SuicaやPASMO使えない 独自カードの茨城交通 「相互利用に費用かかる」 バス利用者から「不便」の声 (original) (raw)

「いばっピ」を読み取り機にタッチする様子。運賃箱には「いばっピ以外の交通系ICカードは使用できません」との注意書きがある=水戸市で

「いばっピ」を読み取り機にタッチする様子。運賃箱には「いばっピ以外の交通系ICカードは使用できません」との注意書きがある=水戸市で

茨城県内大手のバス会社「茨城交通」(本社・水戸市)の路線バスで、Suica(スイカ)やPASMO(パスモ)などの交通系ICカードが使えない。使えるのは同社独自のICカード「いばっピ」や日立地区の「でんてつハイカード」で、新入生や観光客らが多く訪れたこの春、「不便だ」という声があちこちで聞こえた。一方、同社は「相互利用には費用がかかりすぎる」などと独自の乗客サービスを進める構えだ。(竹島勇)

「驚いた。水戸市を走るバスならJRのSuicaが使えると思っていたのに」。今月七日、水戸駅北口にある茨城交通の営業所前で行列に並んでいた福島県いわき市の女性(47)はうんざり顔で話した。

女性は、茨城大に入学した長女(18)に付き添い、いばっピの定期券を買おうとしていた。長女は自宅からJR常磐線で水戸まで出て、そこからバスに乗る。女性は「五百円のデポジット(保証金)を支払ってもう一枚カードを作るなんて」と話した。

二月から三月にかけての水戸の梅まつり期間中にも、観光客らが「SuicaやPASMOは使えないの」「運賃はいくら」と、案内の職員に尋ねる光景が見られた。

県内で路線バスを運行している主な会社は、茨城交通、関東鉄道とそのグループ会社三社、JRバス関東、朝日自動車、茨城急行の八社。茨城交通は水戸市、日立市を中心に路線バスを運行する「県内では関東鉄道のグループと並ぶ大手」(県交通政策課)だ。同課によると、その八社の中で唯一、SuicaやPASMOを使えない。鉄道ではJR東日本、関東鉄道、つくばエクスプレスで利用でき、鹿島臨海鉄道、ひたちなか海浜鉄道、真岡鉄道で利用できない。

水戸駅前を走る茨城交通のバス=水戸市で

水戸駅前を走る茨城交通のバス=水戸市で

JR、私鉄など主な交通系ICカードの相互利用が始まって十年。どこでも同じカードで乗れる便利さに慣れた人は多い。

大井川和彦知事も二〇一九年十二月の県議会で「本県の全ての交通機関で使えるようになることは、高齢者をはじめ、利用者の利便性の向上につながる」と、相互利用の拡大を期待する答弁をしている。だが県や水戸市が費用を補助して導入を促すような制度はない。

他県に目を向けると、自治体が費用の一部を負担した例もある。宇都宮市ではSuicaの機能に加え、地域独自のサービスが一枚のカードで利用可能となる国内初の「地域連携ICカード」を二一年三月に導入した。名称は「totra(トトラ)」。県内外の主な公共交通機関と八月に同市で開業予定の次世代型路面電車(LRT)で利用できる。初期費用はバス事業者と国、関係自治体がおおむね三等分で負担した。

◆任田社長に聞く クレカやスマホ対応で利便性図る

茨城交通の任田(とうだ)正史社長に、相互利用に参加しない理由を聞いた。

任田社長は「コストの問題。初期費用に億円単位のお金がかかる」と説明。さらに、15年に導入した自社のカードいばっピに触れ、「独自のサービスを付けやすいメリットがある」とアピールした。

同社では、いばっピ利用で運賃を10%割引。平日午前10時から午後2時までに乗車するか降車するとさらに10%の割引などのサービスがある。任田社長は「運賃収入のうち、いばっピ利用が約8割。地域の方には定着していると思う」と話す。

一方で、任田社長は「JRなどから乗り継いで来た人は1枚のカードなら便利だと思うでしょう。時々、『Suicaも使えるようにしてほしい』というご意見もいただきます」とも。

いばっピを持っていない人への対応として、今年12月にもクレジットカードのタッチやスマートフォンのバーコード読み取りで瞬時に運賃支払いができるシステムを導入する。

任田社長は「これで残り2割の人をかなり取り込むことができると思う」と自信をのぞかせた。