「硬貨」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書 (original) (raw)
『百円硬貨』(松本清張) 昭和50年代。東京の銀行に勤める村川伴子(ともこ)は、土曜の午後に3千万円を盗み出し、日曜の朝、山陰地方の小駅に着いた。公衆電話で愛人に連絡しようと思うが、それに必要な百円硬貨がない。1万円札をくずすために近距離の切符を買おうとすると、「早朝ゆえ、何千円ものツリ銭の用意がない」と断られた。あせった伴子は、他の客がツリ銭として受け取る百円硬貨に手を伸ばし、逮捕された〔*松本清張自身が、電話に必要な小銭を持ち合わせず困った体験から、着想されたという〕。
『荒野の1ドル銀貨』(パジェット) ゲイリーとフィルは仲の良い兄弟だった。しかし悪人マッコーリー一味の悪だくみによって、フィルは兄ゲイリーを拳銃で撃ってしまう。さいわいゲイリーは、左の胸ポケットに1枚の1ドル銀貨を入れていたので、銃弾は銀貨に当たり、ゲイリーは命拾いした〔*フィルはマッコーリー一味に殺され、ゲイリーはマッコーリー一味に復讐する〕。
*矢を防ぐペンダント→〔装身具〕4の『ピーター・パン』(バリ)。
*矢をはね返す『観音経』→〔経〕1aの『太平記』巻3「赤坂の城戦の事」。
『一発』(つげ義春) 「バラ銭のサム」という60歳近くの殺し屋がいた。彼は常に、相手に勝つことよりも、自分が負けぬ工夫をしてきた。かつてサムは、たった1枚の硬貨で命拾いしたことがあった。以来、彼はいつも、身体中のポケットにバラ銭を詰めていた。サムの話を聞いた中年の殺し屋鮫島は、同じように胸ポケットにバラ銭を詰め、彼をねらう若い殺し屋との決闘に勝った。
★3.硬貨の鳴る音。
『ナスレッディン・ホジャ物語』「ホジャの名裁判」 ホジャが法官になり、さまざまな訴えを聞く。「私が肉を煮ていると、Aがその湯気にパンを当てて食べた。Aは私に代金を払え」、「私は夢の中でBに20文取られた。Bは私にそれを返せ」、「私が掛け声をかけて、Cが薪を伐るのを助けた。Cは私に礼金をよこせ」。ホジャは銭をジャラジャラ鳴らして、訴えた者たちに聞かせ、「この音を受け取って帰れ」と裁いた。
『匂いの代金』(昔話) けちな男が鰻屋へ行き蒲焼きの匂いをかいで、それをおかずにして弁当を食べる。鰻屋が匂いの代金を請求すると、男は銭の音だけ聞かせる(京都府与謝郡伊根町泊)。
『パンタグリュエル物語』第三之書(ラブレー)第37章 焼肉屋の軒先で、肉を焼く匂いを嗅ぎながら人足がパンを食べる。焼肉屋の亭主が「匂いの嗅ぎ代を払え」と要求し、人足は拒否する。通りかかりの瘋癲ジョアンが裁きをまかされ、人足から銀貨を受け取って焼肉屋の台の上でちゃりんちゃりんと音をさせ、「これで支払いは済んだ」と言う。
*→〔金〕3にも記事。
★4.硬貨を捜す幽霊。
『くすねた銅貨』(グリム)KHM154 子供が、貧しい人に与えるための銅貨2枚を、母から預かる。子供は「お菓子を買おう」と思い、銅貨を床板の隙間に隠す。しばらくして子供は死んでしまい、幽霊となって、毎日正午に銅貨を捜しに来る。父母にはその姿は見えなかったが、お客さんが、「白い着物を着た子供が床板の隙間を指でほじくっている」と教える。父母は銅貨2枚を取り出して、貧しい人に与える。以後、幽霊は出なくなった。
*現世に残した物をあきらめきれず、幽霊となって出てくる→〔霊〕3a・3b。
『星が二銭銅貨になった話』(稲垣足穂) 先生が、「星がピカピカの二銭銅貨になっても不思議はない」と説くので(*→〔星〕5a)、「マッチでも鉄砲玉でもかまわないのに、なぜ二銭銅貨になったのでしょう」と聞くと、先生は「そこが君、選択の自由じゃないか」と答える。「それはムチャクチャです」「そうとも。だいたい、星を拾って、それが1晩のうちに、まだ造られていない今年の二銭銅貨になったなんて、そんなムチャな話があるかね」。