【感想・あらすじ・レビュー】オパールの炎:桐野夏生 (original) (raw)
オパールの炎:桐野夏生著のレビューです。
☞読書ポイント
ピンクのヘルメットを被り、ピル解禁・女性解放を率先して訴えた塙玲衣子とはどんな人物だったのか?彼女を知る人々をインタビュー形式で追っていく。ピル(低用量経口避妊薬)が認められた歴史の中に、忘れ去られた一人の女性の苦悩があったことに注目。
感想・あらすじ
どんな小説なのかまったく情報なしで読み始めた。そして読み終わって、「これって実話?」と思い、調べてみたところ、女性解放運動家で薬剤師、その他精力的に活動してた一人の女性の名前が。その名は「榎美沙子」。大学卒業時の夢は「可愛い奥さん」になることだったという。
私は彼女のことを全く知らなかったわけですが、ピル解禁等々の話から、今はもう名前すらも忘れ去られた彼女の存在を、再び桐野さんが自身の筆で蘇らせ、今の人たちに知ってもらおうという並々ならず熱意みたいものを感じました。
とにかく女性が新しいことを切り開いてくこと、男社会と対等にやり合っていくことの大変さが窺える。彼女は「中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合」略して「中ピ連」なるものを立ち上げ、ピンクのヘルメットをかぶり、過激な抗議活動をし、世間の注目を浴びることになる。本書では塙玲衣子という名で登場する。
物語は塙玲衣子の関係者ひとりひとりにインタビューしていくという形を取っているからか、なかなか彼女が何者なのか掴み切れず、悶々とする時間が続いた。彼女の活動はやがて企業や政界に入り込んで行くのだがうまくいかず、奇異な人だったという印象を世間に残して姿を消してしまった。
なんとなく彼女の人物像に「これ!」という魅力や強い信念みたいなものが分らなかったのが残念。確かに様々な状況に乗り込んでいく彼女の勢いや強さみたいなものは感じたし、当時の状況や女性たちの立場がたった数十年前の話なのに、ここまで違っていたのかという部分も多々あり、大変な苦労があったことも感じ取れる。
しかし、本人の気持ちがどうであったのか、なぜにそこまで情熱を注げたのか、今の社会を見て何を感じるか等々もっと掘り下げて欲しかったな。インタビュー形式であったので、どうしても人物の輪郭が薄く、実像が掴みにくかった。
とは言え、こうした活動をしていた女性がいたことを忘れてはならない....。ということを世に広める意味でもこの作品の存在価値は大きい。スッキリした読後感の小説では決してないけれど、時代とともに変わった部分、いまだ変わらない部分など、出発点を見ることによって確認できる部分がたくさんある。
1999年、ピル(低用量経口避妊薬)が認められる。
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桐野夏生プロフィール
1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で柴田錬三郎賞、05年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞、10年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞、11年同作で読売文学賞、23年『燕は戻ってこない』で毎日芸術賞、吉川英治文学賞を受賞。15年、紫綬褒章を受章。21年早稲田大学坪内逍遙大賞、24年日本芸術院賞を受賞。近著に『日没』『砂に埋もれる犬』『真珠とダイヤモンド』『もっと悪い妻』など。(Amazonより)