玉木雄一郎さん、自民の9条改正案「妥協して生ぬるく拉致被害者救えない」~夜の政論② (original) (raw)

自民党の憲法9条改正案を「生ぬるい」と語る国民民主党の玉木雄一郎代表=東京都港区新橋の「京矢」(酒巻俊介撮影)

自民党の憲法9条改正案を「生ぬるい」と語る国民民主党の玉木雄一郎代表=東京都港区新橋の「京矢」(酒巻俊介撮影)

国民民主党の玉木雄一郎代表と、東京・新橋の日本料理店「京矢」を訪れた。稀少な銘柄日本酒で気持ちがほぐれた玉木さんは、最近なにかと注目を集める自民党との間合いを語りだした。経済対策では先導役になっていると自負するが、共闘する憲法改正を巡っては、9条の条文を残したまま自衛隊の存在明記だけで終わる自民案を「生ぬるい。公明党が飲めるように中途半端に妥協した結果、北朝鮮にいる拉致被害者すら救出できない代物になった」と酷評する。

自民がちょっと頑張ればできることを提案する

「玉木さん久しぶり。ここに来たらお酒を飲まないとダメでしょ」

女将が手にしていたのは、三重県名張市の銘酒「而今(じこん)」‖木屋正酒造‖の「純米吟醸雄町」だ。「雄町」は山田錦など高級酒米の源流で、幻の酒米ともいわれる「雄町米」を指す。酒蔵のホームページには「ふくよかなうまみと果実のような甘味と酸味」が広がると紹介する。

玉木さんはゆっくり口に含んだ後、「うーん、うまい! やっぱりうまいねえ而今。これが而今」とうなった。先付け代わりにやってきた鮭の塩焼きに箸を伸ばした後、而今のグラスを再び手にする。

「とてもすっきりしているね。精米度の高さも感じる。また、この鮭が塩辛くなく、身の甘さが而今の深みと絶妙に合うよ」

確かに、この鮭は塩味より身の甘味が勝るような味加減で、透き通るような而今とマッチしている。

「お酒って知識がなくても思ったことをいうだけでいい。お酒は語り。『ヨーグルトのような香り』といえば、ヨーグルトなんか入ってなくてもそれでいい。語ることでおいしくなるんだから」

テーブルの酒に最適な「あて」を考えるメニュー‥。酒のみのための店ですよね。

「この店に通うきっかけになったのは、新型コロナウイルス禍だったんだよね」

当時、京矢は東京・赤坂などで複数の店舗を経営していたが、コロナ禍で客足が一気に途絶えた。即座に問題となったのが各店舗の家賃だ。多くの飲食店は、月々の売り上げを家賃などの支払いに充てているので、即座に運転資金の枯渇という危機に直面する。

玉木さんは京矢の窮状を聞き、飲食店の経営救済策として、日本政策投資銀行が家賃を一度立て替えて払い、経営が落ちついたら返済するという法案を作成して国会に提出した。法案は成就しなかったが、政府はこの後、飲食店の家賃補助の仕組みを整え、一定の成果につながった。

「当時は新宿のホストクラブからも陳情を受けた。彼らがなぜ困ったかといえば、与党に政治献金していなかったからだ。飲食店をまとめる力のある業界団体なんてないでしょ。彼らは行政とのつながりもない。国家が『店閉めろ』『酒出すな』と命令するのに、しっかり支援しないなんて憲法違反だから」

確かコロナ禍が始まった当初、国民民主は国内の感染初確認から2カ月程度で、国民1人当たり10万円の一律給付も訴えた。

「私はよく与党の議員から『あなたは私たちがちょっと頑張ればできそうなことばかり言っている』といわれる。ここがポイントだ。よく『自民に近寄っているんじゃないか』といわれるが違う。自民にできないことを言うのだ。でもちょっと頑張ればできるから、1年ぐらい後には、私たちの政策が実現されていたりする。現実的かつ着実に改革を促している自負はある」

玉木さんは一例として、岸田さんがこだわった所得税減税を出した。

「私が最初に所得税減税をやれといい出した自負がある。物価が継続的に上昇するインフレの時代には不可欠だから。でも、岸田さんはやり方を間違えた。私は『インフレの度合いに乗じて(年収から一定の課税対象額を引き下げる)基礎控除の金額を上げる減税をしたらいい』とアドバイスしたのだ。基礎控除は、生きるために最低限必要なコストは課税しないという概念で、同じ手法は米国もオーストラリアもやっている」

女将さんが、次の酒として山形県村山市の銘酒「十四代」(高木酒造)の「角新、本丸、生酒」の一升瓶を持ってきた。「十四代で火入れをしない生酒の新酒を出すのは今の時期だけよ」と解説しながら、卓上に新しいグラスを並べる。

山形県の銘酒「十四代」 の「角新 本丸 生酒」を手にする国民民主党の玉木雄一郎代表=東京都港区新橋の「京矢」(酒巻俊介撮影)

山形県の銘酒「十四代」 の「角新 本丸 生酒」を手にする国民民主党の玉木雄一郎代表=東京都港区新橋の「京矢」(酒巻俊介撮影)

「ううん、これはジュースだな」

口に含んだ玉木さんが相好を崩す。「フレッシュでするする喉を通る。フルーティーな香りもして、外国の方が飲んだら白ワインだと思うだろうな」

これを見た女将さんが「どんな偉い人でも、私の前に来るとやることがなくなるの」といいながら、冷えた生酒をさらに注ぐ。デザート酒として知られる貴腐ワインの一歩手前のような雰囲気だ。

「十四代というときりっとした印象があるが、これはいい意味での甘ったるさが残っている。これ自体がおかずのようだ」

岸田首相は意外と長持ち

いい気持ちになったところで、もう1度自民との関係を聞きたい。前回の「夜の政論」シリーズに登場した立憲民主党の枝野幸男前代表は、「次の衆院選で自民党は岸田さんで勝負しないだろう」と首相交代の可能性に言及した。玉木さんはどう思いますか。

「岸田さんの今の姿をみると、意外と長持ちするんじゃないかな。岸田さんが強いわけじゃないけど、自民では派閥が力を失っていく構図だ。結果的に『岸田さんのほかに誰もいなくなった』という構図になるのではないか」

確かに現在、自民では「岸田降ろし」につながるような動きはない。

「例えば菅義偉前首相と二階俊博元幹事長が石破茂元幹事長をそろって担ぐ、なんて動きをしたら、そっちの方が冷ややかにみられると思うよ」

石破さんは昨年、岸田政権の支持率急落をみて「来年度予算が通ったら辞めるのはありだ」と語ったこともある。

「石破さんとは個人的に親しいけど、首相候補としては古くなっていると思うんだよね。『古い』といえば、自民の憲法の議論そのものが古い」

話題はいきなり憲法改正へ。玉木さんは、今後の改憲論の行方が、政治全体の流れを変える決め手になると指摘する。

9条案は公明党が飲めるよう中途半端に妥協した

「自民の9条改正案はあまりに生ぬるい。(平和主義や戦力不保持などを定めた)9条1、2項をそのまま残して自衛隊の明記だけしても、できることは何も変わらない。北朝鮮に行って拉致被害者を救出することもできない。自衛隊の名前を書くなら組織論としての違憲は消えるだろうが、自衛隊が自衛権を行使しても、9条2項との関係で違憲論をひきずったままになると思う。この問題を残したまま発議し、国民投票で否決されたら、その瞬間に自衛隊の存在が宙に浮いてしまう。自衛隊が不安定な状態になったとき、中国が(軍事的圧力を)かけてくると思うよ」

玉木さんが静かに十四代の残りを流し込む。

「その意味では、自民の改正案に反対した石破さんと気が合う。この案は公明党も飲めるように中途半端に妥協した結果だ。自民も適当に保守の票がほしいがために、ごまかしている感じがするんだよ。中途半端なものはかえって改憲を遠ざける」

一方で、玉木さんは返す刀で改憲に消極的な野党勢力にも矛先を向ける。(聞き手 水内茂幸)

玉木さんの「夜の政論」第3回は1月22日午前11時30分にアップします。

京矢 東京都港区新橋11-5-5 グランベル銀座Ⅱ 2F 電話03-3573-7171

「自民は下野前の姿に」~玉木さん夜の政論①