『You Know Me~あなたとの旅~』樋口麻美&吉沢梨絵インタビュー:“生まれてきてくれてありがとう”と思える、親友との人生の旅 (original) (raw)
(右)樋口麻美 東京都出身。97年に劇団四季研究所に入所、『オペラ座の怪人』で初舞台を踏む。『夢から醒めた夢』『クレイジー・フォー・ユー』『アイーダ』『ウィキッド』等数多くの作品でヒロインをつとめ、2014年に退団。『李香蘭』『ウエスト・サイド・ストーリー』『ジェイミー』等の舞台に出演している。(左)吉沢梨絵 東京都出身。歌手デビュー後、02年に劇団四季に入団、『夢から醒めた夢』『ふたりのロッテ』『赤毛のアン』等に主演。09年に退団後ロンドンに留学、帰国後、舞台やTVドラマで活躍を続ける。主な舞台に『マンザナ、わが町』『I LOVE A PIANO』『レディ・べス』『キッド・ヴィクトリー』等がある。
(C) Marino Matsushima 禁無断転載
出会いは高校生の時。正反対の性格の二人は、昭和から令和の時代を生き抜く中で、互いにかけがえのない存在となってゆく…。
高橋亜子さんが書き下ろした新作ミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』が、精鋭のスタッフ、キャストを得て間もなく開幕。彼らが女性たちの友情物語をどのようにとらえ、描いているか、男女両面の視点からうかがいました。
第一弾の本稿では、主人公の菜々子、百合絵を演じる樋口麻美さん、吉沢梨絵さんにインタビュー。劇団四季で数々のヒロインを演じた“盟友”のお二人に、本作に寄せる熱い思いをお話しいただきました。
『You Know Me~あなたとの旅~』
直接救うことはできなくても、寄り添って“共感”し合える存在の美しさ
――お二人は劇団四季でご一緒だっただけでなく、劇団ひまわりにも同時期に在籍されていたのですね。
樋口麻美(以下・樋口)「時代は被っていますが、梨絵ちゃんは5歳の時から劇団に入っていて、私は小学2年生の時からなので、後輩です。梨絵ちゃんは映画にドラマにCMにとバリバリ活躍していて、梨絵ちゃんとは、こちらが一方的に知っているという間柄でした。
それから時が過ぎて、劇団四季の『マンマ・ミーア!』のオーディションの時に、ソフィー役の受験者として久々の再会となりまして。会場で“私も劇団ひまわりの出身なんですけど…”と話しかけたんです」
吉沢梨絵(以下・吉沢)「(合格をきっかけに)それから劇団四季に7年いたので、その間ずっと(樋口さんと)一緒でした」
樋口「梨絵ちゃん、いっぱい役をやっていたからもっといたイメージがあるけど、7年だったのね。
一緒だった時期は同じ役をやることが多くて、本番が始まるとどちらかが出ているので、なかなか共演する機会はありませんでした。でもお喋りはものすごくしていましたね。私が先に『夢から醒めた夢』のピコをさせていただいて、次に梨絵ちゃんがやることになったので教えたり、と交流はすごくありました」
吉沢「控室が同じで、しゃべるのが楽しかったです」
樋口「最近どーお?みたいにね(笑)」
吉沢「メインの役をやらせてもらっている人たちの更衣室みたいなものがあって、樋口さんはじめ、話がわかりあえる人が多かったんですよ。でも実際こんなにがっつり共演させていただくのは、今回が初めてです」
『You Know Me~あなたとの旅~』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載
――本作は樋口さん発の企画だそうですね。
樋口「『マンマ・ミーア!』もそうなのですが、決してスーパーヒーローが出てくるわけではない、電車で隣に座っているような(等身大の)人のお話が好きで、そういうお話をミュージカルとしてやりたいな、隣のおばちゃんに“これ本当にいいんですよ、いいお話だから観に来て”と言えるお話をやりたいなと思っていました。
今回、ずっと恩を感じていた劇団ひまわりの劇場をお借りできることになり、どういう作品がいいのかなと思っていた時に高橋亜子さんにお話をいろいろ聞かせていただくなかで、“これは私の母の話なのですが、こういうことがあって…”と話してくださったんです。
それを聞いて、なんて心温まる女性たちの友情物語なんだろうと、涙が止まらなくなりました。ずっと隣にいてくれる存在の素晴らしさ。女性にとって、共感ってとても大事なものですよね。例えば、妻が夫に何か相談する時、答えが欲しいというより実は共感してほしいから話していたりするじゃないですか。
例え苦しい状況から救ってあげることはできなくても、共感し合える。そんな二人が支え合いながら生きていく姿がすごく美しくて、この話を是非ミュージカルでお届けしたいなと思いました」
吉沢「(台本を読んで)私も全く同じことを感じました。と同時に、この話を今やることの意味も考えました。
菜々子も百合絵も、平成とか令和の時代に生きていたら、もっとやりたいことをのびのびできたていたかもしれない…ということを、今上演することで感じていただけたら。
今では当たり前のことが、決して当たり前ではなかった時代があるんですよね。もちろん今も変わらない部分もあるけど、窮屈さを感じていた人たちが試行錯誤しながら、少しずつ平等に近づき、自由を手にしてきた。そのことについての私たちのささやかなメッセージがお客さんに届いたなら、今の自分たちの自由さ、不自由さについて、あたたかな気持ちのなかで考えられるなと思っています。
そのために、女性が(男性の)2歩、3歩後ろを歩いていた昭和の感覚も勉強し、皆さんに“そうだったんだ”と思っていただけるようなリアリティを作っていけたらと思っています」
――本作では二人の人生の潤滑油として、“旅”が大きな役割を果たしていますね。なぜ、旅だったのでしょう。
樋口「旅に行くと、歴史の中で繰り返される、私たち人類の変わらぬ営みを感じることができます。昔の人もそうだったんだ…ということを、その土地に行くことで感じられるし、問題を乗り越えるパワーをもらえる、そういう面に惹かれて、二人は旅をしていたのかな。
菜々子にとっては、鎌倉に行くことさえ“清水の舞台”の感覚でしたが、そのうち世界を旅しようという話になって、その資金を自分で稼ぐまでになります。百合絵の影響がなければ、考えもしなかったことですよね。彼女から人生のピースを与えてもらって、菜々子という人格の土台がどんどん広がっていった。だからこそ旅にでたり、全力でいろんなことが出来たんだろうなと思います」
吉沢「それまで一人旅を楽しんでいた百合絵が、菜々子と一緒に旅して何を感じたのか。新しい場所に行くはずもなかった菜々子が、自分との旅で初めて行ったというのは、彼女にとっても嬉しいことだったんじゃないかと思います。それによって自分の存在価値が肯定されたという思いはあったんじゃないかな。“救うことは出来なくても共に泣き、共に苦しむ”という真理が大昔から存在していたことに気づいたのも、大きかったような気がします。
一緒に旅することで、それまで知らなかった自分や、世の中の真実を知ることができる…。百合絵は、菜々子と一緒に旅をするということに対して、わくわくしていたんだろうなと思います」
――旅の資金を作り出すため、菜々子と百合絵は計画を練りますが、それによって今度はそれぞれの家族が疎外感を持つようになってしまいます。難しいところですね。
吉沢「そうなんですよね。百合絵的には、決して娘をないがしろにした意識はなかったけれど、理想のために頑張るだけではうまくいかない。そういうところでも菜々子と百合絵は互いの存在が大切だったのかなと思います」
樋口「“ザ・昭和”という時代性も感じますよね」
吉沢「昭和の時代だったら、一人でひっそり泣いていた女性も多かったと思うんです。その世代の方がご覧になったら、こういうところにフォーカスしてくれたとしみじみされるかもしれませんね」
『You Know Me~あなたとの旅~』稽古より。©Marino Matsushima 禁無断転載
――ドラマティックな場面の一つに、菜々子の夫が百合絵の家に怒鳴り込み、言い合いになるシーンがあります。ここで百合絵は毅然と言い返すのですが、よその家の旦那さんに対してなんと大胆な!と驚かされます。
樋口「菜々子が苦しんでいるのを見てくれていたからでしょうね。その関係が無かったら、百合絵も言えなかったかもしれません」
吉沢「自分のことだったら、そこまで言うこともなかったと思うんです。百合絵は、友達の窮地を救うことに一生懸命になれちゃうタイプなのかな。この時代の中で彼女は浮いている存在だったと思います。どの時代、どの国の女性も、その環境の中でうまく切り抜けながら少しずつ権利を獲得してきたのだろうけれど、こういうふうに衝突してしまう百合絵は、あまり器用なタイプではないのかもしれません」
――本作の台詞や歌詞の中に、ご自身に“刺さる”ものはありますか?
吉沢「刺さりまくってます(笑)。よかれと思って何かをやっても、意外と周りのことが見えていない百合絵が、どこか自分に重なるんですよね(笑)。私自身、女性だからということをあまり考えて生きてこなかったので、百合絵には共感できるところが多々あります」
樋口「一つ前の(NHKの)連続テレビ小説でも、法曹界で道を切り拓いていく女性の姿が描かれていて、どこか重なる部分があるなと思って観ていました。菜々子さんを通して昭和という時代を客観的に見てみると、(女性にとって)息苦しさというものはあったのだろうなと思います」
吉沢「男尊女卑の感覚を持っている人は、今の世の中にもいて、そういう人に会うと私は(反発が)顔に現れるタイプです。けっこう百合絵と似ていて、おかしいものはおかしい!と言ってしまいますね(笑)。でもそれで解決するかというとそうでもなくて、相手を怒らせずに、受け止めながらもっとうまく話を持っていくことも出来るわけで。劇団時代にも、みんなが指示に対して“はい、はい”と聞いている中で、納得できないことがあると顔に出てしまうことがありました。“どうしてそんな怖い顔してるの?”とよく言われましたね(笑)」
樋口「そういう意味では、私は菜々子さんタイプかな。その場をおさめたい、平和になってほしいと思って、お腹の底では“くー!”と思っても、ついニコニコしてしまいます。だから菜々子さんが、本当はどん底にいることを悟られたくないし、そこに立ち入ってほしくないという気持ちもわかるような気がします。うまく(心情を)包装していたいのだろうな、って」
吉沢「印象的な歌詞に“あなたの存在は優しいのに痛い”というのがあるんですよね。波乱を生むより、隠している方が楽だという…」
樋口「自分の意見を通すより、“もういいよ”となっちゃうんですよ」
吉沢「四季時代に、彼女が浅利代表にめちゃめちゃダメ出しを受けてきたらしく、相当落ち込んでいた時があったんです。よっぽど言われたんだな…と思ったけど、次の瞬間には“この話題はこれでおしまい”というふうに、あくまでもカラッとしていました。つらさを見せない人なんだな、と思いました」
樋口「見せるのが下手なんですよね(笑)」
――相手に対する思いやりなのかも…?
樋口「相手の(心の)負担になるのがいやなんですよね。菜々子も、生まれた時から自分の意見を言うことはなかったし、人の負担になりたくない、という人で…」
――どこか役とご自身が重なる部分があるようですね。
樋口「深堀りすると、そうですね(笑)」
――さまざまな共感ポイントがありそうですね。
吉沢「菜々子と百合絵、どちらも悪戦苦闘しながら生きているなかで、この部分はこちら、その部分はもう一人にという具合に共感できる作品だと思います」
樋口麻美さん、吉沢梨絵さん。🄫Marino Matsushima 禁無断転載
――どんな舞台になったらいいなと感じていらっしゃいますか?
樋口「観てくださる方にとって、思い出に残る作品になると思うので、絶対に観てほしいです」
吉沢「普通に見えている人たちの人生が、実はすごかったりするんだな、と感じていただけるかもしれません。昭和の時代には、(結婚した女性が)旅をするだけでも大変なことだったけれど、お互いの存在の力を借りながら勇気をもって実践する女性たちが描かれています。
人生って、この話くらいのスピード感で過ぎていくんですよね。ふと気が付けば40代、50代、60代になっていて。この物語の存在が、観て下さる方の勇気に繋がって、まだやれてないことを“あの二人みたいにやってみるか”と挑戦したり、疎遠になっていた人に連絡をとってみるかという気持ちになっていただけたら、このお芝居をやる意味があるなと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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