「米富裕層、税金ほぼ払わず」 ベゾス氏らの納税記録暴露 - 日本経済新聞 (original) (raw)

【ニューヨーク=宮本岳則】非営利の米報道機関プロパブリカは8日、米アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏ら富裕層の納税記録を独自に入手したと発表した。上位25人の合計保有資産価値は2014年~18年に約4010億ドル(約43兆円)増えた一方、連邦所得税の支払額は136億ドルにとどまった。富裕層に有利な税制が格差拡大を助長していると主張した。

プロパブリカは寄付を元に調査報道を手がける非営利メディアだ。米内国歳入庁(IRS)で機密扱いにされている納税記録を独自に入手し、分析結果を公表した。プロパブリカは入手方法を明らかにしていないが、報道は公共の利益に資すると判断したとしている。一方、IRSのチャールズ・レティグ長官は8日の議会公聴会で「違法行為があった場合、捜査対象となる」と話した。

プロパブリカは、米国の富裕層が蓄えた富のほんの一部しか税金を払っていないと主張する。例えばアマゾン創業者のベゾス氏は07年、会社の株価が2倍以上になったにもかかわらず、所得税を払っていなかった。11年には損失を計上し、節税していた。子供のために4000㌦の税控除を申請し、受け取っていたこともあった。

富裕層が保有する会社株式や不動産といった資産は、売却されて利益が実現しないかぎり、課税所得とみなされない。プロパブリカは米誌フォーブスのデータを基にベゾス氏の富が06年から18年までに1270億ドル増えたと推計。この間の連邦税の支払額は14億ドルで、富の増加に対する「真の税率」は1.1%にすぎないと主張する。

借り入れを使った節税テクニックもある。著名アクティビスト投資家のカール・アイカーン氏は16年と17年に調整後総所得を計上しているにもかかわらず、連邦所得税を支払っていなかった。借入金の利子の支払いが収入を上回っていたからという。アイカーン氏はプロパブリカの取材に対し、節税目的の借り入れとの見方を否定した上で「勝負に勝つためだ」と主張した。

ベゾス氏やアイカーン氏のほか、バークシャー・ハザウェイを率いる著名投資家ウォーレン・バフェット氏や、米メディアのブルームバーグ創業者マイケル・ブルームバーグ氏、テスラ創業者イーロン・マスク氏らの納税情報が暴露された。上位25人の富裕層合計でみても富の増加分に対する税金支払額の比率は3.4%にとどまった。

平均的な米国の勤労家庭は富の蓄積以上に税金を支払っている。米国では富よりも勤労所得への課税に重点が置かれていることが一因だ。富裕層増税の導入を主張する民主党のエリザベス・ウォーレン議員は8日、報道を受けて「我々の税制は収入で財をなさない億万長者によって不正に操作されている」とツイッターに投稿した。

バイデン政権は格差是正を政策の柱に掲げる。連邦所得税の最高税率を37%から39.6%に上げ、年収100万ドル超の富裕層の株式などの譲渡益(キャピタルゲイン)にもこの最高税率を適用することを提案した。ただ今回のプロパブリカ報道によって所得税の最高税率を上げても、納税額はあまり増えないことが明らかになった。ウォーレン議員らは保有資産への課税を主張している。

米ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は8日、アクセス権限を持つ人物による政府機密情報の不正開示は「違法行為」と述べ、今回の報道を深刻に受け止めていると話した。一方で、企業や個人が公平な税金を支払うようにするには、まだやるべきことがあるとも強調した。

富裕層は支払うべき税金を納めていると主張する。バフェット氏はプロパブリカに宛てた声明で、個人資産の99%以上を慈善活動にあてるとした。さらに「(私の税金を)増え続ける米国の債務をわずかに減らすために使うよりも、慈善活動に資金を提供したほうが、社会の役に立つ」と述べた。