読み方:ひさおじゅうらん[1902〜1957]小説家のこと。Weblio国語辞典では「久生十蘭」の意味や使い方、用例、類似表現などを解説しています。">

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久生 十蘭(ひさお じゅうらん)
久生 十蘭
誕生 1902年4月6日北海道函館区
死没 (1957-10-06) 1957年10月6日(55歳没)神奈川県鎌倉市
墓地 材木座霊園聖公会廟(鎌倉市)
職業 小説家
言語 日本語
国籍 日本
最終学歴 パリ市立技芸学校卒業
ジャンル 小説
主な受賞歴 直木賞(1952年)
デビュー作 『蠶』(1926年)
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久生 十蘭(ひさお じゅうらん、1902年4月6日 - 1957年10月6日)は、日本小説家演出家北海道函館市出身。本名:阿部 正雄[1]推理小説、ユーモア小説、歴史・時代小説、現代小説、ノンフィクションノベルなど多彩な作品を手掛け、博識と技巧的な文体で「多面体作家」「小説の魔術師」と呼ばれた。

生涯

北海道函館区に、父・小林善之助と母・鑑(戸籍上は「カン」)[2] の長男として生まれる。母方は回漕業を営む家の次女[2]草月流生花の師匠、父は番頭頭だった(後に離婚)[2]。2歳の時に両親と離れて、回漕業を営む祖父阿部新之助に養育される。1916年春に函館区立寶小学校高等科を卒業して北海道庁立函館中学校(現:北海道函館中部高等学校)に進学するも中退。東京聖学院中学に編入するが、同年8月に中退した[2]。この頃、芥川龍之介に私淑して文学書を耽読した。1920年に帰郷して、函館中学の先輩長谷川海太郎の父の経営する函館新聞社に勤務。演劇に興味を抱き、1922年に演劇集団「素劇会」に参加。1923年に函館の新聞記者や短歌団体「海峡詩社」の石川正雄、竹内清、高橋掬太郎らと同人グループ「生社」を結成、1924年に同人誌『生』に8編の詩、1926年に処女小説『蠶』、処女戯曲『九郎兵衛の最後』を発表。また函館新聞の文芸欄の編集、記事執筆をしながら、同欄で創作作品を掲載。1928年に上京し、岸田國士に師事。岸田が主宰する『悲劇喜劇』の編集に従事した。

1929年から1933年までフランスパリに遊学、パリ物理学校でレンズ工学を2年、パリ市立技芸学校で演劇を2年研究してシャルル・デュランに師事する。母の鑑も息子を追って渡仏し、モンパルナスで挿花展を開いている[2]

1933年にパリ市立技芸学校を卒業し帰国、東京・青山で母と暮らす[2]新築地劇団演出部に入り、舞台監督を務めるが、まもなく脱退。函館中学校の後輩である水谷準が『新青年』(博文館)の編集長を務めていたことから、同誌に、1933年に著名人探訪記事、トリスタン・ベルナール『天啓』『夜の遠征』『犯罪の家』の翻訳、1934年にパリ滞在の経験を元にコン吉・タヌ子を主人公とした『八人の小悪魔』をはじめとする連作集(三一書房全集で『ノンシャラン道中記』に改題)、1935年に初の本格的な小説『黄金遁走曲』などを発表。当初は本名を用いていたが、1936年の『金狼』から久生十蘭の名義を使用し始めたほか、谷川早、六戸部力(セクストン・ブレイクのもじり)、石田九万吉、阿部道代、狐野今吉、麹町子、覆面作家、安部正雄などの筆名を使った。1936年には、岸田の推薦で明治大学文芸科講師を務め、演劇論を教えた。1937年、岸田を発起人として結成された文学座に参加、文学座研究所の講師を務め、38年に文学座公演のジュール・ロマン作『クノック』を演出、内村直也作『秋水嶺』を岸田と共同演出。1937年にはフランスの探偵小説であるレオン・サジイ『ジゴマ』、ピエール・スーヴェルト&マルセル・アラン『ファントマ』、ガストン・ルルー『ルレタビーユ』などを『新青年』別冊付録として翻訳。この原稿料で軽井沢千ヶ滝に別荘を購入し、ここで『魔都』を執筆した。

1940年に岸田が大政翼賛会文化部長に就くと文化部嘱託となり、翼賛会宣伝部で『村の飛行兵』執筆。1941年に『新青年』の依頼で日中戦争下の中支に従軍、冬青座のために脚本『浜木綿』『蜘蛛』『朝やけ』『鰯雲』執筆。1942年舞台座の『鰯雲』を演出、大佛次郎夫妻の媒酌により三ツ谷幸子と結婚。1943年に海軍報道班として南方に派遣され、一時行方不明も伝えられたが、1944年に帰国。同年銚子疎開、1945年会津若松に疎開。終戦後の1946年に銚子へ転居。1947年末から鎌倉材木座に住んだ。母の鑑が同居して茶道を教え、姉のテル(輝)が通いで助手を務めた[2]

1951年『朝日新聞』に『十字街』連載。1957年、ラジオドラマ『下北の漁夫』取材のために青森県浅虫野辺地に旅行し、その後の春頃から喉の異常を訴え[2]、6月に食道癌により東京・板橋区の癌研究院に入院、10月に自宅で死去。『肌色の月』連載最後の1回は幸子夫人が執筆し、また告別式の日が『肌色の月』映画版の封切日となった[3]

没後の1969年頃から小栗虫太郎夢野久作らとともに異色作家として注目されるようになり、新装再刊、作品集の刊行が多くなった。 筆名の久生十蘭は、シャルル・デュランのもじりとも、「久しく生きとらん」「食うとらん」の意とも言われるが、いずれも真偽は定かでない。『新青年』の編集者だった乾信一郎の回想によれば、「食うとらん」は『新青年』等に寄稿していた映画批評家の松下富士夫が発案したシャレであり、久生十蘭自身は「フランスの作家の名をもじっただけのことだよ」と語っていたという[4]。熱狂的な愛読者は「ジュウラニアン」と呼ばれることもある[5]

受賞等

作品

スピーディーな文体と的確な人間観察による、逆説的な論理と、めまぐるしく反転する展開を盛り込んだ作風。現代小説、特に探偵小説や捕物帖を多く執筆した。『海豹島』『地底獣国』のような秘境冒険小説、時代小説などの作品もある。『無惨やな』は『近世実録全書』の中の『姫路隠語』、『ハムレット』はルイジ・ピランデルロの『エンリコ四世』、『無月物語』はスタンダールの『チェンチ一族』を種本にし、『鈴木主水』は講談の同名作の設定に基づいているが、いずれも作者独自の小説に仕上げられている[6]

『ノンシャラン道中記』は、パリ滞在経験をもとにした旅行記風作品だが、1935年に同じコン吉・タヌ子を主人公として、初の本格的な小説『黄金遁走曲』を連載。その文体は当時の様々な大衆芸能から喜劇映画にいたるまでの要素が取り入れられている[7]。またのちに中野美代子もコン吉・タヌ子を主人公にしたノンセンス・ドタバタ・ユーモア小説『南半球綺想曲』(1986)を書いている。

顎十郎捕物帳は異様に顎の長い風貌を持つ仙波阿古十郎を主人公とする捕物小説で、その風貌はエドモン・ロスタン作『シラノ・ド・ベルジュラック』のもじりとも言われ[8][9]都筑道夫はこれが岡本綺堂半七捕物帳』に続く正統派捕物帳として、この二作を手本にして『なめくじ長屋捕物さわぎ』書いたと述べており、さらに『小説現代』の依頼により顎十郎の新シリーズ『新顎十郎捕物帳』も執筆した[10]

「無月物語」(1950)頃からは文体に「沈鬱でいながら明るい、重厚でありながら爽やかな響きが加わってきた」「森鴎外メリメと相かよう、乾ききった、それでいて対象を一刀のもとに抉りださずにいない鋭さを持つ」(中井英夫[11] と言われるようになり、1952年「鈴木主水」直木賞受賞時の選後評では、大佛次郎「この浮気者(十蘭を指す)を抑へつけ、異例に属するゆたかな才能を軌道に落ち着かせる役を直木賞がするのだったら、意義のあることだと思った」、井伏鱒二「なるほど努力家であることは、表現に細心の注意を払はれていることによっても頷かれる」と述べられた[9]

私生活などを明かさないことでも知られた。太平洋戦争中の1943年に南方戦線(ジャワ島アンボン島)で記した『従軍日記』が2004年に遺品の中から発見され、2007年に刊行された。従軍経験に関連する作品には、報道班員として戦地へ行く画家を描く『内地へよろしく』や、同様の設定の『風流旅情記』(『小説と読物』1950年7月号)があり、『母子像』はサイパン島玉砕の生き残りの親子を題材としている。

執筆には口述筆記を用いていた[8]。また、出版の度に文章の加筆を多く行った。全集等で初めて単行本化された作品も多い。

長編・連作短編

代表的な短編

単行本

(上記以外)

全集

江口雄輔、川崎賢子、浜田雄介、沢田安史:編集委員

作品集

放送台本

(テレビ版)NHK 1959年8月14日-10月2日

各単行本化は『定本 久生十蘭全集 10』

翻訳

原作作品

映画

テレビドラマ

漫画

海外への翻訳

中国本土(簡体字)

フランス語

英語

脚注

  1. ^ 『日本幻想作家名鑑』幻想文学出版局 1991年
  2. ^ a b c d e f g h 【道南史の女性たち】8 阿部鑑(1880~1960年)函館出身の作家・久生十蘭の母/華道の腕 パリでも披露『北海道新聞』夕刊2019年11月26日(地域版「みなみ風」10頁)
  3. ^ 久生幸子「あとがき」(『肌色の月』中央公論社 1975年)
  4. ^ 乾信一郎『「新青年」の頃』早川書房、1991年11月、118-122頁。ISBN 4-15-203498-X
  5. ^ 「久生十蘭の異稿、発見 英文学者・吉田健一の遺品から」『朝日新聞』朝刊2018年1月20日(文化・文芸面)
  6. ^ 都筑道夫「男ぶりの小説、女ぶりの小説」(『無月物語』現代教養文庫
  7. ^ 岩田宏「解説」(『黄金遁走曲』社会思想社 1976年)
  8. ^ a b 清水邦夫「久生十蘭の“語り”と“騙り”」(『日本探偵小説全集 8 久生十蘭集』)
  9. ^ a b 江口雄輔「久生十蘭主要作品縦覧」(『ユリイカ』1989年6月号
  10. ^ 『新 顎十郎捕物帳』講談社 1988年
  11. ^ 中井英夫「解説」(『肌色の月』中央公論社 1975年)

参考文献

関連項目

外部リンク

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