『嫉妬と階級の『源氏物語』』 大塚ひかり | 新潮社 (original) (raw)
はじめに 『源氏物語』は嫉妬に貫かれた「大河ドラマ」
第一章 『源氏物語』は「ifの物語」?
上流だった紫式部の先祖/清少納言と紫式部の違い/紫式部の希有な共感能力とプライド/『源氏物語』は紫式部の願望が生んだ「ifの物語」?
第二章 はじめに嫉妬による死があった
僅差の世界の中で/嫉妬と中傷といじめ/千年前から嫉妬で人は殺されていた/嫉妬される側が弱い立場だと……/嫉妬が“よこさま”な死を招く/いじめ、生き霊、無視……『源氏物語』の嫉妬の形/ネットリンチ顔負けの現実/不幸になるのは「自己責任」という考え方/紫式部も嫉妬されていた/紫式部のたくらみ
第三章 紫式部の隠された欲望
厚遇される落ちぶれ女と、冷遇される大貴族の令嬢/嫉妬と生き霊……相手が下位者の場合/嫉妬と生き霊……相手が同等もしくは上位者の場合/権門女性の不運と、孤児同然の紫の上の幸運/推しは「中流の女」/紫式部の願望と階級へのこだわり/平安中期の階級移動/「物質的な落ちぶれ」より「身分的な落ちぶれ」が下という感覚/親族の階級格差と嫉妬
第四章 敗者復活物語としての『源氏物語』
“数ならぬ身”を嘆く受領階級の女たち/娘の結婚による階級移動を目指す明石の入道/いったん落ちぶれながら、極上の栄華を目指す/実はいとこ同士だった桐壺更衣と入道/『源氏物語』が四代の物語を必要としたわけ/受領階級だから厚遇される/『源氏物語』は敗者復活の物語/“数ならぬ身”を嘆いた紫式部
第五章 意図的に描かれる逆転劇
紫の上の浮き沈み人生/紫の上の継母の嫉妬と憎悪/継母としても優秀な紫の上/二代にわたる興亡/母親世代の屈辱を、子世代でリベンジ/「理想的な嫉妬」という欺瞞
第六章 身分に応じた愛され方があるという発想
紫の上の異母姉の最悪な嫉妬/爆発する嫉妬/相手が「下位者」の時だけ、嫉妬をあらわにする紫の上/「私は女三の宮に劣る身ではない」という心の叫び/異母姉と対比される嫉妬/紫の上の不幸を喜ぶ“御方々”/女三の宮に集まる同情/身分の高い女こそが愛されるべきだという発想/優れた人は早死にしてほしい/実は妻の身分に不満があった源氏/「一抜けた」した幸運児を追いつめる世間
第七章 「ふくらんでいく世界」から「しぼんでいく世界」へ
嫉妬することもゆるされぬ女の存在/召人に初めてスポットを当てた『源氏物語』/召人に優しい源氏、冷たい鬚黒/物語に突如現れる忘れられた敗北者/「上昇する人々」の世界から「下降する人々」の世界へ/階級にこだわる男、柏木の挫折/父の厭世観と階級へのこだわりを受け継ぐ薫/結婚を拒否する女、大君/唐突に現れる浮舟と、周到に用意された母・中将の君
第八章 嫉妬する召人の野望
宇治十帖のキーワードは“数”/『源氏物語』の受領階級は必ず「落ちぶれ組」/堂々と物質主義な人々の登場/懲りずに八の宮家に接近する中将の君/私だって北の方と同じ血筋だという叫び/自分自身のために見て感じて語る、物語初の女房階級/中将の君の野望
第九章 腹ランク最低のヒロイン浮舟の生きづらさ
繰り返される「身代わりの女」というテーマ/母の饒舌と、娘の寡黙/人間扱いされない浮舟が気にかけるのは……/大君の“形代”としてしか有用でない浮舟/薫には放置され、匂宮には召人扱いされて……/匂宮の前では生身の女になる浮舟が死を決意するまで
第十章 男の嫉妬と階級 少子・子無し・結婚拒否という女の選択
殺人につながった男の“ねたみ”/大貴族の嫉妬の形とは/変わらない男たち/生きていても“不用の人”という自意識/all or nothingの親/本当は結婚したくなかった女たち/少子・子無しへの志向/右肩下がりの時代、「不自由な女」の辿り着いた場所/桐壺更衣の本音
おわりに 紫式部のメッセージ
彰子サロンを挙げての『源氏物語』製作プロジェクト/嫉妬し、嫉妬される紫式部/紫式部の「処世術」/作家の思想を超えた浮舟の境地
『源氏物語』の嫉妬年表 参考原典