宣伝広告なのか、記事なのか「オウンドメディア」が活況の理由 信用のカギは「ぶっちゃけて伝える」 (original) (raw)

企業が自社の情報などを直接発信する「自社メディア(オウンドメディア、OM)」が、深化している。各社こぞって参入するばかりでなく、最近は編集者などメディア業界経験者を起用し、高い質を目指すケースも。とはいえ、情報は第三者が伝えるからこそ、受け手が信頼するのでは。自分で自分を語るメディアが、なぜ活況なのか。(中沢佳子)

◆「コミュニケーションの速度は増すばかり」

「会社の思いやビジョンを『体を持った言葉』で伝えられ、社内外の求心力になっている」。キリンホールディングスOMの編集長を務める平山高敏さん(40)が、意義を語る。

自社メディアの効果や意義について語る平山高敏さん=東京都中野区で

自社メディアの効果や意義について語る平山高敏さん=東京都中野区で

平山さんはウェブ系広告代理店を経て、旅行ガイドなどを手がける昭文社で女性向け観光案内「ことりっぷ」のウェブ展開に携わった。デジタル関連事業の担当としてキリンに入ったのは、2018年。当初はECサイトで、食べ物と飲料のペアリングや新商品の話題などを執筆していた。しかし、社内で取材するうち、商品づくりの経緯に関心が向き、開発者のインタビューを始めた。

「作り手としての思いが強い人ばかり。開発の裏側を知らない人たちに伝えれば、共感が集まると思いついた」。スマートフォンや交流サイト(SNS)の普及で、情報との接し方は変化している。「コミュニケーションの速度は増すばかり。企業も自ら発信していかなくては」とも考えた。

19年、文章や画像の投稿サイト「note」で同社公式noteを立ち上げた。noteに着目したのは、機材や動画編集の技術がさほどいらないから。「派手なユーチューバーがあまたいる世界と比べ、目を付けてもらいやすい。利用者は主に若い世代で、社会性や物語性のある内容を好むのが特徴。社の思いを伝える場にふさわしい」

◆成功談ばかり書き連ねない

現在、主要閲覧者は社外の20〜40代。今はOM「KIRINto(キリント)」も運営する平山さんは「広告を打つよりコストが安い。社員が記事の内容を営業トークのネタに使ったり、採用活動につながったりと、副次的効果もある」と利点を語る。鍵は、成功談ばかり書き連ねないこと。「人間が興味を持つのは物じゃない。人間だ。個人の思いや物事の経緯を、失敗や苦労も含めて伝えると、読む人が共感できる」。就職先を選ぶ際、社会的課題への取り組み度合いをみる就活生も多い中、自社の姿勢を言葉にすることも欠かせないという。

OMには企業哲学の発信や好イメージの醸成の他に、ファンが集う場づくりとしての意義もある。平山さんも商品の愛好者を巻き込んだ企画を打っている。「例えば、紅茶飲料の開発者と茶葉専門店主の対談。ラガービールに対する思い入れを、一般消費者や料理家、ワイン専門なのにラガービールだけはメニューに入れている飲食店経営者などに尋ねる特集もした」

OMが注目され始めたのは、10年ごろとされる。商品に込めた思いや自社哲学などを伝え、顧客の囲い込み効果が見込まれた。ただ、OMの記事と商品の売り上げ動向をつなげて考えないようにしているという。「売り上げを意識すると内容がゆがむ。それこそ、企業が自分に都合のいいことを勝手に発信していると受け止められてしまう」

◆自社完結、トヨタもユニクロも

雑誌「POPEYE」の元編集長が手掛けるユニクロの「ライフウエアマガジン」。自社メディアを活用する企業は増えている

雑誌「POPEYE」の元編集長が手掛けるユニクロの「ライフウエアマガジン」。自社メディアを活用する企業は増えている

専門誌「広報会議」が21年に行った調査で、OMに「注力している」という企業は8割超。期待する効果は「イメージ向上・ブランディング」「認知向上」「企業姿勢や事業価値の理解促進」が上位だった。

宣伝広告の域を超え、読み物として成り立つOMも。例えば、IT企業サイボウズの「サイボウズ式」は組織関連や働き方改革の話題を扱い、研究者...

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