【ライブレポ・セットリスト】渋谷うたの日 向井秀徳アコースティック&エレクトリック vs 小山田壮平 at Spotify O-nest 2024年9月4日(木) (original) (raw)
小山田壮平と向井秀徳が対バンすると知り、これは必ず行かなければならないと思った。自分が両者のファンであることも理由ではあるが、この組み合わせは、事件のような奇跡のような、とんでもないことが起きる予感がしたからだ。
どちらも日本のロックシーンにおいて大きな爪痕を残し、現在でも強い影響力を持っている。しかし両者ともに音楽性もキャラクターも全く違う。それなのに何か通ずるものがあるような気もする。
しかも会場はSpotify O-nestというキャパ200人ほどの小さなライブハウス。面白いことになる予感しかしないではないか。
小山田壮平
先に登場したのは小山田壮平。今回は弾き語りのようだ。
いつにも増してご機嫌な様子で「向井さんと対バンなので、持ってきました」と言ってアサヒスーパードライを掲げた。そして観客に向けて「乾杯!」と言って観客にもドリンクを掲げさせる。飲み会と同じような雰囲気でライブが始まった。
1曲目は『夕暮れのハイ』。夕暮れのような橙色の照明の中、丁寧にギターを弾いている。だが歌声はエモーショナルで、一瞬で向井秀徳のファンも取り込んでステージに集中させた。
10年ぐらい前にも向井さんと対バンしたことがあります。遠藤賢司さんとアルカラも一緒でした。
その時初めて向井さんと会ったんですけど、楽屋で会った瞬間に焼酎の瓶をドンと置かれました。その時はお酒に弱くて一緒に飲むのを断ってしまったんですが、それから10年経って僕はお酒が強くなりました。
だから今日は楽屋に入ったらすぐに自分が向井さんの前にビールをドンと置いて、ライブ前にいっぱいひっかけてしまいました(笑)
どうやら彼がご機嫌な理由は、酒を飲んでいるかららしい。「ほろ酔いの夜という意味の曲です」と言ってから今の小山田の状態に相応しい『アルティッチョの夜』の夜が演奏された。
だがすぐに演奏を一旦止め「酒を飲むと指が吊りやすい(笑)」と言って手首をぶん回す。向井に飲まされすぎてないか心配になる。だがその後の激しく熱い演奏は素晴らしかった。アルコールによる気分の高揚が良い方向に演奏へ反映されているようだ。だが演奏を終えてからも「指が吊りやすい(笑)」と言って、また手首をぶん回していた。
吊った指が治り気合いを入れ直してから演奏されたのは『すごい速さ』。TikTokを中心にバズっているandymori時代の楽曲だ。サビのコーラス部分では、観客も腕をあげて歌っていた。弾き語りといえども、観客は熱く盛り上がっている。向井秀徳目当てと思われる観客も含め、今回のライブで1番盛り上がっていたのはこの楽曲だ。みんなTikTokを観ているのだろうか。
激しく熱い演奏を2曲続けたものの、次に演奏された『雨の散歩道』は丁寧かつ繊細な演奏で届けられた。酒を飲んでも小山田壮平の歌や演奏は乱れない。青い照明の中で歌う姿が印象的だ。
大学生の時に初めてナンバーガールを聴いて衝撃を受けました。その衝撃について書いた曲があります。
『彼女のジャズマスター』という曲です。このようなタイトルですが、その衝撃は彼女のジャズマスターでありつつも、彼のテレキャスターでもありました。
照れくさそうに笑ってから歌われたのは、もちろん『彼女のジャズマスター』。ナンバガの衝撃を再現するかのような激しいギターとシャウトする歌声で、弾き語りと言うよりも弾き叫びと言うべきと思うほどの熱演で圧倒されてしまった。
かと思えばandymori時代の名曲『ベースマン』は優しく語りかけるように歌う。この楽曲はandymoriのベーシストで今も彼のバントセットライブでサポートベースをしている藤原寛について歌っている。特定の人物についての愛を歌った楽曲を続けたことにも、何かしらの意図があったのかもしれない。
ここでハーモニカを取り出し何度か確かめるように吹いてから『空は藍色』が演奏された。こちらもandymori時代の名曲だ。サビ以外の部分ではギターを繊細な小さい音で奏で、サビでは大きな音で掻き鳴らす。歌声も連投するように抑揚する。弾き語りながらも1曲の中で様々な表情を見せ、様々な感情を呼び起こし感動させてくれる。
そんな感動を増幅されるかのように、丁寧なアルペジオで『時をかけるメロディ』を優しい声色で歌う。その後に演奏されたandymori時代の楽曲『16』も、音色やリズムが心地よくて泣ける。途中で歌詞を飛ばしそうになり照れ笑いしながら台詞のように 〈可愛くなれない性格で〉という部分を早口で歌う小山田壮平は可愛いかった。
ラストは『マジカルダンサー』。客席天井のミラーボールに青い光が当てられて、照明の光が会場全体に星のように散らばる。その景色は〈満天の星をつれて行け〉というサビの歌詞を演出により表現しているようで感動的だ。
小山田壮平は酒に酔っていたが、演奏はいつも通りに素晴らしかった。そして観客は彼のギターと歌に酔いしれた。最高のアルティッチョの夜になった。
■セットリスト
1.夕暮れのハイ
2.アルティッチョの夜
3.すごい速さ
4.雨の散歩道
5.彼女のジャズマスター
6.ベースマン
7.空は藍色
8.時をかけるメロディー
9.16
10.マジカルダンサー
向井秀徳
「暗い!明るくしていいよ!」と機材セッティング時に出てきて文句を言う向井秀徳。さらには最前列の背が高い男性を指さし「お前、ステージに近すぎないか?」とイチャモンを付ける。
かと思えばご機嫌な様子でサウンドチェックでは転換BGMに合わせてギターリフを弾いて歓声を浴びたりする。ライブ前から向井節が炸裂している。始まる前から向井秀徳の空気が作られてしまった。最高のライブになる予感しかしない。
準備ができたところで「MATSURI STUDIOからやって参りましたThis is 向井秀徳!」とお馴染みの挨拶をしてライブがスタート。
1曲目は『ポテトラサダ』。ZAZEN BOYSの音源とは違うリフとリズムで歌もメロディアスになっている。向井秀徳はソロだと印象が変わる楽曲が多い。
「MATSURI STUDIOからやって参りましたThis is 向井秀徳」といつも通りに挨拶する向井。曲が終わるごとに同じ自己紹介をしていた。まるで曲が始まる前のインタールードのようだ。
破天荒に見える向井だが演奏は意外にも繊細である。『SAKANA』はルーパーを使いギターの音を重ね、弾き語りながらも重厚なサウンドにしていた。
『公園には誰もいない』もそうだ。ギターのカッティングとアルペジオのリフをルーパーで録音し再生することで、緻密に音を作ってる。
主催のBYGのみなさん、呼んでくださりありがとうございます。
渋谷にお越しのみなさん、ありがとうございます。
o-nestのみなさん、お久しぶりでございマース!
なぜかo-nestのスタッフに対しては「サザエでございマース!」の言い方で感謝を伝えていた。
小山田さんはあどけない少年のお目目をしておりますが、そのお目目の奥底には強い信念を感じますねえ!歌声にはハートがあるねえ! 私のハートに届くブルースですねえ!
なんというか、小山田さんはジェフバックリーの周波数に似ていてグッとくるんですねえ!
グッドテイスト!ブルース!
小山田壮平を独特な言い回しで褒める向井秀徳。とりあえず相思相愛であることは伝わった。
この日の向井はブルースについて語りたいらしい。その後もブルースに絡めて話を展開させる。
ギターを持ってタクシーに乗った時、運転手さんに「わたしも最近ギターをはじめましてね。ブルースを弾きたいんですけどコツはあるんですか?」と聞かれましてね。
ブルーな気分になればブルースを弾けますよと言ってやりましたよ!
ハッ!!!
シュールな空気になる客席。運転手さんがどんな反応をしたのかが気になる。
そんなシュールな空気も「次の曲は夏の名残りという感じで」と言ってからナンバーガールの名曲『透明少女』が演奏されると、熱い空気へと塗り替わる。観客の興奮による熱気は真夏の熱気かのようだ。気づいたらみんな夏だった。
「ローランドJC120!コーラスをON!」と必殺技かのように叫んでアンプのつまみを動かしてから演奏されたのは『 ブッカツ帰りのハイスクールボーイ』。先程までとは違うコーラスのかかった奥行のあるサウンドを、やはりルーパーを使い音を重ねていく。1人でバンドをやっているかのように、音の印象をどんどん変えていくライブだ。
渋谷で初めてライブをやったのはO-eastだった。
ここに来るまでの坂道を歩くと、どうしてもこんな歌ばかりうたってしまうんですよねえ...
噛み締めるように話してから演奏されたのは『性的少女』。ホテル街の中にあるライブハウスだからこそ、シチュエーションにもマッチしている曲かもしれない。こちらもローランドJC120!コーラスと向井の弾くアルペジオが良い味を出している。
今度は「 ローランドJC120!コーラスをOFF!」と、これまた必殺技のように叫びアンプのツマミを動かす向井。再び尖ったハガネのサウンドになったテレキャスターで、叫ぶように『永遠少女』を歌う。そんな熱い演奏に痺れてしまう。
観客の万来の拍手を浴びながら、満足気な表情で「This is 向井秀徳!」と、次が最後の曲なのに自己紹介する向井。ラストは『はあとぶれいく』。クールにギターリフを弾きながら、噛み締めるように歌い上げていた。
去り際にも「This is 向井秀徳!」と自己紹介をしていた。きっと小山田壮平だけを目当てに来た人も、名前だけは流石に覚えたことだろう。
すぐにアンコールの拍手が鳴り響き、それに応えて向井秀徳と小山田壮平が一緒に再登場した。小山田はハーモニカを手に持ち、向井は椅子に座りテレキャスターをチューニングしている。どうやら一緒に演奏するらしい。
「ちょっと待っててくださいねー」と馴染みの定食屋の店員かのようにフランクに客に伝える向井。なぜか自己紹介はもうしなかった。
小山田「歌は全てブルースなんですよね」
向井秀徳「あなたの歌もブルースだと思いますし、そこで観ているあなたの歌もブルースかもしれません。これからわれわれは全国の老人ホームを尋問している2人組という設定で演奏をします」
謎の設定を自信満々に話す向井と、動揺しながら苦笑いする小山田。本当にリクエストしたのかはわからないが「今回のライブの主催、BYGの社長のリクエストに応えて」と向井が言ってから、童謡『赤とんぼ』が演奏された。
小山田が哀愁を感じるハーモニカを吹き、向井が繊細なタッチでテレキャスターを弾く。個性が全く違う2人だが、演奏の相性は抜群だ。声質も違うのに、一緒に歌うと綺麗に2人の歌声が溶け合っていて心地よい。意外にも歌声よ相性も良いようだ。
万来の拍手を浴びて、またもや満足気な表情をする向井と笑顔で客席を眺める小山田。向井は設定を大切にするタイプなようで「今度はどこの刑務所を尋問しようかな!」と言う向井。老人ホームだけでなく刑務所も尋問するようだ。ぜひとも全国ツアーをして欲しい。
最後に歌われたのはザ・タイマーズのバージョンの『 デイドリーム・ビリーバー』のカバー。2人とも自身の個性を出して「両者ともにこの曲をカバーすると、こうなるよなあ」と想像できる、良い意味で想像通りの歌だった。
その歌声は両者ともに親和させようとする空気は感じないのに、やはりなぜか演奏も歌声も相性が良い。唯一無二の歌声が合わさると、化学反応によむて新しい個性が生まれたような感覚である。この2組が一緒に歌う姿を見れただけでも、チケット代の元は取れた気分だ。
小山田壮平と向井秀徳の対バンライブは、愛してやまない音楽がハリヤバな歌と演奏で掻き鳴らされる熱い内容だった。
■セットリスト
1.ポテトサラダ
2.SAKANA
3.Yureru
4.公園には誰もいない
5.透明少女
6.ブッカツ帰りのハイスクールボーイ
7.性的少女
8.永遠少女
9.はあとぶれいく
10.赤とんぼ
11. デイドリーム・ビリーバー