「なぜ女性は昇進できない」を解明した川崎市職員にたっぷり聞いた 「軽視される仕事」と「形状記憶合金」 (original) (raw)

なぜ女性は「昇進」できないのか。

川崎市職員の佐藤直子さん(50)は長年、自治体職員として働きながら感じてきたモヤモヤの正体を解明しようと、自治体の女性職員のキャリア形成などについて大学院で研究に取り組んでいます。女性は昇進したがらない? 女性管理職が就く部署は決まっている? 現状の背景には何があるのか、変えていくことはできるのか、話を聞きました。(小林由比、北條香子)

佐藤直子(さとう・なおこ) 川崎市こども未来局青少年支援室子どもの権利担当課長。1998年入庁後、児童館での青少年健全育成業務、公務災害・通勤災害事務、区役所での市民協働まちづくり業務、総合計画などの庁内調整事務、市長への手紙、コールセンターなどの公聴担当、幼児教育担当などを担当してきた。自身を含めた女性職員のキャリアパスに関心を持ち、2018年から研究を開始。22年4月から埼玉大経済経営系大学院博士後期課程。専攻は労働経済論、ジェンダー論。著書に「女性公務員のリアル―なぜ彼女は『昇進』できないのか」(学陽書房)。

◆異動したら…知らないことばかり

―ご自身はどんなキャリアを歩んできたのですか。

佐藤直子さん

佐藤直子さん

民間の会社を経て、1998年に入庁しました。当時は就職氷河期で、意識低めな方だった私は、いろんな異動先がある役所なら長く働けるだろうくらいの感じで市役所に入りました。

最初の1年間児童館で勤務した後、本庁で庶務的なことを担当していました。30代前半で異動した労務課では、最初の1年は扶養手当や年末調整などの処理を担当しました。規定に当てはめていけばできる仕事で、当時は新人や女性がやる仕事、という感じでしたが、さほど気にしていませんでした。それが2年目で、係を異動になり、国が進める給与構造改革の担当となりました。役所全体で取り組む大きな仕事で、目立つポジションでした。

―何か変化がありましたか。

特殊勤務手当の見直しを担当したのですが、条例や規則、要綱や細々した運用の内規みたいなものがいっぱいあったり、組合との折衝などの知識も必要だったり。私はそれまでまったく関係のない仕事をしてきたので、全然わかりませんでした。でも、同じ職場にいた男性職員数人はみんな例規改正や人事、給与制度などの知識があった。「何で知ってるの?」と聞くと「やってたから」と。彼らは法制課や人事課、人事委員会など今の仕事に関連のある部署から異動してきていました。

◆「私はキャリアと関係なく配置されている」

川崎市役所

川崎市役所

なにも知らないのは私のせいではないのですが、「何でそんなことも知らないの」と言葉や態度でバカにされるようなことはよくありました。みんな忙しいから教えるのも面倒くさい、という雰囲気で。「ああ、他の職員は取ってつけたような配置はされていないんだな、私は職務経歴とは関係ない理由で配置されているんだな」と気づいたんです。

―違和感はその後変化していきましたか。

その後異動した企画調整課は、川崎市の中では官房系の部署で、役所の中では中枢と位置づけられている部署でした。大きな事業を進める際など、複数の部署にまたがることを内部調整することなどが仕事。調整をして合意を得て進める、といった経験が重視されますが、そういう仕事の経験も私は乏しく、苦労しました。

◆とりあえず10年間、黙って働いて…

役所で働く中での苦労の種類や度合いは「個人」というより「男」「女」というくくりによるのではないか、と感じるようになりましたが、10年間は黙って働こうと思いました。それは私自身が役所のことをよくわかっていないなと思ったから。自分もよくわからないので、まずはなんなのかやってみて、その上で自分がどう思うか確認しようと思いました。

―10年の間にやはり感じ続けた自身のモヤモヤに学術的にアプローチしようと、研究に入ったのですね。

そうですね。働く中で、確実に性別で割を食っているという実感はありました。その「分かっていること」を論文にしようと、40代半ばで放送大大学院修士課程に入りました。地方公務員の幹部職員がどういうキャリアをたどってきたかを聞き取り、その人たちがどういう仕事をしてきたか、その仕事の性質が男女でどう違うのかを明らかにし、女性職員の育成に効果のあるキャリアパスとはどういうものかを検討しました。