【独自】日本政府がミャンマー軍政派遣の外交官5人を承認 (original) (raw)

9月末、東京・霞が関の外務省前のデモで、国軍が派遣した外交官の受け入れに失望感を示すミャンマー人ら=東京・霞が関で(デモ参加者提供)

9月末、東京・霞が関の外務省前のデモで、国軍が派遣した外交官の受け入れに失望感を示すミャンマー人ら=東京・霞が関で(デモ参加者提供)

2月のクーデター後、ミャンマーを実効支配する国軍が、日本に派遣した外交官計5人を、日本政府が認めていたことが分かった。外務省は邦人保護などの必要性から相互窓口の維持を理由に挙げている。「軍政の承認ではない」と説明しているが、民主派が設立した「挙国一致政府(NUG)」とは密接な関係を築いておらず在日ミャンマー人から失望の声が上がっている。(北川成史)

◆外務省「必要最小限の外交窓口必要」

同省によると、日本は国軍の求めを受け、5人に外交の在留資格を付与した。同省は「個人情報」として、赴任時期や肩書を明らかにしていないが、8月下旬以降、数回に分け、在留資格を得て日本国内の公館に着任したとみられる。

同省担当者は、軍政の正統性の承認とは「違う」としつつも「ミャンマーで邦人が危機に陥った時などのため、必要最小限のやりとりは確保しないといけない」と主張。日本の外交官をミャンマーが受け入れるのと同様の対応だと、相互性の重要性を説明した。

クーデター後の3月、職務放棄して抗議の意思を示す「市民不服従運動」に在日ミャンマー大使館の外交官2人が参加し、国軍は2人を解任し外交旅券を無効にしたと日本政府に伝え、在留資格の取り消しを求めた。2人は大使館を出て知人宅などに身を寄せているという。

政府は国軍のこの要請に応じず、外交の在留資格で2人の滞在を認めている。外務省担当者は「外交旅券無効の事由が確認できなかったため、判断を留保した」と説明している。新任外交官について、2人の後任かどうかという扱いもしていないという。

◆在日ミャンマー人「期待裏切った」「絶望感感じた」

国軍が派遣した外交官を日本が受け入れたとの情報は在日ミャンマー人の間で広まり、9月末には東京・霞が関の外務省前で、抗議デモが開かれた。約100人が参加し「日本政府は期待を裏切った」「絶望感を感じる」と書いたプラカードを掲げた。

中心メンバーのマイ・チョー・ウーさん(52)は、NUGの事務所が欧米のほか、アジアで初めて韓国に開設されたのを引き合いに出し「日本は『軍政が勝つかもしれない』とびびっている。もっと民主派の側に立ってほしい」と訴える。

クーデター後、国軍の弾圧による死者は、地元人権団体の調べで1100人を超える。だが、開発援助を通じて民主化を後押しする「関与外交」を進めてきた日本はクーデターを批判しつつも、欧米と比べ、国軍幹部に対する入国禁止などの制裁を導入せず、ソフトな態度をとっている。

そうした中、英国で4月、クーデターを批判したミャンマー大使が軍政に解任され、大使館から閉め出される出来事があった。英政府は解任後も大使の滞在を認めたが、ミャンマーとの外交関係は維持している。

今回の日本政府による外交官受け入れについて、根本敬・上智大教授(ミャンマー近現代史)は「拒んだら、外交の相互主義の原則で、仕返しに日本の外交官の赴任を拒否される恐れがあると政府は考え、英国などの対応を見ながら判断したのだろう」と推し量る。

外交窓口の必要性には理解を示しつつ、在日ミャンマー人の反発について「クーデター政権が送り込んだ人間を認めたのだから怒るのは当然だ。日本の外交はNUGを軽んじている。『軍政自体は承認していない』と、しっかり説明していかなくてはならない」と指摘した。