危険な経験をした記憶はほとんどありません。やはり、「だろう運転」を意識して早め早めにリスクを回避する運転を心がけるようになったので、事故を起こす以前に、そもそも危険な場面に遭遇する確率が低くなったのかもしれません。
ただ、危険というほどではなくても、少しヒヤっとするようなことはたまにあります。自分が経験した「ヒヤリハット」な事象をしっかり覚えておくことで、次に同じ場面に遭遇した時の注意力が上がります。その積み重ねで、リスクに対する先読みができるようになっていくのだと思います。
住宅街の狭路を安全に運転するポイントと、簡単に「車両感覚」を身に付ける方法
住宅街の運転のポイント2
・狭路でのすれ違いは「自分が待つ」が第一選択
・「運転席からの見え方」を基準に車両感覚を身に付ける
ーー住宅街の運転では「対向車とのすれ違い」にも不安があります。狭い道を走っている時に対向車が見えたら、どのような対応が望ましいでしょうか?
清水:基本的には自分が一時停止して、対向車が通り抜けるのを待つ。これが最も安全な対応だと思います。少なくとも「お互いが動きながらすれ違う」という状況は避けるべきでしょう。私自身も狭い道では対向車を目視できた時点で、速度を落として左側に寄せて停車するようにしています。なぜなら、左側の壁と右側の対向車、両方に気を配りつつ、動きながらすれ違うのは難易度もリスクも高いからです。リスク回避の鉄則は「自分がやること」をなるべく少なくすることです。
ーーこちらが早めに「譲る姿勢」を見せておけば、相手が避けてくれる。少なくとも自分が事故を起こすリスクは減らせますね。
清水:そうです。大事なのは対向車とのコミュニケーションです。自分が早めに左に寄せてぴたっと止まれば、相手に「先に行ってください」という意思を伝えることができます。相手のドライバーに対して、なるべく早い段階で自分の意思を示す。そうすれば、事故のリスク要因を遠ざけることができると思います。
ーーただ、道が狭いとギリギリまで左に寄せようとして、民家の塀や建物にぶつけたり、側溝に落ちてしまいそうになるのですが……。
清水:対向車とすれ違う際のコツは「車両感覚」、つまり車に対する前後左右の距離感を正確に掴むことです。運転に慣れていない人にはハードルが高いように感じられるかもしれませんが、例えばサイドミラーに映る車のボディと、(運転席から見て)道路の左側にある白線がどれくらい離れているかをチェックすることで、自分がいま走っている位置を確認することができます。
また、フロントガラスから見える白線が、ドライバーの目の前にあるインパネ(インストルメントパネル。メーター類などが設置されるパネル)やボンネットのどの部分と重なっているかを知っておくことも、車両感覚を把握する上で大きな手がかりになります。「車体のここと白線が重なっていれば、絶対にぶつからない」という場所を把握できるように、インパネに目印となるシールを貼っておくのもいいですね。その目印があれば対向車とすれ違う時にも、安全に左に寄せられます。ちなみに白線がない道路の場合は、側溝や建物の壁の下端などをその目印に合わせればいいと思います。
ーー確かに、運転席からこう見えていれば安心、こう見ていたら危険という基準を決めておくと分かりやすいですね。
清水:そうです。特に運転初心者の方の場合、自分は道の中央を走っているつもりでも、実際はかなり左や右に寄っている、ということも少なくありません。ですから、運転に慣れるまで、あるいは大きな車を運転する場合などは、先ほどのような方法で車両感覚を掴むのがいいと思います。そうするうちに目印がなくても、自分の車が狭い道を通れるかどうか、対向車とすれ違えるかどうか、といった感覚も養われていくはずです。
危険な場所を運転する時の合言葉は「低速で定速」
住宅街の運転のポイント3
・視界が悪い状況ならば「ゆっくり走る」を徹底する
・低速で走り、リスクを見つける余裕を持つ
ーー悪天候時や夜間に住宅街を走る時には、どんなことに注意すべきでしょうか?
清水:まず夜間ですが、当然ながら「暗い」ということを意識せねばなりません。日中よりもいろいろなリスクが見えづらくなりますので、より注意が必要です。また、夜間ならではのリスクとしては、自分の車のライトと対向車のライトが交錯することで、道を横断する歩行者などが見えづらくなってしまう「蒸発現象」が挙げられます。
直前まである程度見えていた歩行者が、ライトが交錯するポイントに入ると、姿を消したように見えにくくなってしまう。これが「蒸発現象」。この現象については「ソナエル・ラボ」の記事『【人が消える!?】夜のドライブで気を付けたい「蒸発現象」』にも詳細がある。
次に、雨の日ですが、注意点はやはり視界不良ですね。雨粒もそうですし、歩行者や自転車に乗る人が差す傘によって、いつも以上に死角が増えます。当然ながら、きちんとワイパーを動かすなどして、少しでも余計な死角をつくらないことが大切です。
雪については、スリップによる事故のリスクも増しますし、雪にはしゃぐ子どもが道路の真ん中に飛び出してくる確率も上がるかもしれません。雪が積もった住宅街に侵入すれば、雪にタイヤをとられて立ち往生してしまうリスクもあります。ですから、雪の日はそもそも車を運転しない、と考えた方がいいでしょう。どうしても運転しないといけない時はスタッドレスタイヤを装備した上で、住宅街などの狭い場所は回避するルートをとりましょう。
ーーこうした「リスクが増す状況下」で、清水さんが心がけていることはありますか?
清水: 「ゆっくり走る」。これに尽きます。ゆっくりというと曖昧ですが、要は「悪い環境下でも危険を認知したり、回避のための判断ができるレベル」までスピードを落とすことが大事です。ドライバーが障害物や歩行者などの危険を認知してから、適切な回避行動をとるまでにはタイムラグがあるため、住宅街のなかでも特に危険要因の多い場所を走る時はいつでもすぐに止まれるよう、時速10km以内の徐行運転を心がけるといいと思います。
あとは、カーブミラーですね。あまり意識していない方もいるかもしれませんが、カーブミラーは基本的に「事前に確認しておかないと危ない場所」に設置されていますから、特に注意する。また、カーブミラーがあれば必ずチェックすること。その上で、ミラーに映らない範囲に差し掛かったら速度を落とし、自分の目でもしっかりチェックします。
ゆっくり走るのもカーブミラーを見るのも当たり前のことかもしれませんが、住宅街のような場所では、その当たり前がより重要になると思います。
ーーでは、これらのリスクを踏まえた上で、スムーズに運転するためのポイントがあれば教えてください。
清水:スムーズの定義にもよりますが、そもそも住宅街はたくさんの危険要因があるため、「スムーズに走れない場所」であることを心得ておきたいです。少なくとも「スムーズ=速く走る」という感覚は捨てた方がいいですね。生活道路は速く走ってはいけない場所ですから。
これは私が先輩から教わったことでもありますが、住宅街を通過する際の合言葉は「低速で定速」。つまり、低い速度を一定に保って走るということです。遅いスピードでも、ずっと一定の速度を保った運転はスムーズに感じられると思います。この「低速で定速」に「だろう運転」を組み合わせると、より安心ですね。低速ならいろんなものを見る余裕が出て、だろう運転による先読みもしやすくなりますから。
自分に対する「危険信号」を無視してはいけない
ーー最後に、生活道路での運転に不安を感じている世のドライバーへ、改めてメッセージをお願いします。
清水:これも、とあるベテランの乗務員さんから言われたのですが、明らかにリスクがある場所で事故を起こしてしまう人の多くは、自分が自分に対して出しているはずの「危険信号」を無視しているのではないかと。例えば狭い道に遭遇したとき、自分が一瞬でも「無理かな」「ギリギリかな」と感じたら、それは自分に対して発せられた危険信号なんです。それなのに、危険信号に従わず強引に突進してしまうから事故につながってしまう。
少しでも「無理かも」と思ったら別のルートを探して迂回するか、ゆっくりと進んでみて、やっぱり無理なら切り返すなど慎重に運転する必要があるでしょう。その時に後ろのドライバーを待たせてしまったとしても、ジェスチャーで「申し訳ない」姿勢を見せつつ、慌てず切り返せばいいんです。
あとは、やはり謙虚な気持ちや、周囲のドライバーに対して気遣う姿勢を見せることが何より大事です。例えば、逆に前方のドライバーが切り返しに苦戦して道を塞ぐような形になっていてもイライラせず、大らかな気持ちで待つ。怒ったところで状況は変わりません。道幅が狭く死角の多い住宅街の運転はただでさえ難易度が高いわけですし、「そういうこともあるよね」というくらいの心持ちでいればいい。そうすれば、段々と運転そのものが優しくなっていくはずです。そして、それが譲り合いの気持ちへとつながっていく。
一人ひとりのドライバーが少し謙虚になるだけで、大半の事故は減らせると思いますよ。
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取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影・編集:はてな編集部