【STORY】北爪健吾「ポテンシャルを信じ、悔しさを糧に遂げた進化」 (original) (raw)

日々の競争、陰での努力、悩み、葛藤……選手一人ひとりの物語を追ったコンテンツ【STORY】。今回は北爪健吾選手のテキスト版です。

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10月16日配信/取材・文=平柳麻衣

彼の人柄が惹きつけるのだろうか。トレーニングの前後や、試合後の場内周回時など、気がつけば北爪健吾の周りには外国籍選手たちが集まっている。お互い発する言語を完璧には理解できなくても、身振り手振りを交えたコミュニケーションには笑顔が溢れている。

今年で32歳。大卒でスタートしたプロキャリアは、「10年できたらいい」と当初思い描いていた10年目をひた走っている。3月16日の大分戦では、Jリーグ通算200試合出場の節目も迎えた。

「健康第一でケガなくプレーできているのは良いこと。なかなか他の先輩方のような振る舞いはできていないのかもしれないけど、みんなに仲良くしてもらいながら、良い意味で年齢を感じさせない、こういう歳のとり方も自分らしいのかなと思います」

ピッチ内外で気配り上手な彼の原点について、次のように語っていたことがある。

「これまで4チームでプレーさせてもらい、年齢関係なく素晴らしい選手たちと出会ってきました。リーグを代表するような選手、そのチームの象徴となるような選手……たくさんの選手からいろいろなタイミングで影響を受けたのですが、なかでも自分のサッカー観に大きな影響を与えてくれたのは、横浜FCで一緒にプレーしたレアンドロ ドミンゲスですね。

当時はまだ自分のプレーを上手くピッチで出すことができず、もどかしくて自信を失いかけていた時。僕が走るところに彼がピタッとボールを出してくれることで、“生かされる選手”として結果を出すことができ、ピッチで喜びや幸せを感じられたシーズンでした。それがプロキャリアの中での一つのターニングポイントになったと思います。外国籍選手と積極的にコミュニケーションをとるようになったのもその頃から。せっかく日本に来てくれた選手たちには、日本のことをいろいろ知って、日本のことをもっと好きになってほしいと思うようになりました」

自分にはまだまだポテンシャルがある

“生かされる選手”としての北爪のストロングポイントは、エスパルス加入後も存分に発揮された。サイドバックを主戦場としながら、昨シーズンは4ゴール3アシストをマーク。「僕は長い距離でもスピードを出せるとか、目に見えて分かりやすい特徴があるので、チームに勢いが必要な時にスタジアムの雰囲気を変えることができると思っている」と自信を深めた。

今シーズンも途中出場が多いなかでも、ここまで4アシストを記録。5月6日の群馬戦で北川航也のゴールをアシストした際には、ピッチを何度も叩いて喜びをあらわにした。

「いかにチームメイトがシュートしやすいか、得点につなげられるかは心掛けていますけど、どのアシストを振り返っても、決めてくれる選手がいるからこそ。僕自身ももっともっとゴールやアシストという形で貢献したいし、そうしていかないと次のチャンスはないと思っているので、『惜しかったね』ではなく、当たり前のように結果を残せる選手でありたいです」

しかし、コンスタントに試合に絡みつつも、自分自身のパフォーマンスに納得できず、消化不良感の残る日々が続いた。

「なかなかスタメンで出られない状況はもちろん悔しいし、自分に腹が立ったりもするし、ずっと平常心を保てているわけではないです。でもそれは自分のプレーが足りなかったり、何かしら自分に原因があるから今の状況になっていると思う。やっぱり結果を出した時に『今までやってきて良かった』と思える、あの感情を知っていることが僕にとってはモチベーションになっているので、しっかり自分にフォーカスして、たくさん考えながら成長できたらいいと思っています」

北爪は、自分自身に変化が必要な時だと考えた。

「自分は他の選手とタイプが違うし、『攻撃的な選手だから』と捉えれば逃げ道はいくらでもあります。でも、試合に出るためにはやっぱり全部できたほうがいいし、『攻撃だけ』の選手だと思われるのはサイドバックとしては二流だと思います。まず自分の課題である守備の強度を高めて、攻守両面で安定感をもたらすことができれば、守備から入って攻撃でも特徴を出せる選手になれる。自分にはまだまだポテンシャルがあると思えたし、周りには学べる選手がたくさんいるので、そこからいろいろなものを吸収しようと思いました」

生かしてもらってばかりではダメ

リーグ中断期間中に行われたスタッド・ランスとの国際親善試合。先発出場し、チームが3−0で勝利したこの一戦を北爪は今シーズンの転機として振り返る。

「スタッド・ランス戦あたりから本当に自分自身が変わろうとして、少しずつ変わってきた手応えもあります。まずは守備の強度やポジショニング、競り合いの強さ。そこが課題であることは自分でも分かっています。例えばボールへの寄せに関しては、やっぱり寄せないことにはボールを取れないので、まずは寄せてみてから考えることでプレーの迷いは昨季より改善されてきたのかなと、ここ数カ月、自分の中で感じています。

もちろん周りは完璧を求めるのでまだまだ足りないところはあるんですけど、そういう客観的な声は大事にしながらも、ランス戦が一つの手応えになっているので、今はもっと試合に出て自分の変化を感じながら、自信を積み重ねたいという気持ちが強いです」

そういった守備面の強化に加え、攻撃面のアップデートにも取り組んでいる。

「サッカーはチームスポーツなので、戦い方やシステムの問題などによって、昨季のように自分が思い切って前に出ていくシーンはなかなか出せていないと思います。でも、僕さえ良ければいいというわけではないので、そこは自分がチームに合わせて変わっていかなければいけない。

例えば(ルーカス)ブラガが右サイドハーフで出ている時は、なるべく守備のところは楽をさせてあげたいので試合中もコミュニケーションをとったり、ちょっとした表情の変化を見て『今、少しきつそうだな』と感じたら、僕がスライドを頑張るようにしたり。もちろん僕がブラガに助けられている部分もたくさんありますし、自分にしかできない長所の引き出し方ができたらいいなと思いながら取り組んでいます。

今まで僕はどちらかというと“合わせてもらっている立場”のプレースタイルだったと思うんですけど、生かしてもらってばかりではダメですし、お互いに助け合いながら周りも自分も生かし合うこと。たくさんもがいて、そういう考えを持てるようになって、昨季とは違った伸びしろを感じられるようになった今は、楽しくプレーできていると感じています」

9月14日の山口戦では、山口の左サイドからの攻撃への対策として、北爪が途中投入された。

「山口は新保海鈴選手が入ってパワーを掛けてきていたので、僕が押し込むことで相手の攻撃の機会を減らすことと、一対一の局面で仕事をさせないという指示を受けてピッチに入りました。より相手の嫌がることをしたという意味で、最低限のプレーはできたんじゃないかなと思います」

悔しい気持ちがあるほど頑張れる

悔しいときは全力で悔しがり、嬉しいときは喜びを爆発させる。そんな素直さも“北爪健吾”という選手の魅力である。

「今季はチームが勝っていても、自分のプレーに納得できず、素直に喜べないということも経験してきました。でも、それがなくなったらプロサッカー選手として成長できないし、競争に勝っていけない。悔しさなどの負の感情も、どう捉えるかだと思います。僕はそれをモチベーションに変えるタイプで、もちろん最初から結果を出せるのがベストなんですけど、悔しい気持ちがあるほど『もっとできる』と頑張れるし、結果が出たときの喜びや幸せを何倍にも感じることができます。

残りのシーズンも、そんなに余裕があるわけではないけれど、とにかく毎日楽しく、みんなとプレーできる喜びを感じながら、自分の成長につなげたい。毎日一緒に切磋琢磨しているみんなと、最後に笑っていたい。そのために自分は自分らしくやり続けるだけです」

今シーズン、北爪はまだ自分でゴールを決める喜びを味わうことができていない。

残るリーグ戦は4試合。もちろん「昇格、優勝」を最優先に見据えながらも、自分の課題から逃げずに向き合ってきた努力が報われる瞬間が訪れることを、彼を応援するすべての人が待ち望んでいる。

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