「愛される中国」を目指す習近平の焦り──「中国が理解されていない」 (original) (raw)
「愛される中国」を目指す習近平の焦り──「中国が理解されていない」
北京国立博物館にある習近平の画像の前を通過する来場者(2021年3月3日) Tingshu Wang-REUTERS
・習近平国家主席は共産党幹部に、中国について国際的な理解を得られるよう、もっと努力することを指示した。
・そこには、トラブルを抱えた外国政府を非難罵倒するこれまでのやり方が逆効果という見方が共産党内部にも広がっていることがある。
・その一方で、「中国が理解されていない」という焦りは歴代政権が抱えてきたもので、習近平を待ち受けるハードルは高い。
「愛される中国」を目指す方針を中国政府が打ち出したことは、習近平も歴代政権と同じ課題に行きあたったことを意味する。
「中国が理解されていない」
中国の習近平主席は5月31日、共産党の最高意思決定機関、中央委員会政治局で、中国の国際的イメージの向上を厳命した。
国営の新華社通信によると、その主な内容は、
・コミュニケーション手段(マスメディアやSNSなどを指すと思われる)を発達させ、中国に関する国際的な言説に、中国の声を届かせること。
・中国共産党が中国人民の幸福のみを追求していることを海外に広く知らしめること。
・中国の活動を説明できる、中国自身の言説やナラティブを育成すること。
・信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージを作るために、中国文化の海外輸出を加速させること。
・中国が国際的な問題にこれまで以上に責任と役割を果たすこと。
・一極主義と覇権主義(アメリカを指す)に反対すること。
・人の往来を盛んにすることで中国を理解する友人の輪を大きくすること。
一言でまとめると、中国が海外から正確に理解されておらず、その力と立場にふさわしい認知を国際的に得られるよう、もっと努力しろというのだ。
非難罵倒の逆効果
これまでの中国をみると、こうした方針は異例にも映る。実際、習近平体制のもとでは外国への高圧的な姿勢が目立った。
An illustrator in #China re-created a famous Japanese painting The Great Wave off #Kanagawa. If Katsushika Hokusai, the original author is still alive today, he would also be very concerned about #JapanNuclearWater. pic.twitter.com/NlTFkqvwmN
— Lijian Zhao 赵立坚 (@zlj517) April 26, 2021
特に近年、中国の報道官や外交官が、トラブルを抱えた国をTwitterなどで非難罵倒することも多い。貿易問題などで関係が悪化するオーストラリアに対して、アフガニスタンで子どもや羊にナイフを突きつけるオーストラリア兵のイメージで、日本に対して福島原発の汚染水の海中放流をめぐって葛飾北斎の浮世絵を用いて、それぞれ非難したことは、その典型だ。
こうした手法は「戦狼外交」と呼ばれる。しかし、その表現は、メッセージの内容を云々する以前に、いたずらに敵愾心を煽るだけのものになりやすい(フランスの新聞社なら「風刺は表現の自由」というかもしれないが)。
六辻彰二
筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売
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