検察の証拠不開示「違法」 布川事件、国などに賠償命令 - 日本経済新聞 (original) (raw)

1967年に茨城県利根町で男性が殺害された「布川事件」で服役し、再審無罪が確定した桜井昌司さん(72)が国と同県に計約1億9千万円の賠償を求めた訴訟で、東京地裁(市原義孝裁判長)は27日、国と県に約7600万円の支払いを命じた。検察官による証拠の不開示を違法と認定し、警察官による公判での偽証があったことなども認めた。

国家賠償を命じる判決を受け、記者会見する布川事件で再審無罪が確定した桜井昌司さん(27日午後、東京都千代田区)=共同

判決で市原裁判長は「(国や県の)違法行為がなければ遅くとも控訴審判決で強盗殺人罪の無罪判決が出て、釈放されていた可能性が高い」と指摘し、国と県の賠償責任を認定した。

水戸地検がアリバイなどを巡る検察側に不利な証拠に関し「関連性、必要性が薄い」などと主張して証拠開示を拒絶したことについて「開示しない合理的な理由はない」とし、検察官による証拠の不開示は違法とした。

警察官が公判で取り調べ録音テープは1本だけだと話した点も、裁判所の判断に影響を与える虚偽の発言で違法だと判断した。

判決は茨城県警の警察官が桜井さんに対し、桜井さんの母が「早く自白するよう言っている」と伝え、兄がアリバイを否定する供述をしたと言って自白を迫ったことについても「虚偽の事実を述べたというほかない」として違法と認定した。

桜井さんは78年に最高裁で無期懲役刑が確定し、96年に仮釈放となった。その後再審開始が認められ、2011年に再審無罪が確定した。

民法は違法行為から20年経過すると損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を定めている。市原裁判長は警察などの違法行為によって有罪判決が出た場合、再審無罪の確定時点から除斥期間が始まるとの判断を示した。

その上で身柄拘束中の逸失利益や慰謝料だけでなく、仮釈放後も有罪判決によって就労する機会を制限されたことなどについても国や県に賠償する義務があると認定した。支払い済みの刑事補償法に基づく補償金約1億3千万円の一部を差し引くなどし、約7600万円の支払いを命じた。

桜井さんは国や県が捜査段階で虚偽自白を強要したり、公判で一部証拠を開示しなかったりしたことで、裁判所に誤った判決を出させたとして、2012年11月に地裁に提訴していた。

桜井さんは判決後、「勝つ確信は揺るぎなかった。踏み込んだ認定をした裁判所に感謝したい」と力強く語った。

水戸地検の横井朗次席検事は「判決内容を精査し、関係機関や上級庁と協議して対応を検討したい」とコメントした。