オホーツク、流氷減り漁業に打撃 アザラシ増え被害 沿岸漁協など対策に着手 - 日本経済新聞 (original) (raw)

網走などオホーツク海沿岸に流氷が接近して観光客来訪の最盛期を迎えたが、押し寄せる氷の規模はここ40年で半分程度に落ち込んでいる。流氷の減少がコンブ漁の不漁やアザラシ増加につながり、漁業被害の原因になっている。そこで漁業協同組合や道、研究機関など水産関係者は対策に乗り出した。

港に近づくアザラシ(稚内市)=宗谷総合振興局提供

「アザラシが網の中に入り込んで魚を食べるので、被害は甚大」。稚内市の抜海漁港周辺で漁業関係者が嘆く。昨年末には同漁港内に約1400頭が集まった。稚内漁業協同組合によると、ここ5年でタコやカレイなどの被害が目立つ。

北海道の調査では2010年度のアザラシによる道内漁業の被害額は約3億円に上った。このため道は今月20日に、環境省や北海道漁業協同組合連合会などと連絡協議会を立ち上げ、生息数や被害実態の調査に乗り出すとともに、港内のアザラシを減らす方法を探る。

沿岸に長くとどまる

「北海道沿岸でアザラシが目立つようになったのは流氷が減ったから」。北海道大学獣医学部の坪田敏男教授は指摘する。地球温暖化の影響で流氷の量が減り、北海道沿岸に接岸して海面が塞がる期間も短くなった。このため行動半径が広がり、海を自由に泳いで、道内沿岸を行き来するアザラシが増えた。北海道沿岸に長くとどまる例も多い。

実際、北海道に押し寄せる流氷は減少の一途。沿岸に流氷が接岸した日から、沖合に向かって岸から離れていく「海明け」までの期間は、網走では07年~11年の5年間平均で32日。40年前(67年~71年)の同58日に比べ半分となった。今季は流氷接近が例年より早いが、それでも5日時点では「(流氷が広がる)海氷域は例年より若干狭い」(札幌管区気象台)という。

コンブ漁にも流氷減少の影響が出始めている。11年度の道内コンブ漁は記録的な不漁となり、収穫量は前年度比2割減の過去最低の1万5000トンとなる見通しだ。不漁の原因は諸説あるが、道総研中央水産試験場は「まとまった量の流氷が来てくれないと、コンブが育たない」と指摘する。

コンブは冬に海中で胞子を放ち、しばらく漂いながら海底に根付こうとする。この時期に、ホンダワラ類などの雑海藻が生い茂っていると、新たなコンブが着床できず育ちにくくなる。まとまった流氷が接岸すれば雑海藻を削り取ってくれるが、氷の量が少ないと残ってしまう。

コンブ育成へ雑海藻除去

「流氷に代わって、人為的に雑海藻の除去を進めたい」。こうした狙いで根室振興局と歯舞漁業協同組合(根室市)は対策を進めている。長さ5メートルの鉄棒にすだれ状に10本のチェーンを取り付けた装置をつくり、一旦海底に沈める。この鉄棒を船で引っ張って、チェーンで海底を擦ることで雑海藻をこそげ取る。

全ての雑海藻を取り除こうとすれば人件費や燃料代がかさむ。このため海底に繁茂する雑海藻のうち、コンブを育成する上で何割程度を取り除けばいいのか、目安を調査し、12年度内に結果をまとめる。

流氷はオホーツク海に注ぐアムール川によって海水に淡水が混ざり、凍りやすくなってできる。流氷は栄養分と酸素量が豊富な水を運んでくる役割もある。流氷減少が続くことで「ホタテなど、北海道の主力水産物の資源量の減少につながりかねない」(水産総合研究センター北海道区水産研究所)との声も出始めており、関係者は対策に追われている。

(札幌支社 伊藤敏克)