どのレンズで試合を観るか(それはともかく浦和レッズとてもつらい):J1リーグ2024第29節vs町田ゼルビア 分析的感想 (original) (raw)

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文脈とメンバー

町田のことは全く追いかけていないのでぜんぜんわかりませんが、今節を含めない8月のリーグ戦は1勝2分け1敗と戦績は低調(浦和レッズの8月の戦績?え?)。広島が連戦連勝で猛追してきていることからも当然求めるのは勝ち点3のみでしょう。夏のウインドーで獲得した中山や杉岡、白崎といった面々は揃って今節スタメンととなりました。ただ目玉の相馬はベンチ外。怪我ですかね。

一方の浦和は今節の直前に前任のヘグモ監督(以下『マティ』という)を電撃解任し、後任として復帰するスコルジャ監督(以下『すこ』という)が再来日できるまでは池田伸康コーチが暫定監督として指揮を執ることに。今節のスタメンの抜擢は池田暫定監督とすこの意見の50:50とのことで、前任者と比べて少し違う色が出てくる予感をさせる人選となりました。とはいえ今節のサッカーはマティ・池田・すこの戦術的な志向がどうこうというより、今節対戦する町田がサッカー的には非常に割り切ったスタイルであるため、ロングボール対応などの対策が強く念頭に置かれた対町田シフトだったのではないかというのが僕の感想です(後述)。

浦和はマティが解任される直前の3試合、26節vs鳥栖、27節vs鹿島、28節vs川崎(前半のみで中止)と内容面では決して悪くない試合をしていましたが、マティが当初仕込もうとした4-3-3は封印され、すこ体制を彷彿とさせる4-2-3-1でチームをリビルドするような方向性でした。4-3-3が封印された要因は攻守においていろいろあると思うのですが、今のところの4-2-3-1導入のコンセンサスとしてはディフェンス面、特にブロックを組むべき状況で安定した守備ができていない(ので勝ち点が積みあがらない)という課題に着手していたという見方となっているようです。

昨季の浦和はすこの下で4-4-2ブロックを武器に安定したゲーム運び(バイブス不足とも言う)を披露し好結果を残しており、この成功体験は良くも悪くも選手・スタッフを含めたクラブ内外にまだ残っているのでしょう。それがマティボールのシャットダウンに繋がったのかはわかりませんが、いずれにせよすこ再招聘を通じて4-2-3-1ベースのチーム作りの方向性(逆にいえばマティの目指した4-3-3の放棄)が強化された感はあります。したがってこれからは浦和は、少なくとも短期的には昨シーズンのセットディフェンスの安定を取り戻していく方向に進むのかなと思います。またもうひとつ、マティとすこで多少違うだろうなと思うのはスカウティングと対戦相手への対策の部分で、マティも対戦相手の特徴を踏まえていろいろと戦術を調整しながら戦っていましたが、すこはもっとリアリスティック路線なので、相手への対策もマティ体制よりも強調されるはずです。

すこ再招聘が決まった以上、バトンを繋ぐ役目の池田暫定監督がこの流れに勝手に逆らうとは思えません。となると今節への準備を始める段階で、文脈的には既に、すこ的なアプローチ、つまり町田のボール保持に対する浦和のボール非保持に意識的な準備(対町田シフト)をしてもおかしくない気がします。ここでいきなり4-3-3リバイバルで特攻じゃとか言い出したら事件ですからね。それはそれで面白いけど。いろいろな解釈があると思いますが、ここではそういうもんなのだという頭でこのゲームを考えていきましょう。

さて、メンバー構成で目を引いたのは佳穂のスタメン抜擢と凌磨のボランチ起用、それに伴う不遜のベンチスタートでした。試合前後のコメントからしても不遜のコンディションの問題で仕方なくこのような起用となったというより、単純にこうしたかったという起用なのだと思います。特に意図したのは中盤の攻防、特に球際の部分のようで、まあたしかに球際でぶつかってイーブンのボールをどうにかする部分に不遜の強みはないので、前述の文脈からしてもボール保持のクオリティではない部分を優先させたかったのかなと思います。町田はロングボールを蹴ってくる、それを何かしらの上手い方法でことごとくマイボールにしてボール保持(ずっと俺のターン)に移行するのは不可能である、また町田がロングボールを全く蹴らない状況に持ち込むのも簡単ではなく被カウンターリスクも大きい。となると嫌でもロングボールが飛んできて、そのこぼれ球が浦和の中盤の底に落ちる可能性はそれなりに高い、そこで負けたら高確率で死ぬ、みたいな思考回路でしょうか。

スカッド構成的には敦樹や岩尾が移籍したことで中盤の底に安パイ的な感覚で置ける選手が不足している現在の浦和レッズさんですが、本職がいないなら、ピッチ上であればどこに置いても不良債権化しにくい凌磨を選択肢にするというのはわからなくもありません。同時に、空いたトップ下に誰を起用するかという部分も「ボール非保持から考える」という補助線を引くとわかりやすい気がします。だから佳穂のスタメン起用も、池田暫定監督のモチベーター的采配でメンバー外から大抜擢とかそういうことではないのでは、という気がしています。まあそういう面もあったでしょうけど。同じようにチアゴではなく兄貴、中島翔哉ほかではなく関根とOKBというのもロジック的には同じ筋が通っているのではないかと思います。唯一、井上ではなく佐藤の方が空中戦には自信ありなのかなという気はしますが。

ゲームの構造:対町田シフト

というわけで、ゲームが始まる前から既に受けに回る準備ができている浦和レッズさんが町田得意のロングボール攻勢を浴びるという、予定調和的な展開でゲームがスタート。'01:20前後の望月のロングスローからの展開、'02:40の荒木の抜け出しからのクロス⇒CK⇒ナサンホのミドル⇒CKの流れと、町田の筋書き通り浦和のペナルティエリア内にボールが入ってくる状況を作られます。

ただ浦和からすればこれは想定内で、押し込まれることがあってもやるべきことは整理できていた印象。バコバコ蹴られてもロングボールが一発で収められて即致命傷シュートになる確率は低いので、ボランチの2枚が下がり目で待ち受けてセカンドボールを回収していこうという感じだったと思います。また前線の兄貴・佳穂コンビと両SHは結構前に出てプレス志向でしたが、奪いきるというよりはドフリーでロングボールを蹴られたくないという感じだったのかもしれません。ボールにプレッシャーがあれば相手も近いところのパスコースをそれなりに準備しないといけないので、ロングボールの受け手が自陣に殺到するのを多少緩和できるという要素もあるかもしれません(望月はそんなこと関係なく無心で前に張ってましたけど)。というわけで相手との配置のかみ合わせどうこうではなく、浦和の選手たちには追いかけまわす4枚と待ち受ける6枚みたいな感じの役割分担があったように見えました。 '07:10前後の流れ(追いかけ回し隊のプレスから前に蹴られた長いボールを凌磨がインターセプト、カウンター不発もナサンホから凌磨がボールを奪って被ファール・FK獲得)なんかはこの狙いが良い方向にハマった結果の一つですかね。

町田のロングボール攻勢を受けつつも耐える浦和は徐々にボール保持の時間を作れるように。トランジションが多くなる=町田のロングボールの試行回数を増やしてしまう展開は嫌なので、浦和としてはある程度マイボールには時間を掛けたいところ。町田にロングボールを蹴らせない唯一の方法は、浦和がボールを握ることですから。よく言うボール保持が最大のディフェンスってやつです。とはいえ町田の前4枚プレスは結構な迫力があるということで、マティボールだ!引き付けてパース!とかやってたら事故って死にそう、というわけで、浦和は人海戦術に出ます。ボール保持において浦和のボランチ2枚はほぼ毎回、かわりばんこに最終ラインに顔を出していました。安居はCBの間に、凌磨はたびたびマリウスと大畑のサポートに落ちていたような気がします。これで最終ラインの枚数を増やして4枚プレスを安全に躱して時間を作りつつ、前向きに出てくる町田に対して浦和の前線4枚(別名・追いかけ回し隊)がスペースに走って序盤はこちらもロングボールを落として被カウンターのリスクヘッジしつつ起点を作りたいというような感じだったでしょうか。

そんなこんなで前半13分くらいからは、ロングボールが飛び交いつつも浦和がマイボールの時間をつくるような展開で推移していきます。

試合展開①:たぶん狙い通りの前半

とりあえず町田のロングボール攻勢をしゃがみガードで受けつつ、自分たちでボールを持ってある程度ゲームをコントロールするところまではたどり着いた浦和でしたが、ここからは相手を崩していかなければなりません。浦和のボール保持時の配置的な基本構造はマティ体制のときとそこまで変わらず、両サイドのトライアングルを基盤に中盤での連動を狙う形。ただ、マイボール安定のためボランチ1枚を落としているところからスタートなので、後ろが持ち上がっていかなければ中盤の枚数が少ない分崩しの構成は難しくなります。とはいえボール保持で時間を作る狙いの反作用として分厚いオフェンスが失われることは受け入れるしかありませんし、もしかするとその辺は織り込み済みだったかも。なんでもかんでもアドをとるというのは無理ですからね。

一方で相手ゴール前に到達する効率に優れる町田は'19:40に決定機。中山の対角フィードが望月に繋がり、抜き切らないクロスがエリア内の藤尾に届きあわやのシュート。ここでオセフンがエリア内のスペースを使わずに外で待っているのは上手いなあと思います。いい形でクロスが入る時にゴール前で勝負できるようにしてるんでしょうね。そのスペースを反応の良さが武器の藤尾がファーから詰めて使った形でした。GK谷からたった2本のパスで決定機を作っているわけですが、ディティールの部分ではいろいろと工夫が見えるのが大雑把に蹴りこんでくるチームと町田ゼルビアの違いでしょう。

しかし次のプレーでは浦和に決定機。'21:27からのカウンターは兄貴のドリブルシュートが左ポストをかすめる結果に。このカウンターの前の段階では再び中山から望月への対角フィードで浦和左サイド深い位置をとられていましたが、フィードが蹴られる瞬間に関根が狙いを察知しがっつり背走して望月に追いつき(えらい)、大畑をエリア内に置いた状態で関根が望月を自由にさせない対応ができていました。望月が戻してやり直しとなったところでしっかり寄せた佳穂(えらい)が下田からボールをつついて兄貴にボールが転がるという展開でしたので、これは浦和の作戦と選手起用が上手くハマった形だったと思います。兄貴のシュートは明らかに中山にディフレクトしていましたが誤審によりゴールキックに(えらくない)。

飲水タイムを経てもゲームは概ね同じ展開。'28:45の町田の攻撃はこの日4度目か5度目の望月へのロングフィードからのクロス。これで得たCKを下田が蹴って望月がヘディング、枠内に飛ぶも西川がファインセーブ。'31:30前後では今度は町田の左サイドから杉岡のクロスに荒木がヘディングも枠外。そのすぐ外には192cmの望月が飛び込んでいるわけですから単純なクロスでも迫力満点です。'32:30の浦和はCBの間に落ちた安居から内側をとった関根への縦パス。ダイレクトで兄貴に通すも昌子のクリア。やはり浦和はマイボールの時間を長めに作れる一方で相手ゴールに迫る部分は単発になってしまいます。

この構造のまま試合が硬直するかと思われたのですが、先制は浦和。ボール保持の流れで内側をとっていた大畑が前にチャレンジして得たFKをOKBが蹴ると、ゴール前の選手が全員ニアに走る中でボールはファーへ。ただ一人ボールを待っていた関根が右のアウトでボレーを合わせてデザイン通りのセットプレーが決まりました。これが前迫ローリングSPか。

'39:30くらいで町田は藤尾と荒木のポジションを入れ替え。意図はわかりませんが枚数が合ってなくてもプレスに走れということだったでしょうか。とはいえ浦和は先制できましたので無理にボールをトランジションに晒す必要がなく、じっくりボールをキープしながら時間を使います。浦和の3枚回しに対して町田の前線は枚数不足で行っても無駄という意識があるのか、この時間帯になるとプレスの激しさも一段落しており、浦和は前から降りてくる選手も使いながらサイドを大きく変えつつ、4-4-2ブロックの間をとるような狙いのプレーも出てくるようになります。例えば'42:33に中山がターンで抜け出しかけた佳穂を押し倒したシーンは良い狙いで、イエローカード相当なのかなと思いました。'48:03の杉岡からのクロスのシーンはヒヤッとしましたがオセフンの背後に飛び込んだ藤尾のアタックを西川が何とか処理。浦和がリードしてゲームを折り返します。

受け身なゲームプランだったのはその通りですが、結果的には予見できるリスクをヘッジしつつゲームを進め、準備してきたセットプレーで先制しその後のゲームもある程度コントロールできており、非保持から考えてこのゲームに入った浦和にとっては狙い通りの前半と言って良かったと思いました。グッジョブ。

試合展開②:対策の対策などない

このままダラダラと試合を終えるわけにはいかない町田はHTにシステム変更で後半開始から仕掛けます。左サイドを落として杉岡がCBとなる3バックへ変更。前半猛威を振るっていた望月をあっさりと交代し、鈴木準弥を右のWBに。前線は2トップの下に荒木を置いて安居を捕まえる形にしており、3枚回しを仕掛けてくる浦和に対してマークをはっきりさせ、浦和のボール保持で時間を使わせない狙いだったのでしょう。自陣が多少薄くなっても、展開が早くなりトランジションが増えることそのものが町田にとってはアドバンテージになり得ます。

J1上位対決であればこの対策に対して浦和は何を見せられるのか?対策の対策はあるのか?というところが見どころになりますが、文脈的にもこの時点でのチーム状況的にも浦和にそんなものはありません。というかそんなことを考える前にゲームは振出しに戻ってしまいました。'48:04、安居が力強い球際を見せたこぼれ球を杉岡が前線へロビング。マリウスが落下点に入り、なんでもない浮き球処理かと思いきやまさかの胸パスを選択しミス。こぼれ球をシステム変更で中央に入っていた荒木に拾われると、町田のカウンター発動。ボールを預かったナサンホが縦に仕掛けてクロスを入れると、ゴール前でオセフン。ナサンホの仕掛けに全然寄せられなかった石原も良い対応ではなかったですが、クロスが入るタイミングでオセフンに完全に前を取られたマリウスの対応がだめでしたね。失点の起点にも直接的な要因にもなったマリウスが、失点した流れのままピッチに打ち上げられたサーモンのように死亡していたのが唯一面白かったです。いや何やってんだよお前。それにしてもナサンホとオセフンの質が良かったですね。韓国代表が同じ形で100万点くらい決めてそうなゴールでした。特にナサンホはこの試合を通じてこいつスゲーんだなと思いました。

'52:25のピンチもマリウスから。前半同様ボール保持で時間を作りたいものの相手と枚数が揃ってしまいボールホルダーに余裕がない浦和は、最終ラインが広がってなんとかプレスから逃げるボール回し。その流れで大きく左サイドに開いたマリウスが前線へフィードするも昌子がインターセプトしそのまま浦和のペナルティエリア内へスルーパス。反応した藤尾が右足を振り抜くもここは西川のグッセー。ただここから怒涛のピンチ祭りが開幕。'54:22の荒木のクロスにオセフンが飛びこんだシーンは奇跡的にオセフンの身長が足りずにノーゴール、'58:01にもナサンホが縦突破からのまたぎで石原をアンクルブレイクしてファーポストにあとは触るだけのボールを流し込みますが奇跡的に藤尾の脚が短くノーゴール。どちらも0.97点くらいは失点している感じでしたが、なんで助かったのかわかりません。

浦和はボランチにマークされている凌磨や降りてきてボールを受けるOKB、佳穂あたりにボールをつけてターンするくらいまではできていたのですが、その後がなかなかつながらずにカウンターを受けたりボール保持が切れてしまったりで、この時間帯まったくコントロールを失ってしまいました。'55:26に池田暫定監督がベンチ前で話をする場面がDAZNに抜かれているのですが、たぶんこのあたりで浦和側も「これはマジのガチでヤバいかも」となっていたはず。とはいえ根本的な解決を望める選択肢はありません。前半の浦和の狙い通りのゲーム構造と展開に対する町田の対応が早かったと思います。浦和が安定してボールを繋げず、西川が蹴っ飛し、トランジションの回数が目に見えて増えるにつれ、町田ペースが色濃くなっていくというわけです。

63分に浦和が選手交代。OKBと佳穂を下げてニターリオと長沼を投入。左から長沼、関根、ニターリオを並べます。これをみた町田も64分にオセフン⇒デュークの交代。当然こんな交代では流れは変わらず、'65:18も町田のチャンス。右サイドから左サイドに展開し、下田のクロスに藤尾のヘッド。トランジションからの自陣ゴール前大ピンチ連発で体力的にも精神的にもハードパンチをもらいまくっている浦和に対して、町田はもはやのボール保持の局面でも優位を築いており、今シーンでは長沼が良かれと思って町田の右WB鈴木に出たのですが、ひとつ内側の白崎に戻されると完全にフリー。これだけピンチ続きだと凌磨も前には出れません。サイドチェンジからこんどは逆サイドで下田に落とされるとこちらもフリー。しかもゴール前は3on2の状況なのに藤尾にフリーで合わせられる始末。急所以外全部撃たれましたみたいな感じです。浦和は最終ラインが下がり、3列目もそれに引っ張られ、ただ前線4枚はなんとかしようと中途半端に前に出たがるという感じでセットディフェンスの連動が雲散霧消してしまっているうえに、ボール保持でやれることはないので、この時間帯文字通りサンドバックでした。'68:20に白崎のサイドチェンジがキックミスでニターリオに入りますが何もできず。選手の特徴と配置、与える仕事もマッチングしていなかったですね。

後半の飲水タイムで一息つけた浦和でしたが、畳みかける町田は藤本とルーキーの桑山をこのタイミングで投入。押せ押せのタイミングで前線の味変、しかもナサンホと藤尾を切る決断とは、勝負師が過ぎます。普通ナサンホは残しときたいでしょ。

試合展開③:喉元ナイフと恐るべき浦和レッズ

飲水タイム明け、浦和は2列目の構成を変更し左から関根、ニターリオ、長沼でセット。ニターリオを2トップの一角みたいな感じにしたのでしょう。ゲーム展開は大きく変わらず、マイボールになっても早々に捕まる浦和はとりあえず蹴っ飛ばしてなんとかなるのを願う形。町田も疲労の色が見え始め強度は落ちますが、浦和ゴール前に効率よくボールを放り込んでくるのは変わりません。デュークに決定機が二つほどありましたが致命傷にならずにやり過ごすと、浦和はさらに選手交代。兄貴⇒チアゴ、関根⇒松尾で苦し紛れながらも攻め手を残します。

78分ごろからやっと浦和の敵陣ボール保持。ちゃんと数えてませんが後半これがはじめて落ち着けたタイミングだったのでは。松尾のミドルはシンプルに枠外でしたが、このタイミングで荒木が負傷交代。エリキが出場します。町田は'82:20にクリアボールを起点に藤本がエリア内でドリブルからシュートも石原がなんとかついていきブロック、浦和は'82:35に松尾がドリブルで侵入し、開いていたニターリオがクロスを入れますがチアゴには合わず(オフサイド)。この時間帯町田は左WBの藤本がほぼWGの役割、浦和は左SHの松尾が「俺にはもう前しか見えねえ」マンになっており、お互いにもう無傷では済まないとわかりながらも切りつけ合う喉元ナイフ注意報が発令されていました。

お互い組織が大きく間延びし、どちゃくそオープンな展開を制したのは浦和でした。'86:30、スローインの流れから大畑のクロスにチアゴが強烈なヘディングを突き刺し勝ち越し。町田はシステム変更で後半の盤面を支配しましたが、それによって3バックへの変更によってエリア内のマークが曖昧になったかもしれません。杉岡は最初完全にボールだけを追っていてチアゴが落下点をとっていることに気づくのが遅れましたね。それにしても大畑のナイスクロスでした。町田はスローワーの大畑とレシーバーの松尾の両方を鈴木一人で対処しなければいけない状況でしたが、これもWB一枚にサイドを任せる3バックシステムの弱みが出た形でしたね。終盤足が止まる時間帯で、ぬるっと始まったスローインだったのでサポートすべきボランチも棒立ちになっていました。本当は前線3枚の誰かが戻るのがセオリーですが、喉元ナイフ状態で前線が戻ってくるわけないですしね。

浦和はこのクロスで脚がつった大畑を即座に下げて佐藤を投入し5バックで逃げ切り体制。スタジアムのボルテージも最高潮で高らかに流れるPOU。来てました。大いなる流れが来てました。浦和に勝利の風がふいていました。'91:40には町田のロングスローからデュークのバックヘッドが枠内に飛びますが西川のエンペラーセーブ。そしてもはや何も考えずにボールを放り込んでくるだけの存在となった町田のクロスを自陣エリア内ではじき返し、ボールが相手陣地にこぼれると、松尾がイグニッション。観客約49,000人の前で哀れな杉岡を完全に千切るとGK谷も転がしてゴールイン。決定的な3点目で勝負は決まりました。国立競技場にこだますWE ARE REDSコール。ああフットボールはかくも美しい。

試合はゴールキックからリスタートしこぼれ球が浦和陣地に転がるとエリキが飛び込んでシュートも西川がゴッドセーブ。この流れのCKはなんとかやり過ごしますが続く'95:45には谷からのボールをエリア内で藤本に粘られ、石原ともつれて転倒。これはPK判定でも文句は言えませんでしたが、藤本のアピールがクサ過ぎたのかノーファールの判定。これは勝てる。名将池田ここにあり。アディショナルタイム7分を消化し浦和ボールのスローイン。あとは二か月ぶりの勝利の笛を待つのみ。あれっていうかなんで2-1のままなんだっけとか思ってらたらなぜかボールはGK谷に渡り、なぜかフィードが浦和ゴール前に飛んできてなぜかか藤本に折り返されなぜかエリキがフリーで押し込んで同点。そのまま試合終了となりました。恐るべし喉元ナイフ。恐るべし浦和レッズ。いやなんでだよ。

感想
  1. いやまず二田。お前な、良く走ったよ。松尾と変わらんスピードだったしな。驚いたよ。なんで味方の絶好機でボールに関係ない相手を引き倒してんだよ。必要あったか?ないよな?そのプレー一度でも教わったか?オーストリアってそうなのか?いやわかるよ。反省してるよな。これから全試合でゴール決めてくれよ。
  2. で石原。お前満身創痍なんだろ?キツそうだったもんな。なぜか右SB自分しかいないしな。でもあのスローインちょっと安易だったな。なんなら町田のタオルが入ってるビニール袋をわざと踏んですっころんで担架で運ばれるくらいの一芸を見せても良かったんじゃないか?
  3. そんでマリウス。ボールが流れると思って緩んだ瞬間にエリキ見失っちゃったな。今日はさんざんだったな。一回死んでたし。でもあそこは集中力を保ってほしかったよ。
  4. すみません取り乱しました。いやでもなんでだよ。浦和レッズつらすぎるだろ。
  5. 試合全体を通してみれば浦和の決定機は町田の1/10くらいしかありませんでしたが、内容と結果は必ずしも論理的に繋がるわけではないので、97分の時点でリードがあればどんな内容でも普通は勝ちゲームです。だから引き分けが妥当とはみじんも思えません。勝てよ。
  6. とはいえこの試合に臨む姿勢として、町田のボール保持(ロングボール)に対策する形で作戦を立て、それに見合う人選をしたこと自体は悪くなかったと思います。実際に前半はプラン通りのゲームができていましたし。後半は町田のシステム変更に一切対応できずにボコられましたが、そこを乗り切ると最後は町田もかなり消耗しており、交代カードが点をとって最終盤に勝ち越し、3-1まで見えていたわけですから、作戦は機能したと言っていいのでは。
  7. ところで巷では、『今節の浦和のこのやり方は、ヘグモ体制で積み上げてきたものの否定である、学びの文化は幻だったのだ!フ本解散!』というようなラディカルな意見が結構あるようです。別にその意見自体を真っ向否定したいというわけではないのですが、僕はすこし違う感想だったので今回ひさしぶりにチラ裏を書いてみました。つまり、別にこの試合で見えたものが即これまでの積み上げを否定するわけではない気がするし、別に池田暫定監督が何も学んでいないとかそういうことを断定できるわけでもないのかなというものです。しらんけど。
  8. 最初の方で触れましたが、そもそも、マティからすこへの監督交代の文脈をよく踏まえておく必要があると思います。池田暫定監督がこの試合への取り組みを考えるボスが既にすこであるという事実を踏まえると、このゲームへの取り組みにあたってすこ的なやり方がベースになるのは必然なのかなという感じがします。つまりスカウティングと相手の強みへの対策の部分がマティ体制に比べて強調され、ゲームプランに組み込まれるのは自然なことかなと。逆に言えばマティからすこへの監督交代は目の前のゲームへの臨み方がわりと大きく変わることを意味するし、この試合を理解するのにマティ体制を観ていたレンズを使ってしまうと、『今までやってきたことが全然できてないじゃないか!』とかなりがっかりするでしょうねという話で、文脈から考えると、(そもそも監督交代がそうなので)唐突感は否めないですが、僕たちはすでに(大枠として)すこのサッカーを観ているという意識がピッチ上の事象理解には必要になるような気がします。
  9. すこ的に考えて、もしくはすこにバトンを繋ぐ使命があり、選手が今何を感じているかよくわかっているであろう池田暫定監督の立場でものを考えると、このゲームが始まる時点で最も勝ち点を稼いでいたチームに得意のロングボールを蹴りこまれるのがわかっていながら無策でいるわけにはいかなかったと思うのです。町田のサッカーはいろんなものを捨てていますが、その分採用している戦術同士は深く連関されています。望月が去年の酒井よろしくビルドアップを放棄して高い位置に出て行き、そこにロングボールを蹴りこむ、クリアされたらそのまま望月がロングスローを投げる、といった具合で。しかも町田の戦術パッケージは非常にシンプルで発動コストが低いので制限が難しい。そうすると、暫定監督が指揮をとるという文脈やこのチームのボスが実質的にすこであるという事実、選手が表現できることと相手の強さ、厄介さといった現実を踏まえて、勝ち点のために受け身から入るという選択肢はそこまで間違っていなかったのではないかなと思います。とはいえ町田にロングボールを蹴らせない一番の方法はボールをずっと持っていることなので、その意味でマティ体制で積み上げたビルドアップを活かして不遜を中心にボールを握り倒すという選択肢もたしかにあったかもしれません。ですが「自分たち」にこだわる余裕が今浦和にあったなら、そもそもマティを解任する判断が出てこないでしょうし。
  10. もちろん監督を変えるごとにレンズを変えるような真似はしないという人もいるでしょうし、誰が監督であっても個人戦術の重要性は変わらないのだから一瞬でマティ体制でできていたことができなくなるなんて受け入れがたいという話も分かります。けれど、改めて考えてみると今節は、適切に前進するというよりボール保持によるディフェンスをしようとしていたわけで、一人ひとりが目の前の相手を剥がして味方のスペースをどうこうというよりネガトラリスクを恐れたわけで、もしかして選択的にマティ体制の積み上げを使わない作戦を選んだという可能性はないですかねというのが僕の感想です。選択的に前体制の遺産を使わなかったなら、その象徴たる不遜をベンチに置いておいたのもまあわかる。でもじゃあなんでメンバー外にしなかったんだよと言われると、そこは僕にもよくわかりませんけど。
  11. これまでもそうだったように、結局現実はグラデーションであり、池田暫定監督もすこも白か黒かではなく、自分の(あるいはすこの)信じるやり方をベースに(あるいは信じないものを排除したうえで)、できるだけ使えるものを乗っけていこうみたいな感じでこのゲームに取り組んだのかなと考えることにしています。結局は配られた手札でプレーするしかないわけです。
  12. ところでマティの解任に関しては、下位相手にぜんぜん勝ち点がとれなかったのはマティ本人だし、たしかに成長ペースと勝ち点の推移は期待より遅かったわけですから、プロとして更迭と決めたのだと言われればまあ仕方ないかと思いつつ、直近の試合ではよさげなバランスを見つけつつあり、マティ自身も理想と現実とのギャップをうまく把握できてきているのかなとう感覚もあったので、ここで切るのかあという気持ちが強くあります。ただ監督人事はチームの内部事情が見えてこないと何とも言えない部分があるので難しいですね。もしかしたら選手からめっちゃ嫌われていたとか、求心力の部分で難しさがあったのかもしれないですし。あとは『見つけたバランスは4-2-3-1でした!』と言われて、ええぇ…ってなった可能性もあります。じゃあすこでいいじゃんみたいな。
  13. そんなこんなで、フ本の挙動についても上記のようにもう少し内部の事情が見えないと何とも言えないなと思います。でも僕の知る限りマティからすこの戦術志向の振れ幅というかサッカー観って結構違うので、その振れ幅を正当化するだけの論理や必要性、また将来のビジョンを広く納得してもらう形で発信していくのはまた大仕事というか、できんのかなって疑問に思ってしまう部分はやっぱりあります。例えば今節は選択的にマティ体制の積み上げを使わなかったのだとして、今後使う気あるのかよとか、どうせぐちゃぐちゃになるんでしょとか、そういった懸念を僕が今否定できるわけではないですし。まあマティ体制がなんだったのかという話は別の機会にチラ裏できたらいいですね。

試合評価・個人評価

まあこの試合がフ本のコンセプトを良く体現していたとは言いません。しいて言うなら選手の個の力はうまく活かせていたなと思うので、そこだけ高評価ということで。

今節も長文にお付き合いいただきありがとうございました。