デバイ模型とは - わかりやすく解説 Weblio辞書 (original) (raw)
デバイ模型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/26 01:42 UTC 版)
上の図で示すように、フォノンの波長の最小値が原子間隔の2倍であると仮定することは道理にかなっている。固体中には原子が N 個あり、今考えている固体は立方体であるから、一辺あたりの原子の数は 3√N 個である。よって原子間隔は L/3√N で与えられ、よって波長の最小値は
λ m i n = 2 L N 3 {\displaystyle \lambda _{\rm {min}}={2L \over {\sqrt[{3}]{N}}}}
デバイ vs. アインシュタイン
温度の関数として予言される熱容量のグラフ
デバイ模型とアインシュタイン模型はどの程度実験値と一致するのであろうか?どちらも驚くほど近い結果を示すが、特に低温ではアインシュタイン模型よりもデバイ模型がよい一致を示すことが知られている。
2つの模型はどのように違うのだろうか?質問に答えるには、同じグラフに2つの結果を描くのがよいだろう。アインシュタイン模型もデバイ模型も熱容量の「関数形式」を導く。両方とも数学「模型」であり、スケールのない数学模型はありえない。スケールにより、数学模型は実世界での対応するものと結びついている。アインシュタイン模型の比熱は以下の式で与えられ、
C V = 3 N k ( ϵ k T ) 2 e ϵ / k T ( e ϵ / k T − 1 ) 2 {\displaystyle C_{V}=3Nk\left({\epsilon \over kT}\right)^{2}{e^{\epsilon /kT} \over \left(e^{\epsilon /kT}-1\right)^{2}}}
そのスケールは ε / k である。一方、デバイ模型のスケールはデバイ温度 TD である。両方のスケールは、模型を実験データにあてはめることで得られる。(デバイ温度は理論的には音速と結晶の次元から計算される。)双方の手法は固体の比熱に違った方向や違った形でアプローチしているため、アインシュタインとデバイのスケールは異なる。すなわち
ϵ k ≠ T D {\displaystyle {\epsilon \over k}\neq T_{D}}
であり、よってこれらをそのまま同じグラフへと描くことは意味がない。同じものを取り扱っている模型ではあるが、スケールが異なるのである。そこでアインシュタイン温度を
T E = d e f ϵ k {\displaystyle T_{E}\ {\stackrel {\mathrm {def} }{=}}\ {\epsilon \over k}}
と定義することもできるが、当然
T E ≠ T D {\displaystyle T_{E}\neq T_{D}}
である。そこで二つの温度の間の比
T E T D = ? {\displaystyle {\frac {T_{E}}{T_{D}}}=?}
を探しだす必要がある。
アインシュタイン固体は単一の周波数 ε = ћω = hν をもつ量子調和振動子で構成されている。この周波数が実際に存在するとすれば、固体中の音速と関連しているはずである。固体中の音の伝播が、互いに衝突している原子の連続であると想像するならば、明らかに振動の周波数は原子格子が維持する最小の周波数 λmin と一致するはずである。
ν = c s λ = c s N 3 2 L = c s 2 N V 3 {\displaystyle \nu ={c_{s} \over \lambda }={c_{s}{\sqrt[{3}]{N}} \over 2L}={c_{s} \over 2}{\sqrt[{3}]{N \over V}}}
これはアインシュタイン温度をつくり
T E = ϵ k = h ν k = h c s 2 k N V 3 {\displaystyle T_{E}={\epsilon \over k}={h\nu \over k}={hc_{s} \over 2k}{\sqrt[{3}]{N \over V}}}
よって求めたい2つの温度の比は以下のようになる。
T E T D = π 6 3 {\displaystyle {T_{E} \over T_{D}}={\sqrt[{3}]{\pi \over 6}}}
これにより、両方のモデルを同じグラフへと描くことができるようになった。付け加えると、この比は3次元球の8分円の体積 1/84/3πR3 とそれを含む立方体の体積 R3 の比の3乗根である。これはちょうど、エネルギー積分を近似する際にデバイによって用いられた補正因子でもある。
デバイ温度の表
デバイ模型は完全には正確ではないものの、(伝導電子などの他の比熱への寄与が無視できる)絶縁体や結晶性固体における低温の比熱ではよい近似となっている。金属の低温の比熱では、デバイ模型による格子比熱の T3 に比例する比熱への寄与に加え、電子の比熱への T に比例する寄与が無視できない(十分低温では電子による比熱の方が支配的になる)。この場合、デバイ模型とは別に自由電子の比熱を見積もる必要がある。以下の表はいくつかの物質におけるデバイ温度のリストである[2]。
アルミニウム | 428 K |
---|---|
カドミウム | 209 K |
クロム | 630 K |
銅 | 343.5 K |
金 | 165 K |
鉄 | 470 K |
鉛 | 105 K |
マンガン | 410 K |
ニッケル | 450 K |
白金 | 240 K |
ケイ素 | 645 K |
---|---|
銀 | 225 K |
タンタル | 240 K |
錫(白色) | 200 K |
チタン | 420 K |
タングステン | 400 K |
亜鉛 | 327 K |
炭素 | 2230 K |
氷 | 192 K |
他の準粒子への拡張
フォノン(量子化された音波)の代わりに他のボース粒子である準粒子(例えば強磁性のマグノン(量子化されたスピン波))についてもデバイ模型を適用すると、容易に類似した結果を導くことができる。この場合、低周波数の準粒子は分散関係が異なる。(例えばフォノンのE(ν) ∝ k(但しk = 2π / λ)の代わりにマグノンでは E(ν) ∝ k2 となる。)また、総和則(例えば ∫ g ( ν ) d ν ≡ N ) {\displaystyle \int g(\nu ){\rm {d}}\nu \equiv N)} )も異なる。結果として、強磁性では熱容量へのマグノンの寄与( Δ C V | m a g n o n ∝ T 3 / 2 {\displaystyle \Delta C_{\,{\rm {V|\,magnon}}}\,\propto T^{3/2}}
)を求めることができる。この寄与は十分に低温ではフォノンの寄与( Δ C V | p h o n o n ∝ T 3 {\displaystyle \Delta C_{\,{\rm {V|\,phonon}}}\propto T^{3}}
)よりも支配的になる。一方金属では、低温での熱容量への主な寄与は電子による ∝ T の項である。電子はフェルミ粒子であるため、その比熱はアーノルド・ゾンマーフェルトに遡る別の手法によって計算しなければならない。
関連項目
出典
- ^ Debye, Peter (1912). “Zur Theorie der spezifischen Wärmen” (German). Annalen der Physik (Leipzig) 344 (14): 789–839. doi:10.1002/andp.19123441404.
- ^ Kittel, Charles, Introduction to Solid State Physics, 7th Ed., Wiley, (1996)(氷の項目を除く)
参考文献
- Shubin, Mikhail; Sunada, Toshikazu (2006). “Geometric Theory of Lattice Vibrations and Specific Heat”. Pure and Appl. Math. Quaterly 2 (3): 745-777. arXiv:math-ph/0512088. doi:10.4310/PAMQ.2006.v2.n3.a7. MRMR2252116.
- CRC Handbook of Chemistry and Physics, 56th Edition (1975-1976)
- Schroeder, Daniel V. An Introduction to Thermal Physics. Addison-Wesley, San Francisco, Calif. (2000). Section 7.5.
- Kittel, Charles, Introduction to Solid State Physics, 7th Ed., Wiley, (1996)