読み方:こうせいかんてんたい恒星などの天体の重力に束縛されず、銀河系内を公転している天体の総称のこと。Weblio国語辞典では「恒星間天体」の意味や使い方、用例、類似表現などを解説しています。">

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2017年10月28日に観測されたオウムアムア(中央の点)

恒星間天体[1][2](こうせいかんてんたい、: Interstellar object)は、星間空間に存在していて、恒星などの天体に重力的に束縛されていない、恒星や亜恒星天体以外の天体である[3]。また、特定の小惑星彗星太陽系外彗星を含む)など、恒星間の軌道を持つが一時的に恒星の付近を通過している天体に対しても、この用語が使われる[4][5]

概要

恒星間天体の太陽系外端での速度

天体名 速度
エレーニン彗星(太陽から 200 au の位置にいる際の比較) 2.96 km/s[6]0.62 au/年
オウムアムア 26.33 km/s[7]5.55 au/年
CNEOS 2014-01-08 44.8 km/s[8]9.24 au/年

現在の観測技術では、恒星間天体は一般に太陽系内を通過したもののみが検出可能である。この場合は双曲線軌道を持った天体として識別され、この天体が太陽に重力的に束縛されていないことを示唆する[5][9]。対照的に重力的に束縛されている天体は、ほとんどの小惑星や彗星、オールトの雲の天体のように、太陽の周りを楕円軌道で運動する。

恒星を公転している天体は、恒星とその天体自身以外の重い天体との相互作用によって放出され、恒星間天体になることがある。このような過程は1980年代前半にボーエル彗星で確認されている。この彗星は元々は太陽に重力的に束縛されていたが、木星の付近を通過して太陽系からの脱出速度に到達するほどに十分に加速された。この木星との遭遇によって軌道は楕円軌道から双曲線軌道に変化し、軌道離心率は1.057と、その時点で知られている中では最も値が大きい天体となった[10]

恒星間天体であることが史上初めて確認された天体は、2017年に発見された**オウムアムアである。この天体の軌道離心率は 1.199 であり、ボーエル彗星を上回り、発見された時点では太陽系内のあらゆる天体で観測された中で最も大きな値であった。その後2019年に2番目の恒星間天体としてボリソフ彗星**が発見され、軌道離心率はおよそ 3.3 とオウムアムアをさらに上回る値であることが判明した[11]2019年には、2014年パプアニューギニア付近に落下した直径 0.9 メートルの火球 CNEOS 2014-01-08 の地球への進入速度が 44.8 km/s と非常に高速であったことから、この火球が軌道離心率 2.4 の双曲線軌道を持っていた恒星間天体である可能性が指摘され[8][12]2022年に3番目の恒星間天体として確認された[13][14]

最近の研究では、小惑星 (514107) 2015 BZ509(英語版) (514107 Kaʻepaokaʻawela) もかつては恒星間天体であり、45億年程前に太陽系に捕獲されたことが示唆されている[15][16]。これは、この小惑星が木星と似た軌道を取りつつ太陽を逆行していることから予測されたものである[15][16][17][18]

命名

初めての恒星間天体の発見を受けて、国際天文学連合は恒星間天体のための新しい小天体の命名法を提案した[19]。これは彗星の名称と似ており、I と数字を用いるものである。番号の割り振りは小惑星センターが行う。また恒星間天体への暫定的な符号の付与は、状況に応じて C/ (彗星) もしくは A/ (小惑星) の接頭辞を用いる[19]

特性

STEREO-A によって観測されたマックホルツ第1彗星(英語版) (2007年4月)。

局所静止系(英語版) における太陽の運動方向である太陽向点は、ヘルクレス座こと座の間に位置している。座標は R.A. 18h28m、Dec. 30°N (Epoch J2000.0)。

オールトの雲形成に関する現在の理論モデルでは、オールトの雲に残ったものよりも3倍から100倍もの多くの彗星が星間空間に放出されたことを予測している[5]。また、別のシミュレーションでは初期の 90-99% もの彗星が太陽系外に放出されたことが示唆されている[20]。そのため、他の恒星系で形成された彗星も当然、同様にその系から散乱されていると考えられる[4]

恒星間彗星が存在する場合、それらは時おり太陽系内を通過するはずである[4]。このような天体は太陽系に対してランダムな速度で接近すると考えられる。また太陽系は太陽向点に向かって運動しているため、太陽向点があるヘルクレス座の方向から大部分がやってくると考えられる[21]オウムアムアの発見以前は、太陽からの脱出速度を超える速度の彗星が発見されていなかったという事実から[22]、星間空間における恒星間天体の数密度の上限値が推定されていた。Torbett による論文では、恒星間天体の数密度は1立方パーセクあたり 1013 個 (10兆個) を超えないと推定された[23]。また LINEAR の観測データの解析からは、1立方天文単位あたり 4.5×10−4 個 (1立方パーセクあたり 1012 個) という上限値が求められていた[5]

オウムアムアが発見された後のデビッド・C・ジューイットらによるより最近の推定では、オウムアムアと同程度の 100 メートル程度の大きさを持つ恒星間天体の海王星軌道以内での定常的な存在個数はおよそ 1×104 個で、その領域への滞在時間は10年程度だと推定している[24]

恒星間彗星は、太陽系を通過する間に、おそらく稀ではあるが太陽を中心とした軌道に捕獲される場合がある。数値シミュレーションでは恒星間天体を太陽系内に捕獲するための十分な質量を持つ天体は木星のみであり、このような捕獲イベントは600万年に1回発生し得ることが示されている[23]。マックホルツ第1彗星(英語版)と百武彗星 (C/1996 B2) は、捕獲された恒星間天体である可能性がある例である。これらの彗星は太陽系内の彗星としては標準的ではない化学組成を持っている[22][25]

オウムアムア

初めて確認された恒星間天体オウムアムアが太陽系を脱出する様子 (想像図)[26]

2017年10月19日に、パンスターズの望遠鏡によって見かけの等級が20の暗い天体が発見された[27]。観測からは、この天体が明確な双曲線軌道にあり、太陽からの脱出速度よりも速いことが示され、この天体は太陽系に重力的に束縛されていない恒星間天体である可能性があることが示唆された[27]。この天体は当初は彗星であると考えられたため C/2017 U1 という仮符号が与えられたが、10月25日には彗星活動を起こしている様子が見られなかったことから A/2017 U1 へと仮符号が変更された[28][29]

恒星間天体であることが確認された後に、名称は 1I/2017 U1 (ʻOumuamua) (あるいは 1I/ʻOumuamua) に変更された[19]。"1" は1番目に発見された恒星間天体であること、"I" は恒星間を表す interstellar から、また "ʻOumuamua" は「斥候」や「遠方からの初めての使者」などの意味を持つハワイの言葉に由来している[19][30]

オウムアムアにはコマなどの彗星活動の特徴が見られないことから、故郷である恒星系の内側領域に起源を持つことが示唆され、岩石質の小惑星のように凍結線の内側で表面の揮発性物質を失い、我々の太陽系における彗星・小惑星遷移天体ダモクレス族のような天体である可能性がある[31]。またこれはあくまで仮説ではあるが、オウムアムアは元々存在した恒星系を弾き出された後に宇宙線に長期間に渡って晒されたことによって表面の揮発性物質をすべて失い、厚い地殻が形成された可能性も指摘されている[24][32]

オウムアムアの離心率は 1.199 あり、これは発見当時は太陽系内のあらゆる天体に対して観測された中で最も大きな値であった。

2018年9月には、ある研究者らがオウムアムアの故郷である可能性がある複数の恒星系を絞り込んだと発表した[33][34]

候補天体

2018年11月、ハーバード大学の天文学者 Amir Siraj と Avi Loeb は、天体の軌道要素の計算と、2017 SV13 や 2018 TL6 などのいくつかのケンタウルス族候補天体を元に、オウムアムア程度のサイズの恒星間天体は太陽系内に数百個存在するとの研究を発表した[35]。これらは全て太陽を公転する軌道にあるが、遠い過去に捕獲されたものである可能性があるとしている。

出典

  1. ^有機物の被覆で太陽から守られた恒星間天体オウムアムア | Nature Astronomy | Nature Research”. ネイチャー (2017年12月19日). 2019年4月17日閲覧。
  2. ^観測史上初の恒星間天体か、小天体A/2017 U1 - アストロアーツ”. アストロアーツ (2017年10月30日). 2019年4月17日閲覧。
  3. ^恒星間天体(コウセイカンテンタイ)とは - コトバンク”. 2019年4月17日閲覧。
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関連項目

彗星
主要項目 彗星 コマ アンチテイル(英語版) ダスト(英語版ダストトレイル 流星群
種類 周期彗星 短周期彗星 ハレー型彗星 木星族彗星 長周期彗星 非周期彗星 彗星・小惑星遷移天体 メインベルト彗星 見失われた彗星 大彗星 サングレーザー クロイツ群 太陽系外彗星 恒星間天体の彗星
一覧 周期彗星の一覧 非周期彗星の一覧 放物線軌道に近い軌道の彗星の一覧(英語版) 双曲線軌道の彗星の一覧(英語版) 軌道が不明な彗星の一覧(英語版
関連項目 彗星探査機 探査機が訪れた太陽系小天体の一覧(英語版) フィクションにおける彗星(英語版太陽系小天体 小惑星 ケンタウルス族 オールトの雲
太陽系外惑星
惑星 惑星の定義 国際天文学連合による惑星の定義 惑星科学
主要項目 太陽系外惑星 太陽系外惑星の発見方法 惑星系 惑星を持つ恒星(英語版
惑星種類 地球型惑星 炭素惑星 コア無し惑星 砂漠惑星 準惑星 ハイセアン惑星 氷惑星 鉄惑星 溶岩惑星 海洋惑星 メガアース サブアース(英語版スーパーアース アイボール・アース ガス状 木星型惑星 天王星型惑星 エキセントリック・プラネット ヘリウム惑星 ホット・ジュピター ホット・ネプチューン ミニ・ネプチューン スーパー・ネプチューン(英語版スーパー・ジュピター スーパー・パフ(英語版コールド・ジュピター コールド・ネプチューン その他 ブラネット(英語版褐色矮星 クトニア惑星 周連星惑星 破壊された惑星 二重惑星 エクメノポリス(英語版) メソプラネット(英語版惑星質量天体 微惑星 原始惑星 パルサー惑星 トロヤ惑星 準褐色矮星 サブ・ネプチューン(英語版ドーナツ惑星 超低温矮星 超短周期惑星
形成と進化 降着 降着円盤 小惑星帯 周惑星円盤 星周円盤 星周エンベロープ(英語版宇宙塵 塵円盤 分離天体 質量放出円盤 黄道帯外ダスト(英語版) 地球外物質(英語版) 地球外試料キュレーション(英語版ジャイアント・インパクト説 重力崩壊 内部オールト雲 惑星間塵 惑星間物質 星間雲 宇宙塵 星間物質 エッジワース・カイパーベルト 星間分子の一覧 分子雲 星雲説 オールトの雲 宇宙空間 惑星移動 原始惑星系円盤 ラブルパイル天体 サンプルリターン 散乱円盤天体 星形成
惑星系 太陽系外彗星 恒星間天体 太陽系外衛星 一覧 プルーネット 自由浮遊惑星 軌道逆行 共有軌道(英語版軌道共鳴 ティティウス・ボーデの法則
主星 A型主系列星 B型主系列星 連星 褐色矮星 F型主系列星 G型主系列星 ハービッグAe/Be型星 K型主系列星 赤色矮星 パルサー 赤色巨星 B型準矮星 準巨星 おうし座T型星 白色矮星 黄色巨星
検出 ドップラー分光法 トランジット法 重力マイクロレンズ法 トランジットタイミング変化法 直接撮像法 アストロメトリ法 パルサータイミング法
探査 太陽系外惑星探査プロジェクト地上 AAPS APF CARMENES CORALIE EAPSネット ELODIE EPICS ESPRESSO FINDS Exo-Earths ジュネーブHARPS HARPS-N GPI HATネット HiCIAO HIRES KELT KMTNet LCES(英語版) マゼラン(英語版MAROON-X MARVELS MASCARA MEarth MicroFUN(英語版) MINERVA(英語版MOA N2K(英語版NGTS NESSI(英語版OGLE OPSP PlanetPol(英語版) PlanetQuest(英語版) Project 1640(英語版) PARAS(英語版QES SPECULOOS SEEDS(英語版SETI SOPHIE SPHERE(英語版スーパーWASP Systemic(英語版TrES XO望遠鏡 ZIMPOL/CHEOPS(英語版宇宙空間過去 MOST (2003年–2019年) SWEEPS (2006年) COROT (2006年–2013年) EPOXI (2008年–2013年) ケプラー (2009年–2018年) KFOP(英語版HEK 現在 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (2021年–現在) ガイア (2013年–現在) ASTERIA(英語版) (2017年–現在) TESS (2018年-現在) TFOP THYME TKS CHEOPS (2019年-現在) 計画 PLATO (2026年) ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡 (2025年) 提案 ATLAST(英語版) EXCEDE(英語版HabEx HDST(英語版) FINESSE(英語版LUVOIR ニュー・ワールド・ミッション(英語版オリジンズ宇宙望遠鏡 PEGASE(英語版) 中止 ダーウィン EChO(英語版) エディントン(英語版) 宇宙干渉計ミッション(英語版TPF 関連項目 発見方法 太陽系外惑星の発見(英語版太陽系外惑星の一覧 一覧
居住可能性 宇宙生物学 惑星海洋学(英語版ハビタブルゾーン Earth analog(英語版) 地球外の液体の水(英語版) 衛星の居住可能性(英語版) スーパーハビタブル惑星(英語版橙色矮星系の居住可能性 赤色矮星系の居住可能性 連星系の居住可能性 居住するのに適した太陽系外惑星の一覧
カタログ HabCat(英語版) Exoplanet Data Explorer(英語版太陽系外惑星エンサイクロペディア NASA Exoplanet Archive NASA Star and Exoplanet Database(英語版
一覧 発見年別の太陽系外惑星の一覧2000年代以前 2000年以前 2000年代 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年代 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年代 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 惑星系複数惑星系の一覧 原始惑星系円盤を持つ恒星の一覧(英語版) 太陽系外惑星太陽系外惑星の発見(英語版極端な惑星 最初の惑星 地球に近い惑星 半径の大きい惑星(英語版半径の小さい惑星 質量の大きい惑星(英語版最寄りの地球型惑星 ケプラー K2ミッション TESS 居住するのに適した惑星 固有名を持つ惑星 超短周期惑星 発見方法別ドップラー分光法で発見された惑星(英語版) トランジット法で発見された惑星(英語版重力マイクロレンズ法で発見された惑星 TTV法で発見された惑星 直接撮像法で発見された惑星 アストロメトリ法で発見された惑星 パルサー・タイミング法で発見された惑星
その他 カール・セーガン研究所(英語版) 太陽系外惑星の命名規則(英語版) EXCEDE(英語版銀河系外惑星 Small planet radius gap(英語版) 太陽系外地球型惑星の地球力学(英語版ネプチュニアン砂漠 NExSS(英語版) サイエンス・フィクションの惑星(英語版