世界が認めるbeyerdynamic~“Made in Germany”の確かな品質 マイク開発工場編 (original) (raw)

世界が認めるbeyerdynamic~“Made in Germany”の確かな品質 マイク開発工場編

2024年に創業100周年を迎えたドイツの音響機器ブランド、beyerdynamic。“Made in Germany”をモットーに、ハイルブロンの自社工場で開発/生産されている製品は、世界中で数多くのエンジニアやクリエイターに愛用されている。7回にわたって同社の魅力を深掘りする当連載の第5回は、マイクの開発工場からのレポートをお届けする。歴史と伝統に裏打ちされたハンドメイド技術は、リボン・マイクをはじめとする数々のマイクの製造においても、そのクオリティを確かなものとしている。貴重な本社施設、リボン・マイクのダイアフラム製造の様子(当ページ写真)など、本来であれば撮影禁止のところ特別に許可をいただいて撮影した工場内の写真から、その息吹を感じ取ってもらえれば幸いだ。

Photo:Hiroki Obara

Report 1:“Made in Germany”の結晶〜ダブルリボン・マイク

連載第1回で紹介した、ブランド初のダイナミック・マイクM 19が誕生したのは1939年。その18年後の1957年に、リボン・マイクのM 130とM 160が発売された。両機種とも、マイクの収音部であるリボンが2枚重なった構造になっており、それが“ダブルリボン”と銘打たれているゆえんだ。

M 130は双指向性で、M 160はリボン・マイクとしては珍しいハイパーカーディオイドを採用している。2本を同じポイントに立てて、M 130をSideの、M 160をMidの録音として用いるMS方式での収録にも対応している。

大きな特徴として挙げられるのが、筐体が非常にコンパクトな点。その小さなサイズが柔軟なマイキングを可能にし、かつ高い耐久性や独特の音響特性も備えている。それが実現できているのは、人の手による高度な製造技術があるからこそ。その一端を次にご覧いただきたい。

M 130

M 130|オープン・プライス(市場予想価格:164,750円前後)

M 160

M 160|オープン・プライス(市場予想価格:145,200円前後)

リボン・マイクのダイアフラムは、永久磁石とその間に設置するリボンから成る。リボンは純度の高いアルミニウム素材でできており、約3µmに圧延加工。2枚のリボンは約0.5mmの間隔で重なっている。リボンを取り付ける際にはピンセットを使用。最も気をつけなければならないのが、磁石に触れないようにすること。磁石とリボンの間は約0.1mmで、この後の作業も通して、磁石と当たらないよう、常に確認を行っているそうだ。

リボンを取り付ける際にはピンセットを使用

リボンを取り付ける際には顕微鏡も使用しながら、取り付ける位置を調整する。また、併せて手持ちのルーペでもチェック。この際にわずかな息を吹きかけて、リボンがきちんと振動しているかどうかの確認も行っていた。リボンの動作はマイクの音質にも関わってくる重要な部分のため、熟練した技術が必要となる。取材に応えてくれた彼女は「とても繊細なものです。日本の折り紙のようなものと言えるかもしれませんね」と笑顔で語ってくれた。間近で一連の手順を見ていたが、一朝一夕でできるものではなく、まさに“職人技”という表現がふさわしい工程だった。

リボンを取り付ける際には顕微鏡も使用しながら、取り付ける位置を調整する

併せて手持ちのルーペでもチェックする

グリルを取り付ける前のM 130。ここからパーツの取り付けや、後述する無響室での音響測定などを行っていく。

グリルを取り付ける前のM 130

驚くことに、1957年に発売されて以来、製造方法は一貫しており、大きな仕様変更は行われていないという。開発当時から優れた音質を持っていたからこそだろうが、これほどの長期にわたって特性を変えることなく生産され続けるマイクはとても珍しいのではないか。長年培われてきた“Made in Germany”による技術の結晶と言えるだろう。

Report 2:最終工程まで完遂するハンドメイドへのこだわり

続いて、ハンドヘルド・タイプのダイナミック・マイクTG V70のアッセンブリ(最終組み立て)の様子をレポート。ここでも機械ではなく人の手による作業が行われている。工程が多岐にわたっており、作業内容も細かなものであることから、人間が行うほうが速く進められるそうだ。今回作業を見せてくれたスタッフは、流れるようにスムーズな手つきであっという間に組み立てていた。機材を丁寧に扱うことは音楽に関わるすべての人が意識するべきことだと思うが、一つ一つ手作業で作っているのを目の当たりにして、一層その意識を強く持ってもらいたいと感じた工程だった。

TG V70

TG V70|オープン・プライス(市場予想価格:35,200円前後)
※下記写真はオン/オフ・スイッチ付きのTG V70 Sの組み立て工程

❶カプセルとボディを組み合わせ

❶カプセルとボディを組み合わせ

❷ピンセットで結合

❷ピンセットで結合

❸コネクターを結線

❸コネクターを結線

❹パーツをネジ止め

❹パーツをネジ止め

❺ロゴ・シールの貼り付け

❺ロゴ・シールの貼り付け

❻スイッチを結線

❻スイッチを結線

Report 3:テスト/測定のための充実した本社設備

最後は本社施設内に設けられた2部屋を訪問した。

無響室

無響室

無響室は地上から2mの位置にあり、床はトランポリン状の素材で、一度の入室を5名までに制限。広さが7×7m、高さも7mと建設当時はヨーロッパ最大級の大きさを誇っており、現在でも運用されている。通常リボン・マイクの場合は、感度、リボンの張力などを反射のない環境下でテストしている。

チャンバー・ルーム

チャンバー・ルーム

チャンバー・ルームはノイズ・キャンセリング機能を持つ製品のテストなどに使用。ナイロン製のリフレクターをつり下げ、音が均等に反響するようにしている。製品のために妥協しない姿勢は、こういった設備にも現れているのだ。

ドイツ本社施設で製造されたほとんどのマイクには、これらの部屋でテストした個別の測定結果を記録したシートを同封する。そのほか音響測定用マイク、MM1は補正用の個別の特性データも入手可能。beyerdynamicのマイクを手に入れた暁には、自分だけのマイクとして、シートも大切に保管してもらいたい。

M 160に付属する個別の測定結果のシート。beyerdynamicのマイクには、一部製品を除いてこちらのシートが付属する

M 160に付属する個別の測定結果のシート。beyerdynamicのマイクには、一部製品を除いてこちらのシートが付属する


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