【STORY】松崎快「理想と現実の狭間で…積み上げた自信と静かに燃やす闘志」 (original) (raw)

日々の競争、陰での努力、悩み、葛藤……選手一人ひとりの物語を追ったコンテンツ【STORY】。今回は松崎快選手のテキスト版です。

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10月17日配信/取材・文=平柳麻衣

「早く帰ってチャンピオンズリーグ観ないと」

ひとしきりサッカーについて語り尽くしたのち、ゆったりとした足取りでクラブハウスを後にする。“超”がつくほどマイペースな松崎快の日常はサッカーで彩られている。

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国立競技場で横浜FCとの頂上決戦が行われた翌日の9月29日、松崎はヴェルディグラウンドにいた。フル出場した東京Vとのトレーニングマッチは、松崎のセットプレーから蓮川壮大がゴールを決めて先制したものの、1−3の逆転負けを喫した。

「俺は今季から加入したので昨季のプレーオフの時どうだったかは分からないですけど、今ヴェルディがJ1で6位(9月29日時点)にいるのは偶然ではないなと思ったのが率直な印象です。今のJリーグは縦に速く、非保持の局面で力を出せるチームが上位にいる傾向に変わってきています。そうなるとフィジカルスタンダードが高いことが必要不可欠で、向こうのメンバーもサブ組が中心だったと思うんですけど、それでも技術ではない部分の迫力とかが全然違った。やっぱりJ1で勝っていくにはこれぐらいやれないとダメなんだという基準みたいなものが改めてはっきりしたのがネガティブな感想です。

その一方で、ポジティブな面を挙げるなら、チームとしてはスコア以上の差を感じたけど、個人としてはそこまで大きな圧を感じなかったこと。ファウルで止められることが多くてゴール前になかなかたどり着けなかったので課題はありますけど、今シーズン自分が進んできた道は間違いではなかったのかなと感じることができました」

J1昇格に王手をかけた今、いよいよ来季を見据えて……ではない。松崎はシーズン開幕前からずっと、どの試合後でも「J1基準」を意識したコメントを残し続けてきた。

「もっと目先を見ろと思われるかもしれないけど、自分は浦和でJ1の雰囲気やレベルの高さを見てきたから。もう一度、自分自身がちゃんとJ1で勝負するために、このチームがJ1で勝っていくために」

「自分を信じられなくなってしまった」過去を乗り越えて

2022年に水戸から浦和へ加入した松崎だが、自身初のJ1舞台は苦悩の日々だった。「全部自分が悪いんですけど」と前置きしたうえで、過去の自分を振り返る。

「もともと海外に行きたいとずっと思っていて、そのためには関東圏のビッグクラブで試合に出ることが近道だろうと思ったのと、リカルド ロドリゲス監督(当時)が徳島でやっていたサッカーをやってみたい気持ちもあって浦和に行きました。リカルド監督も、次の年に就任した(マチェイ)スコルジャ監督もすごく期待してくれているのを感じたし、自分を使おうとしてくれたんですけど、その期待に俺が応えられなかった。

正直、練習でのパフォーマンスは良かったんです。だけど、試合になると経験のなさからいろいろなプレッシャーを感じてしまったりして、どう力を発揮していいのかが分からなかった。浦和でどう成功するかの答えが見当たらなくて、自分を信じられなくなってしまったところもありました。

あとはシンプルに自分の能力が足りなかった部分もあります。攻撃面はある程度通用しても、守備の強度が足りなかったし、ファイナルサードで人を捕まえるとなった時に、俺は身体能力が低いのでごまかしが利かなくて、足りないところが多すぎると感じました」

「人生で一番、サッカーのことを考えた」浦和での1年半、そして昨季後半は仙台への期限付き移籍を経てエスパルスに加入した今季。

「まずは自分がサッカーを楽しむこと。丁寧に、丁寧に自分の力を積み上げて、その中でチームとしても勝っていきたい」と意気込んだ。

選手に評価してもらえるのは一番うれしい

松崎が新天地に選んだエスパルスでは、2つの大きなプレッシャーがあった。一つは、チームとして成し遂げなければならない目標である「J1復帰」に向けて。

「J2におけるエスパルスは、サポーターやパートナーなどの外部からも『勝って当たり前』と思われているようなクラブ。その中で勝ち続けて期待に応えていくのは、自分自身にとっても必要な経験だと思いました」

そしてもう一つは、水戸時代にも指導を受けている秋葉忠宏監督が指揮を執っていること。ルーキーイヤーから個人の結果に対する執着心を植え付けてくれた存在である。結果的に開幕スタメンに名を連ねたが、キャンプ前から体調不良やケガで離脱が続いていた松崎は、「内心かなり焦っていた」と急ピッチでチーム内競争に加わっていった。

「『秋葉監督だから来たんだろう』『秋葉監督だから出られるんだろう』という見方をされてしまうのは当然あると思うので、だからこそプレーで示さなければいけなかった。とくにチームメイトの中には、開幕まで20日を切ってようやく合流した俺がスタメンで出ることに納得いかない人もいたと思うので、それに対してプレーで示さなければというプレッシャーは大きかったです」

第5節千葉戦で加入後初ゴールをマーク。「開幕前に急いで上げ過ぎたので、コンディションがゆるやかに落ちていった」ことでしばらくはベンチスタートが続いたものの、再びスタメンを勝ち取った第22節ホームの岡山戦ではゲームメイクの面で大きな存在感を放ち、ピッチを躍動した。

調子を上げてきた矢先だったからこそ、第23節千葉戦の開始早々に右肘関節脱臼のケガを負い、復帰後にも足首のケガと不運が重なったことは悔やまれる。しかし、プレー面だけでなく、オフ返上でクラブハウスを訪れリハビリに取り組む様子や、日頃のトレーニング前後での綿密なケア、「好きだから」という理由もありながら国内外のサッカーを数多く観る勉強熱心な姿勢などが認知され、チームメイトからの信頼を大きく感じるようになっていった。

「ケガをした瞬間、瞬間は腹が立ったり、試合に出られないことに落ち込んだり、脱臼の時なんかは痛みで明け方に目が覚めるのが数日続いたりして大変でしたけど、やっぱり一緒にやっている選手に評価してもらえるのは一番うれしいこと。そこに嘘偽りはないと思うし、『試合に出たらやってやる』という気持ちになれます」

サッカーは「90分間のエンターテインメント」

今シーズンはここまでリーグ戦24試合出場2得点。数字だけを見れば「物足りない」と評価されるのは分かっている。それでも松崎は「見えない部分が勝負を決める」と思っている。

「別に足も速くないし、“ドリブラー”っていう見方をされるのは好きじゃない」

では、“松崎快”の魅力とは?

「賢い、とか……? 例えばランニングで誰かを釣って大外が開いた時に、それを評価する人は少ないと思うし、切り替えの局面で潰しに行って、その次のプレーでボールが取れたとしても、その前のプレーを評価する人もほとんどいないと思う。一般的な評価は0か100か、白か黒かみたいな。でも、それが評価基準になってしまうと、どれだけ守備をさぼっても点を取ればいいということになってしまうし、それは選手の評価としてどうなの?って」

直近で言えば、8試合ぶりの公式戦出場となった第34節水戸戦。水戸の左サイドにスペースがあることを察知していた松崎は、後半頭から投入されると、開始2分、「相手の3バックの左の選手が自分に食いついてくるのが分かったので」と相手選手を釣り出す動きをし、その流れから北川航也のゴールが生まれている。直接ボールには関わっておらず、DAZNの映像にもほとんど映っていない場面ではあるが、「誰を引き出すかを意識してプレーした」と意図的な駆け引きがあったのは確かだ。

「ピッチを離れている期間が長く、周りの選手との連携や自分自身のフィーリングが良くなかった」のは前提として、ピッチに立つ11人、もっと言えば相手チームも含めた全員で試合を創り上げることに醍醐味を感じ、サッカーを「90分間のエンターテインメント」と捉えている松崎らしい、細部へのこだわりである。

シーズン序盤こそコンディション不良により思うようなパフォーマンスが出せない試合もあったが、本来は「ボールを失わないこと」や「ゲームコントロール」が持ち味。だから、点を取れていた過去のシーズンのプレー集よりも、「いろいろなものを積み上げて、プレーヤーとしてのトータルの能力が上がってきた」“今”のプレーを観てほしいのだという。

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代表ウィークのためリーグ戦がなかった先週末に行われた藤枝とのトレーニングマッチ。終盤には両足が攣るほど攻守に力を出し尽くした。

「やっぱり(次節の相手)山形だったらあれぐらい強くいかないとハマらないし、昇格した先に上のカテゴリーで勝つためにっていう意味で、いつもどおりプレーしただけです」

観る人に面白いと思ってもらえるように、目指す高みに届くように――。常に最善の準備を尽くしながら、松崎は「俺を試合に出せ」と静かに闘志を燃やしている。

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