『無伴奏ソナタ』平間壮一インタビュー:皆の“その一ミリ”のために。 (original) (raw)

平間壮一 90年北海道生まれ。07年に『FROGS』で初舞台を踏み、『劇団☆新感線 髑髏城の七人 Season月<上弦の月>』『ゴースト』『Indigo Tomato』『RENT』『イン・ザ・ハイツ』『The View Upstairs』『クラウディア』『ヘアスプレー』『キングアーサー』『ダ・ポンテ』『ヴァグラント』など数多くの舞台で活躍している。©Marino Matsushima 禁無断転載

全ての人間の職業が、幼児期のテストによって決定される世界に生まれたクリスチャン。

音楽の才能を見出された彼は、2歳で両親と別れ、森の中の一軒家で音楽の”メイカー“として生きることになる。年月が過ぎ、それまで外界と接触することのなかった彼の前に、一人の男が現れる。彼が持っていたレコーダーには、バッハの音楽がおさめられていた…。

架空の管理社会を舞台に、“音楽の天才”の壮絶な生きざまを描いたオースン・スコット・カードの短編小説を、成井豊さんが舞台化。劇団キャラメルボックスによって上演されてきた『無伴奏ソナタ』が、成井さんの脚本・演出・作詞でミュージカルとなり、この夏、東京、大阪で上演されます。

今回の舞台で主人公クリスチャンを演じるのが、平間壮一さん。これまでにも多彩な役柄を経験している平間さんに、この役についてどんな想像を巡らせているか、最近出演した作品で得たものなど、さまざまにお話いただきました。

“音楽の天才”にどうアプローチしようかと、模索中です

――平間さんはキャラメルボックス版の『無伴奏ソナタ』を、映像でご覧になったそうですね。

「観させていただいて、キャラメルボックスさんという劇団の空気を強く感じました。お芝居のトーンというか、発声のスタイルからして、皆さんのスタイルが統一されているのが素敵で。みんなで一つの作品を作り上げている、みんながどこかでつながっている、と感じられる舞台でした。

作品の世界観は非常に独特なのですが、(人工的に)作られた世界の中で人々が生きているということを観客に信じていただくのに、劇団の色というものが効果を挙げているようにも感じました。

作品としては、どこかSF映画を観ているような感じがしました。

もしも生まれた時から違うルールの中で生きていたら、僕も違う人間になっていたのかな。今、自分が当たり前としているものが絶対ではないのかもしれない、と考えさせられる舞台でした。幸せって何だろう、ということをしみじみ考えたりもしました」

『無伴奏ソナタ』

――クリスチャンが生きる社会には、 “生き方を管理されることで幸福になれる”という、独特の価値観があるようですね。

「僕らとは全く違う世界に見えるけれど、でもよく考えると、僕らが今、生きている社会だって、本質的には管理されているわけじゃないですか。税金を払うシステムもそうだし、住所も登録されているから、どこで生活しているかも把握されていたりします。

本作では、生まれてすぐ適性検査を受けて、その結果次第で“この仕事をしなさい”とレールを敷かれますが、彼らにそもそも“こう生きたい”というものがあるのかどうかは、よくわかりません。

いっぽうで、僕らはどうかというと、この世界にも“特にやりたいことはない”けれど、幸せに過ごしている人はたくさんいます。となると、何が幸せなんだろう…。親が元気で、会いたい人がいて、普通に呼吸が出来ている…それだけで“幸せ”ということなのかな、と思ったりもしました」

――平間さんが演じるクリスチャンは、2歳にして音楽の“メイカー”となることを運命づけられるのですが、それに対して被害者的なスタンスなのか、もしくは主体性をもって受け入れているのか。様々なアプローチの出来そうなお役ですね。

「どう作るのがいいのかな、とあれこれ考えています。小さい頃にメイカーとなって、施設のようなところに閉じ込められて生活していると、外の世界を知らる機会が無いから、“これがやりたいのに”という思いも生まれてこない…。“無”に近い人なのかも、と想像しました。

キャラメルボックス版では今回、“ウォッチャー”という役で出演する多田直人さんがクリスチャンを演じていましたが、多田さんのクリスチャンは30歳という設定にしては驚くほど、無邪気でピュアな人物でした。

自分がやる時にはもう少しロボット的というか、無機質な感じを取り入れるのも面白いかな、と思っています。そんな彼が外の世界に放り出された時に、生身の人間と触れ合って、心というものを少しずつ知ってゆく…という感じでもいいのかな、と。でも、そこで難しいのが“心がなければ音楽は作れない”点なんですよね(笑)。まだまだ、模索中です」

――平間さんは少し前に、『ダ・ポンテ』でモーツァルトを演じていらっしゃるので、音楽の天才の感覚がつかめていらっしゃるかも⁈

「クリスチャンはモーツァルトと同じく、鳥のさえずりや雨の音といったものからインスピレーションを得ていて、そこは似ていると思います。ただ、クリスチャンは(既存の楽器に影響を受けないようにするため)ピアノという楽器を知らない、というのが大きな違いかな。

キャラメルボックスさんの舞台では、舞台上にピアノに似た、小さな台のようなものがありましたが、今回のミュージカルでは、そこをどう表現するのか。演じる側としてもすごく楽しみです」

『無伴奏ソナタ』メインキャスト

――作曲は元ピアノロックバンドWEAVERのボーカルで、現在はONCEとして活動されている杉本雄治さん。楽曲はもうお聴きになっていますか?

「まだすべてではないのですが、何曲か聴かせていただきました。すごく優しいメロディなのですが、どこかに違和感というか、ひっかかりがあって面白いです。

間奏で突然トーンが変わって、“さっきまであたたかい歌だったのに、急に暗くなってない?何があったのだろう?”と思わせたり。その暗さがクリスチャンの本質的な人間性なのか。彼自身、それを自覚しているのか。

第三者が彼を見たら“悲しい人生だな”と思うかもしれないけれど、彼自身はそれを分かっていない…というような違和感が面白いです」

――無心に音楽を創っていただけなのに、過酷な運命を辿るクリスチャン。けれど、終盤に彼は思いがけない事実を目の当たりにします。彼はそのことをどう感じるのでしょうか?

「台本を読んだ時に、そこが一番難しいと感じました。その事実を知った時に、彼はどう感じるんだろう、と。あまりにも失うものが大きかったから、単純な感情ではないんじゃないかな。

僕自身、けっこうネガティブにとらえがちなので、このことを知ったら嬉しい反面、なぜこの瞬間まで自分は受け身だったのだろう、なぜこの社会を変えようとしなかったんだろうと思ってしまうような気がします。実際、ここを演じていてどう感じるか…。その場になってみないとわからないかな」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「そこなんですよね。

キャラメルボックスさんの舞台を観たときに、僕は幸せについて考えました。生きていると、幸せを感じにくいのが人間というか、身近な小さな幸せが当たり前になってしまいがちですが、それを改めて感じられるような舞台になったらいいな、と思います。でも自分も含め、すぐ慣れちゃうんですよね、人間って(笑)」

平間壮一さん。©Marino Matsushima 禁無断転載

――最近のご活躍についてもうかがわせてください。まず、『テラヤマキャバレー』では“暴言”役を演じましたが、演出のデヴィッド・ルヴォーさんの目を通したところの“寺山修司の見た三島由紀夫の本質”というようなお役で、大変興味深かったです。

「ルヴォーさんからは“ミシマはお前のこときっと、好きだぞ”としか言われませんでしたが(笑)、日本文化をすごくリスペクトしていらっしゃるのが伝わってきました。

日本人はとかく欧米の文化に憧れがちだけど、僕自身、この作品に出演することで、改めて日本のかっこよさに気づき、大切にしなくちゃなと思いました。見てくれのかっこよさではなく、芯の通ったものがあればかっこよく見えるんだな、スタイルだけじゃないかっこよさを見つけたいなと思った作品です。

特に素敵だなと思ったのが、“戦う”という姿勢。『無伴奏ソナタ』のクリスチャンは受け身ですが、昔の日本人は疑問を持ったら行動することをいとわなかったんです。暴力ではなく、今であればデモをしたりといったことだと思うのですが、自分の意見を訴えるというのは素敵なことなんだな、こういう一面はもっと取り戻されてもいいんじゃないかな、と思えました」

――昨年出演された『ヴァグラント』では、大正時代のマレビト(芸能の民)、佐之助を演じました。

「こちらも好きでしたね。時代劇、大好きです。彼も男らしいというか日本男児のかっこよさがあって、その中から時折、顔を覗かせる脆さに心打たれます。

世の中には、波風を立てたくないからと何もしない人もいるけれど、それって一見、優しいけれど結構冷たい…でも佐之助は誰よりも信念を持っていて、苦悩もするし、最後まで戦うことが出来る、誰よりも優しい人間なんだろうな、と思いました」

――佐之助は表現者の誇りを体現する役でもありました。今回も表現者を演じる平間さんにとって、“表現”とはどういうものでしょうか?

「いろいろな活動をさせていただく中で、“こういうパフォーマンスをしたい”というものを描いたり、喜びを感じたり、悩んだりといろいろな感情を抱きますが、そんななかで自分の中に残っているのが、岸谷五朗さんの言葉です。

“演劇はたかだか演劇なんだよ”。僕らは世界を救ったり変えたりは出来なくて、出来ることってほんのちょろっとしたことだけなんだよ、という言葉が残っています。どんなに素敵なものであっても、“娯楽”は“娯楽”でしかなくて、それが無くても生きていける。僕らの出来るのは、せいぜい観てくれた人の心をちょっと動かすことくらいなんだよ、と。

時には、“大きなこともやりたい!”と思うこともあります。この芝居で戦争を止めたい!とか。もしそんな力があったら、どんなにいいだろう、と思ったりします。一人一人の心のちょっとしたところにしか働きかけられないのがもどかしいけれど、それによって少しでも感動していただければ、と精一杯やっています。みんなの“その一ミリ”のために、必死に頑張っている僕を見てくれたら嬉しいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)

*無断転載を禁じます
*公演情報『無伴奏ソナタ -The Musical-』7月26日~8月4日=サンシャイン劇場(7/27(土)18:00追加公演決定 )、8月10~11日=森ノ宮ピロティホール 公式HP

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